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第4章 未知の世界でも貫くビリーブ

1


 俺達は怒りが爆発して異世界人達に向かっていく。光線銃で撃たれても、武器で蹴散らしていった。護る人達がいないため、そのまま突き進み異世界人達は、驚きながらも攻撃の手を緩めない。

 しかし俺は近くにいる異世界人から、パンチとキックをぶち込んでいく。吹っ飛んでいくが倒れてもあまりダメージがないようで、しばらくすると立ち上がってしまう。あのバトルスーツがショックを吸収している感覚がある。

 玲菜を見ると俺とは違い、ラーメン鞭で攻撃をしていた。俺も怒ってはいたものの、人間相手に本気で戦うのにためらいがあった。しかし相手のバトルスーツがかなり丈夫だとわかったため、俺も武器を使って攻撃する決意を固めた。

 ポテトソード強く握り光線を防ぎながら、異世界人にそのままポテトソードを叩きつけた。バトルスーツに切れ目が入り、倒れた人間はわずかに動くものの、再び立ち上がって戦える状態にはなかった。

 痛みに耐えられずに、うめき声を上げている。

 一瞬迷うが俺はもう手加減をしないと決めたんだ。結菜達みんなを消してしまったこいつらを、許してたまるか!

 俺達にビビり、異世界人は光線銃のモードを変えた。真っ白い光線が放たれるようになり、俺も玲菜もジャンプでかわす。

 光線が命中したアスファルトは、その一帯を凍らせてしまい、空を舞っているときも狙われた。しかし俺は空中でも身を翻し、かわすことができた。

「凍らせて動きを封じようなんて、その程度の強さなの?」

 玲菜は怒り、ナルト手裏剣を投げた。命中した異世界人は倒れた。俺も遠距離攻撃に移る。スープマグナムを撃ち、光線銃を防ぎながら、異世界人にも攻撃していく。命中した異世界人は倒れて動けなくなった。

 俺達の攻撃はとどまるところを知らない。次々と攻撃を決めていき、立っている異世界人が半分くらいになった。

 俺達の攻撃に限界を感じたのか、隊長が意味のわからない言葉を叫んだ。再び青と白の光りの空間が生まれ、俺達に光線銃で攻撃しながら、異世界人は仲間を引きずりながら、撤退していった。

「待て!」

 玲菜が叫び追いかけるが、光線を防ぎながら追いかけるのは困難だった。異世界人はみんな向こうの世界に帰ってしまい、俺達が必死に近づいても、ワープゲートもすぐに消されてしまった。

「クソ!」

 俺は涙を流して地面を叩いた。ジーンと響く痛みなんてどうでもいい。結菜達の敵をとれなかったのが悔しくてたまらない。

 俺がしばらく俯いていると、玲菜が声をかけてきた。

「みんながいた辺りに行こう。何かわかるかもしれない」

 俺は無言で頷いた。言葉を発するだけの精神力がなくなっていた。うんと言うことすらできない自分に情けなくなった。

「いい加減にして!」

 先を歩く玲菜は振り返りざまに俺の頬を殴ってきた。俺はそのまま後ろへ倒れた。武装を解除した状態だったので、かなり痛みを感じ、尻餅をついた状態で、顔を真っ赤に染めた玲菜の表情を見る。俺に対して抑えきれない怒りが爆発したようだった。

「みんながいなくなって悲しいのは春馬だけじゃないんだよ」

 殴られた頬を押さえる手に涙があたり、泣いているのに気付いた。そして玲菜の目にも涙がたまっている。我慢していたのに俺の情けない姿を見て、引っ張られてしまったようだ。玲菜は俺に一歩近づきさらに続ける。

「いつものビリーブはどうしたのよ」

 玲菜の涙が飛び散った。その涙が俺の頬にあたり、俺を冷静にさせた。

「情けないところ見せて悪かった」

 俺はお尻についた砂をはたきながら立ち上がる。そして玲菜の涙を拭き、頭を下げた。

「ありがとう。結菜達は生きている。助ける方法はきっとある。そう信じていかなきゃな。ビリーブがなきゃ俺らしくないもんな」

 玲菜は呟いた。

「もう。春馬って本当にバカよ」

 俺は笑顔を作った。

「うん。俺はバカだった。これからもバカをするかもしれないから、そんときは殴ってでもいいから目を覚ませてくれ」

 冗談っぽく言って少しでも場が和むように振る舞う。笑えない状況でも無理してでも笑顔を作る。そうしなきゃ希望を見いだせない。希望のないところに、ハッピーエンドはこないと思うから。



 俺と玲菜はみんながいた場所を調査した。近くに凍っているところがあるくらいで、特におかしな部分は見つからなかった。

「結局あの光りは何なんだよ!」

 疑問が怒りのこもった言葉になった。するとユーレが現れた。俺の前に来たユーレはこう言った。

「あれは異世界に転送する光線だよ」

「転送?」

 オウム返しで訪ねたら、ユーレは説明を始めた。

「大きな光りの霧みたいなのは、人が歩いて通り抜けるためのもの。光線銃は無理矢理あの人達の世界に転送させちゃうものだよ」

 ユーレの言葉を聞き玲菜は訪ねた。

「何でそんなことをする必要がある?」

「あたしに訊かれてもわかんないよ」

 玲菜はユーレの表情をいぶかしげに見つめる。

「質問を変える。何でそんなことを知ってるんだ?」

「それは秘密」

 ユーレは今まで必死に無表情にしていたが、耐えきれなくなったように、うっすらと笑っていた。

「無理矢理聞き出しても構わないのよ」

 玲菜は声を荒げたが、ユーレは怖がる様子を微塵も見せずに、微笑んで玲菜を見つめた。

「あんまり怒らないで。怒られるの好きじゃないから」

 今にも殴りかかりそうな玲菜に、俺は止めに入って仲間割れをしないようにした。ただでさえ仲間は減ってるんだから、二人が喧嘩なんてしたら、さらに困ってしまう。

「落ち着け。みんなが死んだわけじゃないなら、異世界人がまた来たときに、あいつらを捕まえて居場所を訊けばいい」

「さっすが春馬。玲菜からあたしを護って」

「ただでさえ気持ちが不安定になってる俺に、余計な仕事増やさないでくれよ」

 俺は頭を抱えたが、再びユーレを見ると消えていた。

「春馬はあいつを信じるのか?」

「玲菜は勇者として選ばれなかったから嫌いかもしれないけど、俺は感謝してる。確かに今のは何か知ってるなら教えてほしいし、バカにした雰囲気も少しあったから、ちょっと考えて話してほしかったけど、でも喧嘩はしないでくれよ」

 玲菜は面白くなさそうにそっぽを向いた。

 でも俺達は当面の目標ができた。異世界人達が再び来たときに、あいつらを倒して居場所を聞き出し、みんなを助けるんだ。



 俺は一人の夜を過ごす。お店はもちろん臨時休業にした。俺一人で営業できるだけのスキルはない。

「誰もいないと静かだな」

 俺はお店の戸締まりをする。いつもは結菜とひなた、親父にお客さんといっぱいとは言わないが、いつもの顔が十人はいる。

 みんなよく喋る人ばかりで、このお店がこんなに静かになるんだと、当たり前のことに気付いた。

 俺以外誰もいない。

 改めてその現実が胸に広がった。寂しさと悲しさが目を刺激して涙を流そうとしたが、グッとこらえる。どうせならみんなを助けて、感動の再会で泣きたい。

 俺はみんなを助けるんだ。だから悲しい涙を流すわけにはいかない。

 俺はビリーブを高めて、異世界人がいつ来てもいいように気合いを入れた。



 次の日の放課後、帰宅途中に玲菜から電話が入った。珍しいなと思って出ると、予想通り緊迫感のある声でまくし立ててきた。

「モンスターが現れた。早く来て」

 玲菜は戦いに行く途中のようだった。玲菜も知り合いから連絡が入ったようで、場所を聞き俺は現場に急いだ。

 現場に着くと、魔族はキラーパンサーを二本脚で立たせて、両手がキラーパンサーの顔になっていた。その手でかぶりつく攻撃をしてきそうだ。

 モンスターはキラーパンサー。この魔族にはこの組み合わせって感じだな。

「この野郎!」

 ユーレがすでに戦っていた。ハリセンでキラーパンサーを叩いてはコインに変化させていく。

俺もすぐにバーガー武装して戦い始めた。

 目の前のキラーパンサーを、ポテトソードでぶった斬り、次々攻めてくるキラーパンサーの相手なんてしてられないと思い、走り抜けて跳躍すると、一気に魔族の前で着地した。

「お前が春馬とかいうこの世界の勇者か」

「ああ。お前をすぐにぶっ倒してやる」

 俺は今魔族を相手にする気分じゃない。異世界人を相手にしなきゃいけない。だから体力はできる限り温存しておきたい。

「このキラー様をそう簡単に倒せると思うなよ」

 キラーは殴るように左右の腕を、俺に伸ばしてくる。口が一瞬にして大きく開き、ポテトソードを持つ腕が狙われた。

 バク転をしながら腕に蹴りをいれる。痛がる様子もなく左に続いて、右手が伸びてきた。少し距離ができたため、近づきながらポテトソードを振り下ろす。

「食ってやる」

 ポテトソードで攻撃したつもりが、口でくわえてしまい、咀嚼を始めた。

「お、俺の剣が!」

 フライドポテトを真ん中から食べられたように、切っ先が地面に転がりカランと音が鳴る。

 俺は一瞬愕然となって動けなくなったが、迫り来る牙が俺の目の前にあり、反射的に上半身を反らした。

 デザインでフライドポテトに見えるだけで、剣としては斬れ味抜群だと思っていた。それなのに美味しくいただかれるなんて。

「驚きで動きが鈍くなってるぞ!」

「クソ!」

 自分でもわかっていることを、他人に言われるとすごく腹が立つ。俺は左右の噛みつき攻撃をかわすのに精一杯だった。

「その程度の敵に遊んでいるんじゃない!」

 玲菜の声がしたと同時に、キラーが苦痛の悲鳴を上げた。玲菜が背中にナルト手裏剣を命中させていたのだ。

 玲菜の言葉にブチ切れたキラーは、振り返ると同時に両手で攻め続ける。玲菜は華麗な身のこなしで、余裕を持ってかわしていくが、キラーもフッと鼻で笑い、次の攻撃に変えた。

「大口を叩くだけはあるな。だがこれならどうだ!」

 キラーは両手からキラーパンサーの顔を玲菜に向けて飛ばした。すぐに手には新しい顔が再生され、玲菜はラーメン鞭で叩き落とそうとするが、自由自在に飛び回り、玲菜の攻撃もかわされ、防御に徹するターンに変わった。

「面白い技を使うな」

 それでも玲菜は余裕だった。

 俺が隙を見てキラーを攻撃しようと思っていたら、さすがにキラーパンサーが黙っていなかった。近づいてきたキラーパンサーが目を光らせてきた。

 だが俺はキラーパンサーの目は見ないともう決めている。目をつぶりスープマグナムを連射して、だいたいの位置に狙いを定め撃ちまくる。

 うなり声とともり迫る足音がなくなり、倒すのに成功したのを感じ取った。

 ふと思いポテトソードはもう出ないか心配になった。いつも通りポテトソードと叫んでも、真ん中で刃が折れたものが出てきた。

 これじゃダメだ。

 ひょっとしたらビリーブを高めれば再生できるんじゃないかと思った。次から次へと攻めてくるキラーパンサーに折れた剣で戦いながら、俺は心を込めて叫び続けた。

「ポテトソード、元に戻ってくれ」

 目の前のキラーパンサーに見つめられる前に、ジャンプで俺の方に向いてないキラーパンサの後ろへ回り込む。

 短くなったポテトソードが少しだけ伸びて、ナイフのようになった。俺はそのまま突き刺してキラーパンサーは、白い光りに包まれコインに変わった。

「その調子だ。お前はもっと頑張れる。元に戻れ」

 さらに少し伸びて、再びキラーパンサーを斬る。これを何度か繰り返すと、ポテトソードは今までの長さに戻った。

「よく気付いたね」

 ユーレが俺に話しかけてきた。

「春馬は溢れるビリーブを武器のパワーにしてるんだ。だから春馬がビリーブを注ぎ込む限り、武器は何度でも再生されるんだよ」

 そう言ってユーレは後ろから飛びかかってきたキラーパンサーを、振り返りざまにハリセンで叩きつけて倒した。

 俺は助けるために、スープマグナムを構えていたが、トリガーを引く瞬間に、必要がないことに気付いた。

「さぁてと。いっぱいでてきてるし、ガンガン倒さなきゃね」

 まるで運動会を頑張ろうみたいなテンションのユーレに、何か違和感を感じた。もちろん頑張るのは当然だし、今の俺にはキラーパンサーの大群でも、油断しなければ倒すのも難しくはない。

 だが何かが引っかかる気がした。

「自衛隊も来たよ。春馬はあの魔族と戦って」

「でもこの数じゃ……」

「リーダーを倒せば部下は逃げると思ったから、さっきはあの魔族を攻撃したんでしょ」

 そうなんだけど、何かが引っかかる。

「ウワァ!」

 迷っていると玲菜の悲鳴が聞こえた。どうやら飛んでいるキラーパンサーの顔に、噛みつかれたようだ。

 俺はすぐにスープマグナムを撃ち、玲菜を助けに行った。痛みで苦痛の表情を浮かべていた玲菜は、俺の方に向き、安堵した表情を浮かべた。

「助かった。一緒に戦うか?」

 あれ?

 いつもなら余計なことをするなって言うところなのに。いや、怒鳴られたいわけじゃないんだけど、何かリズムがくるというか。嬉しいけどね。

「もちろん」

 俺は内心の複雑な気持ちがバレないように駆けていき、玲菜の横に行き支えてやる。もう一つの顔が噛みつこうとしてきたが、俺は復活したポテトソードで斬りつけた。今度は敵の動きをよく見て、噛まれないようにした。

「十秒も休めば十分だ」

「どんだけ体力回復早いんだよ」

 思わず振り返って突っ込みを入れたが、やっぱりそんなわけはなかった。噛まれた手首を押さえて、それでも闘志を燃やした瞳で、さらに続けた。

「みんなが戻ってくるまでは、仲間になってあげる」

 このツンデレアイドルは、いつも通り強がっている。押さえている手は次第に真っ赤になってきている。そしてポタポタっと血が垂れ始めた。

 こんなときくらいは素直になれよ。

「怪我してるんなら無理するな」

 俺は玲菜を襲うキラーパンサーの顔をポテトソードで斬り振り返った。玲菜は複雑な表情を浮かべつつも、強い意思の目を向けてきた。

「攻撃されて尻尾を巻いて逃げろって言うの?」

「言葉にすると似合わねえな」

 思わず笑みがこぼれた。俺のリアクションを見て玲菜は少し嬉しそうな顔を作る。

「ウチのことわかってるじゃない」

 もう一つのキラーパンサーの顔が近づいてきたが、玲菜はラーメン鞭を出して攻撃をする。

「ウチは困難なら困難なほど燃えるのよ。絶対に勝利をつかむ。それがウチの生き方」

「わかってるよ」

 俺はむしろ玲菜の心配をしつつも、格好良さを感じていた。そのまま走りキラーに向かっていく。

「面白い」

 キラーはさらに顔を何個も出していき、俺達は鳥のように飛び回るキラーパンサーの顔と戦い始めた。

 俺が目の前のキラーパンサーの顔を斬り、次のに攻撃をしようとした瞬間だった。狙ったキラーパンサーの顔に、赤い光線が命中して燃え始めた。

「何?」

 キラーに続き俺と玲菜も光線銃が飛んできた方に向く。そこにはこの前の宇宙服のようなバトルスーツを着た異世界人が十人ほどいた。

 数が少なくなっているのは、この前俺達が攻撃した奴らが、治癒していないからだろう。

 あのときと同じように、隊長が声をかけた。

「キラーヲコウゲキシロ」

 まるで外国人が話すような、かたことの日本語で喋った。それに驚きつつも、一斉に異世界人が射撃をする。

 キラーパンサーの顔が光線銃で燃えたり、サッとかわしたりしていったが、俺と玲菜が距離を置くと、俺達は異世界人からは狙われていなかった。

「俺の趣味を奪いやがって!」

 キラーは異世界人を知っているようだった。フンと鼻で笑い、余裕の中にわずかに苛立ちが垣間見える表情で怒鳴った。

「自分達の世界の人間じゃなくても、人間なら護るのか。笑わせるな。この世界も、お前達の世界も魔族が支配するのは時間の問題だ」

 隊長がさらにマスクをいじってから、流暢な日本語で話す。

「世界が違うなんて関係ない。人が襲われてたら助ける。それがヒーローってもんだろ?」

 隊長はそう言うとキラーに向かって光線銃を撃ちながら突っ込んでいく。

 キラーは残っている空飛ぶ顔を隊長めがけて向かわせる。隊長は二丁拳銃になり、どんどん撃ち落としていく。

「何だと……」

 驚くキラーだが、隊長は近づきながら光線銃を撃つスタイルのまま、声を張り上げる。

「俺を倒すには十数個じゃ役不足なんだよ!」

 全て撃ち落とした後に、キラーに向けて連射。よけていたキラーだったが、よけきれずに一発、二発と光線をどんどん受けていく。

「ウワー!」

 吹っ飛んだキラーを見て、隊長がドヤ声を出した。

「魔族が何だってんだよ。ヒーローに勝てるわけがないだろ」

 次の瞬間玲菜が叫んだ。

「後ろ!」

 隊長の後ろにはまだやられていないキラーパンサーの顔が潜んでいた。そして後ろから首に噛みついた。

「なんてな。その程度の攻撃で倒したつもりか?」

 キラーはわざとやられたふりをしていた。起き上がる動きもスムーズで、余裕のある表情はまだまだ戦える証明だった。

 倒れた隊長はキラーパンサーの顔に光線銃を命中させ倒したものの、首の部分から頭部にかけて、マスクが故障している。火花が生まれ隊長が危険を感じて、マスクを取った。

「俺はこんくらいで負けねえ!」

 マスクを放り投げて、そう宣言した。

 マスクは空中で爆発した。

 振り返った隊長の顔は、俺と瓜二つだった。

「春馬……?」

 言葉が出ない俺の代わりにそう呟いた玲菜は、俺に疑問の表情を向けたが、それに対する答えを俺は持っていなかった。

「続き始めようぜ」

 キラーの言葉に隊長が頷き、光線銃を剣に変形させた。華麗な剣裁きで戦い出す。その動きは目を見張るものがあった。

「お兄ちゃん。援護するね」

 キラーパンサーを倒していた異世界人の一人がそう声をかけ、光線銃でサポートに回る。うまい連携で、接近戦をしている中でも、隊長が次にどう動くか、手に取るようにわかっているようだった。

 キラーは唯一剥き出しの顔面に狙いを定めているが、隊長がかがんでかわしたときに、光線がキラーに命中する。このタイミングの合わせ方はすばらしいの一言に尽きる。

「中々やるな。だが!」

 攻撃を受けて痛みに耐えながら話し出すと、隊長は休む暇を与えずに攻撃を続ける。キラーはすぐに体制を立て直し、蹴りを入れて体調を吹っ飛ばす。

「さすがだな。俺に休ませずに攻撃をしてくるのは」

「何度も戦ってるからな」

 きっとキラーパンサーの顔を何個も作らせないためだろう。結局あれが何個もある限り、一匹を相手にしてるのに、何十匹も相手にしてるのと同じになってしまう。常に攻撃の手を緩めずに、相手のペースにさせないのは、戦闘において当然のやり方だろう。

「それはこっちも同じだ。お前にも弱点があるだろう?」

「ヒーローにそんなものはない」

 何か作戦がありそうだったが、首を大きく振って否定した。

「これが弱点だ!」

 キラーは一秒に数え切れないほどのキラーパンサーの顔を量産して、女性戦士の方へ飛ばした。もちろん光線銃で撃ち落としていくが、数が一瞬にして作られすぎたため、撃ち落とせずにマスクが噛みつかれてしまう。

 サングラスのように暗くて顔がわからなかったが、割れた部分から結菜にそっくりな顔が見えた。

「結菜?」

 思わず呟いてしまった。

 女性戦士は隊長と同じようにマスクを投げ捨て、爆発と一緒にキラーパンサーの顔を倒す。やった、やったと女の子らしく喜び、ガッツポーズをした。

 そのはしゃぎ方も、結菜にそっくりだと思ってしまう。

「油断するな!」

 隊長が叫んだ瞬間、キラーが女性戦士に攻撃を仕掛けていた。

 キラーパンサーと戦いつつ、俺は女性戦士から目が離せなくなっていた。

「大丈夫」

 女性戦士はキラーの作戦がわかっていたようだった。見えないほどの速さで後ろに回り込んでいたキラー。

「そこよ!」

 すぐに振り返って光線銃を撃つ。しかしそれも読まれていたためさらに速く動いて、すでにそこにはいなくなっていた。

 女性戦士は周りに視線を配っていたが、キラーの場所がわからずにいた。そして攻撃をしようとした瞬間に隊長が叫んだ。

「右だ!」

「キャー!」

 隊長の言葉は遅かった。

 耳に突き刺さるような悲鳴を女性戦士は出していた。

「結菜!」

 結菜かもしれないと思うと、俺はキラーパンサーを無視して、女性戦士の元へジャンプで一気に近づいた。

「バカ! 速く動いてるときは、そいつに近づくな」

 言ってる意味がわからない。やられている仲間を見捨てるのか?

 しかし次の瞬間、俺はキラーから攻撃を受けた。受けたと思った次の瞬間、再び攻撃を受ける。何度も何度も噛みつかれ、バーガー武装をしているものの、ダメージは増えていった。このままじゃやられると思い、闇雲にポテトソードを振り回したが、そんなものはあたるわけはなかった。

「こいつは超スピードで動き出す前に、勝負をつけなきゃいけないんだ。超スピードになるまでに、力をためなきゃいけないから」

 さっき常に攻撃をしていたのはそういうことだったのか。

 動きが全く見えないほどの速さだ。キラーパンサー自身がスピードの速いモンスターだから、その進化した魔族なら動きが見えないほど速いのか。

 俺は体中に触れていくダメージに耐えながら、心の中で理解した。

「春馬!」

 玲菜が助けに来ようとしたときに、隊長は玲菜の肩をつかんだ。

「お前もやられるぞ」

「ヒーローって言ってたけど、その程度の正義感なの?」

「何?」

 隊長は玲菜の言葉に眉を寄せた。

「仲間が苦しんでいるのに、助けに行かないの?」

「俺達は残り少ない戦士だ。勝てるかわからない状況で、戦いに行くわけにはいかないんだ」

 辛そうにそう語ったが、玲菜にはその辛さを感じる気持ちはなかった。

「勝てるかわからないと迷う時点でヒーローじゃない。これくらいの困難乗り越えられないなら、ヒーローなんて言うんじゃない!」

 隊長は玲菜の言葉を聞き、心に火がついた。

「やってやるよ!」

 俺は攻撃を受けながら二人のやりとりを見ていたが、見えないほどのスピードの敵にどう対応するのかわからなかった。

「お前達がやられる番か?」

 キラーは俺達から標的を玲菜と隊長に変えて向かった。声の位置から遠のいていくのがわかる。

「うりゃりゃりゃりゃ!」

 隊長は適当に光線銃を撃つが、予想通りあたらない。

 玲菜は気配を読み取ろうとしているが、速すぎてわからないようだ。険しい表情でラーメン鞭を振るったが、こちらも命中しなかった。

「ウワ!」

 しかし隊長の腕が噛まれた瞬間、玲菜が攻撃を仕掛けた。攻撃をする一瞬だけその場に止まってしまう。噛みつく攻撃のため、速くやっても動きが見えない状態は維持できない。玲菜の目には。

 しかしキラーにはその程度の攻撃じゃ効かなかった。

「お前を信じるぜ!」

 隊長が痛みに耐えながら呟いた。噛んでいる腕をつかみ、キラーを逃がさないようにした。

「何っ!」

 キラーの目が大きく見開かれた。

「耐えなさい!」

 玲菜は金色のオーラをまとわせる。ビリーブがいつにも増して高まっている証拠だ。

「は、離せ!」

「ラーメンスパークルフィニッシュ」

 隊長は腕をつかんだ体制から、キラーの背後に回り込み、脇の下から両腕を通して玲菜の攻撃を受けるようにさせた。

 玲菜が放った巨大なチャーシュー、メンマ、ナルト、味付け卵などが命中していき、最後に輝くラーメン鞭で叩きつけられた。

「ウギャー!」

 キラーの叫びがこだまする。

 隊長は荒い呼吸をしている。バトルスーツにも傷が増え限界が近い。しゃがみ込んだままキラーの状態を伺っている。

 隊長だけじゃなく、みんながキラーを見ているが、いっこうに白い輝きに包まれる気配がない。

「まだ生きてる!」

 玲菜の声にみんな構える。

「お前ら許さないぞ」

 爆発の中から目覚めたキラーは、怒りに満ちた目をしていた。消えたと思った瞬間には、玲菜の悲鳴が聞こえていた。

 玲菜の方を見ても、噛まれた形跡はあるけど、キラーはいない。

「かなりのダメージを受けているはずなのに、まだこんなに速く動けるなんて、どれだけタフなんだよ」

 俺が周りの気配を伺っていると、隊長を逃がす異世界人達がいた。

「やめろ。俺はまだ戦える。キラーを倒して、本物のヒーローになるんだ」

 耳を澄まさなきゃ聞こえないレベルの声で、隊長は部下の異世界人の手を振り払う。しかし明らかに限界がきている力では、すぐに捕まえられてしまう。

 キラーの後ろにいた隊長が、こんなにも弱っているのに、キラーはどうしてこんなに強いんだ。

 俺の疑問を見透かしたのか、俺、玲菜、異世界人達を順番に攻撃していきながら、キラーは言った。

「俺が強すぎると思ってるだろ? 俺は魔族の四天王の一人だからな。お前らが勝てないのは当然なんだよ」

 俺達は何度も攻撃を受け、ダメージが増えていく。

「こうなったら」

 異世界人達は光線銃を操作して、自分達に異世界への光線を撃ち、拒む隊長を含めてみんな逃げてしまった。

「結局は俺に勝てないんだよ。死ぬのが怖くて逃げる。それが人間だ。誰かのために戦って命を落とすなんてできないんだよ」

 高笑いをしたキラーは、姿が見えないほどの速さで走り続けていたが、玲菜に攻撃をされた。

「何で俺を攻撃できるんだ?」

「声を出せば動く方向、スピードからその後の場所は計算できる」

「そんなのは不可能だ!」

「不可能だと思ってやらないなら、永遠に不可能ね。でも可能だと思ってやれば、できないことなんてないのよ!」

 キラーに向かってまくし立てた玲菜は、俺の方に闘志に満ちた顔を向けた。

「春馬。あのワープゲートはまだ使えるみたい。あいつらを追いかけて、みんなを助けて」

 俺は玲菜の言葉を聞き、目を丸くした。

「玲菜はどうするんだよ?」

 キラーに再び攻撃をしてから、振り返って俺に叫ぶ。

「ムカつく奴を倒してから追いかけるから」

 俺はいくら何でも玲菜一人じゃ無理だと思った。

「さすがに」

「早く行って!」

 俺の言葉を聞かずに遮る玲菜は、キラーが戦闘態勢に入る前に攻撃を再開し、そのまま俺に言う。

「あのワープゲートはもう少しで消えるかもしれない。迷ってる暇はないのよ」

 そう言われて見てみると、青と白の霧のような光りが小さくなっていた。

 俺は玲菜と戦わなくていいのか躊躇したが、玲菜は命をかけて時間稼ぎをしているんだ。ここは行くしかないと決意を固めて、ワープゲートに向かった。

「逃がすかよ!」

 玲菜の攻撃を受けながら、キラーは俺にキラーパンサーの顔を飛ばしてくる。振り返った勢いそのままに、ポテトソードで攻撃して倒したが、ワープゲートが小さくなっていた。

「俺はみんなを助けたいんだ!」

 掌くらいのワープゲートにポテトソードを入れて、叫ぶと同時に剣がビリーブで輝き、空間を切り裂き、ワープゲートが切れ目のようになり、そこは縮んでいかなかった。

「自分の進む道は、自分の力で切り開いてやる!」

 もう一度斬り、入りやすいようにして、異世界へ行く。

 振り返らないし、言葉もかけない。

 玲菜は俺を追いかけてくるし、一緒にみんなを助けるから。俺はそう信じてる。



 ワープゲートは不思議な空間だった。まるでこんにゃくを踏んでいるような、グニャグニャとした地面。

 初めて感じるもちもちとした空気感は、何も触れていないのにおもちを触っているようだ。

 そして青白い光り以外は何も見えない。

 しばらくまっすぐ歩くと、出口が見えてきた。

 そこは俺達が住んでいる街に似た光景の断片が見えた。

 思わず走り出し、小さなその光景に手を入れ、カーテンを引くように両手でひきちじる。

 そのままそこへ降りると、予想通り俺の住んでいた大平藤市に似た街が広がっていた。

 ただし、ビルは倒れたものばかりで、人はおろか動物が生きたいるようには思えなかった。

「ここはいったい……」

 それ以上の言葉は紡げなかった。人生で初めて絶句した。あいつらはここに住んでいるはずなのに、こんな生きていけないような場所にいるのかと考えたら、何が何だかわからなくなってきた。

 大地震が起きた後に、ニュースで被災地の映像を見たときのことを思い出す。そのときよりも、さらに酷い状況だった。

 少し歩くと高いビルが建っていたのがわかった。だがビルは倒れその瓦礫は放置されたままだった。そのまま下敷きになったであろう人の死体を見つける。

 近づかなくても死んでいるのがわかる。血が垂れ流しになったまま倒れていて、誰も助けに来なかったんだろう。いや、助けに来れなかったんだろう。

 その人はおじさんだったが、しばらく歩くと、おばさん、子供を護ろうとしたまま一緒に倒れている親子ななど、いろんな人を見かけた。ただし死体で。

「あーーーーーーーーーーーーーーーー」

 俺は心の中に充満する悲愴感を振り払うように、無意識で叫んでいた。そうしないと心が押しつぶされてしまい、何もされていないのに、無気力になってみんなを助けるどころじゃなくなりそうだったから。

 だが後ろから足音がした。瓦礫を踏み俺に突進してくる音だ。振り返るとイノシシのようなモンスターで、俺はすぐにポテトソードを出す。

 きっと叫んだため俺に気付いたんだ。しかしモンスターを攻撃して、やり場のない感情をぶつければ、少しはストレス解消になるかもしれない。

「まっすぐに突っ込むだけじゃ勝てないぜ」

 俺は跳躍すると、背中にポテトソードを突き刺した。すぐに白い光りに包まれて、コインに変化した。

 きっとこの世界は俺達の世界と同じように、モンスターに襲われた世界だ。そしてほとんどの人間が殺された。

 残った一部の人間が俺と結菜に似た顔の戦士達だろう。

「だいたいあってるよ」

「ユーレ?」

 俺は急に目の前に現れたユーレに驚いた。

「お前何でこんな所にいるんだよ」

「春馬がいるから」

「ストーカーか!」

 突っ込みを入れて笑う。そうやって少しでも、気持ちを楽にしたい。ゴーストタウンのような街に、独りでいるのは心細かった。

「でもユーレが来てくれて良かったよ」

 思わず本音が漏れた。

「そうなんだ。春馬って恐がりなの?」

「そうじゃねえよ。ただこの世界はモンスターに征服されてるから、居心地が良くないんだよ。それに今までみんなでワイワイしてるのが当たり前だったから、孤独になれてないんだよ」

「孤独になれてないって、いつも孤独な人に言わないでよ!」

 ユーレは急に怒り始めた。何がきっかけなのかわからない。

「おい。落ち着けって。何で怒ってるんだよ?」

「春馬には関係ないもん」

 ユーレはぷいっと向こうを向いてしまった。謎の多い少女でほとんど何も知らないが、俺に勇者の力をくれた大切な人だ。

 俺は何が悪かったのかはわからないものの、このまま独りにされても嫌だし、謝って許してもらった。

 とにかくあいつらを探さなきゃにけない。モンスターと遭遇する確率が上がるけど、俺は声を張り上げながら歩いていく。

「おーい。誰かいないかー?」

 俺の声にまたイノシシのようなモンスターが襲いに来た。これで五匹目だ。

「この程度のモンスターなら、そんなに大変じゃないけど、あいつらが来てくれないから、そっちの方が困る」

「そんなこと言っても来ないでしょ」

 俺はユーレと話しながら、モンスターを倒した。強い魔族との戦闘経験をつんだから、俺のレベルもかなり上がってるんだろう。

 バーガー武装ができるようになった頃は、まだ戦うことになれてなかったけど、もうこのくらいのモンスターなら、余裕で倒せるようになってる。さっきもキラーパンサーと戦ったときに、初めてのときとは違うと思った。

 そんな風に思いながら、俺が攻撃をきめようとした瞬間、俺より先に攻撃が命中した。イノシシモンスターがコインに変化した。

「玲菜!」

 突き刺さるナルト手裏剣を見て、飛んできた方に顔を向けた。木の枝に立っている玲菜の姿を確認して、俺は嬉しくなった。

 だが次の瞬間玲菜は枝から落ちた。俺は慌てて玲菜をキャッチした。お姫様だっこの状態になった。腕にかなりの重さが加わる。グッとこらえて、ゆっくりとその場に寝かした。

「かなりの怪我だね」

 ユーレが近づきそう呟いた。

「春馬と違って自然治癒力の向上はしてないみたいだね」

「自然治癒力の向上?」

 ユーレはさらっと言ったが、何の説明をも聞いてないぞ、それ。

「春馬はかなりのダメージを受けても、怪我を治す力が、今までの数十倍くらいにはなってるよ。勇者だからね」

 そういえば俺はキラーにかなりのダメージを与えられていた。気が付いたら普通にしてられたのは、そういうことだったのか。

 噛まれた腕を見ても羽の跡が消えていた。

「仕方がない。僕の力で怪我を治すよ」

 寝かせた玲菜の横に行き、ユーレはハリセンを出した。ハリセンに元気爆発と書いてから、ハリセンを高く上げた。

「ユーレそれで叩くのか?」

「もちろん」

 俺はユーレを信じてる。ユーレのおかげで勇者になれたから、きっとハリセンからパワーを送るんだろう。

 振り下ろしたハリセンは、玲菜のお腹にあたった。玲菜がビリーブを高めたときみたいに、金色に輝くオーラが、玲菜を包み込んだ。

「すごいぞユーレ」

 俺が思わず声を上げると、ユーレは説明した。

「これで玲菜のビリーブが高まってくるよ。あとはビリーブがパワーになるのを待つだけだね」

 玲菜の体にエネルギーが満ちていくのが伝わってくる。玲菜の体からほどよい温かさが出ている。これは血流が良くなっている証拠だと思う。

 見ていると血が垂れていた傷口がふさがっていく。そして玲菜はゆっくりと瞼を開けた。

「大丈夫か?」

 意識を取り戻した玲菜に尋ねたが、寝起きでボーッとしている状態のように、表情を見ても俺の言葉をちゃんと理解しているようには思えなかった。

 目をこすり俺とユーレを見る玲菜。

「確かウチはキラーを倒して、この世界に来てから、春馬を助けて……」

 別にピンチでもなかったんだけどな。

「そのあと力がが抜けて……」

 少しずつ思い出していく玲菜。

「今までウチは何をしてたんだろ……」

 やっと上半身を起こして俺に尋ねた。

「やったー。力尽きて木から落ちたんだぞ。俺が受け止めなきゃそのまま、地面に落ちてたんだからな」

 俺が一人テンションが上がって、思わず玲菜の手を握ったら、玲菜が顔を赤らめた。

「あ、ありがとう」

「うん」

 やけに素直だなと思ったけど、素直に越したことはない。

「一時はどうなるかとおも」

 玲菜の傷が癒えたのを喜んでいると、急に口を押さえられた。目の前の玲菜の表情が一瞬で険しくなり、隣のユーレは玲菜ほどではないにしろ、鋭い目つきで俺の背後を睨みつける。

「静かにしろ」

 耳元から聞こえる男の声は、隊長のものだった。

「脅迫か」

 玲菜が確認するように訪ねた。後ろからする声はそれを否定した。

「武器も出さずにそんなことするか」

 隊長は突っ込みの口調で言ったが、俺達はそれをコミュニケーションととれる関係になっていない。

「そんなんじゃない。モンスターにバレないためだ」

 俺は何度もモンスターに見つかり、その都度倒してきた。

「こいつはザコ相手だから大丈夫って思ってたみたいだけど、魔力が消えれば高位魔族にはその場所はわかる。次にどんな奴が来るかわかんねえんだぞ」

 小声だが怒鳴っている。俺の行動が怒らしたのは当然かもしれない。

「だからなんだ。お前達に転送された仲間を助けに来た。居場所を教えてもらう!」

 玲菜はすぐに戦闘態勢に入った。武器を出してはいないものの、俺は口を押さえられている。この態勢なら首をへし折られたりしたら、死ぬかもしれない。

 挑発はやめて。

 ドキドキしたが、隊長はすぅっと俺から離れた。振り返ると手を上げて、俺達と戦う意思がないことを示す。

「俺は戦いに来たわけじゃない。お前達の仲間も返す」

 騙しているような雰囲気はなかった。

「まず訊きたいことがあるんだけど、あなたは何でもう怪我が治ってるの?」

 確かにパトルスーツを着てるとはいえ、声は隊長のものだ。玲菜みたいにユーレの魔法で治療されたわけじゃないなら、どういうことだ。

「お前達の世界よりも科学も医学も進歩してる世界なんだよ。あまり使いすぎるのは良くないが、治癒力を飛躍的に上げる薬があるんだ。それを飲んで一時間もすれば元通りさ」

 さすがに一瞬で体力回復みたいな、便利アイテムではないみたいだけど、一時間で元通りって、すごすぎるだろ。

「やけに素直に教えてくれるのね」

「俺は先天的に未来が見えるんだ」

 俺はその言葉を聞き、どういう意味かわからなかった。

「信じるかどうかはさておき、俺はお前達の仲間だと思っている」

 俺と玲菜はさらに警戒心を強めた。

「あのままだったら次の戦闘でお前の仲間達は殺されていた」

 唐突に言われたショッキングな言葉。俺は動揺を隠せなかったが、玲菜は自信に満ちた言葉で言い返す。

「だったらウチは信じない。どんなに強い敵が来ても、ウチガみんなを護り抜く」

 胸を張った玲菜はもういつも通りの、自信に満ちた表情を取り戻し、隊長に真っ向から反論する。

「戦いが始まる前にお前達が苦しむのを見たい魔族が、仲間の死体を出したら?」

 俺はもちろん、玲菜もさすがに言葉を失った。

「常に仲間のそばにいられるわけじゃないだろ?」

 否定できない言葉は続く。

「あの世界を征服するのが目的でも、魔族の中には最優先に人を殺したがる奴がいる。その死体を仲間に見せて、絶望させたい奴がいる。さっき戦っていたキラーはそういう奴だ」

 辛い過去を思い出すような隊長の表情。涙がたまり、奥歯に力が入っている。きっとそういう経験があるんだろう。

「本当は翻訳アイテムが完成するまで待ちたかったが、待っていたらキラーがその作戦を実行するところだった」

 思い出した。キラーは隊長に向かって、俺の趣味を奪いやがってって言っていた。あれはこのことだったのか。

「俺は信じるよ。だから仲間の所へ連れて行ってくれ」

「ウチも信じる。嘘を言ってるようには見えないから」

 さすがの玲菜も信じたみたいだった。

 俺達は隊長の案内で歩き出す。隊長の名前はムサシ。女性戦士は妹でレイラ。

 この世界は日本よりも科学の発展している世界。だが圧倒的な魔族の強さの前に、民間人は地下シェルターに避難した。

 だが軍人がつけられて魔族に地下シェルターの場所がバレてしまう。そして大勢の犠牲が生まれる。

 軍人も減っていき、民間人も戦いに参加しなければいけなくなった。ムサシとレイラはそのタイプだった。

 仲間が減っていった結果、ムサシが隊長になった。この世界には未来がないが、ムサシ達は希望を捨てずに魔族と戦い続けていた。

 その中で魔族が別の世界にも人間がいると漏らしたのをきっかけに、研究者に別の世界があるかを探してもらい、魔族のワープゲートにいたものを作り出せる光線銃を作ってもらった。

 そして何度か俺達の戦いを見て、安心と不安を感じていたが、キラーと戦った際に逃げる前に、俺達の世界でいつもの遊びをやると宣言していた。

 俺は魔族に正々堂々と戦えなんていっても通じないのはわかってる。だけどそんな戦い方はしないでくれと心の底から思う。

 俺は歩きながらその話を聞き、もうすぐみんながいる地下シェルターだと言われた。

 だがブワンという鈍い音がして、俺は空を見上げた。

「マズい!」

 ムサシが叫んだ瞬間、空にはモンスターが現れるときの、黒と紫の霧のような光が生まれていた。

「あの大きさはドラゴンだ!」

 その言葉を聞き、背中がぞくっとした。現れるなら戦うしかないし、戦わないで逃げるなんて俺にはできない。

 たとえ俺がこの世界の人間じゃなくても、モンスターや魔族が暴れたり人を襲うことを見過ごすわけにはいかない。

 俺が決意を固めると、玲菜も同様だった。強い闘志が宿った瞳で、俺の視線を見つめ返している。

「ちょうどいい。モンスターに怒りをぶつけたい気持ちだったのよ」

 玲菜はそう言い、ラーメン武装をした。

「相手はドラゴンだ。油断するなよ」

 俺もバーガー武装をする。

「お兄ちゃん、あたしも戦う」

 後ろから申し訳なさそうに出てきたのは、レイラだった。すでにこの状況を理解した上で来ているため、バトルスーツを着て、マスクをかぶるだけだ。

「待ってろって言っただろ!」

 ムサシはレイラを叱りつけた。

「だってお兄ちゃん絶対に来るなよって言うんだもん」

 絶対に来るなと言われてくるのか……?

「危険な未来が見えてたんでしょ」

 そうか。レイラはムサシを心配してきたのか。きっと何もなかったら、尾行していたことを黙ってたのかもしれない。

「レイラは逃げろ」

「嫌よ。あたしも戦う!」

「そんな話ししてる暇ないみたいだよ。ドラゴンがこっちに気付いたみたいだし」

 ユーレが告げた言葉の直後に、ドラゴンが着地すると、俺達はみんなバランスを崩して倒れてしまう。

 巨大な体が着地するだけで大地震に匹敵する揺れが起きた。戦う以前に苦戦するのが予想できた。

 ある程度近づいて赤い体のファイヤードラゴンだとわかった。一歩一歩踏みしめるのは、崩れたビルの瓦礫だった。

 そんなものを踏むことに何の躊躇もなかったが、ファイヤードラゴンが歩くたびに、揺れて立とうとしても立ち上がれない。よく見ると踏まれた瓦礫はさらに砕けていき、恐怖と儚さを感じた。

 俺は壁に手をついて何とか立ち上がる。周りを見るとみんなも、なんとか立っていた。

 ファイヤードラゴンは俺達に向かってファイヤーブレスを吐く。巨大な口から吐き出された火炎の津波は、俺達を飲み込もうと迫ってきたが、みんな素早く動き、かわすことに成功した。

 だがこれで安心はできない。俺達がよけた場所にあった崩れた建物が燃えだしてしまう。引火すると炎の勢いは止まらずに、周りのものへ燃え移り、地面も炎の道ができてしまう。

 炎に追いかけられた俺はその熱さに、一瞬で汗をかいたが、これくらいでビビってちゃ勝てないと思い、気合いを入れた。

「俺達が火を消していく。お前達は少しでもいいからドラゴンを食い止めてくれ」

「おう」

 俺は言われるがままに走り出す。玲菜とユーレも後に続き、ムサシとレイラが光線銃で消火していく。だが巨大な口から吐かれた炎は、人間の身長をはるかに超える火事を一瞬にして作り出し、光線銃二つじゃ中々対応できなかった。

 俺達はファイヤードラゴンに近づいていったが、歩くたびに地面が揺れるため、何度も飛んでいったが、着地と同時に地面が揺れてしまい、思うように次の動きができなかった。

 そしてファイヤードラゴンが俺達にかなり近づいてきた。俺達は踏みつぶそうと迫る足から逃げるので精一杯だった。

「まるでアリになった気分だぜ」

 俺がそんなことを呟いていると、再び真上に足が迫っていた。思わずポテトソードを上に向けたが、玲菜が俺に飛びついて、何とかかわせた。

「あんたバカァ! あの大きさの体で、そんなの踏んだ程度じゃ倒せないことくらい気付くでしょ!」

 もちろんそうだけど、判断力が低下してきている。圧倒的な強さを前にすると冷静になるのが難しい。

「とにかく離れなきゃ」

 玲菜に続いて俺は離れてスープマグナムを撃つ。玲奈もナルト手裏剣で戦うが、俺達の攻撃はまるで刃が立たない。

 バーガーバズーカを撃ちたいが、ビリーブをチャージする時間がない。

 俺が高く跳びポテトソードで攻撃していくと、突き刺しても剣が刺さらない。玲奈のラーメン鞭もあたっても効果がなく、俺達はどうするべきかを考えた。

 ムサシとレイラが消火を終わらせて俺達の方へ来た。

「ドラゴンの皮膚は分厚く、通常の武器は効かない。ドラゴンを倒すには、目か口の中から攻撃しなければ無理だ」

 ムサシは一瞬間を置いて続けた。

「俺がおとりになってファイヤーブレスを受ける。みんなはファイヤーブレスが終わった瞬間に、口に入って攻撃してくれ」

 ムサシの言葉に一同が驚く。

「俺はここにいるみんなが死ぬ未来を見てるんだ。それを変えたくて、レイラには来るなって言ったのに来ちゃうし、春馬もモンスターを呼んでた倒し続けた結果、ドラゴンが召喚された。変えようと思っても変えれなかった」

 玲菜はムサシの前に行く。

「本気で変えたいなら泣くんじゃない。もっと力強くその気持ちを持つのよ」

「変えたいと思っても、変わらなかったんだよ」

「まだ気持ちが足りないのよ。本気でムサシがおとりになるっていうなら、ウチはその覚悟を受け入れる!」

 玲菜の言葉にレイラが反論した。

「何言ってるのよ。あなたは良いかもしれないけど、あたしのお兄ちゃんは一人しかいないのよ!」

「みんな危ない!」

 ユーレが叫ぶと俺達は、上空にきていた足に気付き、急いでよけた。よけるにも足が大きいため、かなり移動しなきゃいけない。

 俺は後ろへ跳んだが、同じようにムサシも後ろへ跳んでいた。

「さっきの言葉本気なのか?」

 動きながら問いかけると、俺の方に顔を向けるムサシは、決意を固めていた。

「ああ。俺は妹とのレイラが大切だ。このまま俺がリスクの高い戦い方をして、俺だけが死ぬならまだいい」

「妹を護るためなら?」

「そうだ」

 俺が確認をすると、ムサシは頷いた。

 その考え方は俺と同じだった。俺はみんなを護りたいけど、誰か一人だけを護るなら、妹の結菜だ。

 顔も同じで考え方も同じだった。だったら俺のできなかったことをさせてやりたいと思った。妹を護ることを。

「わかった。ムサシにおとりを任せた」

「ありがとう。俺に万が一のことがあったら、レイラを頼む。大切な妹だから」

「ああ。ムサシの代わりに俺が護り抜いてみせる」

 ムサシがドラゴンの方に行くと、レイラは俺の方に来て頬を叩いた。

「バカッ! 何で止めてくれないのよ」

 頬を抑えながら、俺は反論する。

「本気で決意を固めた人間を止められるか!」

 俺はこの作戦を失敗させたくない。だからレイラを真剣に見つめ、力強い声で語る。

「信じるんだ。この作戦がうまくいくように」

「信じたからってうまくいくかわからないでしょ」

「強い気持ちで信じれば、いつも以上の動きができるはずだ。そうすれば無茶な作戦だって、成功する可能性は上がる」

 俺の言葉に納得はいっていない様子のレイラだったが、すでにムサシはドラゴンの方に向かったため後戻りはできない。

 俺達はそうやって今まで戦い抜いてきた。本気で自分の力を信じれば、ビリーブはその気持ちに答えてくれくれるんだ。

 ムサシはバトルスーツの背中部分から、四角い箱を出す。まるでリュックを背負っているような形だ。その下の部分から風が噴射され、自由に空を舞うことができるようだ。

「俺達はいつでも戦えるように、ドラゴンの近くで隠れて待機するんだ」

 俺の言葉に集まったみんなは頷いた。

 ムサシはドラゴンの顔の前で光線銃を撃ち戦っている。しばらくは前足での攻撃が続いたが、それをかわし続けると、ついにファイヤーブレスを吐いた。

 ムサシは消火モードにしつつ、少しだけ下がった。近距離のためかわすのは不可能。この光線銃でどこまで対応できるか不安だが、俺達の頑張りで何とかしてみせる。

「もう少しだ」

 俺は瞬きせずにタイミングを計る。

 ファイヤーブレスの勢いが弱まってきた。

「行くぞ!」

 レイラはムサシと同じようにバトルスーツを飛行モードにして誰よりも速くドラゴンの口の中へ入った。

 すぐに口の天井に光線銃を放ち、痛みで大きく開いたところを、俺達が遅れて入り、牙を片っ端から砕いていった。

 俺の背中に武蔵の声が聞こえた。

「レイラを護ってくれ」

 答える暇はないが、さらに決意を固めた。

 口の中で攻撃すると、また痛みの衝撃で大きく開く。開いた後は閉じようとするが、再び攻撃を仕掛けて、口を大きく開けさせる。

 それを何度も繰り返していく。ムサシに言われたとおり、レイラが舌に襲われたときには、ポテトソードで切り裂いた。

 ドラゴンが苦痛の悲鳴を上げると、俺はとどめのタイミングだと思った。

 バーガーバズーカを構えて、喉の方に向かってぶちかます。巨大な燃えるハンバーガーは、咀嚼されずに喉へ向かっていく。

 消火されるためではなく、爆発させるために。

「脱出だ!」

 俺達はドラゴンの口から出ると、ドラゴンは口から煙を吐いていた。皮膚が頑丈なため、内臓を爆破していっても、それが皮膚にまでは影響を及ぼさない。

 しかし作戦が成功したのは確かだ。しばらくすると白い光りに包まれて、コインに変化した。

「ビリーブだぜ!」

 俺はいつものように決め台詞を言ったが、レイラがあっちへ跳び、そっちへ飛び、ムサシを探していた。

「お兄ちゃん!」

 レイラは倒れているムサシを見つけ、俺達はムサシの元へ駆け寄った。そこにはバトルスーツが焼き尽くされ、死んでいる可能性の高いムサシがいた。

「お兄ちゃん!」

 レイラはマスクを取るためのスイッチを押し、無理矢理マスクを取る。そこにはマスク越しでも防ぎきれなかった火傷だらけの顔があった。

「お兄ちゃーん!」

 泣き出しレイラはムサシの胸に顔を埋める。

 もう死んだと思ったが、最後の力を振り絞り、レイラの頭をなでる。

「良かった。お前が生きててくれて」

「良くないよ。お兄ちゃんがいなくなったら、これからあたしはどうすれば良いの!」

「未来を信じろ」

「あたしにはお兄ちゃんがいないとダメだよ」

 泣き叫ぶ玲菜から俺と玲菜に視線を変えたムサシ。

「レイラを頼む。最後に命に代えて妹を護れた俺はヒーローだろ?」

 それだけ言うとムサシは力尽きた。瞼は閉じ、首もだらんと下がってしまった。

 玲菜はバトルスーツを引きちぎり、手首に手をあてた。

「脈はもうない。死んだのね」

 玲菜の確認の言葉はあまりにも冷たく、レイラは怒りをぶつけてきた。

「バカ! 信じれば未来は変わるって言ったじゃない」

 俺を何度も叩きながら涙を流すレイラ。俺は何も言い返す言葉を持っていなかったが、玲菜がぶん殴る。

「甘ったれないでよ!」

 玲菜のパンチに驚き、しゃがんだまま見上げるレイラ。

「アンタは全然信じてなかった。ビリーブのかけらすら感じれなかった。状況に流されてただけじゃない。ムサシはみんなが死ぬ未来を変えたいって強く思ってた。特にあんたを助けたいって思ってたのよ!」

「落ち着けよ、玲菜」

 俺は憤慨した玲菜をなだめるが振り払われてしまう。

「本気で行動しないのに、幸せな未来を簡単に手に入れられるなんて思わないでよ」

 怒鳴られたレイラは顔面蒼白になり、反論はおろか意識すら薄らいでいるような表情になった。

「玲菜もいい加減にしろよ。兄貴が死んだときに、そんな説教するのはさすがに良くないぞ」

 フンと鼻を鳴らして、そっぽを向いた玲菜。

 俯き思考はおろか精神的にうつろな状態になっているレイラ。

 一部始終を見て、何をどうすれば良いのかわからない様子のユーレ。

 俺はしばらく言葉を紡げなかったが、ブワンと音が鳴り、嫌な予感を胸に視線を空に向けると、空には大きな黒と紫の光りが生まれた。そこからは五匹のドラゴンが現れ空を飛んでいた。


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