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第5章 どんな困難も乗り越えるビリーブ


「どうするのよ。お兄ちゃんが死んで、何とか一匹倒せたのに、今度は五匹も出てきたのよ。未来は変えられないのよ」

 泣き叫ぶレイラ。玲菜はそれを見て吐き捨てる。

「絶望したいなら絶望してなさい。ウチはどんな困難が待ってても、絶望を希望に変えるんだから」

 ユーレが閃いたように口を開いた。

「ワープゲートの先にモンスターの召喚をしてる奴がいるはずだよ」

「俺はそいつを倒しに行く」

 俺は反射的にその言葉を発していた。

 結局元を絶たなきゃ、どうしようもないもんな。

「ウチも行く」

「僕も行く」

 ドラゴンが空からゆっくりと地上に舞い降りてくる。時間がない中迷っているレイラ。

「あなたが来ないなら、ウチらは行くわよ」

「決断してすぐに実行する。それが俺の信じる生き方だ」

 俺が最近玲菜を見て学んだこと。俺自身まだまだだけど、少しは玲菜みたいになれたかもな。

「わかった。春馬達について行く」

 その言葉を聞き、ドラゴンが地上に降りたときの揺れを避けるようにジャンプ。俺と玲菜は何度もジャンプをしていき、背中を向けているドラゴンを踏み台にして、空にあるワープゲートまで飛んだ。

 レイラは飛行モードにして飛んでいき、ユーレは体を白いボールのような光りに変えて空を飛んだ。

 ユーレって何者なんだよ。

 黒と紫の混じった光りに飛び込むと、さっきの空間とは違い、嫌な雰囲気がただよっていた。怒りや憎しみ、嫉妬や悲しみのような感情が、無意識に生まれてきた。

 完全なる闇の空間で、みんなを見失ったが俺は叫んだ。

「みんな走れ」

 ここがどうなっているのかなんてわからない。ただここから離れきゃという強い気持ちが生まれた。

 みんなの気配や、息づかいは聞こえる。近くにいることは確かだ。嫌な気持ちに押しつぶされないように、ビリーブを高めていった。

 しばらく走ると血のような赤い池に落ちた。

 良かった。俺だけじゃなくて、みんな一緒だ。

 でもその先にあるのは大きな城だった。

「あれは魔王城か」

「そうだよ」

 思わず呟いた言葉はベタすぎだと思いつつも、日本的な城でもなく、西洋の雰囲気もなく、魔族が住み着きそうな雰囲気だった。ゲームやアニメのイメージだけど、そのままみたいだ。

 俺の言葉に頷いたユーレは、何もかもわかっているような顔をしていた。

 俺達はすぐにこの血の池から出ると、巨大な陰が迫ってきていた。

「こっちでもドラゴンが襲ってくるのかよ」

 俺達はとにかく逃げながら、城を目指す。踏みつぶそうとされたり、ファイヤーブレスを吐かれても、よけて戦おうとはしない。

「余計な戦いはするな。あの城にいる魔王を倒すために体力を残しておけ」

「確かにどんだけ倒してもきりがないからね」

 俺の言葉に頷いて玲菜は、俺を抜き去り先を走って行く。

 レイラは玲菜と俺の後に続き、何も言わない。

「あそこに門があるよ」

「そんなところから入るわけないでしょ」

 玲菜は高く飛んで必殺技を使った。

「ラーメンスパークルフィニッシュ」

 すると二階の壁に穴があいた。

「こっから入りましょ」

 玲菜は当然のようにそう言った。

「無茶苦茶だな」

「そう?」

 俺達は跳んでそこから入ると、歩きながら話し出す。

「そうって入り口から入らないで、壁をぶちこわすってどんな進入の仕方だよ」

「この中には魔族がいっぱいいるだろうから、見張りとかにバレるよりも、こうやって意表を突いた方が良いと持ったのよ」

「意外と考えてたんだな」

「考えずにこんなことするわけないでしょ」

「てっきり怒りが爆発して、暴走したのかと思ったよ」

「何言ってんのよ」

「いて」

 走りながら玲菜に頭を殴られた。

 今のは俺が悪いのか?

「面白い作戦だったが、お前らはここで死ぬんだよ」

 魔族が一匹現れた。人型で生きた炎というべきか。その炎の魔族は、俺達に炎の攻撃をしてきた。

 不意打ちだがみんなかわした。

「残念ね。あんたの仲間も似たようなこと言ってて、やれれていったのよ」

 玲菜は挑発するが、炎の魔族なのに冷静だった。

「お前らの意表をついた作戦も、落ち着いて対処してやるよ」

 そう言って攻撃を再開してきた。

「玲菜こいつ強いぞ」

 現れただけで感じたが、こいつは近くにいるだけでその場の温度を上げる。真夏の太陽の下にいるように、汗をかき始めた俺は、集中力が切れないように気合いを入れて攻撃する。

「くらえ!」

 ポテトソードは炎の魔族の腕を斬る。

「そんなの効かねえよ」

 余裕の表情のまま、俺に言い放った言葉通り、腕は斬れていない。感覚的にも手応えはなかった。

「俺の体は炎でできてるんだ。ものを斬ることはできても、炎は斬れねえぜ」

 俺は一旦下がり、距離を置こうとした。だが背中に何かがあたり、思わずその場でしゃがみ込んでしまう。

「あなただけに美味しい思いはさせないわよ」

 振り向くと猫のような獣人で、女の声がした。今技を放ったというように、俺に向かって右手に持ったハートのステッキを前に出していた。俺に向かってすぐに笑顔を作る。

「ここからはあたしの魔力で楽しみなさい」

「何言ってんだ。全然痛くなかったぜ」

 そう背中にあたっただけで、誰かに肩を叩かれた程度の感覚しかない。しゃがんだのは痛みを感じたからではなく、次の攻撃を予想しての行動だった。

「だからあたしの魔法はお楽しみなのよ」

 猫魔族は意味不明なことを言っている。

「そろそろ魔法が効いてくるわよ」

 そう言われて俺は何か恐ろしいモンスターでも召喚されるのかと思い、ポテトソードを握る手に力を込めた。

 だが瞬きをした瞬間、魔王城にいたはずの俺はカフェにいた。ここはスイーツが美味しいと評判のお店で、どんなスイーツがあるか調べてくるように親父から言われていた。

 メニューを見て本格的だなと思った。ケーキで二十種類以上あり、アイスやパフェ、ワッフルにプリンなど、いろんなもののメニューが、豊富に揃えられていた。

「こりゃ人気が出るよな」

 思わず呟いて王道のショートケーキとバニラアイスを頼んだ。ウエイトレスさんがテーブルに置くと、俺にスマイル。

「な、何ですか?」

 変な間が生まれ俺が訪ねると、ウエイトレスさんは大きな瞳を輝かせて、俺に顔を近づけた。

「イチゴは最初に食べますか?」

 思いがけない問いかけに、どぎまぎしてきた。

「は、はい」

 するとウエイトレスさんは、フォークにイチゴをさして、クリームをイチゴですくい取った。それを俺の口元へ運んだ。

「あーん」

「えっと……、これは?」

「食べないんですか?」

 首を傾けた拍子に、ポニーテールが揺れ、俺は思わずドキッとした。

「食べます」

 俺が口を開けてイチゴを食べようとした瞬間、頭にものすごい衝撃が走った。俺は頭をおさえて俯いた視線を上に向けると、怒り爆発の玲菜が腕を組んで見下ろしていた。

「何やってるのよ!」

 さっきまでカフェだったのに、いつの間にか魔王城に戻ってる。何が起きたんだ?

「その顔はまだ寝ぼけてるの?」

 俺は玲菜にまた頭を殴られた。めっちゃ痛いんだけど。

「こいつの魔法にかかって、幻影を見せられてたのよ。こんなのにかかるなんて春馬のビリーブもたかがしれてるわね」

 俺は頭をおさえながら、状況を整理した。あの猫の魔族の魔法を受けて、俺は幻影を見せられてて、玲菜がどついて元に戻ったってことか。

「玲菜ありがとな」

 立ち上がった俺は猫魔族に向かっていく。

「もっと楽しい世界にいたかったんじゃないの」

「ふざけるな。お前らなんてすぐにぶっ倒して、俺が魔王を倒しに行くぜ」

 俺がポテトソードを振り下ろすと、猫間族は素手で止めた。

「うーん。あたしなめられやすいんだけど、結構強いのよ」

 だが俺は腹を蹴り吹っ飛ばす。すると後ろへ跳んでいったかと思ったが、すぐにバランスを立て直して、ステッキで魔法を放つ。

「春馬君よりも、玲菜ちゃんを楽しい世界に連れていくわね」

 だが玲菜は近づいてくる魔法を、ラーメン鞭で破壊した。

「こんなものでウチのパワーを吸い取ろうたって、そうはいかないわよ」

「バレてたの?」

「春馬が幻影と戯れてるときに、赤いオーラが魔法のステッキに吸収されていたのを見逃さなかったから。弱い魔族がやりそうな魔法ね」

「強いって言ってるじゃない」

 プンスカ怒りながら、猫魔族は玲菜に魔法を放ち続けたが、玲菜はそれをよけながら近づき、攻撃を決めた。

「ちょっと助けてよ」

「フン。俺の戦いに割り込んできて、よく言うぜ」

 炎の魔族は見捨てるように言った。

「ここで勇者達を倒せば魔王様に褒めてもらえると思ったのに」

「考えることは同じだな。俺は俺の戦い方をする。お前がやられようが知ったことか」

「ひっどーい!」

 猫間族はそう言うが、玲菜の方に向いた目は鋭さが増していた。

「これでも四天王の一人なのよ。ガチバトルは苦手だけど、他にも人間に楽しみを与えて戦う方法なら、あるんだからね」

 そう言って猫間族は魔法のステッキを振る。

 玲菜は魔法が出る前にステッキを破壊しようとて、ナルト手裏剣を投げたが、レイラが光線銃を撃ち、玲菜に向かって叫ぶ。

「この魔族は殺さないで!」

「何?」

「面白い人間もいるもんだな」

 驚く玲菜、顎をさすり興味深そうにことの成り行きを見守る炎の魔族は、燃えさかる体をさらに熱く燃やし出す。

「あたしにはお兄ちゃんが必要なの」

 そうかこの魔族に死んだムサシの幻影を見せてもらうために、殺すなってことなのか。

「魔族を殺すなって言うの?」

「そうよ。魔王がモンスターを召喚して、あたしの世界の人達を、お兄ちゃんを殺したのなら魔王は許せない。だけどこの魔族がお兄ちゃんを殺したわけじゃない」

 確かに一理ある考え方だ。猫間族にムサシの幻影を見せてもらえるのならば、レイラにとっては必要な存在。それは魔族か人間かなんて話しではない。

「こいつの魔法にかかれば、精神エネルギーを奪われるのよ!」

 そう。確かに俺はほんの少しの時間だったけど、幻影にもてあそばれ、少し精神エネルギーを奪われた。もちろんわずかなレベルだったため、まだまだ戦える。

「あなたにはわからないのよ!」

「わからないなんて勝手に決めないでよ!」

 レイラの悲痛な叫びに、玲菜が怒鳴り返す。

「あなたたちがウチの仲間を消したんじゃない。あのときはどうすれば良いのか全くわからなくなったのよ。自分で原因を作ったのに、絶望感を自分しか理解できないなんて思わないでよ!」

 確かにあの瞬間は俺もどうすれば良いんだろうって思った。死んでないとわかった今でも、再会はしていない。

「あなたの仲間は生きてるじゃない」

「まだ再開していないのに、それを百%信じろと言われても無理でしょ」

 玲菜は俺と違う、信じる気持ちと、信じ切れない気持ちがあるようだった。そしてそのまま続ける。

「絶望に飲み込まれて、魔族に頼っちゃ、あなたもいつか死ぬわよ」

 反論したい。でも何も言い返す言葉が出ないレイラ。そんな状態でも涙を流し、気持ちが爆発した。

「じゃあどうすればいいのよ。あたしの辛さは!」

「甘えないでよ。自分で希望を見つけなさい」

 何かしら優しい言葉を用意していると思ったが、玲菜はいつものように鋭い言葉でレイラの心に突きつける。

「あたしの希望はこの魔族にあるのに」

 また何か玲菜が言い返そうとした瞬間、ユーレが玲菜の前に手を出して、自分に任せてと一歩前に出た。

「確かにお兄ちゃんが亡くなったのは辛い。だけどお兄ちゃんが自分を犠牲にしてまで、あなたを護ったのは何でだと思う?」

 優しく問いかけるユーレ。自分だけの考えで突き進もうとしていたレイラは、そこで考え出した。

「わかんないよ」

「じゃああなたがお兄ちゃんを助けるならどんな気持ち?」

 さらに考えてゆっくりと話し始める。

「大切だから元気で幸せに生きてほしい」

「お兄ちゃんが魔族の力で幻影に依存するのをあなたは喜ぶ?」

「そんなわけな……」

 そこまで言ったレイラは、ハッとした表情になる。何かに気付いて、口元を手で覆う。

「あたしも元気で幸せに生きなきゃってこと?」

 問いかけるように呟いた言葉は、ユーレに向けたものなのか、それともここにはいない遠くで見ているかもしれない兄に訊いているのかわからなかった。

 でも、確実にレイラの目が輝きだした。

「あたしは一人でも幸せになる」

 力強く宣言した言葉は、ここにいる誰にも向けた言葉ではなかった。レイラにしか見えないムサシに向けた言葉だ。それは魔法で作り出した幻影とは違い、心の中にある大切な存在。本当に会いたかったら、心の中で再会できる。今それをやっている。幸せそうな表情が、心配いらないと伝えたように見えた。

「えー。あたしの仲間になるんじゃなかったの?」

 猫の魔族が残念そうに言うと、レイラは光線銃を構えた。

「お兄ちゃんは決して魔族に屈しない人だった。だから自分の命を犠牲にすることも、迷わなかった。だったらあたしも魔族に屈しちゃいけないのよ」

 光線銃を放ちながら猫魔族に向かっていくレイラ。しかしステッキを高く投げて、猫そのものの動きでかわしていき、移動した先でステッキをキャッチ。

「残念ね。あなたとなら仲良くできそうだったのに」

「魔族が人間と仲良くして、どうするんだよ!」

 炎の魔族に文句を言われたが、反論した。

「魔族だからって個性があるんだから」

 確かにこの猫の魔族の場合は、人間を殺しまくるっていうタイプじゃない。むしろ人間でも受け入れる人もいるだろう。

 だが魔族の使う魔法のため、やっぱり良いことだけで終わらないなら、仲良くできる相手じゃない。

「みんな。こいつはあたしに任せて!」

「一人前なことを言うのね」

 玲菜が笑ったが、満足そうな表情をしている。

「ピンチになったらサポートするからな」

 俺の言葉にレイラは笑顔で首を振る。

「大丈夫。こう見えてもあたしは強いのよ」

 その言葉さっき、訊いたばっかり何だけど。そう思ったら猫間族の魔法をかわす動きが速くなっている。さらにジャンプでかわすと同時に、飛行モードで飛びながら光線銃を放つ。走るよりも距離が縮むのが速く、光線銃を命中させていく。だが意外にタフで、猫の爪でひっかいてきた。

「この程度じゃ全然痛くないのよ」

 レイラは回し蹴りを決め、吹っ飛ばして光線銃のエネルギーをチャージした。

「見ててお兄ちゃん。お兄ちゃんがいなくてもあたしはちゃんと生きていけるから」

 レイラは光線銃のトリガーを引く。すると赤い光線が今までの三倍以上の出力で解き放たれた。猫間族は蹴られた痛みですぐに逃げるのは無理だった。背中を向けた瞬間、赤い光線に焼き尽くされてしまい、コインが床を転がった。

「やったな。きっとムサシも喜ぶぞ」

 レイラは俺の方にやってきて、何か言うかどうか迷っていた。

「お願いなんだけど。あたしにはあんまり優しくしないで」

「えっ?」

「春馬を見てると、お兄ちゃんを思い出すから」

 そうだった。自分の顔を常に見ているわけじゃないから忘れてたけど、俺はムサシと同じ顔だった。レイラと結菜が同じ顔のように。

 俺は玲菜に説得されて結菜とは違う人間だと意識して見るようにしているため大丈夫だけど、やっぱり乗り越えるのは大変だよな。

 レイラの気持ちを考えて、俺なりの思考を巡らして答えにたどり着いた。

「残念だけど断る」

「えっ?」

 今度はレイラが驚く番だった。

「俺は武蔵にレイラを任せれたんだ」

「だからって」

「ムサシのことがなくても、女の子に優しくしないなんて、俺の性格的に無理な話だ」

「春馬なんてたいした男じゃないんだから、すぐになれてアホ男だってわかるわよ」

 俺の言葉を台無しにして、思わずドヤ顔になった俺に、玲菜が調子なんかに乗せないように、ミサイルのような言葉をぶち込んできた。

「玲菜!」

 俺が思わず玲菜に怒鳴ると、腕を組んで俺を睨んできた。

「可愛いウエイトレスさんにケーキを食べさせてもらおうとして、ニヤついてた男がアホじゃないなんて言わせないわよ」

 ぐうの音も出ないことを言われた。

「遊びは終わりにして、本番にしようじゃねえか」

 俺が恥ずかしさのあまり、思わず戦闘不能になりかけたが、炎の魔族の言葉でスイッチを切り替えた。

「そうだな。お前を倒せば魔王を倒して終わりって訳だな」

「俺を倒そうなんて甘いぜ」

 炎の魔族は駆けだした。玲菜に向かってパンチをするが、チャーシューシールドで受け止めた。香ばしい香りが生まれ、戦闘中にもかかわらず食欲がわいてきた。

「俺の炎に燃やせないものはない」

 そう言っているのは伊達じゃない。香ばしいなんて言っていられたのも一瞬で、次第に焦げ臭くなってきた。

 玲菜もラーメン鞭で対応しようとしていたが、片方の手で防がれていた。俺達もすぐにサポートに回る。

 俺はポテトソードで斬りつけたが、焦げたフライドポテトになってしまった。

 レイラは冷却モードで光線銃を撃ったが、凍らすどころか光線自体が溶けてしまった。

「俺の強さは攻撃を防がなくても、何でも燃やしてしまうんだよ」

 俺とレイラに振り返る。だが俺は諦める気など全くない。

「だからどうした?」

「何?」

 俺の言葉に眉を寄せて、険しい目つきで見つめてきた。

「どうやったら勝てるかなんて考えずに、まずは動き出す。これが俺の勝利の方程式だ!」

 俺はそう言ってビリーブを高めると、ポテトソードは一瞬で元に戻った。

 結局この炎の体に対抗する手段が見つからないと思ったら、負ける前から気持ちで負けてしまう。

 そうしたら勝つのは非常に困難になってしまう。だが頭で考えるよりも、まずは行動に移し、自分の勝利を信じて戦えば、最初は見つけられなかった何かを見つけられるかもしれない。

「面白い。やってやろうじゃねえか!」

 俺に向かってパンチとキックを連続で放ち続ける。俺もポテトソードに込めたビリーブをそのまま維持し、赤く輝く剣で切り裂いた。

 炎の腕に浅い傷ができる。

「何?」

 驚く炎の魔族だが、俺自身ビリーブで戦ってきた。これで何とかなるかわからないけど、これしか戦いようはないと思ってる。

 俺に続いて玲菜もラーメン鞭を金色に輝かせて攻撃をした。背中を叩きつけた攻撃は、炎を小さくさせた。

「何だと?」

「お前は何でも燃やすと言ったな。だがウチらの熱い気持ちの方が、お前よりももっと燃えてるってことよ」

 玲菜はさらに攻撃を続けた。火の玉を生み出し、玲菜との距離を置いたが、俺が玲菜の攻撃した背中に合わせるように、とどめと決めて攻撃をする。

「ビリーブクラッシュ」

「うぎゃああ」

 俺の攻撃で炎の魔族が白い光りに包まれてコインに変化した。



 俺達は先を急ぐと、もう一人魔族が現れた。明らかにドラゴンが人型になったような魔族だが、執事服を着ている。

「お待ちしていました」

 待っていたってことは、あの魔族達は捨て駒だったってことなのか?

「どういうことよ」

 玲菜が鋭い声で問いかけるが、ドラゴンの魔族は落ち着いた声音で答えた。

「全ては最初から決まっていました」

「決まっていた?」

 レイラが疑問の声を上げて問う。

「はい。みなさんが魔王様を倒すために何度も戦いをくぐり抜けてくることを」

「まさかお兄ちゃんが死ぬことも?」

 くい気味に質問を重ねる。

「それは決まっていませんでした。ただあのときのみなさんでしたら、乗り越えられる壁だと判断しました」

 落ち着き払った口調が、腹の底からムカムカさせてきた。

「お前がモンスターや魔族を送ってたってことか?」

「はい」

 俺の問いにそれだけ答えて、しばらくの沈黙が生まれた。

「あなた方に力を与え、強くなってもらい、魔王様に挑んでもらうのが魔王様の意思です」

 俺達は状況が飲み込めずに、誰も言葉をつむげなかった。

「では参りましょう。魔王様のお部屋へ」

 ドラゴンの魔族はゆっくりと歩き出した。俺達はついて行くが罠なんじゃないかと視線で会話する。そして玲菜が仕掛けた。

「あくまでも魔王様の意思は」

「強くなったみなさんを連れてくることです」

「ここで俺が殺しちゃ、俺の仕事にならないんだよ」

 歩くのと同じように静かなテンションで、玲菜の攻撃をかわすと、俺、玲菜、レイラの横に行き、耳元で囁いた。

 その素早い動きは全く見えずに、横に来た瞬間攻撃を決めようと思えば、確実に攻撃ができた。それをしなかったのは、本当にそういう命令をされ、魔王の所まで連れて行くのが仕事だからということだろう。

「どうやら罠を仕掛けてるとか考えたみたいですが、今のでそんなことする必要がないことはわかりましたよね?」

 同意を求められた。ノーと言いたいが、こいつの強さは横に来たときに肌で感じた。魔法を使わなくても、体から溢れ出る強さで、脳の奥底から恐怖を感じた。

 魔王と戦うっていうことは、こいつよりも強い奴と戦うっていうことだよな。

 俺は恐怖心を振り払うように、ポテトソードを握る手に力を込めて歩き続けた。

「こちらへ入ってください」

 大きな扉を開け、ドラゴンの魔族は深く頭を下げ、俺達を中に入れた。今までの魔王城の雰囲気とは違った。そこには恐ろしい雰囲気の中に、どこか優しさや正義のような思いも感じ取れた。

 野球場を思わせる大きな広さ。赤い絨毯の上を俺達は歩き続けた。シャンデリアがつるされていたが、その明かりは薄暗い。

 しばらく歩くといかにもRPGに出てきそうな男の勇者が倒れていた。

「おい。大丈夫か?」

 俺がうつぶせになっていた体を揺すって目を覚ますと、向こうを向いていた顔をこっちに向けて、上半身を起こした。

「春馬?」

「お兄ちゃん」

 玲菜とレイラが同時に驚きの声を上げた。

 異世界人のときに続き、勇者が向けた顔は俺と同じ顔だった。俺自身は驚きのあまり、声が出なかった。

「君達が魔王の言っていた別の世界の勇者か」

 苦しみながら確認する言葉は、傷だらけの顔を見ればわかる。相当辛い戦闘を繰り広げたのを。鎧もボロボロで、剥がれて鎧が落ち、腹部が剥き出しになり、出血が確認できた。

「ユーレ。治療魔法だ」

 叫ぶ俺に俯きながら首を振るユーレ。

「何でだよ。こいつ今にも死にそうじゃないか!」

 ユーレの肩をつかみ大声で説得する。辛そうな表情で俺を見上げ、涙を飛び散らす。

「できないの」

「えっ?」

 俺の疑問に答えるように、ユーレは続ける。

「僕は僕の意思で動けないの」

 言ってることの意味がわからない。魔法を使うための魔力が足りないとかじゃないことは理解できたが、泣くほど辛いことの意味がわからない。

「自分の意思で動けないわけないだろ。やろうと思う気持ちがあれば、何だってできるんだ」

「そういうんじゃないの」

 俺は的外れなことを言い、ユーレにもう一度首を振らせた。

 カツカツと足音がした。俺達は思わずそっちに顔を向けると、今度は女性の勇者が現れた。その顔は結菜と同じだった。

 だがどこか不気味な表情をにじませ、ニヤリと口元に笑みを作っていた。

「あんまり無茶なお願いはしちゃ困っちゃうでしょ」

 声は結菜とそっくりだったが、その口調は下品なジョークでも言ったように、嫌な気持ちにさせた。

「魔王様」

 後ろからドラゴンの魔族が、魔王の元に近づきひざまずいた。

「魔王様」

「よくやったわ」

 ドラゴンの魔族の横にいってひざまずいたのは、ユーレだった。

「どういうことだよ。ユーレ」

 俺の叫びに答えたのは、魔王と呼ばれた結菜の顔をした勇者だった。

「この娘は元々あたしの一部だったのよ」

 その言葉の意味がわからなかった。

「受け入れたくない現実っていうのはあるよね」

「ユーレ?」

 説明を求めてもこっちを向かない。何が何だかわからない状況のまま、俺は叫び続けた。

「何とか言ってくれよ。俺はお前を仲間だと思ってるんだから」

「いい加減状況を理解しなさい。裏切られたのよ」

 玲菜の冷たい言葉が、俺の心を突き刺した。

「それはちょっと違うよ」

 魔王と呼ばれた勇者が割って入った。優しい口調で、でも恐ろしさも感じさせる不思議な声音だった。

「元々仲間じゃなかったのよ」

「えっ?」

 俺は全身から力が抜けるのを感じた。

 信じていたのに、元から仲間じゃなかった?

「この娘はあたしの一部。あなたたちがここへ来るためにナビゲートするための存在として作ったのよ」

 あまりに衝撃的な言葉で、思考力が落ちた俺に変わって、玲菜が問う。

「あの魔族が言っていたように、ここへ連れてくるための存在ってことね」

「そうよ。あなた達に力を与え、ここへ連れてくるためのね」

「魔王が自殺願望を持ってるなんて、面白い冗談ね」

 玲菜の表情は決して笑っていない。

「あたしがしたいのは、人間の感情を手に入れることよ」

「どういうことよ?」

「あたしは悪しき気持ちの魔力の頂点を極めた。だけど人間達を見ていると、本来の持ってる力以上のパワーを発揮する勇者が現れたの」

「それがこいつらか」

 玲菜は親指を後ろへ向けて、上半身を起こしている勇者を指す。勇者は苦しそうな表情だが、未だ闘志の残る瞳で、玲菜の指を見つめていた。

「そう。だからあたしは人間の強さも手に入れたくなったの。魔王は最強の存在じゃなきゃいけないから」

「なるほど。それでウチやレイラのの世界に干渉したのはどういうこと?」

「偶然別の世界があることを知ったから、その世界も征服しなきゃと思っただけよ。そこで勇者兄妹と同じ顔の兄妹を見つけたと聞いて、勇者として育てることで、すごい力を身につけてここまで来ると思ったのよ」

 つまり俺達は魔王の掌で踊ってたってことか。

「それでウチがここに来たのは?」

 魔王はクスッと笑ってから、質問に答えた。

「君は完全に予想外だよ。本来だったら彼の妹に新しい力を与えて勇者にする予定だったんだけど、まさか魔力を奪い取って、意のままに操ることができる人間がいるなんて思わなかったからね」

 イレギュラーなことが起きているのに、とても嬉しそうに話している。

「だからもう一人は君でいいやと思ってね。彼よりも強いしね」

「当たり前でしょ。ウチはこの世で一番強くなるんだから」

「そういう気持ち好きだよ。感情を爆発させることによって、強さを飛躍的に向上させられるなんて、吸収したくてたまらなくなるね」

「吸収?」

「そう。この体はあの勇者の妹のものだよ。力の源だけで良かったんだけど、うまくいかなくて体ごと吸収しちゃったんだ」

「妹を返せ!」

 勇者はいきなり叫んだ。今までの苦しみが嘘のような大きな声で。そして横にある剣を投げ、玲菜の横を通り、妹の体の魔王に向かっていった。

「まだそんな元気があるんだね。君の心も吸収……、したいよ」

 魔王が喋っている最中に、左手に剣が刺さる。

「何故よけなかった?」

「何でよける必要ながあるの?」

「何だと?」

 驚く勇者。俺も、周りのみんなの表情からして、みんな驚いている。

「あたしは君達の心がほしいんだよ。大切な人を護るために強くなったり、信じる力で強くなる。それは魔族の王になったあたしですら、身につけていないパワーアップの方法だからね。最強になるためには必要なんだ」

 魔王が当然のように話しているが、剣が刺さったままの左手からは血がポタポタと垂れている。

「だからこの体はすぐに捨てるつもりだよ。人間の体って弱いんだもん。剣が刺さっただけで血が出るなんて、使い物にならないからね」

「クッ!」

 勇者はやり場のない怒りを地面に叩きつけた。

「ところでどんな気持ちなの? 自分の妹を攻撃するって?」

「ウォァーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 勇者は今まで体を起こすだけでもやっとの状態だったはずなのに、、立ち上がって走り出した。怒りにまかせて思いっきり殴りつける。

「痛いよ。お兄ちゃん」

 殴られて倒れた魔王は、結菜そっくりな顔で、勇者に涙をためて訴える。勇者は頭を抱えてしまった。

 これは俺自身も辛かった。結菜じゃないとはわかっているが、顔は結菜と同じだ。そして声も。そんな人が辛そうな表情を浮かべてるなんて、見ていられない。

「気は済んだ?」

 魔王は当たり前のように立ち上がり、苦悩している勇者に問いかける。

「殴りたかったらもっと殴っていいよ。その拳は妹の体を殴るってことだけどね」

 嫌な笑みを浮かべて、勇者がどう出るかを楽しそうに見ている。

「あんたは下がってなさい」

 玲菜が前に出て勇者に言う。

「頼む妹を助けてくれ」

「気持ちはわかるけど断る。この世界だけじゃなくて、他の世界の運命、みんなの命がかかってるのよ」

 玲菜はいつも以上に本気の目をしている。

「魔族って言うのは性格が悪いのは知ってたけど、魔王もとことん性格が悪いのね」

 ビリーブを高めて、玲菜は金色のオーラに包まれる。

「ほめてくれてありがとう」

 まるで可愛いねと言われたような笑顔を返す魔王。魔族の価値観では、そういう風にとらえるのか。

「次はあなたが戦ってくれるのね。実はあなたが予定外だったのに勇者になったから、本当に強いと思ってるの」

 魔王はやっと左手にささった剣を抜き、その場に捨てた。

「そのピンチにも負けない強い気持ち手に入れたいな」

 玲菜がラーメン鞭を振ると、魔王はサッとかわす。

「サポートします」

 玲菜が攻撃を仕掛けて、魔王がよけたところへレイラが光線銃を撃った。魔王は赤い光線を素手ではじいた。

「予想通り春馬は役立たずね」

 やっぱりバレてた。結菜じゃないとわかってる。ただ結菜の顔をした相手を攻撃するなんて、俺には無理だ。

 魔王はあまり攻撃を仕掛けずに、玲菜とレイラの攻撃をかわし、受け流していく。それがしばらく続く。

 それは明らかに魔王の余裕だった。この二人はどのくらい強いのか、圧倒的な力を持っている自信から、相手の力量を測ることを楽しみ、笑顔をにじませる。

 本当なら俺も戦いに参加すべきと思いつつも、戦えずにいた。自分の決断力のなさを感じ、不甲斐なさで惨めな気持ちになっていく。

「お前は俺と同じ顔をしてるな」

 勇者が俺の横に来て、そう呟いた。

「魔王の言葉を信じるなら、今の魔王、つまり俺の妹と同じ顔の妹がいるってことか?」

 鳥肌が立ち頷いていた。

「妹の顔をしてるっていうだけで、攻撃ができないもんな。さっきは怒りが爆発したけど、ちゃんと相手を見て戦おうとすると、妹を傷つける気がして、そんなことできないもんな」

 俺は救われた気持ちになった。玲菜には役立たずと言われ、自分でも魔王を倒しに来たのに、ただ立ち尽くしているだけの存在。いてもいなくても同じ。だったらいなくても良いんじゃないかと思ったら、自分の存在価値を見いだせなくなった。

 でも俺を理解してくれる勇者がいる。戦えない理由はかなり近い。

「でも戦わなきゃな」

「えっ?」

 俺は理解者が裏切るような言葉を言い、ショックを受けた。

「俺は勇者だ。もう妹は魔王に乗っ取られたと割り切り、なんとしても魔王を倒さなきゃな」

「どうしてそう思うんだ?」

「使命だからな。世界を護るのが、勇者の使命だもんな」

 俺はハッとした。この魔王を倒さない限り、平和はこないんだ。もう魔王に体を奪われた女勇者は、どうしようもない。

 玲菜とレイラが悲鳴ととともに、俺達の方に吹っ飛ばされてきた。かなり傷が増えたがまだ闘志を燃やしている。

「春馬はまだ決断できてないのね。魔王を倒すことを。ウチらの世界、レイラの世界、この勇者がいる世界を救うには魔王を倒さなきゃいけないのよ」

「でも勇者は人間だ。人間を殺すなんてできないよ」

 俺は迷いながら呟いた。

 だが魔王が俺達の方に向かう足を急に止めた。

「私の命はもうどうなってもいい。魔王を倒して」

 表情が険しい魔王から、人間味のある悲痛なものに変わり、一瞬だけ勇者の心が蘇った。

「ど、どういうことだ?」

 すぐに魔王の声に戻り、体を触り自分の思い通りに動くことを確認した。

 俺は迷いを振り切って、ポテトソードを強く握った。今の魔王なら隙だらけだ。俺はビリーブを高めて、ポテトソードを輝かず。

 気付くのが遅かったと魔王はハッとした表情を見せた。

「春馬ごめんね」

 俺が必殺技を使おうとして、ポテトソードを振り上げた瞬間、目の前に現れたのはユーレだった。

 驚きのあまり手を止めたが、ユーレは俺に向けて手から白い光りの波を放った。

「俺は……、やっぱり結菜と同じ顔の魔王とは戦えない」

 体中から脱力感が生まれ、心の底から生まれた闘志は吹き消された。

 やっぱり結菜の笑顔を思い出し、同じ顔の魔王は傷つけられないと思ってしまった。

「よし」

 魔王の横に行き、頭をなでてもらうユーレ。満足そうな中に、俺に対する申し訳なさそうな気持ちが垣間見れた。

「思い出した。あれのせいでウチが一度戦えなくなったのよ」

 たしかピッケルのときに、玲菜が戦闘意欲がなくなったときがあった。不思議に思っていたが、まさかユーレのせいだったのか。

「思い出しちゃった?」

「イタズラがバレたみたいな言い方しないでよ」

 玲奈の怒りは魔王に届かなかった。

「君のビリーブがすごく高いから、ユーレに闘志をなくす魔法をかけさせたんだ。普通ならこの魔法を使えばもう戦う意欲は出ないはずなんだけど、やっぱり君はすごいね。一人前の勇者として、ここまで来るんだから。試してみた甲斐があったよ」

 玲菜はビリーブを高めて、金色のオーラを身にまとう。

「魔王なんかにウチのビリーブを消せるわけないでしょ!」

「そう。その強い意思。本当にほしいな」

 魔王は宝物を見せてもらったように、玲菜の心、強さの秘密であるビリーブをほしがった。

「あげるわけないでしょ」

 玲菜が強く言い放つが、魔王は両手を前に出すと、玲菜が魔王に吸い寄せられていく。ただでさえ圧倒的な強さを誇る魔王を前に、傷だらけ玲菜は踏ん張っているものの、靴が床を滑り、少しずつ魔王に近づいてしまう。

「あとちょっとだね」

「春馬。あんたのビリーブはこの程度なの?」

「何?」

「こんな魔王に負ける程度のビリーブだったの?」

「俺のビリーブをなめるな!」

 再びポテトソードにビリーブを込めて、俺は走り出す。

「そんな。だったらもう一度」

 ユーレが俺の後ろからまた闘志をなくす魔法を放つ。

「そんなものもう効かないんだよ」

 俺はその魔法を受け止めながら叫んだ。かわす必要すら感じなかった。なぜなら俺のビリーブは今過去最高に高まっているから。魔王を倒すと心の底から信じ切っている今なら、こんな魔法、命中しても効力はない。

 俺は白い光りの波に飲み込まれた。心の底から熱い気持ちを感じていたが、闇の感情がその気持ちを静めようとした。魔王を倒すときに、結菜が苦しむイメージ。

 知るか。それは結菜じゃない。魔王だ。俺は魔王を倒して、本物の勇者になるんだ。

 俺の周りから白い光りが消え去った。俺を包み込んでいた赤いオーラはさらに強まり、ポテトソードも同様に赤く輝いていた。

「なんで!」

 驚く魔王。だけど俺からしたら、こんな魔法なんか、この程度のもんだぜ。

「くらえ!」

 俺が魔王に向かって駆け抜ける。魔王は玲菜に使っていた魔法を解除し、俺に対して攻撃をしていく。パンチではない。掌で俺に触ろうとしている。

「そのビリーブ。ほしくてたまんないよ」

 俺は魔王の手をよけて、攻撃するがかわされた。

「俺のビリーブも吸収しようってのか」

「もちろん」

「だけどこれは他人じゃ使えないもんなんだぜ」

「どういうこと?」

 何度も手を出してはかわし、俺の攻撃もかわされながら、会話をしていく。

「魔王を倒すって信じる気持ちは俺のもんだ。魔王が何を信じようが、俺よりも強い気持ちは持てない!」

「そんなはずはない。今まであたしは強い敵の力を吸収してきた。春馬の力も吸収して、さらに強くなってみせる」

「どうなってるの?」

「動きが見えない」

 俺はがむしゃらに魔王の手をかわして、攻撃を繰り出していたが、レイラと玲菜の呟きが聞こえた。

「春馬。いつの間にこんなに速く動けるようになったんだ」

 魔王の言葉を聞き確信した。

 俺はもう人間が視認できる速さを超えたようだ。

「こんな速さで動ける人間はいないはずだ。脳の命令と筋肉の反応速度を考えても、人間のレベルを超えている」

「教えてくれてありがとよ。俺は魔王を倒すために、人間のレベルを超えたみたいだな」

「そんなことできるわけがない!」

「できないなんて思ってる限り、何もできないんだよ。できると思って挑戦すれば、それはできるようになる」

 魔王にやっと攻撃が決まった。

「これがビリーブの力だ!」

 魔王は肩を上下させ、息を切らしている。

「とどめだ」

 俺はバーガーバズーカを構えた。魔王を倒すんだから、今までにないくらいにビリーブを込めなきゃと思った。

「春馬やめて」

 ユーレが後ろから抱きついてきた。俺は振り切ろうとしたが、ビリーブをチャージしてるときは、あまり体を動かせない。

「死ね」

「春馬ごめんね」

 俺の背中で大爆発が起きた。

「ウワッ!」

 俺はバーガーバズーカを離してしまい、チャージができなくなり、その場で倒れ込んだ。

 すぐに振り返って確認したが、そこにはユーレがいなかった。

「ユーレを爆発させたのか?」

「そうだよ。あたしの一部だから、自由に攻撃の道具にできるんだ」

 俺は怒りで睨む目に力が入った。

「中々やるね。勇者として育てた甲斐があるってもんだよ」

 背中に火傷をした感覚があるが、そんなもの気にしてられっか。

「君がいくら強くなっても、真後ろで大爆発が起きたんだ。生きていられるだけ、十分幸運だと思いな」

 俺はボロボロになりながら立ち上がる。

「うわ、無理しないで。もう負けを認めなよ」

「誰が負けを認めるかよ。俺は魔王を倒すんだ。それができるって信じてる」

「信じてもできないことがあるって気付きなよ」

「バーカ。それは信じてない奴の言葉だ。そんな言葉を使ってる限り、ビリーブのないお前が、俺のビリーブを使うことなんてできないんだよ」

 俺は赤く輝くポテトソードで、魔王を斬りつけた。

「そんな。あたしですら動きが見えなかったなんて」

 斬られた腹部を押さえて、苦し見ながら呟く魔王。

「よくもユーレを爆発させたな」

 俺はユーレを仲間だと信じてた。魔王の一部だとしてもだ。

 ユーレは爆発の瞬間俺に謝った。魔王の一部だったとしても、俺に申し訳ない気持ちがあったのは、間違いない。

 再び斬りつける。

「何でこんなに強くなったんだ」

「そんなのあったりまえだろ。ビリーブだぜ!」

「あたしは魔王よ。人間に負けてたまるか!」

 魔王は剣を出し、俺と剣で戦いだした。

「そうこなくっちゃな。人のパワーを吸収して強くなった気でいるんじゃねえよ」

 だが魔王と今の俺では、強さが違う。何とか俺の攻撃を防いでも、魔王に反撃するチャンスはなく、俺が攻撃していくと、数回に一回は決まっていく。攻撃が決まるたびに、魔王は苦しみ、防御に移行するタイミングが遅れ、次第に連続攻撃が決まっていく。

「どうだ!」

 さすがに俺も息を切らして、倒したかどうかわからないため、しばらく様子を見た。

 だが倒れた魔王は立ち上がり、女勇者の皮膚にヒビが入っていく。そして粉々になった皮膚はその場に落ち、その中にいたのは黒と紫の悪しき闇の光りだった。

「まさか魔王様がやられてしまうとは」



 後ろからする声は、執事服を着たドラゴンの魔族。カツカツと音を鳴らして、ゆっくりと近づいてきた。

「魔王はやられたぞ。お前も降参しろ」

 俺の勝ち誇った言葉に笑ってから、ドラゴンの魔族は口を開く。

「あれは俺の魔力で作ったものだ。魔王を演じさせていたんだよ」

「どういうことだ?」

 ドラゴンの魔族の言葉に驚き、訪ねるが状況はつかめない。

「つまり本当の魔王は俺ってことだ」

 その言葉を聞いた瞬間、俺は吹き飛んでいた。背中を壁にあて、さっきの爆発で受けた火傷もあるため、かなりのダメージだ。

 俺は戦う意思があるものの、立ち上がろうと思うのに体に力が入らない。

「俺は弱かった頃に、自分魔力で別の魔族を作る魔法を身につけてね。その魔族にいろんな敵のエネルギーを吸収させていったんだ」

 真の魔王は何故自分が部下を演じていたかを語り出した。

「こうすることによって、俺自身が傷つかずにあいつと、俺自身にエネルギーが吸収されていくんだ」

 なるほど。だから攻撃するよりも、吸収することにこだわってたのか。かなりの魔力を持っていても、こいつは本当の意味での、戦闘経験はないってことじゃないか。

 強い敵と戦い、苦しくても勝利を信じて戦う。

 それを繰り返していくことで、俺自身は強くなっていったんだ。

「それは自慢のつもりか」

 俺はあえて挑発をする。

 ほんのわずかだけど、休んだからか何とか立ち上がれるようにはなった。

「何?」

 眉をつり上げるドラゴンの魔族は、俺を睨みつけた。

「お前自体は全然戦ってないじゃねえかよ」

「フン。戦わなくても強くなった。今の一撃がその証拠だ」

「そうだな。全然見えないほどの速さだったぜ。強いのは認めるけど、そんな方法で身につけた強さは、認めないぜ!」

「何を言ってるんだ?」

 確かに矛盾してるように聞こえるだろうな。

「お前みたいに楽して得た力なんか、認めてたまるかって話しなんだよ」

 俺はクラスメイトを思い出す。行動する前に情報を調べ、失敗する可能性が高いからやめろと言い、俺が経験で理解したことを話すと、それよりもプロのこの人は違う意見を言っていたと話してくる。

 自分の方が上の立場にいるような言葉を言いつつも、実は何もしていない奴がいた。

 俺がアイドルになると言ったときも、女性アイドルグループに、男がいたらファンの男に嫉妬さっれるとか、音楽や体育で歌唱力と運動神経を見てるけど、歌はヘタだしダンスはできなそうだから、やめなと言われた。

 今の俺はうまくなったかはわかんないけど、俺はやると決めたんだ。自分の決めたことを信じて頑張らずに、どうするんだよ。

 俺は何もしないで、一人前みたいなこという奴にはなりたくない。最初はうまくいかなくても、経験を積み重ねていくことで、レベルアップしていくんだ。

 それが勇者ってもんだろ!

「俺はこの武装をする前から、モンスターと戦ってきたんだ。大切な人を護るため、街を護るために。傷だらけになっても、自分は勝てるって信じて戦ってきた。この気持ちはお前みたいな弱虫とは全然違うんだよ!」

 俺は叫び走り出す。

「なめるな!」

 ドラゴンの魔族も走り出す。

 だがさっきよりも動きが見えるようになった。俺の動きは遅くなっているものの、動きが見えればよけよられる。

「これでどうだ」

 拳に魔力を込め黒い光に包まれた右手が、俺の頬を殴ろうと迫る。しゃがみ込むと同時にポテトソードを突き出す。

「何?」

 魔王は胸に剣が刺さったが、蚊にさされた程度のようだった。

「俺はお前を倒すんだ!」

 ポテトソードにビリーブをさらに込めると、赤い光りが強まり、魔王は俺を蹴り飛ばした。

「何故こんなにもすぐに強くなるんだ?」

「お前を倒すって信じてるからだ」

 俺は睨みつけ、次の攻撃に備えて構える。次はもう普通の人間が走ってるスピードに見えた。これなら対応は簡単だ。

 左足で回し蹴り。肩を狙っているが、バク転と同時につま先で顎を蹴る。地面に着地と同時に、跳躍。魔王の前に行った瞬間、すぐにポテトソードを横に振る。

「効かん」

 魔力で腕をコーティングして、前腕で受け止める。だが左手で鼻をぶん殴る。さすがに素手じゃ皮膚の硬さをどうにもできなかったため、それがどうしたって顔をされた。

 だが今ので確信した。この勝負勝てることを。

「こうなったらお前のビリーブを吸収してやる」

 そう言って魔王がやったように、両手を前に出した。玲菜と同じように俺は引き寄せられていく。

「だったらこっちはこうだ」

 俺はバーガーバズーカを構える。ビリーブをチャージしながら、少しずつ引き寄せられていく。

「望むところだ。強いビリーブなら、強いビリーブなほど、俺のパワーにしてやる」

 俺がバーガーバズーカを放つと、発射された瞬間からどんどん大きくなっていき、トラックが突進するほどの大きさで、突っ込んでいった。

「さぁ俺のパワーになれ!」

 最初の数秒は押していったが、ハンバーガーが一口、二口と噛まれるように減っていく。次第にどんどん減っていき、あんなに大きかったのに、全部吸収されてしまった。

「何だと!」

「これで逆転だな」

「いいや。まだだ。もう一発撃ってやる」

「俺をさらに強くしてくれるのか」

「お前よりももっと強いビリーブを込めれば勝てる。俺はそう信じてる。奇跡は起きるんだぜ」

「俺の与えた力だ。俺を超えることはできない」

「バカは黙りなさい。奇跡は起きるんじゃなくて、ウチ達の力で起こすのよ」

 玲菜は俺の横に来て、金色のオーラをまとわせ、バーガーバズーカを一緒に持ってビリーブを込めた。

「あたしは大好きなお兄ちゃんをおもちゃみたいに殺した魔王を許せない。あたしの未来は、あたしの手で変えてみせる」

 レイラも俺の横に来て、ピンクのオーラをまとわせて、バーガーバズーカにビリーブを込める。

「妹をよくも殺してくれたな。俺も魔王を倒すって気持ちは誰にも負けないぜ」

 勇者も俺の隣に来て、白いオーラを輝かせて、バーガーバズーカにビリーブを込める。

「みんなのビリーブを一緒にぶち込むぞ」

 俺の言葉にみんなが頷き、バーガーバズーカをみんなで持つ。するとら粋は赤、玲菜は金、勇者は白、レイラはピンクのオーラを放ち、バーガーバズーカにビリーブをチャージしていく。

 するとメーターを振り切った。

 像が突進するようなハンバーガーが生まれる。赤、金、白、ピンクのオーラをまとったハンバーガーが、魔王に命中する。

「これも吸収して、俺はさらに強くなるんだ!」

「一人の力には限界がある。だけどみんなの力を合わせれば、もっと強くなれるんだ!」

 魔王は両手を出したが、カラフルな光りに包まれたハンバーガーを吸収できずに、バンズが上下に分かれ、肉に腹部を押され、バンズに上と下からはさまれた。赤、金、白、ピンクの光が、渦を巻きながら包み込んだ。

 俺達は固唾をのんで成り行きを見守る。

 カラフルな光が消えると、コインが転がっていた。

 俺達は喜び、みんなと抱き合った。

 ついに魔王を倒したんだ。



 勇者はこの世界の人間達を助け、街の復興をしていくと話した。

 俺と玲菜はレイラの世界に行き、みんなと再会する。レイラの世界は人口もかなり少なく復興させるのは困難だったが、これからどうするかは、みんなと話してから、決めると言っていた。

 俺達は再びローカルアイドルの日々が始まった。まずはコラボの曲を作ってもらい、ダンスを考えて、練習をしなきゃいけない。ライバルだった二つのグループが仲間になり、毎日のように会う。

 俺は辛いことがあったけど、これはこれで良い経験だと思った。ふと疑問に思い休憩中に、ダンスルームから出て、玲菜に尋ねる。

「何でアイドルになったんだ。玲菜の趣味じゃないだろ?」

 俺の問いに玲菜は迷った様子を見せた。

「無理矢理訊くつもりはないよ。嫌だったら答えなくて良いから」

「嫌っていうわけじゃなくて、心の準備をしなきゃって思って」

 玲菜は軽く深呼吸をしてから、スポーツドリンクを飲んで、タオルで汗を拭く。俺に真剣な眼差しを向け、口を開いた。

「子供の頃に春馬がウチを可愛いって言ってくれたの覚えてる?」

 俺は記憶をたどると、何となく言った気がして頷いた。

「それがきっかけで、バカにされて春馬がいじめられるようになって。男っぽいウチを可愛いって言ってくれて、嬉しかったけど、春馬と距離を置かなきゃと思って」

 そういえば小学生のある日を境にいじめられた。きっかけなんて忘れていたけど、そんなこともあったと思い出した。

「春馬がアイドルをやるっていうから、ウチもアイドルになろうって思って」

 意外な言葉に目を丸くした。

「そうすれば自然に交流できると思って。でも仲良くしたらまた春馬がいじめられるかもしれないから、違うグループが良いと思ったのよ」

 高校生だから、もういじめられても俺は対応できるくらいには成長してる。自分を信じる力を身につけた。だから仮にいじめられても、やり返して負ける気はしない。もちろんバーガー武装はせずに。

 玲菜は続きをモジモジしながら呟いた。

「今でも可愛いと思ってくれてるかわかんないから、同じグループにいられないと思ったのよ」

「何? 小さくてよく聞こえないよ」

「今でも可愛いと思ってくれるかわかんないから、同じグループにいられないと思ったのよ」

 玲菜は大声で話した。その恥ずかしがる仕草が可愛くて、俺は玲菜の頭をなでた。

「今も可愛いよ。玲菜には玲菜の良いところがあるからね。俺はそれを知ってるから、知らない奴なんて気にすんな」

 微笑む俺に玲菜は顔を赤くして、何かを言おうとする。

「す、す」

 俺が疑問の表情を浮かべる。

「隙の多いダンスをしたら許さないんだからね」

 何故か急に怒られた。

 そこに結菜が来た。

「お兄ちゃん休憩中にいなくならないでよ」

 と言って結菜が俺に抱きついてきた。

「お兄ちゃんはあたしのなんだからね。」

 結菜は玲菜に向かっていったが、そもそも俺はものじゃないんだけど。

 結菜は帰ってきてから、俺にべったりになってきた。もう離れたくないと毎日のように言っている。

「さぁそろそろ練習再開だ」

 俺達はこれからも、ローカルアイドルとして頑張っていく。今はまだ小さな街のお店で頑張ってるけど、いつかは大きなステージで、ライブができるようになると信じてる。

 今度は信じる気持ちで、アイドルとしての夢を叶えてやる!

この作品は今回で終わりになります。

読んでくださった方々ありがとうございます。

自分を信じ、仲間を信じる話を書きたくてこの作品を書きました。

楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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