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第2章 輝くビリーブは闇も照らす

1


「春馬君。今日も癒やしてくれてありがとう」

 お店の前で美樹さんは僕に笑顔をで微笑んだ。

「俺はただお話ししただけですよ」

「それがいいんだよ」

「じゃあまた来てくださいね」

 美樹さんは手を振ってから歩き出した。俺も大きく手を振る。店に入ろうとしたら、たまたま隣のラーメン屋さんのアイドル玲奈もお客さんを見送っていた。

「何よ」

 刺々しい口調で俺を睨んできた。

「何となく見てただけだよ」

 玲奈はフンと鼻を鳴らしてお店に入ろうとしたが、その瞬間さっきのお客さんが走って戻ってきた。

「ゾンビだ。ゾンビが現れた」

 悲鳴も次から次へ聞こえてくる。俺は急いでバーガー武装をする。すぐにゾンビに襲われそうな美樹さんを見つけた。

「美樹さん!」

「春馬君」

 ポテトソードを出した俺は、ゾンビが美樹さんに近づく前に、腹を斬る。

「美樹さんお店に逃げて」

「うん」

 俺は今斬ったゾンビを見ると、一度斬って苦痛を訴えていたはずなのに、傷口がふさがっていき、気持ち悪いうめき声とともに、再び襲いかかってきた。

「面倒な敵だな」

 俺はとにかく攻撃をしていき、どんどんゾンビを倒していった。走りながら斬っていき何匹も攻撃したが、振り返ると斬ったゾンビの傷は、ふさがり再び俺に向かって攻撃をしてきた。

「春馬。今回はウチに任せて」

「任せてって、俺の攻撃ですら倒せないんだぜ」

 背後からの声に振り返ると、玲奈がこの前と同じようにおもちゃの剣を持ってきていた。俺自身ゾンビ相手にどう戦えばいいかわからないのに、玲奈が戦って勝てるようには思えない。

「相手はゾンビだ。玲奈がすごいのは認めるけど、攻撃しても傷がふさがって倒せないんだぞ」

 フンと鼻を鳴らした玲奈は俺に言い放つ。

「ウチは目の前に立ちふさがる者は誰だろうと倒す。戦わなきゃ負ける。だから戦う。それだけよ」

 玲菜は走り出した。ここまでは予想ができたんだけど、次の瞬間予想外の展開になった。

「待って玲奈ちゃん」

 玲奈を追いかけてきたのは、玲奈と同じくラーメン屋さんのアイドルをやっている若葉だった。ポニーテールを揺らして、後ろから玲奈に抱きついた。

「やめてよ」

 若葉を振り払おうとする玲奈だけど、若葉はしっかり抱きついて離さない。

「玲奈ちゃんを危険なところへ行かせたくないの」

 それはわかるけど、あと数メートルのところにゾンビがいる。こんな場所で動きを封じるのは、それはそれで危険じゃないか。

「戦うのも危険だけど、ここで逃げるか逃げないかでもめてるのはもっと危険だぞ」

 俺は玲奈と若葉を護るように戦い方を変えた。だが数が多すぎる。動きが速いわけじゃないけど、対応しきれずに一匹が俺の横を通って、玲奈達の方へ向かう。

「若葉。今だけでいいから離して」

 玲奈が慌てるが、若葉は意地でも離さない。

「玲奈ちゃんは僕が護る」

 後ろからあかりがイスを持ってきて振り回した。

「ちびっ子が無理するな」

「ちびっ子って言わないでよ」

 あかりは隣のラーメン屋さんのアイドルスパークルのメンバーで、高校生だけど小学生並みの身長しかない。よくいじられてるけど、本人は気にしている。

 あかりが振り回したイスに、ゾンビは上半身を反らしてよけたが、次にイスが殴りかかってきたときに、ゾンビは叩き落とした。

「えっ?」

 地面を転がるイスを見て、驚きながら後ずさるあかり。

「無茶するなよ」

 俺は急いであかりを襲おうとするゾンビの背中を斬った。数秒程度の時間稼ぎにしかならないけど、傷が再生されるまでは動けないようだ。その間に俺は蹴っ飛ばした。数メートル先まで吹っ飛び距離ができて少しは安心だ。

「今のうちに逃げるんだ」

「うん」

 俺の言葉に頷いたあかりは、イスを拾って玲奈達のところへ行った。若葉から逃れようとする玲奈に、若葉はついに思いの丈を叫ぶ。

「玲奈ちゃんは何であたし達の言うことを聞いてくれないの?」

 その表情は悲しそうで、何とか若葉の腕をほどいた玲奈は決意に満ちた目を若葉に向ける。

「ウチは強くならなきゃいけないの!」

 俺はゾンビを倒しながら、今までの流れを見ていたが、お互いの気持ちは平行線だった。

「僕も戦うよ」

 俺は声の方に目をやると、ユーレが来ているのを確認した。

「どうやったらゾンビは倒せるんだ?」

 ユーレはハリセンに筆で悪霊退散と書いた。

「ゾンビは誰かが呪いの力で操ってるから、そいつを倒さなきゃなんともならないんだよ」

 ユーレはハリセンで近くにいるゾンビをぶん殴る。するとジュゥッと音がして、ゾンビは体が溶けるように消え、魂のようなものが空へ舞い上がる。

「戦い方があるじゃねえか」

「だから春馬には無理って意味だよ」

「フライドポテトに、悪霊退散なんて書いたら変でしょ」

「ハリセンに書いたって変だよ」

 俺は突っ込みを入れながら、前にいるゾンビを斬り裂いた。ゾンビは胸からお腹にかけて斜めに大きな傷を作ったが、すぐに再生されていく。ゾンビを蹴り上げ、遠くへ吹っ飛ばす。

 背後に迫る殺気を感じ、振り返りながらポテトソードで攻撃。上半身と下半身を真っ二つにしたが、落ちた上半身が脚を上っていき、腰の部分までくるとくっついていく。

 もうやだ。

「何でハリセンにはできて、剣にはできないんだよ」

「お坊さんがハリセン持ってるでしょ」

「持ってねえよ。お前の見たお坊さんはハゲの芸人じゃねえのかよ」

 ユーレは冗談なのか、マジボケなのかわからないことを言いながら、片っ端からゾンビを攻撃していく。除霊されていくゾンビを見て、俺はやりがいがなくなってきた。

「春馬。ほらあっち見て」

「ん?」

 ユーレの指さした方を見ると、玲奈が戦っていた。

「ハッ!」

 気合いのこもった一撃がゾンビの胸に叩き込まれた。しかし胸にあたったおもちゃの剣は、ほぼノーダメージのようだった。突き刺さることもなく、パンチのようにまっすぐあたったが、威力がないため振り払われてしまった。

 おもちゃの剣は玲奈の手を離れて遠くへ跳んでしまった。このままじゃ玲奈が危ない。俺が玲奈の方へ近づくと、玲奈は俺の方を向かずに怒鳴った。

「ウチの戦いに手を出さないで」

「そんなこといっても、武器も持ってないじゃないか」

 玲奈は素手で構える。ゾンビのパンチをかがんでかわし、そのまま進んでゾンビの懐に潜り込んで、拳を叩き込んだ。

 格闘技でもしているのかと思うほど、華麗な身のこなしでパンチを決めたが、玲奈の力じゃやはり全く効いていない。

「キャア」

 ゾンビが殴ると玲奈が吹っ飛んだ。予想通りとはいえ俺は玲奈が壁にあたらないように受け止めた。

「ありがとう。でもこれ以上は助けなくていいから」

 俺は玲奈を信じると決めている。だからこれ以上は無茶かもしれないけど、玲奈が一人で戦うというなら、俺はそれを尊重したい。

 玲奈は俺が自分より強いのを認められずに、ゾンビに攻撃し、効かずに殴られて倒れて再び立ち向かうのを繰り返す。

 俺がゾンビを倒していくと、ゾンビの目が赤く光り、俺はまた何かの魔法がかかると思った。すると俺は前が見えなくなってしまった。前が見えないといっても、これは目を見えなくさせる魔法じゃない。瞼を閉じさせる魔法のようだ。

 敵が見えずに迫ってくる気配を感じるのは恐怖感が強い。頬に汗が垂れるのを感じて、手の甲でぬぐう。

 耳を澄ますとゾンビ独特のうめき声が聞こえた。

「ヌゥァ」

 嘆くような小さい声だが、内緒話をしているような雰囲気はなく、この世に対する不満や怒り、悲しみや憎しみなど、あらゆる負の感情が、その小声の中から感じ取れた。

 聞いているだけで呪われそうな気分になっていく。

「うわーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 耐えきれずに叫んだ。

 俺は何かを思い出した。

 過去に文句を言われたことがあるような気がする。それは喧嘩などではなく、俺自身の生きていることを否定する言葉を浴びせられる辛辣なメッセージ。

 ハァハァハァハァ。

 何もされていない、ただ叫んだだけで息切れが起きた。

 なんなんだこの感覚は?

 落ち着くんだ。俺は俺を信じるんだ。ビリーブだぜ。

 自分にそう言い聞かせた瞬間、顔面を殴られた。強力というほどでもないけど、それなりにダメージは受ける。かといって俺にはゾンビは倒せないため、どうしようもない。

 しばらくすると目が見えるようになり、俺は攻撃を再開するが、こっちを向いていない相手に目を向けて戦うようにする。それしか方法がないし、それでも傷をつけ一定時間動きを止める程度しか、俺には力がない。

「こんにゃろ。こんにゃろ」

 俺が苦悩していると、少し離れたところから、ユーレがゾンビを倒しまくっていた。俺はふと思いつき、ユーレが倒したゾンビのコインを拾った。

「ゾンビ武装」

 すると俺はハンバーガーの鎧の上に、生臭い腐った肉のようなものを身につけた。もはやダサイを通り越している。こういうの嫌なんだけど。

 しかし俺は特殊魔法を使おうと念じると、ゾンビ達の目が閉じていく。見えないため動けずにいると、俺が苦労しても倒せなかった敵を、ユーレはアホみたいなテンションで倒していく。

「大量、大量」

 お前は漁師か。そんな突っ込みを入れる気分にもならない。ユーレに対して苛立ちが生まれた。

 ゾンビ達は半分くらいユーレにやられると、ワープゲートを生み出して逃げてしまう。

「待て。お前との決着はまだついていない」

 玲奈は逃げていくゾンビを睨みつけているが、追いかける余裕はなかった。立って悔しがるのが精一杯だった。

「大丈夫か?」

 俺の言葉に玲奈は反論する。

「春馬は戦う力を持っていた。なのに逃がすのか。ウチなら逃がさずに倒す」

 玲奈は俺に向かって責めてくる。いつものことだった。いつもなら俺は受け流すが、俺自身自分に対する苛立ちがあり、そんな気分のときに責められると、さすがに抑えられない気持ちがこみ上げてきた。

「なんだよそれ。俺だって一生懸命やってるのに。それでもうまくいかなかったんだ。そういうときは誰にでもあるだろ」

 フンと鼻を鳴らして俺に対して、獣のような瞳を向けた。

「一生懸命やってればいいのか? 取り返しがつかないことが起きてもいいのか?」

 玲奈はそう言って親指で指した方に視線を向けた。そこにはゾンビに襲われて倒れている子供がいた。

「俺のせいだって言うのかよ」

 俺がやったわけじゃない。やったのはゾンビだ。

「春馬のせいかどうかは、被害者が決めて文句があるなら否定すればいい。ただ春馬は自分のファンやウチらを最優先で護った」

「それの何が悪い?」

「良いか悪いかは自分で考えたらどうなんだ?」

「なんだよその言い方は!」

 思わず玲奈に向かって拳を上げたが、俺の右手は掴まれた。振り返ってその人を見ると、若葉だった。

「今のは玲奈ちゃんが悪いです。ごめんなさい」

 俺は握っられた拳を力なく下ろし、若葉は申し訳なさそうに謝る。

 若葉は大人だ。自分が悪いわけじゃなくても、自分の仲間がしたことで謝ることに躊躇がなかった。

「玲奈ちゃん。大丈夫?」

「なめるな!」

「なめるな、なんて言わないでよ。あたし達はアイドルなんだよ。怪我をしたらどうするのよ。もうすぐライブなのよ」

 若葉が言ってることは一般論から見て正しい。ただ玲奈はそんな一般論を考慮せずに、自分自身の考えで突き進む。

「ウチは強くなりたい」

 玲奈の願いは強くなることだった。

「強くなりたいの?」

 気が付くと玲奈の隣には美少女がいた。小六くらいの身長で、ツインテール、黒のワンピースを着ている。

「お姉ちゃんはモンスターと戦う力がほしいの?」

「あなた誰?」

 若葉は疑問の表情で訪ねた。確かにほんの数秒前まではそこに誰もいなかった。近づく気配も感じなかった。若葉の気持ちはわかる。

「あたしの名前はアーク」

 俺はその娘の表情を見て何か違和感を感じた。笑顔なんだけど楽しそうじゃないというか、作り笑顔の雰囲気だけでなく、ユーレと同様に異世界から来た娘なんだろうけど、何か違和感を感じる。

「勇者の力を与える人を探してたの」

「僕以外にもそんな娘いたんだね。ただ玲奈は勇者にふさわしくないからやめときな」

 その言葉を聞いたユーレは持論を言うが、それを言っちゃ玲奈は黙っていられない。

「自分の見解だけが正しいと思っちゃダメよ。ウチを正しく評価してくれる人はいるってことを受け入れて」

 ユーレはつまらなそうな顔をして、俺に手を振った。

「バイバイ」

「あたしも次にモンスターが出たときにまた会いに来るね」

 アークと名乗った少女も手を振って消えてしまった。ユーレとも違う雰囲気を放ち、何か違和感を感じていると、若葉が玲奈に思いの丈を話す。

「あの娘は普通じゃないと思うから、近づかないで」

「戦う力をくれるのよ。普通なわけがないじゃない」

 玲奈の言葉は確かに正しい。反論できない若葉だが、俺も同じ何かを感じ取っている。しかしそれは感覚的に危険な気がするだけで、言葉にするのが非常に難しい。

 若葉は歯がゆい表情で、玲奈の横をとぼとぼと歩いて行く。



 玲奈達スパークルの初ライブは無事に成功したが、玲奈は遅れてライブを始めたことに苛立っていた。

 玲奈達のスパークルは俺達ピュアビリーブに遅れてライブをした。ミスもなく成功したが、玲奈はピュアビリーブに遅れたことが悔しかった。

 俺はライブを見に来ていたが、メンバーを見るときの視線が痛い。ステージ上では笑顔が基本なのに、睨みつけるような目だった。

 可愛いというよりも美人な玲奈だが、アイドルとしての魅力はなかった。玲奈は他のメンバーが、ダンスや歌をマスターするのが遅くてピュアビリーブに遅れたことを話すが、このまま追い抜くと宣言した。

 お客さんの中にはこの数店舗のアイドルを応援してる人もいる。宣言する格好良さよりも、思っていることを全て喋らないマナーを身につけるべきだと思った。

 お客さんのざわつきもいくつかある。スパークルだけを応援している人は、手を叩いて応援の言葉をかけているけど、それはかなり少数だった。

 何人かの表情を見ると、複雑な顔になっていた。あえて対決姿勢になってガチバトルな感じが好きな人もいるみたいだけど、仲良くやってほしい人は困っている。

 若葉は苦笑しつつもどうすべきか思考を巡らしているようだった。目標を掲げるのは悪くないし、一番になりたいっていうのも正直な気持ちとして良いと思うけど、それをみんなの前で言うのはってことだと思う。この前思ったんだけど、若葉は俺と思考が近い気がする。

 あかりはというと、目をギュッとつぶりプレッシャーに押しつぶされそうな表情をしていた。あかりは玲奈に対して憧れを抱いてる印象がある。ただ才能というよりも、コツをつかむ要領の良さが違う。あかりは前にクラスが同じになったことがあるんだけど、同じことをするにもみんなより遅いタイプ。そういう人間が早くできる人間に憧れるのはわかるけど、玲奈の場合は優しく教えるようには思えない。あかりの表情がそれを物語っている。

 玲奈は強いリーダシップで引っ張ていくタイプだが、それがうまく機能していなかった。というよりも、玲奈はこのグループを引っ張っているわけじゃないのかもしれない。若葉とあかりが必死について行く。そんな雰囲気に思えた。

 個人的にはライバルだから頑張らないで、とは思わない。むしろ各店舗のアイドルが、人気になってほしい。俺達は各店舗の売り上げアップが目的だけど、一店舗だけでなく全部が人気になっていけば、みんなでイベントをして、さらに盛り上がると思う。まだ最初の一歩だ。



 俺がお店に戻ると結菜とひなたがどうだったか聞いてきた。

「スパークルもライブに成功したよ」

 喜ぶ二人だったけど、結菜はめざとく俺の曇った顔から何かを感じ取った。

「何かあったの?」

「玲菜なんだけどね。ああいう性格だから引っ張っていくタイプだと思うんだけど、若葉とあかりが必死についていってる気がして」

「玲菜ってぞこに自分しかいないような感じがするよね」

 ひなたの言葉に疑問を感じた。

「自分しかいないってどういうこと?」

 少し考えてからひなたはゆっくりと説明する。

「周りにいる人の言葉を聞いてないっていうか。会話はしてても、相手の気持ちと繋がろうとしてないと思う」

「あたしはお兄ちゃんといつも繋がっていたいよ」

 結菜は俺の右手を両手で包み込むように握ってきた。思わずドキッとしたが、結菜の顔を見ると何故か赤くなっている。

「どうしたんだ結菜。兄貴なんだから妹のことはいつも見守るに決まってるだろ」

 俺の言葉に結菜は頬を膨らました。

「もう。そういうんじゃないの」

「ど、どうしたんだ?」

「うちにも気持ちが伝わってないのはいたね」

 ひなたが笑うが、言ってることがよくわからなかった。

「おう。笑わないでよ。お兄ちゃんのせいだからね」

 お、俺は何で怒られたんだ?



 翌日の夕方再びゾンビが現れた。俺がそれに気付いて店を出ると、隣のお店では入り口でもめている声が聞こえてきた。

「あたし達はアイドルよ。警察や自衛隊じゃないのに、何であたし達が戦うの?」

 若葉の考えは正しいと思う。俺も同じ考えだ。だが玲奈は違う考え方をしているため、若葉の心配する気持ちは心に響かなかった。

「だから若葉達は戦わなくていい。これはウチの個人的な戦いだから」

「アイドルなんだから、可愛く営業をして、ステージで一生懸命歌えば良いじゃない」

 若葉の後ろからあかりも訴える。

 だが玲奈は首を振る。その目には闘志が宿っており、ちょっとやそっとじゃ気持ちが変えられない強さを感じた。

「ウチはアイドルの前に、新沼玲奈だから。もう二度と後悔はしたくないの」

 二人の制止を振り切って走り出す。玲奈には何かあるとは思いつつも、性格を考えて訊いても答えてくれないと思った。

 玲奈はゾンビを殴り、蹴るが、玲奈の力では歯が立たない。勢いをつけて蹴っても倒れない。ゾンビは死の世界へ引きずり込むようなうめき声をもらし、玲奈は頭を抱えた。

 俺はバーガー武装してゾンビ達を攻撃していく。俺の攻撃も効かない。スープマグナムでも、再生されてしまい、数秒で元通りになって攻撃を仕掛けてくる。

 俺自身玲奈に言われた言葉が胸に響いている。

 戦う力があるのに逃がしているのは、俺自身の弱さといったら否定できない。昨日はカッとなって反論したが、実際に有効な攻撃ができないため、対応に悩む。

 バーガーバズーカを使うかを考えた。バーガーバズーカなら効くと思うけど、精神エネルギーを使うため、あまり使わないようにユーレに言われている。

 ふと躊躇していることに気付いた。

 無意識に今日もゾンビを追い払って、また平和な明日が来ると、心のどこかで思っている。みんなが無事に明日を迎えられると考えていた。

 だけど目の前には襲われてる人達がいた。助けても数の多さと、倒せない状況のため対応しきれない。

 駆けつけた自衛隊の攻撃も俺と同様に、一時的に傷を作るにとどまっている。

 俺は何のために戦ってるんだ?

 みんなを護るためじゃなかったのか?

 俺の心が弱くなる?

 そんなわけない!

 俺の心はもっと強いんだ!

 俺は俺を信じる。ビリーブだぜ!

 俺は武器を全て出して、バーガーバズーカに変えた。数が多くて一発じゃすまない。でも何発だって撃ってやる。大切な人達を、みんなを護るために!

 俺に向かってくる大勢のゾンビ達。少なく見積もっても二十は超える。こいつらを倒しても同じくらいのゾンビ達が、何十組も人々を襲っている。だったらこいつらをぶっ倒してから、そいつらみんなをぶっ倒す。

 恐がるんじゃない。

 難しくも考えるな。

 最強武器でぶっ倒しまくっていくだけだ!

 俺はバーガーバズーカを構える。ゾンビ達の動きはそんなに速くはない。よけられる可能性は低い。精神エネルギーを充填していくと、昨日はわずかにしか感じなかった感覚がくる。

 俺の体中から金色の光りが生まれ、腕を伝ってバーガーバズーカに向かっていく。

 気合いといえば良いんだろうか。やる気のようなものが吸い取られていく感覚。三秒ほどで精神エネルギーのチャージが完了した。

「大丈夫。俺は俺を信じてるんだ。ありったけのビリーブを食らえ!」

 トリガーを引き、バーガーバズーカを放つと、巨大な燃えるハンバーガーがゾンビ達を燃やしていく。再生不可能なほどの焼却力で、体中を一瞬にして燃やし尽くした。一気に二十体以上いたゾンビ達を倒した。

「ビリーブだぜ!」

 ガッツポーズをしてから、俺は次のゾンビの群れに向かって走り出した。



「何でゾンビしか現れないんだろ?」

 ユーレの疑問に俺も不思議に思った。そういうときもあるといえば、そうかもしれないけど、今までニュースなどで見てきた情報によると、数種類のモンスターが攻めてくるのがよくあるパターンだ。

「とにかくこいつらをやっつけないとね」

 ユーレはこの前と同様に、ハリセンに筆で何かを書いて、ゾンビに向かっていった。ゾンビ達はこの前のこともあって警戒していたのか、ユーレを囲った。

「ユーレ」

 俺はバーガーバズーカを構えてユーレを助けようと思ったが、余裕のあるユーレの声が聞こえて、俺は一旦様子を見ることにした。

「僕を倒すならもっと必要だよ」

 一斉に襲いかかるゾンビ達だったが、ユーレは必殺技を使った。

「ハリセン駒アタック」

 ユーレはハリセンを横に構えて高速回転して、ゾンビ達に襲いかかった。あまりの速さにゾンビ達は対応できずに、囲ったのが裏目に出た。ユーレの攻撃をよけようにもよけられずに、一斉に攻撃を受けていく。

「ざっとこんなもんかな」

 ユーレが振り返ったときには、すでに大量の白い湯気のようなものが、空に向かっている頃だった。

「ふぅ」

 ユーレはフラフラして、尻餅をついた。

「この必殺技は強力だけど、目が回ってしばらく動けなくなるのが大変なんだよなぁ」

「だったらそんな技使うなよ」



 次に見つけたゾンビの群れは、玲奈にうめき声を上げて、苦しめさせていた。だが俺のバーガー武装には、その呪いのような攻撃は全く効かなかった。

 俺がバーガーバズーカを構えると、玲奈が俺を睨みつけてきた。

「こ、こいつらは、ウチが倒すんだからね」

 明らかに苦痛の表情が浮かんでいる。呪いのような声が聞こえるが、きっとそれ自体にパワーを奪う効果があるのかもしれない。

 苦しみながらも玲奈は、ゾンビ達に向かって一歩踏み出した。その瞳に宿ったビリーブは、辛そうな表情の中でも輝きを増し、奇跡を起こせるように思わせた。

「ウチは春馬よりも強いんだからね。た、助けてほしくないんだからね」

 俺は玲奈のおでこをツンとつく。

「もう野暮なこと言って止めねえよ。玲奈のビリーブを見せてくれよ!」

 俺の言葉に玲奈はフッと笑って、ゾンビに向かって駆けだした。俺はもう確信としかいえない気持ちを感していた。玲奈は何かを起こす。俺に負けないビリーブを持っている玲奈なら、ゾンビなんて倒してみせる。そんな気がしてならない。

「ハッ!」

 ゾンビを蹴り倒す。体力が落ちているはずなのに、不思議とさっきよりも力がみなぎっているように見えた。

 後ろから殴りかかるゾンビの気配を感じとり、しゃがんで下段回し蹴り。太ももに命中して倒れたゾンビは、隣のゾンビも巻き込む。どんだけ強いキックなんだと思っていたら、立ち上がると同時に、迫り来るパンチ。だが左手でつかみ、脇の下にはさんだ。左肘をゾンビの顔面に向けて叩きつけた。後ろへ倒れ込んだゾンビは、その後ろにいたゾンビ達を一歩下がらせた。

「ハァハァ。ウチは春馬に負けない。もっと強いんだからね」

 確かに俺みたいに特別な力のない玲奈が、こんなにゾンビ達を倒していくのは並大抵の強さじゃない。

 力で倒してるわけじゃない。今までよりもビリーブが高まって、攻撃力が上がってるんだ。

 しかし倒れていたゾンビ達は当然のように起き上がっていく。傷を回復させるよりもダメージは小さく、息の切れた玲奈は体力が減っていく一方に思えた。

 だがまだ希望に満ちた目が、ビリーブによって闘志を燃やし続けていた。

「やっぱりお姉ちゃんすごいね」

 気が付くとこの前アークと名乗った少女が玲奈の横に現れた。その独特の雰囲気に嫌な予感はするものの、俺は玲奈を信じる気持ちでいっぱいだ。きっと何があっても大丈夫。

「お姉ちゃんなら勇者にふさわしいね。勇者の力を与えるね」

 アークは手に力を込めると、黒い光の玉を作り出した。その光りの玉からは強力な風が吹き、俺はもちろん、アークの隣にいる玲奈は足に力を入れ、吹き飛ばされないように踏ん張った。

 その光りの玉はコインに形を変え、アークはそのコインを玲奈の前に出す。

「ダメー!」

 玲奈がコインを受け取ろうとした瞬間、若葉が走ってきてそのコインを奪い取った。

「何をするのよ!」

「危険な感じがするの」

 コインを握りしめた若葉は、言葉にならない感覚を必死に訴える。だが戦う力がほしい玲奈には、若葉の心配する気持ちが伝わらなかった。

「危険か。確かにそうかもね」

 俯きながら若葉の方へ一歩近づく玲奈。

「だけど危険なことを恐れてちゃ、強くなんてなれないのよ!」

 玲奈は若葉の前に手を出して、返せと要求している。若葉は玲奈の気持ちに気圧されて、思わず一歩下がる。

 玲奈も一歩さらに踏み出し、距離は戻った。玲奈自身は奪い取る気はないようだ。奪い取らなきゃいけないくらいに、若葉の方が切羽詰まっているのか。

「この娘は何となく危ないの。玲奈ちゃんが戦うのは嫌だけど、それ以上にこの娘を信じられないの」

「アークが信じられないならそれはそれでいい。だったらウチを信じて」

「えっ?」

 玲菜の言葉にどうするべきか迷う若葉。

「若葉が信じられない人間を信じないのは構わない。でもウチを信用できるなら、そのコインをウチに渡して?」

 淡々と語る玲奈の口調から、冷静さを感じる。玲奈は若葉を信じているんだ。だからいつもみたいにカッとならずに、ゆっくりとした口調で話せるんだ。

 迷いながらも若葉は、握りしめたコインを玲奈に渡した。

「ありがとう若葉。ウチは何があっても若葉を護るよ」

 玲奈は若葉を抱きしめた。

 ゾンビが攻めてこないと思ったら、あかりがお店からイスを持ってきて玲奈の周りにいるゾンビに向けて振り回していた。

「玲奈ちゃんが戦うって言うなら、あたしも戦うよ。だから一人で行かないで。みんなでスパークルなんだから」

 玲奈は若葉とあかりの行動に、嬉しさが溢れた。

「二人とも信じて。もう一人で突っ走らない。だけどウチには力が必要なの。それと同じくらい二人が大切だよ」

 若葉は嬉し涙を流し、あかりは喜んだ拍子にイスを落としてしまった。足にイスがあたって、つま先を押さえながら、ピョンピョン跳ねて痛がるあかり。

「じゃあそのコインを持って、ラーメン武装って言って」

「ラーメン武装」

 玲奈はアークに言われるままに、そう言うと玲奈から金色に輝くオーラがアークに向かっていった。

 アークは美少女から人の形の陰に変化した。シルエットは人の形だけど、縁はギザギザになっていて、その負の感情がそばにいるだけでヒシヒシと伝わってくる。人に対して恨んだりねたんだりしたときに感じる、心を覆い尽くす独特の気持ち。

 俺はビリーブを高めて、その負の感情に対抗した。

「ハッハッハ。まんまと引っかかってくれたな。そこの精少女がやったみたいにすれば、精神エネルギーの強い人間から、効率よく精神エネルギーを吸収できると思ったら、こんなにも簡単にできるとはな」

 その敵はゴースト。人間の精神エネルギーを吸収して生きている。玲奈の体は金色に輝くオーラを生み出し、それが深い闇の色に変わってゴーストへ吸収されていく。ゴーストがその陰でできた体を肥大化させていくのと反比例に、玲奈はうずくまり体力の消耗が激しい。どんどん精神エネルギーを奪われている。

 この精神エネルギーの正体は、ビリーブだ。ビリーブを闇の力に変換して吸い取るなんて許せない。ビリーブは真逆の力なのに。

 俺はなんとしても止めなきゃと思い、ポテトソードでゴーストを切り裂いた。しかし手応えが全くない。

「どういうことだ?」

 俺の疑問に本人が教えてくれた。

「俺には実態がない。普通の攻撃は効かないぜ」

 ハッハッハとむかつく笑い声を上げる。だったら奥の手だ。

 俺がバーガーバズーカを構えると、ゴーストは焦りの表情を浮かべた。

「そこの男を一斉攻撃しろ。この少女の力をひからびるまで奪うからな。それまで邪魔されちゃ困る」

 俺は助けに行きたいが、ゾンビの数が多く、しかも今まで以上に積極的な攻撃をするため、襲いかかる攻撃を防ぎ、隙を突いてポテトソードで反撃するので精一杯だった。バーガーバズーカを撃つ余裕がない。

 俺はさらに異変に気付いた。玲奈だけじゃない。若葉とあかりも膝を地面につけて苦しそうにしている。玲奈みたいなすごい量の輝くオーラを出しているわけじゃないけど、それでもわずかにオーラが闇色に変わって、ゴーストの体に向かっていく。

「玲奈ちゃんのために……」

 若葉はそれでも何とか立ち上がり、ゆっくりと歩いて、あかりが持ってきたイスを弱々しく持ち上げて、ゴーストに向かって投げる。

 そのイスはゴーストの体をすり抜けて、アスファルトの上を転がった。

「ハァハァ。玲奈ちゃん。今度はあたしが護りたかったのに、護れなくてごめんね」

 倒れる寸前そう言い残して、若葉は力尽きて倒れた。右側から倒れたがその後、仰向けになった。

「若葉ー!」

 玲奈が叫んだ。今まで辛そうにしていたのが嘘のように、ゴーストを睨みつけ立ち上がる。すると玲奈から出るオーラの量が跳ね上がった。

「何?」

 驚くゴーストだが、玲奈はゆっくりと歩き、静かに話す。

「ウチの大切な仲間をよくも……」

 いつもの玲奈のガンガンいくような声ではなく、心の底からわき起こる怒りを抑えつつ、それでも止められない深い怒りを、何とか制御しようとしている。

 これが玲奈のビリーブ。強さの正体。輝くオーラはどんどん闇に変わってゴーストに吸収されている。だが玲奈は自然に動き、倒れた若葉の元へ行く。

「大丈夫?」

 体を起こしながら声をかけると、若葉は意識を取り戻した。

「ごめんね。今度はあたしが玲奈ちゃんを助けようと思ってたのに」

「気にしないで。ウチが若葉を護る。信じて」

 若葉は状況的に玲奈がゴーストを倒せるなんて思えない。いや、ゴーストに精神エネルギーを奪われてるため、もはや最悪のシナリオしか考えられない。信じる力がなくなってきている。

「あたしのせいだよね。強さにこだわりだしたのは」

「若葉。それは言わないで」

 俺はゾンビの攻撃を防ぎながら若葉の方に向く。玲奈が止めるその言葉を聞きたい。

「どういうこと?」

 俺は普段なら人が効かないでと言ったら聞かないんだけど、それでも興味がわき若葉に質問を投げかけた。

「小学生の頃いじめに遭ってたの。いつも泣いてたけど、玲奈ちゃんは慰めてくれて、いじめた娘にやり返しに行って、返り討ちに遭ったの」

 玲奈の性格もあるだろうけど、何か理由があると思っていた。玲奈らしい理由で強さを求めるようになったんだな。

「そんな弱い過去は捨てた。ウチは強い。ウチは強いんだから」

「もうそんなに強がらないで。玲奈ちゃんは元々優しい娘だったんだから。強くなろうとするのも、あたしや周りの娘を護るためでしょ?」

「自分自身を護れないようじゃ、一人前じゃないでしょ」

 ゴーストは面白がって笑い、若葉に黒い光線の鞭で攻撃をして、玲奈の怒りを上げ、さらに精神エネルギーを吸収する気だ。

「キャッ!」

「思った通りこの娘を攻撃したら、精神エネルギーがふくれあがった。底なしの精神エネルギーを吸い尽くしてやる」

 ゴーストがわざと玲奈の怒りを買う。申し訳なさそうに謝る若葉。

「ごめんね。また足手まといになって」

「仲間は補い合ってみんなで成長していくんだよ。ウチの苦手なことをいつもフォローしてくれてありがとう」

 玲奈は若葉に得微笑むと、振り返ってゴーストを睨みつけた。闇色に光る鞭が再び若葉に迫ったが、玲奈が鞭をつかんだ。

 俺は玲奈のビリーブをビンビン感じる。玲菜以外の人間なら触っただけで強烈な痛みに襲われるはずだ。だけど今の玲菜はビリーブを高めて、ゴーストに対抗している。

 俺が助けなくても大丈夫だ。むしろ玲奈にはこういう言葉を投げかけた方が良いんだろうなと思って、玲菜のやる気を上げる。

「玲奈。俺よりも強いって言った玲奈を信じるぜ」

 鞭をつかんで引っ張る玲奈は、苦しさの中に余裕の表情を見せた。

「いつも言ってるでしょ。ウチは春馬よりも強いって」

 玲奈は苦しむが、俺はその勇気を見て確信した。

「若葉。玲奈は本当に強い。だから玲奈がゴーストを倒すところを一緒に見ようぜ」

 ゾンビの数が多く、ゴーストの方にいけない俺は叫ぶ。

「当たり前でしょ。ウチは春馬よりも強いのよ。今からそれを証明するんだから!」

 力強く叫ぶと、ゴーストへ向かっていたオーラが、逆にゴーストから玲奈へ向かっていく。驚くゴーストはうろたえる。

「吸収した精神エネルギーが奪われるだと!」

 ゴーストはさらに鞭を出して、玲奈に攻撃したが、玲奈は鞭を手ではじいた。

「もう若葉を傷つけさせない。若葉だけじゃない。ウチの大切な人は、みんなウチが護る」

 宣言すると玲奈は、黄金のオーラーを輝かせ、見えないほどの眩しさを放った。そのオーラは空まで伸びていき、しばらくして落ち着くと、玲菜を確認できるようになっていた。

 オーラをコントロールして、金色の光りに包まれている。そこに立っていたのは、ラーメン武装をした玲菜だった。胸からお腹さらに背中にかけて、麵が覆っていて、肩にはチャーシュー、脚にはメンマが装備されている。

「ウチの怒りを受けなさい」

 玲奈の言葉でゴーストはのけぞってしまう。それだけの気迫があり、ビリーブをビンビン感じる。

「ラーメン鞭」

 縮れ麺のような鞭が現れ、玲奈はそれを使ってゴーストを攻撃する。俺の攻撃は効かなかったが、玲奈のラーメン鞭はゴーストにあたり、悲痛な叫びを上げさせた。

「そうか。俺からエネルギーを取り戻したから、霊力のある攻撃ができるのか!」

 ゴーストは苦しみながら、自分に攻撃が聞いてる理由を分析する。だが瞬時に対応策までは浮かばず、そこで言葉が途切れた。

 玲奈の怒りはまだ治まらない。ラーメン鞭で連続攻撃していき、ゴーストもモンスターとして戦う決意をした。

 戦えば攻撃を食らう当たり前の存在として、ゴーストは闇色に輝く光線を放ち、玲奈はラーメン鞭ではじき、よけながらゴーストに向かって疾走する。

 速い。俺と同様に、ラーメン武装した玲奈は、今までじゃ考えられないほどの動きを見せている。一度に何十本も放たれる闇の光線を、走りながら上半身を反らしたり、しゃがんだり、高く飛んでかわしたり。

 瞬間、瞬間でベストの動きを反射的に導き出して、それを実行する運動神経を身につけた。人間離れしたその身体能力は、ビリーブの高さを物語っている。

「来い。ゾンビ達。あの女を倒せ!」

 逆にゴーストは恐れから、明らかに格下のゾンビを呼び寄せ、玲奈に戦わせる。五匹一緒に向かって行ったゾンビは、玲奈のラーメン鞭で一つにグルグル巻きにされた。

「ハッ!」

 玲奈の一声により、ラーメン鞭にはビリーブ溢れるエネルギーが流れ、ゾンビ達は一瞬で金色の輝きに包まれ、コインになった。

「な、なんだと!」

 ゴーストは驚いたが、玲奈のビリーブを感じる俺には、これくらい当然のように思う。

 しかし後ろから襲いかかるゾンビが、玲奈の背中を殴ろうとしていた。

「チャーシューシールド」

 玲奈の声に反応して、チャーシューの形をした盾が現れ、振り返ると同時にゾンビのパンチを受け止め、さらにグッと力を入れ押し返すと、ゾンビは倒れてしまった。

「ナルト手裏剣」

 玲奈はザコには用はないといわんばかりの表情で、サッと振り返りナルト型の手裏剣を、ゴーストに向かって投げていた。

「グゥァ!」

 あまりの速さに対応できずに、よけれないゴースト。苦しんでいる暇はなく玲奈はすでに迫っていた。

「ハッ!」

 ラーメン鞭がゴーストに向かって炸裂した。

「これで終わりよ!」

 最後の一撃を決めようとした玲奈だが、ゴーストはゾンビの群れに行き、ゾンビに命中した。

「そっちの男は放っておけ。あの女をなんとしても倒せ!」

 指揮官としてはバカ丸出しの指示を出す。一斉に玲奈の方に向かってくるゾンビ達は、俺から離れていった。

「邪魔が多いわね」

「ゾンビは俺に任せろ。かわせよ玲奈!」

 玲奈に向かっているため、今ここにいるゾンビは一カ所に集まっていた。俺はバーガーバズーカを構えた。玲奈に負けないようにビリーブを高めて、精神エネルギーを注ぎ込む。玲奈に負けたくない気持ちが強く、一瞬でチャージが完了した。

「くらえ!」

 俺が放ったバーガーバズーカは、巨大な燃えるハンバーガーを生み出し、玲奈に向かっていくゾンビ達を、一匹残らずに蹴散らした。そのままの勢いで玲奈に向かっていくが、玲奈は前転しながら跳躍して、ゴーストの後ろに着地をする。

「な、何だと!」

「俺をなめやがって。俺だってお前を倒そうと思えば倒せるんだぜ!」

 状況を見ていたゴーストは、何もできないと思っていたようで驚いていたが、俺はもう一発バーガーバズーカをぶち込む姿勢を崩していない。そして俺に驚くあまり、玲奈が背後にいるのに気付いていないようだった。

「ハッ!」

 玲奈はラーメン鞭を振るい、ゴーストを攻撃する。苦しみながら振り返るゴーストは文句を叫ぶ。

「二人で、背後からの攻撃。ひ、卑怯な」

 大勢のゾンビに襲わせたり、玲奈の精神エネルギーを奪っておきながら、よくもそんなことを言えるな。

「これでとどめよ」

 玲奈がラーメン鞭で攻撃をしようとした瞬間、ゴーストは口元をニヤリとさせ、目を光らせた よける動作を全くしなかったゴーストは、次の瞬間苦しむどころか予想外の展開になった。

「うわー!」

 悲鳴を上げたのは玲奈の方だった。

「まさか特殊魔法か?」

「察しが良いな。あそこまで弱そうに演技するのも、中々難しいんだぜ」

「つまり攻撃を受けるタイミングを狙ってたのか?」

「そうだ。お前は他のモンスターとの戦いで、特殊魔法の存在に気付いている。だから最初から目を光らせてたら、警戒されちまうからな」

 確かにゴーストが目を光らせたら、俺は玲奈に攻撃しないように言っていた。

「俺にとどめを刺す気だったみたいだから、強力な攻撃を仕掛けたんだろ。どうだい? 自分の攻撃を受けた気分は?」

 なるほど。ゴーストの特殊魔法は攻撃した相手に、ダメージを与えるのか。そんなのまともに攻撃できないじゃねえか。

 ゴーストは嫌な笑みを浮かべ、勝利を確信した笑みを浮かべる。

「攻撃が効かずに、お前達自身のダメージになる。これでお前達の負けは決まりだな」

 だが俺はあることを思い出した。ゾンビのコインを拾い、ゾンビ武装をする。

「これを使えばお前の目はつぶるんだよ」

 俺はゴーストを睨み、ゴーストが目をつぶるように念じる。

「今だ玲奈攻撃しろ」

 玲奈が痛みに耐えながらも立ち上がるのを確認し、玲奈の攻撃をするように指示を出す。ゴーストの目はつぶった。

「今度こそこれで終わりよ」

 しかし玲奈の攻撃が放たれた瞬間、ゴーストは赤く目を光らせ、瞼を上げていた。

 玲奈は再び自分の攻撃を受けて倒れてしまう。玲菜の悲鳴を聞き、俺は状況が理解できずにいた。

「作戦失敗。残念だったな」

「どういうことだ?」

「俺が蘇らしたゾンビ達は、元々俺の力が源なんだ。だからゾンビの特殊魔法は、俺には効かないんだよ」

「チっ!」

 俺は思わず舌打ちをして、コインを投げ捨てた。

「諦めろ。お前達に勝ち目はない」

 ゴーストの言葉に辛そうに立ち上がる玲奈が反論した。

「お前はバカか。お前はウチにやられる。それは決定事項だ」

「ハーッハッハッハ。あまりの痛さで頭がおかしくなったのか?」

「フン。バカはお前の方だ。どっちが強いかまだわかっていないようだな」

 体力的にはボロボロの玲奈だが、自分の強さを信じている。特殊魔法がどうとか、残りの体力がわずかなんて考えていない。あのゴーストよりも自分の方が強い。その確信が玲奈の自信に繋がっている。

「だったらこれをよけてみろ!」

 ゴーストは闇の光線を放つ。かなりのダメージを受けている玲奈だが、高く跳んで一気にかわし、ゴーストの後ろへ回り込む。

「背中からの攻撃か。そうはいかないぜ!」

 それも読まれていたためすぐに振り返り、光る目を向けたまま再び光線を放たれた。

「だったら目をつぶって攻撃すれば良い」

 玲奈は闇雲に攻撃をしていくがあたらない。

 俺は常に目を光らせているゴーストにどうすればいいかを考えると、名案が浮かんだ。俺はゴーストに向かっていく。放たれる光線をかわしながら近づき、素手でゴーストの顔面を押さえて捕まえた。

 予想通りゾンビにポテトソードが傷をつける程度には効いたため、ゴーストの顔を押さえるのは可能だった。

「玲奈。ゴーストにとどめを刺せ」

 武装した状態ならゴーストに触れられると思い、俺は目を見せなくさせればいいと考えた。顔を押さえるだけなら、ダメージは受けない。もがくゴーストだが逃がしはしない。

「離せ!」

 俺は殴られ続けるが、意地でも離さない。腹に何発も拳がめり込み、そのたびにものすごい衝撃を感じるが、耐えてみせる。

 玲奈はフッと笑い、構えて攻撃態勢に入った。

「春馬も死ぬくらいの威力が出ても知らないからね」

「俺は大丈夫だ。自分の強さを信じてるからな。ありったけのビリーブをぶち込め!」

 俺の言葉を合図に、玲奈が地面を蹴る。

「ラーメンスパークルフィニッシュ」

 玲奈が技の名前を叫ぶと、ゴーストの焦りが強まった。だが絶対に離さない。

 ラーメン鞭が金色に輝き、チャーシュー、ナルト、メンマ、味付け卵などが生まれて、ゴーストに向かっていく。それぞれがゴーストの背中に命中してダメージを与え、最後に輝くラーメン鞭で叩きつける。麵がキラキラと輝き、聖なる光によってゴーストは浄化された。

「ウチは常に輝き続けるんだから。闇に飲み込まれたりなんかしないのよ」

 ゴーストは悲鳴をあげると、金色のオーラに包まれて、コインに変化した。

「ウチは何があっても目を開けて、困難を乗り越えるんだから。若葉やあかりに感じさせた悲しみは、これから優しさで返していくんだから」

 俺も奥歯をグッと噛み、耐え抜いた。

 かなりの強い攻撃だったが、あくまで狙いはゴーストだったので、俺には二次的に衝撃がきたような感覚。それにビリーブの高い攻撃だったため、俺もビリーブを高めたので、防ぐことができた。

「玲奈の攻撃効いたぜ」

 元の姿に戻った俺は、鼻をこすりながら玲奈の方へ歩いて行く。

「ウチの攻撃を食らって、大丈夫なんて春馬も少しはやるのね」

「調子のんなよ」

 俺は玲奈のおでこをツンとついた。すると玲奈は急に顔を赤らめた。

「もう少し素直になれよ」

「よ、余計なお世話よ。ウチにはウチの生き方があるんだから。余計な真似をしないで」

 俺も俺の生き方を貫く主義だから、余計なことはしない主義だ。だがピンチなら心配をする。それでも玲奈のビリーブを知った今は、信頼できる仲間になった。

「改めてよろしくな」

 玲奈は俺の差し出した手をはたいた。

「春馬は仲間じゃない。ライバルよ」

 玲奈のこういう強がった部分も嫌いじゃない。

 玲奈は若葉とあかりのところに行くと、二人を起こした。こっちが玲奈にとっての仲間だ。その優しい表情から、心配している気持ちが伝わってくる。

「心配かけたけど、ウチにはウチの信念があるから。スパークルとウチ個人は分けてるから。うまく言えないけど、ごめんね」

 精神エネルギーを奪われた若葉は、思考を巡らす余裕がなかった。でも元気なときでもきっと答えは変わらなかったと思う。今回の件で玲奈の気持ちがわかったから。

「うん。玲奈ちゃんが無事だったから、今はそれで良いよ」

 あかりは精神エネルギー奪われたものの、まだ体力に余裕があった。おそらく奪われた精神エネルギーが、若葉に比べて少なかったのかもしれない。

「イス戻さなきゃね」

 辛そうな若葉に対して、意識を取り戻したあかりは、スッと立ち上がりイスを持ち上げた。運ぶ様子を見ても、店内までちゃんと運べそうで、特に心配はないだろう。

「ウチは誰よりも輝きたいの。スパークルもそういうアイドルにしたいの。うまく言えなくてごめんね。二人ももっと輝けると思うから、歌とダンスをもっと頑張ってほしいの」

 玲奈に支えられてる若葉はそのまま抱きついた。

「あたしもっと頑張るね。スパークルを最高のアイドルにしようね」

 あかりもイスを置いて、駆けて二人の元へ行き抱きついた。

「あたしは歌もダンスもヘタだけど、玲奈ちゃんと一緒のグループになれて良かったよ」

 あかりは嬉し泣きをしていた。あかりは若葉に比べると玲奈と親密な関係になっていないように見えた。それはたんに玲奈と若葉は小学生の頃からの友人だから、すでに深い友情ができていたってことだ。

 だけどあかりは同じグループの、憧れのメンバーとして玲奈を慕っているようだ。俺も経験があるけど、不器用でうまくいかないと、何でもすぐにできる人は憧れの対象になる。

 心配する若葉に対して、心配もするけど憧れが強いあかりっていう印象を持った。

「玲奈ちゃん格好良い。一生ついて行くね」

 玲奈は二人が抱きついてきたのに戸惑いながらも、背中をさすってお店に戻った。

 俺が何気なく三人を見ていると、ユーレが横にやってきた。

「モンスター達がどんどん強くなってきてる。油断しちゃだめだよ」

「ああ。俺を信じろ。どんな敵が来ても、ビリーブに倒してやるぜ!」

「うん。その気持ちがあれば大丈夫だね。でもバーガーバズーカを使いすぎてない?」

「大丈夫。俺のビリーブはこんなもんじゃないぜ」

 俺の言葉にユーレが笑顔を向けると、消えてしまった。



 俺はスパークルのライブを見に来ていた。この前のライブはミスはなかったものの、玲奈と二人のパフォーマンスにレベルが開いていた。しかし今回は玲奈はさらにネクストレベルに上がり、さらに二人のパフォーマンスがグッと引き上げられた。それはMCで理由がわかった。

「みんな聞いて。最近玲奈ちゃんが練習のときに、いろいろアドバイスしてくれるようになったの」

 嬉しそうに話す若葉。

「今までは自分で精一杯だったの」

 笑顔で返す玲奈の表情には、楽しそうな微笑みが浮かんでいる。それは自分のパフォーマンスに喜んでいるわけではなく、チームワークが深まったから生まれる自然な笑顔だと思う。

「玲奈ちゃんって何でもコツをつかむのが早いけど、教えるのうまいんだよね」

 あかりも嬉しそうに話す。

「それにこの前玲奈ちゃんがケーキ焼いてくれたんだ。とっても美味しかった」

「そ、それは秘密にしてって言ったじゃない」

 玲奈がケーキを焼くんだと思うと少しおかしくなった。ただそういう女の子らしい部分を感じたからか、口調が攻撃的だったのが、少し柔らかくなったように思う。女の子らしくなったっていうよりも、優しくなったのかな。

 前回に比べて笑顔が増えたし、俺はふと思ってライブを見るだけじゃなくて、握手会に参加してみることにした。

 あかり、若葉と握手をしていき、玲奈に握手をするときに、一声かけた。

「大ファンです。これからも頑張ってください」

 俺の言葉に対し玲奈は鋭い目つきになった。

「つまらない冗談を言うな。近いうちにどっちが上か決着をつけてやる」

 俺を握る手にはギュッと力が入り、超痛かったんだけど。

 他のファンには今までと違って笑顔を振りまいてるのに、この違いは何なの?

 畜生。毎回握手会には参加してやる。


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