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最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


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第21話 命拾い

 レオの援護もあって、ルルは無事にシレントをダンジョンの外へ連れ出せた。安全区域まで来たら、魔物の襲撃はほぼ有り得ない。かといって彼女は安心できなかった。さっきの怪物が襲ってきたら。そんな不安に駆られながらも、今にも死に絶えそうな男の治療をしなくてはと使命感を燃やす。


「大丈夫、アタシならできる。アタシならできる、アタシなら……!」


 両手を重ね、傷口に近付けて魔力を込める。


「天の使いよ。白き風を吹かせ、彼の者の傷を癒したまえ」


 ルルの魔法は決して優れたものではない。高級、中級、低級と三階級に分かれる中で、彼女が扱えるのは全て低級だ。みるみる顔色を悪くして呼吸が浅くなるシレントを救いたい一心で、ほとんど治せないとしても決して諦めなかった。


 血はまだ止まらない。だが勢いは落ちた。早く塞がれ、と祈りながら、自分の方が限界を迎え始めている。気を失うかもしれないと思った。それでも。


「あなたに死なれたら困るのよ。一緒に旅をしたいって本気で思ったんだ。こんなところで諦めたら、あなたの仲間に合わせる顔がない……!」


 ありったけの魔力を注ぐ。まだ足りない。朦朧とする意識を必死に繋いで離さず、シレントの体が徐々に再生を始める。できる、まだ。


「やるじゃないか、出来が悪いと言ったが撤回しよう」


 美しい繊細な手が重なった瞬間。シレントの傷は一瞬で元通りになる。それどころか、意識を手放しかけていたルルでさえ、目が見開くほどに回復した。


「レオさん! 無事だったのね!」

「んはは、ボクの名前を覚えてくれるとは嬉しいねぇ」


 喜ぶルルを猫のように可愛がりながら、シレントを見て笑った。


「君も歳を取ったなァ」

「すっかりおじさんだ、百年の恋も冷めるだろ」

「まさか。カスタムされて良い感じさ」


 ダンジョンから持ち帰ったボンサックをシレントに渡す。


「さっきの奴はなんだったんだい、普通の魔物じゃなさそうだったが」

「あぁ。ギルドで口止めされてたんだけど、二人にも話しておくよ」


 事情を伝えると、ルルは驚き、レオは納得した様子を見せた。


 魔族など存在自体があり得ない話だ。聞いても納得できないのが普通だ。レオは最近、よくダンジョンに出入りして覚えのある違和感について語った。


「────最近になって、あちこちのダンジョンで不自然な魔物の湧きを確認してるんだ。特に、それまでダンジョンには少なかった上位級の魔物や、支配種。そのどれもが、ボクの見た限りだと本能ではなく知性で活動している側面がある」


 各地で魔法薬の材料を手に入れるために足を運ぶレオも異変を感じつつあったが、偶然にも魔族とはこれまで出会ってこなかった。事態を把握すると、眠たそうな顔も真剣な目つきをする。


「そういえば、さっき話していた奴だけど、ヴォリーダと名乗っていたよ。彼らに名前があって、五百年前の戦争で封印されたのなら図書館で文献を調べてみてはどうだろう。ボクの方でも、知り合いに古い歴史書がないか聞いてみよう」


「ありがとう、レオ。……それで、そのヴォリーダって奴は倒したのか?」


 肩を竦めて残念そうに首を横に振った。


「倒せなかった。挙句、あれは本気の状態じゃないらしい」

「あれで? でも、それなら君は見逃されたってこと?」

「ああ。呼ばれているとかなんとか言ってさ。命拾いした気がするよ」


 最強の魔法使いをして、命拾いしたと言わせるだけの魔族には、シレントもどう受け止めていいか分からない。返されたボンサックをぎゅっと抱きしめながら、魔族の完全復活が近付きつつあることに頭を抱えたくなった。


「ね、ねえ……。それってアタシたちでどうかしなくちゃいけないこと? 白金級のすごい冒険者なんてたくさんいるじゃない。勝てるんじゃないの?」


 ルルもまた、魔族の存在を受け止め切れないでいる。ディルが虫けらのように殺されて、精神はまだ安定から遠い。


 レオもさすがに腕を組んで、眉間にしわを寄せながら考えこむ。


「それが出来れば苦労しないと思うんだよねえ。ルルちゃんの言う白金級の冒険者だけでも、ピンからキリまである。三ッ星の白金級を集めて、ようやくアレと戦えたとして────あの怪物(ゼロ)は倒せない」


 ヴォリーダとの殺し合いの最中、廃都インサニアの全域へ広がったであろう、悍ましい気配。レオも思わず恐怖で動きが固まるほどの殺気だった。


「あれはヤバい。今まで生きてきた中で、どうしようもない奴だ。五百年前にあれを封印したって言うなら、人間社会は平和ボケしてしまったんだろうね。……とにかく、ボクも帰ってこれから調べてみるよ」


「また会おうよ、レオ。町に来たら紹介したい人たちもいるんだ」


 もらったボンサックのおかげで、どれだけの人間と出会い、別れてきて、今があるのか。その切っ掛けとも言える始まりを作ってくれたレオには見てほしかった。自分を認めてくれる仲間を。


「もちろんだとも。近いうちに嫌でも会うさ。────じゃあね」


 深緑の魔力を纏う風が渦巻いてレオを包む。

 あっという間にレオの姿は風と共に消えた。


「何よ、今の……。ワープクリスタルもなしに移動したの?」


「レオしか使えない転移魔法だ。膨大な魔力消費を個人で賄えるらしい。再挙の魔法使いの名は伊達じゃないって感じるだろ。何人も弟子がいるそうだよ」


 羨ましさにルルは俯いて、小さなため息を吐く。


「アタシ、あれを見るとやる気なくなってきちゃうわ」

「そりゃまあ、距離が遠いからね。でも、僕は君にもああなれると思ってるよ」

「下手な慰めはやめて。アタシが惨めになるだけだから」

「そりゃあ、見た目に騙されてるよ。レオはああ見えてもう80歳を超えてるし」

「ちょ、ちょっと待って。あれが80歳?」


 信じられるはずもなく、思わずルルはシレントに詰め寄った。


「そ、そうだよ。若返りの秘薬を使ってるだけで、実年齢は86歳。十代の頃から研鑽に研鑽を重ねたがゆえの最強なんだ。君だって辿れない道じゃない」


「……そうね。夢はいくつになっても追えばいいもの」


 すくっと立ちあがって、深呼吸をする。


 あまりに惨い体験は心にそれなり傷を残したが、まだ夢は消えていない。

 まだやらなければならないことはいっぱいあるぞと自分を鼓舞する。


「じゃあ帰りましょ、シレントさん。シャーロットたちも待ってるわ」

「ああ、そうだね。バッグの中は窮屈かもしれないから」

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