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最強パーティの専属荷運び人  作者: 智慧砂猫


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第20話 救援

 フルスロットルで思考が働く。魔族の構えた弓、その鏃が向かう先はどちらでもなく、どちらでもある。わざと射線から外して、相手が動いたら標的をいずれかに絞るつもりだ。僅かな油断さえ許さない状況。シレントは自らを狙うように、わざと腰のベルトに提げておいたナイフを抜いて見せてから突っ込む。


「そうか、順番は決まったようだな」


 弓は────ルルへ向けられた。


「ばっ……! 君の相手はそっちじゃないだろ!」


 ナイフを投げつける。ほんの僅かでも隙を作り、ルルから狙いを変えたかったが、魔族はあろうことか、垂直に跳ねて高い位置から、なおも標的を変えずに弓を引き絞った。ルルも状況を理解して離れようとするが────矢は射られた。寸分の狂いなく、正確に逃げる先すらも読み抜いて。


「させるかぁ!」


 気合ひとつで突っ込み、間一髪でルルを抱いて転がった。飛び込んだ拍子に、飛んできた矢が背中を掠めたせいか、じんじんと痛む。


「ルルちゃん、おじさんの背中から内臓飛び出てないかな?」

「めちゃくちゃ血は出てるわよ。内臓は出てないけど」

「良かった、じゃあ軽傷だ。────じゃあ逃げよう、本気で」

「えっ、うん。でも、逃げられるの?」


 振り返れば、魔族はまた矢を手のひらから創り出している。あまりも大きい凝縮された魔力は、そう何度も避けられるほどの可愛さがない。


 さてどうしたものか、とポケットに手を突っ込む。


「……使い時は今、だと思うんだよ」


 大型の魔物から逃げるために用意した煙玉の余り。思いきり投げつけて衝撃で瞬時に煙で身を隠す。自分たちも視界は最悪だが、既に進むべき道は頭の中に叩き込んである。姿を隠している間に、ありったけの煙玉をボンサックの中から取り、さらに行く先へ次から次へと煙玉を投げて、かく乱する。


「シレント、これで逃げられる!?」

「分からない。だが、何もしないよりはマシだ!」


 ダンジョンの外にさえ出られればいい。第1層は広いが、その分道も幅広く、煙が満ちていればいるほど、正確にどこを走っているかも突き止められない。この好機を逃がしてはならないと一気に駆け抜けて────背後から、矢がシレントの肩を貫いた。全身に奔った衝撃が足をもつれさせ、派手に転ぶ。


「シレントさん!?」


 ルルが足を止めて、倒れたシレントに駆け寄った。


「よもや俺から逃げられると思ったのか」


 晴れていく煙の中から堂々と弓を片手に、魔族はあろうことか彼らの前に立ちはだかった。その行先すら手の内だとばかりに。


「どうやってここまで正確に……撃てたんだ……」

「敗因など考える必要があるか?」


 そう言いながらも、魔族は自分の目を指して。


「俺はそもそも視力を持たない。晒している方も、俺は魔力を視るのであって、その姿が視認できる必要はない。たかが煙幕如きで隠れられるとでも?」


 臭いは不快ではあるが、とため息を漏らして矢を番える。


「そろそろ死んでもらおうか」


 弓を引き絞り、二人同時に消し飛ばすつもりで矢を射ろうとして────。


「誰だ、貴様」


 放った矢が魔力の壁に弾かれて空に消えた。魔族はじろっと観察する。


 二人を助けるように立ちはだかったのは、白衣の女だ。長い栗色の髪を靡かせ、少しダウナーな雰囲気を醸す。手には虹色のミサンガをして、ふわあ、とあくびをする。敵を前に余裕たっぷりだった。


「ひどい怪我だねえ、シレント。こんなところに来てたんだ」

「……君は、レオ……?」

「五年ぶりだなあ。まだボクがくれてやったバッグを使ってるのか」


 レオと呼ばれた女性は、状況の呑み込めないルルに視線をやった。


「お嬢ちゃん。バッグは後で届けてあげるから、代わりにシレントだけ運んでやってくれないかな。いくら出来の悪い魔法使いでもやれるだろ?」


 そうだ。ルルはハッとする。たとえ戦力にならずとも、支援魔法はそれに依らない。撤退するのは難しくない。


「わかったわ。あなたが誰か知らないけれど、助けてくれてありがとう。必ずシレントは此処から脱出させる。でも、あなたは……」


 目の前にいる魔族はシレントを仕留めんとする強さだ。目の前の誰とも分からない魔法使いが、あれと戦えるのかと心配になる。


 だが、レオはニカッと笑って親指を立てた。


「心配しないで行きたまえ。まずは安全圏に出ることだ」


 怪我はひどく、致命傷でないにしても放っておけば確実に死ぬ出血量だ。肩を貸してシレントを立たせたとき、その肩にぽっかりと丸く開いた穴に絶句する。急いで安全な場所に出て治療しなければ、とレオの言葉を信じて走り出す。


 魔族は、二人が横切っても追撃をしようとしなかった。


「シレントさん。さっきの人って知り合いなの?」


「知り合いっていうか、うーん……。僕のボンサックってバッグあるだろ。あれを作ってくれた人だよ。君の目指す場所にいる魔法使いだ」


 ギルドに登録はなく、個人で活動し続ける魔法使い。 

 冒険者になる切っ掛けを作った人間でもある。


「あの人、地位とか名誉にとことん興味がない人でさ。とにかく強いんだけど、自分の欲求以外ではちっとも動かないというか────」


 背後で爆発音がすると、遅れて衝撃波がやってくる。ルルが手を構えて衝撃を和らげるための魔力の壁を展開しながら、急いで外を目指す。


「ごめん、シレントさん! 話はあとにしよう!」

「そうだな……。僕もちょっと気分が悪くなってきた」


 溢れる血は止まらない。常人なら死んでいるところを、シレントはまだ余裕がある。なんとか外に出られれば助かるだろうとルルは少し安心したが、そうは状況が許さない。グレンウルフたちが、血の臭いに釣られて姿を現した。


「ウソ、最悪。こんなの私たちじゃとても……!」


 足が震えた。絶体絶命だと覚悟をしてしまう。

 獲物を見つけたグレンウルフたちが遠吠えをして、一斉に飛び掛かる。


「ルル、走って。大丈夫だ」

「え?」


 背後から飛んできた無数の光が、グレンウルフの群れを瞬く間に消滅させる。魔族と戦闘中のレオが、その最中に援護射撃まで行ったのだ。


「すごい……。あれが最強の魔法使い?」

「ははは。僕も自慢だ、あの人はすごい師匠だから」


 レオは荷運び人だ。だが、最強の魔法使いという名が先行して、彼女を荷運び人の印象で語らせない。


『いいかい、シレント。荷運び人は社会的な立場を持たないし、つらいことの方が多い。それでも君がやりたいというのなら、ボクの試作品をあげよう』


 大丈夫。当時は何気なく答えたことも、続けていくうちに色んな世界を目の当たりにしてきた。そして、今、やっとひとつの夢を掴んだ。


「遅すぎだけど僕もなりたいんだ、あんな風に。……憧れの人だよ」

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