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俺の弟、モラーハルトは真正の馬鹿だ。
マリアンヌという世にも美しく素晴らしい女性を婚約者に持ちながら、その顔を見れば睨み付け、罵倒して当たり散らかす。
自分より優秀なマリアンヌが気に食わないのだろう。
まぁ、生まれたときから次期王太子としての地位と、見目麗しく絶世の美男子と言われる容姿、国王陛下と王妃である両親から溺愛されて育てばそうなるのかも知れない。
俺には経験が無いからその心理は解らないが。
今日も妃教育のため、王城に赴いているマリアンヌとお茶を飲んでいるモラーハルト。
マリアンヌの些細な言葉尻を捉え、揚げ足を取り、鬼の首でも取ったかのように喜々としてあげつらう。
それがまた道理も理屈も通らない頓珍漢な罵詈雑言なのだから始末に負えない。
マリアンヌも何とも返す言葉が見つからないようで、ただ困ったような顔をしてお茶を飲んでいる。
ああ、モラーハルト、お前は本当に救いようのない馬鹿だな。
もしも俺がお前なら、マリアンヌにこんな顔は絶対にさせない。
息を付く間も無いほどに愛しみ、誰にも取られないように優しく優しく囲い込むだろう。
お前にはその権利が与えられているというのに、それを自らドブに捨てるなど馬鹿を通り越して盆暗の脳タリンだ。
「おい!マリアンヌ!貴様は何故そんなに爪を短くしているのだ!僕の婚約者たるもの、爪の先まで美しく整えて綺麗な色を乗せるのが当然であろう!僕の母上は、いつどんなときでも爪の先、髪の一本一本にまで手入れを怠らないぞ!」
は?
先日マリアンヌの美しく整えられた爪を見て、
『何だその爪は!そんなに男の気を引きたいのか!この色情女め!』
と汚い言葉で責め立てていたのはどの口だ?
そんな口は一生開かなくなる魔法を掛けてやろうか。
しかし、コイツは馬鹿ではあるが、一応この国の王太子だ。
「ぐ??っっぐぐぐっっ!!がっ‥‥がはっ!!!ゴホっゴホ!!はぁはぁはぁ!!」
30秒だけ息が出来なくなる魔法で勘弁してやった。
それからは、ヤツがマリアンヌに嫌なことをする度、言う度に、俺は仕返しとばかりに小さな嫌がらせをしてやる。
最近のお気に入りはお茶を含んだ瞬間に後頭部をスパーンとはたくこと。
お茶を勢いよく吹きだして咽せるモラーハルトを見るマリアンヌの驚いた顔が可愛らしいことこの上ない。
だがしかし‥‥
そんな小さな悪戯にほくそ笑みながらも、俺はいつも苦しい。
俺は面と向かってマリアンヌと会うことは許されない。
ただ、姿を隠して一方的に見つめるだけ。
こんなのは変態の覗き見行為と変わらない。
ああ、俺が堂々と君と会う事の出来る容姿であったなら、どれだけ良かっただろう。
あの北のガゼボで出会ったときのように、その瞳が俺を映してくれたなら‥‥
しかし、それは叶わない。
俺という醜悪な存在は、他人を不快にすることしか出来ない。
俺はどうしたって俺でしか有り得ない。
十年後も二十年後も。
俺が俺でしか有り得ないのなら、俺はこの世に生きている意味があるのか?
けれど、あぁ、けれど。
それでも君を見ていたい。
ただ君を見つめている瞬間だけが、俺を生かしている。
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明日はマリアンヌと馬鹿な弟モラーハルトの入学式らしい。
これから3年間、二人は貴族学園に通う。
学園。
俺には通わせて貰えなかった、そしてこれからも通う事は無い一生縁の無い場所。
俺は王城の敷地内からは一歩も出ることを許されていない。
ああ、マリアンヌ。
君の制服姿はどれほどに可愛らしいだろう。
見たい。
君の制服姿を。
学園での君を。
俺はもう、タガが外れたように自制が効かない。
王城の結界などすり抜けることは容易い。
認識阻害魔法も完璧だ。
瞬間移動魔法だってどれだけ距離があろうとも何処へでも飛べる。
俺は明日、こっそり学園の入学式を覗きに行こうと決めた。
ああ、これでは覗き魔を通り越してストーカーではないか。
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「たいへ~ん!遅刻遅刻~☆」
モラーハルトとマリアンヌが門をくぐった瞬間、ピンクの髪の変な女が盛大に転んだ。
「君、大丈夫かい?」
ピンク女を助け起こすモラーハルト。
愚弟を見つめたピンク女がパチパチと瞬きをした。
これは‥‥魅了の魔法?
何だ、この女は。
厄介だな。
マリアンヌを泣かせるなら容赦はしないぞ。
「い、痛ーい!!ぐすっ」
「僕はこの令嬢を医務室に連れて行く!マリアンヌ、お前は勝手に一人で講堂に行け!」
愚弟はマリアンヌを親の敵のように睨み付けたあと、ピンク女を横抱きにして医務室の方へ歩きだす。
「おわわ!!」
「ギャッ!!」
俺はモラーハルトの足を引っかけてやった。
「ぐえぇぇ」
ピンク女がモラーハルトに潰されている。
あっはっは!いい気味だ!
そのあとのマリアンヌの新入生代表の挨拶は、それはもう素晴らしいものだった。
勿論制服姿は、大勢の女子生徒の誰よりも一番可愛らしかった。




