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「お嬢様、本日の髪型はどうなさいますか?」
「フルールに任せるわ。貴女は手先が器用だし、センスも良いから」
「あ、ありがとうございます!では、今日の入学式に相応しいよう整えさせていただきます」
真新しい制服に身を包み、大きなドレッサーの前に座るわたくしの髪を専属侍女のフルールが結ってくれる。
サイドを丁寧に編み込んだハーフアップに制服と同じ色合いの髪留めを付けた髪型は、新入生に相応しく上品且つフレッシュさも感じさせる素敵なものだった。
可愛い髪。
ええ、髪型はとても、とても可愛いですわ。
前世の女子高生みたいな制服(スカート丈はくるぶしまで隠れるほどに長いが)も可愛い。
可愛くないのはわたくしのカエルのようなこの顔と、体重計に乗るのが恐ろしい程の体型。
控えめに言って豚に真珠。
はっきり言うと馬糞にダイヤですわね。
しかしながらこの世界では、デズスのわたくしこそが薔薇の妖精と言われるほどの美人なのだから、もう乾いた笑いしか出てきませんわ。
さて、今日の入学式からゲームが開始する。
ゲームのシナリオなんてくそ食らえ!は思っているものの、ある程度の流れは思い出しておかなければならない。
攻略対象が何人いるのかは分からないが、わたくしが知っているのは一人だけ。
この国の王太子にしてわたくしの婚約者であるモラーハルト第二王子。
他の攻略対象は、名前はおろか顔すら知らない。
しかし、あのヒロインなら間違いなくモラーハルトを選ぶだろう。
何故わかるかって?
実はわたくし、5年前にドブール男爵家に引き取られる前のヒロインに会いに行ったのですわ。
ゲームでのミリヨンは元々孤児だったがドブール男爵の隠し子だったことが判明し、学園入学のしばらく前に引き取られた、という設定なのだ。
王都の外れにある小さな孤児院。
習得したばかりの認識阻害魔法を使ってこっそりと観察したの。
異世界小説あるあるで、ヒロインが転生者の可能性もあったし、
もしも話の分かる良い子ならモラーハルト殿下を譲る代わりに『首チョンパは勘弁して下さらない?』ってお願い出来るかなって。
しかし、そこで目にしたヒロイン、ミリヨンは最低最悪なクソ女子だったのですわ。
孤児院の院長を始め、男性職員やそこで生活している男の子達を自分の周りに侍らせていた。
院長の膝に座り、ボロボロとカスを落としながらクッキーを齧る。
そしてわざと食べかけのクッキーを床に落として、男の子たちが
『ミリヨンの食べかけのクッキー!!』
と目を血走らせて奪い合うのを楽しそうにニヤニヤと見ている。
その顔は深海魚のブロブフィッシュそっくり。
(その名を聞いてもピンとこない方は『深海魚おじさん』で検索して下さいな)
とにかくキモイ。
それはミリヨンの顔が、というのも勿論あるけれど、
たった10歳にして魅了の魔法を使い、男たちを手玉に取ってもてあそぶ。
その思考がキモイ。
そして彼女から発せられる腐ったドブのような臭い。
『ほら!そこも汚れてるじゃない!ちゃんと拭きなさいよ、このブスが!』
同じくらいの年頃の女の子に、男の膝の上から唾を飛ばして命令する10歳のミリヨン。
そして必死に床を拭く少女に男の子達をけしかけて、髪を引っ張らせたりして虐めている。
ああ、これは駄目ですわね。
仲良くなれるはずがねぇですわ。
こんなビッチの性悪に
『首チョンパしないで?』
なんてお願いするなら死んだ方がマシってなもんですわ!!
『あたしはねー、将来王妃様になるの!王子様のモラーハルトって、あたしと同じ10歳なんだって!これってきっと運命よ!ぜーったいモラーハルトと出会ってあたしに夢中にさせてみせるんだから』
『そうだね!ミリヨンなら絶対王妃様になれるよ!』
『やっぱりあんた達もそう思う?!あたしは王妃様になったらキラッキラのドレスを着て大きな宝石のついた首飾りを付けて、沢山の召使いに囲まれて毎日贅沢なご馳走を食べて暮らすのよ!そんで、あたしに逆らうヤツはみーんな処刑してやるの!』
床を拭いていた少女がふと顔を上げた。
その顔に、持っていたグラスの水を浴びせ高笑いするミリヨン。
もう、1秒たりとも見ていたくないほどに醜悪なミリヨン。
そう、『醜悪』という言葉は彼女のためにあるのだと思う。
わたくしは思わず虐められていたずぶ濡れの少女の手を取って我が家に連れ帰りましたの。
その少女こそが今のわたくしの専属侍女、フルールなのですわ。
フルールはこの世界基準で言えば、かなりの不細工だ。
つまり、わたくしの美醜感覚からすればとっても可愛らしい女の子!!
まさに欲しくて欲しくて堪らなかったわたくしの癒し!!!
番号で呼ばれていた彼女にフルールという名前を与え、更にはフルールの双子のお兄さん(後にファスグリーという名前を与えた)も引き取った。
ファスグリーとフルールは同じ顔。
つまり私基準イケメン。
ミリヨンという醜悪な存在を確認したその日、わたくしは心の癒やしを二人も手に入れたのですわ!!
‥‥と、少し話はそれてしまいましたが。
何故ミリヨンがモラーハルト殿下を選ぶと断言できるか、ご納得頂けたでしょうか?




