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5 デメルフリード

俺の名前はデメルフリード・ビシュー。

12歳。

この国の第一王子だ。

第一王子といっても、王子教育などは受けていない。

この王城から出たこともない。


俺は生まれたときから体が弱く、ベッドから下りることも出来ない程に病弱だから。


‥‥というのは建前で、ただ放置されているだけだ。

何故なら俺は『忌み子』だから。

それはそれはもう、世にも醜悪な見目をしている。


俺の母は俺を産んだ当時、父である国王の正妃であった。

しかし、生まれた俺のあまりの醜悪さに気が触れて帰らぬ人となったらしい。


父はその後に側妃を孕ませて正妃に召し上げた。


その腹にいたのが第二王子であるモラーハルト、俺の2歳下の腹違いの弟だ。

誰もが顔を背ける醜悪な俺とは違い、絶世の美少年。

父はそんな見目の良い弟を溺愛しており、早々に王太子と決めた。


父は『忌み子』であり、母を殺した俺のことを殺してやりいたい程に憎んでいるが子殺しは地獄に落ちると言われているため、一応生かさている。


この国での成人年齢である18歳になったら

この王宮にから追い出し、何処か辺境の未開の地にでも棄てる腹づもりだろう。


まぁ、俺は何処に棄てられようが死ぬことはない。


何故なら俺の魔力が絶大だから。

誰にも隠しているが、俺の魔力の器はとてつもなく大きく、また体内から溢れ出る魔力量も半端なく多い。

毎日その魔力を発散させなければ魔力過多で体調を崩してしまうほどに。


だから俺は誰も近づかない北のガゼボで毎日魔力を解放しているのだ。



俺がこの王宮の何処で何をしようとも、他人に声をかけられることは無い。

目を合わせることも、いや、この姿を目の端に映すことすら憚られるほど。

メイドだろうが庭師だろうが料理人であろうが、俺の気配を感じれば皆青い顔で余所を向く。

『私には何も見えておりませんよ』とでも言うように。


俺という存在は、この国の輝かしい王家にとってもあってはならぬ。

それほどまでに醜悪な見目をしているのだ。


運悪くバッチリ俺と目が合ってしまった者は、腰を抜かしたり、泣き喚いたり、嘔吐したり、気絶をしたり。


それはやっぱり面倒くさいから自室から出る時はいつも仮面を付けている。


認識阻害の魔法を使って姿を見えなくすればいいのだが、やはりそこは俺にもプライドというモノがある。


こんな自分でも、今、ここに俺という人間は存在しているのだ、というささやかなプライドだ。




先日もいつものように薄ら寒い北のガゼボで魔力解放を行っていた。

仮面を外し、空に向かって魔力を解放してその心地の良い怠さに浸っているとき。

ふと、誰かの視線を感じた。


しまった!!

叫ばれるか泣かれるか吐かれるか。

すぐに認識阻害の魔法を使えば良かったのに、何故だか俺は振り向いてしまったんだ。



その時の衝撃を、俺はどう言葉にしていいか解らない。



少女は大きく目を見開いて、口許に当てていた扇子をポトリと落とした。

ふっくらとした形の良い唇を半開きにして。


そこには忌避や嫌悪の色はまるで無く、ただ俺を真っ直ぐに見ていた。


俺は少女のその美し過ぎるほどに美しいかんばせから目をそらすことすら出来ない。



どれくらい見つめ合っていただろう。

それは長い時間だったかも知れない。

いや、ほんの一瞬の事だったかも知れない。

それでも俺には時を止めた永遠のように感じた。




『‥‥ヌ様、マリアンヌお嬢様ー!』


メイドらしき者の声に、止まっていた時が動き出す。

俺は慌てて忘却と睡りの魔法を発動させた。


『眠れ、そして忘れよ』


少女はゆっくりとその場に倒れ込み、その意識を飛ばした。





彼女の名はマリアンヌというのか。


俺の目を真っ直ぐに射抜いたあの美しい瞳。

言葉もなく、時を止めたように見つめ合ったあの瞬間。

俺の汚い目に彼女が映り、彼女の美しい瞳には俺が映っていた。



だけど、もう二度と君の瞳が醜悪な俺を映すことはないだろう。


それでいい。

その方がいい。


君がもしも、もう一度俺を見た時。

その美しい顔を恐怖と嫌悪に歪ませてしまえば、俺はきっと耐えられないから。



ああ、けれど‥‥

神様。

見るだけなら許してくれますか?

彼女にこの醜悪な姿をさらしたりし

ないと誓います。

絶対に彼女に触れたりしないと誓います。


だから、彼女に気づかれぬように、ただ見つめるだけなら許してくれますか。





あの日から俺はマリアンヌが王宮に来る度に、己に認識阻害魔法を掛けてその姿を目に焼き付けた。



彼女が弟の婚約者だと知った後も、ただただ、見つめ続けた。










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