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婚約破棄されて辺境に追放されましたが、前世が機械エンジニアなので古代魔導具いじり放題で大歓喜です!  作者: 紅茶


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第十四話:限界突破(オーバークロック)

 猛吹雪の雪原にそびえ立つ、全高百メートルに及ぶ古代の超巨大兵器。


 その途方もない質量の表面を、一人の令嬢がゴキブリのような——いや、熟練の登山家のような恐るべき手際でよじ登っていた。


「うふふ、あははははっ! たまらない、たまりませんわ! こんな巨大な装甲の隙間に、整備用のハッチがそのまま残っているなんて!」


 狂喜の声を上げながら、セラフィナは特注のマイナスドライバーを装甲の継ぎ目にねじ込み、テコの原理で強引にこじ開けた。中からプシューッ、と千年前の古い空気が吹き出してくるが、彼女にとっては極上のアロマだった。


 暗く入り組んだ機体内部へと潜り込んだ彼女は、額に装着した魔導ライトを点灯させ、その全容を目の当たりにして歓喜の震えを漏らした。


「ああ……なんて美しいの。人間の何十倍もある巨大な歯車、極太の魔力伝導シリンダー……! ですが」


 セラフィナの目が、瞬時に「マッドエンジニア」のそれに切り替わった。


「可哀想に……。千年の埃とサビで、関節部の伝導率が本来の六十パーセントしか出ていませんわ! しかも、この主動力炉の出力バルブ……安全装置リミッターがオンのままじゃないですか!」


 それは、設計者からすれば機体の暴走を防ぐための当然の処置であった。しかし、限界魔導具オタクである彼女の辞書に「安全」という文字はない。あるのは「最大出力ロマン」のみである。


「こんな素晴らしいエンジンが全力を出せないなんて、技術に対する冒涜ですわ! 待っててねベイビー、私が今すぐスッキリさせてあげるから!」


 セラフィナは特大の工具リュックから『超高粘度・魔導潤滑油スプレー』を取り出すと、巨大な歯車の隙間という隙間に惜しげもなくオイルをぶちまけ始めた。さらに、配線板を引っ張り出し、リミッター回路の青と赤のコードをニッパーで躊躇なく切断、直結させる。


「ふふふっ、これで魔力パスが完全開通ですわ! さあ、思う存分暴れなさいな!!」


 古代兵器の内部で、油まみれの令嬢の狂った笑い声が響き渡っていた。



***



 一方、その頃。外の雪原では、レオンハルトとクラウスが死闘を繰り広げていた。


「はぁっ、はぁっ……! 閣下、ミサイルが来るぞ!」


「チッ、分かっている!」


 クロス・リンクによって完璧な連携を見せる二人の男たち。クラウスが義手のパワーでミサイルを斬り払い、レオンハルトが漆黒の魔力で巨大な腕の薙ぎ払いを逸らす。


 圧倒的な体格差と火力差はあるものの、二人の超人的な反射神経と連携により、戦局はどうにか拮抗状態を保っていた。


(このまま持久戦に持ち込めば、いずれ奴の魔力炉も限界が来るはずだ……!)


 レオンハルトがそう踏んだ、まさにその時だった。


 ——ギュイィィィィィィンッ!!!


 突如として、超巨大兵器の全身の装甲の隙間から、青白い蒸気が勢いよく噴き出した。


 鈍かった関節の駆動音が、嘘のように滑らかで甲高い音へと変貌する。真紅の単眼レンズが、太陽すら焼き尽くすほどの異常な輝きを放ち始めた。


「……は?」


 クラウスが間の抜けた声を漏らした瞬間、巨神の腕が、先ほどの倍以上のスピードで振り下ろされた。


「なっ——!?」


「避けろクラウス!!」


 ドッッッガァァァァァァンッ!!!!


 回避が間に合わず、大剣でガードしたクラウスの身体が、ボールのように雪原を数十メートルも吹き飛ばされた。


 さらに、巨神の背中から射出されるミサイルの弾道が、これまでとは比較にならないほど洗練され、無駄のない軌道でレオンハルトを追い詰めていく。


 顔面からの超高熱レーザーのチャージ時間も、わずか数秒にまで短縮されていた。


「な、なんだこれは!? さっきまであった関節の軋みが消えやがった! 速度が倍だぞ!」


「動きが良くなっていないか!? 攻撃の精度まで上がっている……ッ!」


 連携クロス・リンクをもってしても、全く対応しきれない次元の猛攻。


 雪原を泥だらけになって転げ回り、息も絶え絶えになりながら、二人は命からがら巨大な岩の裏へと滑り込んだ。


「ぜぇ、ぜぇ……っ! くそっ、一体何があったって言うんだ! 突然、化け物が本気を出しやがった!」


 クラウスが義手から火花を散らしながら毒づく。


 レオンハルトも膝をつき、肩で息をしながら絶望的な戦況に歯噛みした。


「……ええ。全く。素晴らしい仕上がりですわ!」


「……え?」


 不意に、すぐ隣から、やけに明るく聞き覚えのある声がした。


 ハッと二人が横を向くと——。


 そこには、顔やドレスをススと油で真っ黒に汚し、特大のスパナを愛おしそうに抱きしめながら、満足げにウンウンと頷いているセラフィナがしゃがみ込んでいた。


「せ、セラフィナ……!? なぜお前がここにいる!?」


「さっきまであの化け物によじ登っていたはずだろう!?」


 驚愕で目玉が飛び出そうになる二人の男たち。


 セラフィナは、不思議そうな顔で小首を傾げた。


「なぜって、整備メンテナンスが終わったからですわ。いやあ、長年の汚れが詰まっていて大変でしたけれど、関節部を清掃して特製オイルを注し、邪魔な安全装置リミッターを全部直結してあげましたの!」


「「まさか、お前……ッ!!」」


 レオンハルトとクラウスの顔から、さァァァッと完全に血の気が引いた。


 先ほどの遺跡の地下での悪夢が、スケールを百倍にしてフラッシュバックする。


 あの超巨大兵器の絶望的なパワーアップは、またしても、このマッドエンジニアの仕業だったのだ。


 絶望に震え、言葉を失う歴戦の男たち。


 そんな彼らに向けて、セラフィナは顔を黒く汚したまま、両手を頬に当ててペロッと可愛らしく舌を出してみせた。


「てへぺろっ☆」


「またお前ぇぁぁぁ!! それを辞めろォォォォォッ!!」


 北の雪原に、大公と天才騎士の、悲痛すぎる怒号が木霊する。


 狂気の限界令嬢が引き起こした「限界突破オーバークロック」により、ここからが本番(じごく)



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