第十一話:完璧な連携と、戦慄のネットワーク構想
工場出荷時の『完全な状態』へと復元された古代の殺戮兵器は、まさに絶望的な強さだった。
『対象ヲ殲滅スル——!』
超高周波で唸りを上げる回転刃が、猛烈なスピードで大公レオンハルトへと振り下ろされる。
「チィッ……! ただの鉄屑が、調子に乗るな!」
レオンハルト様が漆黒の魔力の障壁を展開し、回転刃を間一髪で弾き飛ばす。だが、その衝撃で体勢が崩れた。そこへ、ゴーレムのもう片方の腕が死角から迫る。
「閣下、頭を下げろ!」
——ガキィィィンッ!!
横から飛び込んできたクラウス様が、銀色の義手で大剣を振り抜き、ゴーレムの追撃を見事に弾き返した。
「……ふん。余計な真似を。俺一人でスクラップにできた」
「強がるな。いくら魔力量が桁違いでも、今の接近戦の速度には反応しきれていなかっただろう」
背中合わせに立ち、憎まれ口を叩き合う二人の男。
本来なら、彼らは「辺境の絶対領主」と「王都を追放された流れ者の騎士」であり、まともに言葉を交わしたのも数日前が初めてのはずだ。
当然、連携の訓練など一度たりとも行ったことはない。
だが——。
『排除! 排除!!』
ゴーレムが再び突進してくる。
その瞬間、二人の動きは、まるであらかじめ振付が決まっていたかのように完璧に噛み合った。
「はああっ!」
クラウス様が踏み込み、大剣でゴーレムの右腕を斬り上げる。彼が剣を振り切って体勢ががら空きになった、まさにそのコンマ一秒の隙間を縫うようにして——。
「消えろ、鉄屑!」
レオンハルト様の放った漆黒の魔力弾が、クラウス様の肩越しをすり抜け、ゴーレムの胸部装甲に直撃した。
ドガァァァァァンッ!!
(……な、なんだこれは?)
クラウス様は、剣を振るいながら内心で驚愕していた。
(大公閣下が魔力を放つタイミングが、手に取るようにわかる。それだけじゃない。俺が次にどう動きたいかを、あっちが完全に『先読み』してカバーに入ってきている……!)
驚いているのはレオンハルト様も同じだった。
(……なんだ、この感覚は。俺の魔力が、あいつの銀色の右腕に向かって、まるで磁石のように吸い寄せられていく。俺の放った余剰魔力が、あいつの義手の駆動エネルギーに自動変換されているだと……!?)
性格も身分も水と油の二人。
だが、戦闘における二人の挙動は、まるで『一つの脳髄で二つの肉体を動かしている』かのように、恐ろしいほどのシンクロ率を見せていた。
「クラウス! 右の装甲が剥がれた! そこを突け!」
「応ッ! 俺の義手に、アンタの魔力を回せ!!」
クラウス様の右肩の義手が、蒼い光から漆黒の光へと変色する。レオンハルト様の高純度魔力を、義手が直接受信したのだ。
ブォンッ! と、排熱スリットから黒い蒸気が噴き出す。
「——これで、終わりだッ!!」
大公の魔力で限界までブーストされたクラウス様の大剣が、流星のような速度でゴーレムの中枢コアを一刀両断した。
『機能……停止……。再起動、不可——』
ギガァァァン……ッ。
大音響と共に、古代の殺戮兵器はついに完全に沈黙し、遺跡の通路に崩れ落ちた。
「はぁっ……はぁっ……」
「……どうやら、完全にスクラップになったようだな」
荒い息を吐きながら、二人の男は互いの顔を見合わせた。
いがみ合っていたはずの二人の間に、信じられないほどの激戦を、無傷で、しかも完璧な連携で潜り抜けたという、奇妙な連帯感が生まれていた。
「……大公閣下。俺は王都の近衛騎士団にいた頃から、誰かと組んで戦うのが苦手だったんだが……アンタとの連携は、まるで自分の半身と戦っているようだった。悪くなかったぜ」
「……ふん。俺も、他人に背中を預けたのは初めてだ。お前のその義手、俺の魔力波長と気味が悪いほど噛み合っていたな」
二人の間に、男同士の熱い友情と信頼が芽生えようとしていた。
——その時である。
「パチパチパチパチパチッ!! 素晴らしい! 素晴らしいですわーっ!!」
通路の隅で安全圏に避難していた私(と、ガタガタ震えるガレス卿)が、満面の笑みで拍手をしながら駆け寄ってきた。
その手には、びっしりとデータが書き込まれたバインダーが握られている。
「大成功です! お二人とも、最高のテストデータをありがとうございます! 『クロス・リンク(生体魔力間ネットワーク)構想』、見事に実証されましたわ!」
「……クロス・リンク? テストデータ?」
レオンハルト様とクラウス様が、揃って首を傾げた。
「ええ! 実はですね、先週クラウス様の右肩に義手を接続した際、こっそり義手の受信機の波長を、レオンハルト様の魔力パスと『完全同調』するように設定しておいたんですの!」
「……は?」
「さらに! レオンハルト様が寝ている間に施した毎晩のメンテナンスで、閣下の脳波の運動野の信号を、微弱な魔力波としてクラウス様の義手に『自動送信』するバイパスも埋め込んでおきましたのよ!」
私は胸を張り、ドヤ顔で言い放った。
「つまり! お二人の神経系は、私の作った魔導具を介してBluetooth……いえ、目に見えないローカル通信網で繋がっていたというわけです! お互いの動きが先読みできたのも、魔力が自動でシェアされたのも、すべて私が二人を『一つのシステム』として魔改造したおかげですわ!」
「「…………っ!?」」
男たちの顔から、先ほどまであった「熱い友情」の余韻が、スゥッと音を立てて消え去った。
「き、貴様……俺が寝ている間に、俺の脳波を勝手に他の男に送信するよう改造しただと……!?」
「令嬢! 俺の右腕の義手は、大公閣下の脳と直結しているというのか!? だからさっきから、右腕だけなんかこう……『セラフィナを撫でたい』みたいな変な衝動を受信していたのか!?」
「えっ? 閣下、そんな衝動を送っていたんですか? やだ、照れますわね!」
「ち、違う! 俺はそんな破廉恥な思考は……っ! い、いやそれ以前に、人体改造を本人に無断でやる奴があるか!!」
レオンハルト様が真っ赤になって怒鳴るが、私の耳には称賛の言葉にしか聞こえない。
「ふふっ、照れ隠しはおやめくださいな。結果として、最凶のボスを無傷で倒せたんですから大団円でしょう? さあ、私はこの子の残骸から使えるパーツを回収しますから、お二人はそのまま通信テストを続けていてくださいね!」
私は鼻歌交じりに、倒れたゴーレムの解体作業(至福の時間)に戻っていった。
「……閣下。俺たち、いつの間にかこのマッド令嬢の『実験動物』にされていたようですね」
「……ああ。このままでは、近いうちに二人まとめて爆弾の起爆装置か何かに組み込まれそうだ」
薄暗い古代遺跡の底。
見事にボスを打ち倒したというのに、男たちの背中は、先ほどの死闘の時よりもずっと恐ろしい恐怖に震えていた。
そして護衛のガレス卿は、壁の隅で「王都に帰りたい」と体育座りをして泣いているのだった。




