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婚約破棄されて辺境に追放されましたが、前世が機械エンジニアなので古代魔導具いじり放題で大歓喜です!  作者: 紅茶


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第1話:婚約破棄

「セラフィナ・フォン・ローゼンベルク公爵令嬢! 貴様のような嫉妬に狂った悪虐非道な女は、僕の婚約者にふさわしくない。今この場をもって、貴様との婚約を破棄する!」



何百という魔法石のシャンデリアが眩い光を投げかける、王立学園の大広間。



卒業を祝うための優雅なワルツの旋律が不自然に途切れ、水を打ったような静寂の中、この国の王太子であるジュリアス殿下の声がビリビリと響き渡った。



周囲を取り囲むのは、色とりどりのドレスや正装に身を包んだ貴族の生徒たち。



彼らの視線は一様に、広場の中央に立つ私——セラフィナへと注がれている。その瞳に浮かんでいるのは、好奇心と、明らかな嘲笑だった。



殿下の腕の中には、ピンク色のふわりとした髪を持つ小柄な少女が、庇われるようにしなだれかかっている。平民上がりで、最近『光の聖女』として見出された男爵令嬢のアリアだ。



「アリアの教科書を破り、私物を池に捨て、あまつさえ階段から突き落とそうとするとは何事だ! 次期王妃となるべき人間が、聞いて呆れる。その黒く淀んだ心根、もはや弁解の余地はない!」


「で、殿下……私のことはいいんです。セラフィナ様も、きっと私なんかが殿下のそばにいるのが許せなかっただけで……ひぐっ、私が身の程知らずだったんですぅ……」


アリアが殿下の胸に顔を埋め、いかにも可哀想な被害者を演じて泣きじゃくる。その肩を愛おしそうに撫でながら、殿下は私をゴミを見るような目で見下ろした。



(あーあ、見事な冤罪だこと)



完璧な淑女の仮面の下で、私はひっそりとため息をついた。



身に覚えのない数々の罪。そもそも、私は彼女に嫉妬する理由すらない。

むしろ、その逆なのだから。



「貴様のような女は、この王都から追放し、魔物が蔓延る北の辺境の修道院へ幽閉してやる!」



その宣告が下された瞬間、周囲から「まあっ!」「北の辺境ですって……?」というどよめきが上がった。



私は俯き、ドレスの裾をギュッと握りしめ、小刻みに肩を震わせた。



周囲の人間には、誇り高き公爵令嬢が絶望のあまり打ちひしがれているように見えただろう。



ヒソヒソと「自業自得ね」「可哀想に、北の辺境なんて一年も生きていけないわ」という声が聞こえてくる。



——しかし、私の心境は絶望とは真逆だった。



(……え? 北の辺境?)



私は俯いたまま、目をカッ!と見開いた。ドクン、ドクンと心臓が早鐘を打つ。



私には、前世の記憶がある。



前世の私は、日本のしがない機械エンジニアだった。



図面を引き、機械を組み立て、金属が擦れ合う音と油の匂いに包まれて生きるのが大好きな、生粋の「モノづくりオタク」だったのだ。



この魔法が息づく異世界に転生してからも、そのオタク気質は健在だった。



いや、むしろ悪化していた。



何せ、この世界には『魔導具』や『ゴーレム』という、前世の科学ではあり得ないファンタジー機械が存在するのだから!



しかし、公爵令嬢として、そして王太子妃候補として厳しく育てられた私は、「油にまみれて機械いじりをするなど、はしたないにも程がある」と、最愛の私設研究室を三年前に没収されてしまったのだ。



それからの三年間は地獄だった。



窮屈なコルセットで締め付けられ、意味のないお茶会で他人の腹を探り合い、ろくに魔導回路の設計もできない日々。



(それが……北の辺境? 北の辺境って……あの『古代魔導帝国・ゼニス』の遺跡群がそのまま手付かずで残ってる、あの辺境!? しかも修道院の地下には、未解明の超大型動力炉が眠ってるって噂の!? それなら、ここにいるよりいいかも!)



王太子妃教育のせいで、ここ三年はスパナ一本握らせてもらえなかった。



それが、辺境追放?



つまり、うるさい家庭教師も、私の趣味を「気味が悪い」と馬鹿にする顔のいいだけの王太子も全部放り出して、王家の干渉を一切受けずに、一日中古代遺跡を掘り返していいってこと!?



(なんてこと……! ずっと資金と場所がなくて諦めていた『超弩級多目的ゴーレム』の理論実証実験が、広大な荒野でやり放題じゃないの……!!)



「……っ、くっ……ふふっ!」



こみ上げる歓喜を抑えきれず、私の口角はピクピクと痙攣し、肩の震えはさらに大きくなった。声まで漏れそうになるのを必死に噛み殺す。



ジュリアス殿下が「ふん、今更泣いて後悔しても遅い。醜い女だ」と勝ち誇ったように鼻を鳴らす。



私は、パッと顔を上げた。



そして、満面の、それはもう今世で一番輝くような極上の笑みを殿下に向けた。



「ありがとうございます、殿下!!」



「……は?」



「……え?」



殿下とアリアの顔が、揃って間抜けに固まる。



嘲笑していた周囲の貴族たちも、絶望の涙を流すはずの悪役令嬢が見せた「太陽のような笑顔」に、完全に思考を停止させた。ホールの空気が凍りついた。



しかし、そんなことはどうでもいい。私の頭の中はすでに、未だ見ぬ古代魔導具と油の匂いでいっぱいだった。



「婚約破棄、謹んでお受けいたしますわ! 慰謝料などは一切要求しません。ただ一つ、お願いがございます。辺境への移動の際、私の私物である『特注工具箱(大型)』と『魔石研磨機』、それから『ミスリル合金の予備パーツ一式』の持ち出しだけは許可していただけないでしょうか!?」



早口でまくしたてながらズイッと前に出ると、殿下はドン引きしたように後ずさりした。



「こ、工具……? き、貴様、何を言っているんだ? 追放だぞ! 荒涼たる雪と魔物の大地に送られるのだぞ!? 気が狂ったか!?」



「はい! 北の辺境ですね! ああ、夢みたい……っ。ずっと行ってみたかったんです! すぐに荷造りをしなければ。ああ、最新型の推進器のテストも、辺境の荒野なら爆発を気にせず思う存分できますわ! やったぁ!」



もはや、哀れな王太子たちのことなど視界に入っていなかった。



私はドレスの裾を優雅につまみ上げ、公爵令嬢として叩き込まれた完璧かつ最速のカーテシー(淑女の礼)をキメた。



「それでは殿下、アリア様。どうか末永くお幸せに! 私はこれで失礼いたします!」



ざわめくホールを置き去りにして、私はドレスの裾を翻して踵を返した。



王太子妃という重い鎖から解き放たれた私の足取りは、羽が生えたように軽い。ヒールの音が、大理石の床に軽快なリズムを刻む。



(待っててね、古代遺跡! 待っててね、私の可愛い魔導具たち! 私の本当の青春は、ここから始まるのよ!)



ホールの重厚な扉をウキウキとした足取りで押し開けた私は、これからの自由な辺境ライフに胸を躍らせていた。



この時の私はまだ知らなかったのだ。



追放先の辺境で、呪いに苦しむ世にも恐ろしい「化け物大公」と出会い——彼の抱える規格外の魔力に一目惚れ(※極上の魔力源として)してしまうことを。


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