9話 高田健志経典・第十一章
「ってことがあってだな。」
「んん、ほれは災難でひたねぇ」
高田健志がさっきまでの出来事を説明していると、口にハンバーガーを頬張るおまおじが空返事で答えた。
「……にしてもおまおじ。一応さ、信仰してる神様の前でその食いっぷりはどうなんだ?」
「んん!? お気に障りましたか? すみません!」
「いやいいんだ。お前も飢え苦しんでいただろうしな。どんどん食べてくれ。」
「ありがほうございます!」
と言って、おまおじはバクバクと食い進めた。
(コイツ、俺のこと記録するとか言ってたけど、ホントに記録する気あんのか?)
高田健志は呆れつつも、幸せそうにインドの出店料理を頬張るおまおじを見て、少し微笑ましかった。
*
……一方、高田健志に敗れた駆動丸は。
「ハァ……ハァ……」
戦いの疲れで立ち上がれずにいた。しかし、高田健志からの手刀をくらった首元には何の怪我も残っていない。あくまで傷つけないように負かされたらしい。
それが返って、駆動丸のプライドを傷つけた。
「クソ……ムカつく野郎だ!」
地面を思い切り殴る。
駆動丸は、神の気を発揮した高田健志のことを思い出していた。
「……神の気、か。」
駆動丸はまた一つ、思い出した。
高田健志経典・第十一章。
ある時、神は罪に重さを与えた。地球上の生命はその重さを体で支えることができず、ただただ潰れるのを待つばかりだった。そこに怪力を持て余した高田健志が現れた。彼は罪のほとんどを肩代わりし、背負いきれなかった罪を全生命に均等に分け与えた。これが重力の誕生である。
これは全世界、森羅万象に『神の気』が干渉していることを表す記述だ。重力も、万有引力も、物理や科学の全ての法則も、全ては、空気のように世界中に漂っている神の気によって引き起こされる事象なのである。
「この伝承通りなら、俺も少なからず神の気を持っているはずだ……! 感じろ、神の気を! 俺ならできるはずだ……!」
駆動丸は立ち上がり、また、全身に力を込める。
(闇雲に力を込めるんじゃない。神の気を感じながら……)
駆動丸は感じていた。自分の身体に流れる、確かな『力の流れ』。そして、高田健志に敗れた屈辱。確かに味わっていた。
溢れてくるどうしようもない怒りの感情。
それを乗り越え、人間を超える。
(……見つけたッ!)
確かに感じた。自分の身体にかすかに流れる神の気を。
駆動丸はそれを必死に掴み、制御した。
大いなる力が身を包む。駆動丸の身体に荒れ狂う竜のような力が宿る。
「あと少しだ! ハァアアアァアっ!」
暴れる力を必死に取り押さえ、自分のものにする。そして、今、解放する……!
「ウォオオオアアアアアアアアアア!!」
雄叫びとともに、覚醒した。
その叫びは高田健志の元まで届いた。
「……悪い、おまおじ。どうやらまだ勝負は終わっていないようだ。」
「え、えぇ!?」
困惑するおまおじを差し置いて、高田健志は飛翔し、駆動丸の元に向かう。
「……驚いたな。まさか人間なのに神の気を纏うようになるとは。」
流石の高田健志も冷や汗をかく。駆動丸の纏っている神の気は、生半可なものではないからだ。
「コイツはちょっと、傷つけないって縛りのままじゃ無理そうだ……」
高田健志は初めて、人間を相手に『敵』と認識した。
「これが神の気か。……さぁ、高田健志。第二ラウンドだ。」
駆動丸と高田健志の第二ラウンドが始まった。