Ep.15 夫婦喧嘩
「だいたい、お前の買い物は無駄が多すぎる」
妙に、上から目線のディアンをリディアは下から睨みつける。それに気づいていないのか、言い聞かせたいのかディアンは続ける。
「――買い物は、効率よくするもんだ」
その言葉に、リディアはひくっと頬を引きつらせて、むかつく、と心の中で呟いた。
だいたい、スーパーの買い物で気分転換をして何が悪いのだ。アクセサリーやシューズや雑貨ショップで楽しんでいるわけでも、無駄遣いをしているわけでもないのに。
ディアンはスーパーで、目的の物しか買わない。今日は肉炒め、ステーキと決めたらそのコーナーへ直行。足りないものがあればそれを放り込んで、あとはレジへ。
リディアは、入口からゆっくり見ていき、野菜売り場、魚、肉を見ていき、今日安い目玉商品があればそこで足を止める。調味料のストックがあっても、今日の方が安ければそれも買っておく。新商品があれば、一応手に取る。今日、豚肉の生姜焼きと思っていても、ブリの方が安ければ、手にして明日と今日の献立を頭の中で入れ替える。
後ろについて来ているディアンは――それを無駄と考えるらしい。
(だったらついてこなくてもいいのに)
とも思うが、それは言ってはいけない言葉。もともと団長の妻である自分は狙われやすいし、自分は今、妊娠している。
ディアンは守りたいのだ。というか、何かあったらが怖いのだ。
もちろん、毎日買い物に同伴は無理だけど、できるだけと車を出してくれて連れてきてくれている。それは、ありがたい、けれど!
後ろの圧が怖い。というか、うっとおしい。
折衷案としてスーパーの入口で待ち合わせにした。彼ならば、スーパー丸ごと、この辺一帯防御膜を張れるし、スーパーごと転移させてドラゴンのブレスくらいには動じない。
ちょっと出入りする人間が圧を感じて逃げているのを申し訳なく思うし、その顔にドキドキしているおば様――いやお姉さま方に申し訳なくも思えるし、自分も焼きもちなのか微妙に思うけど、本人は気づいてないから、それはどうでもいい。
ただ、その待たされる時間がディアンには無駄に思えるらしい。別に、無駄な買い物しているわけじゃないのに!
――問題は、夕食だ。ディアンは、夕食には、肉を要求する。お前は肉食か! と言いたくなるほど(あきらかに草食系ではなく、肉食系動物だけど)毎晩肉がいいらしい。週五は肉。残りは魚。
リディアは、一人暮らしの時は夕食にパスタやグラタンや、たまにキッシュなども作っていた。毎回肉だと、おみそ汁や副菜も考えなきゃいけないので面倒だ。
けれど、ディアンに言わせれば「夜に、パスタは勘弁してくれ」「夜にパンは勘弁してくれ(肉にもご飯)」なのだ。昼は互いに師団の食堂を使うし、リディアはお弁当を作っていくときもある。
じゃあパスタはいつにするのよ!?
――ディアンも夕食を作ってくれることもある。(それも美味しいから文句は言えない)
女性が作るのが当たり前の世の中ではない。けれど、団長のディアンの方が圧倒的に忙しく不規則な生活で夜も遅いから自分のほうが作るほうがいいとも思う。生活費、もろもろディアンに出してもらっている。
リディアの給料は、自分が大学院に行っていて、そちらの学費に当ててるし、奨学金の返済もしている。超高給取りのディアンはそれでいいと言ってくれて、甘えているのは自分だから、本当にありがたい、感謝している。
ただ、なんかムカつく!
というわけで、リディアはひたすら肉をこねていた。手が臭くなる。
夫婦喧嘩は犬も喰わない。はたから見ればどちらかを庇うのも馬鹿らしい。自分でもわかっていた。
ディアンが帰ってきて、リディアは笑顔で彼を迎えた。目は笑っていない。不気味な笑顔と部屋中に漂うニラとニンニク臭に彼の顔が強張る。
「――お帰り。今日は餃子だよ、たくさん作ったからね」
皿には、焼き立ての餃子六十個を並べていた。
『――餃子は副菜だろ』
過去、餃子をおかずにしたら、ディアンはそう言った。ラーメンやチャーハンと食べるものらしい。リディアが妊娠してから酒を辞めたディアン。リディアはお酒を飲まないから彼とラーメン店に行ったことがないけれど、ビールとラーメンを頼み、ラーメンが来るまでに餃子は食べるものらしい。
ディックも、『餃子にはビールだろ』と言っていた。
「ディアン先輩。ビール飲んでもイイよ」
「……いや、いい」
もそもそとひたすら餃子を食べ続けるディアンは口数がなかった。ご飯と餃子、中華スープ。六十個はさすがに作りすぎたかなと思った。
イヤガラセにしては、自分も作るのが大変だったからちょっと考えようと思った。
彼はなんでも食べる。好き嫌いはない。戦場では、なんでも食べる。草でも毒が入ってなければ食べる。
『食べられるときに食べとけ』『餓死しても残すな』よくわからないけど、彼の教えだ。
リディアは餃子十個を食べた、もうギブアップだ。あと五十個が彼の取り分。
「ねえ、マイダーリン」
リディアの呼びなれない、もとい気持ちの悪い呼びかけに彼は肩を揺らして顔をあげた。なんで、こんなことに怯えるのかな!
「オイシイ?」
「……おいしい」
お箸で餃子をつまみながら、ディアンは小さな棒読みで返事をした。残り十五個。随分食べたね。
彼は、作られた料理に感想を言わない。まずくはないと思うけれど、草と同じ顔で食べるからわからない。
リディアも強要しない。怒ってる時以外は。
「うまい。けど……」
「ケド?」
「……五十個は勘弁してくれ。せめて――」
「セメテ?」
「俺が、悪かった」
これまで、リディアの魔法学講座の番外編にお付き合いくださいまして、ありがとうございます。
マーレンの王宮編なども書きたかったのですが、いつまでも番外編をあけず閉じて今回で終わりにします。長きにわたり、ご愛顧ありがとうございました。




