旧式ロボ(そうこばん)
そして迎えた、私の誕生日。
お仕事が終わったら、そのままマリアンヌちゃんのお店に行きます。
そこでドレスを貸してもらい、パーティーを楽しむのです。
今日のパーティーには、ミズノちゃんもご招待しました。
ミズノちゃんは最初ちょっと遠慮がちに、らしくないモジモジした上目遣い。
「お姉ちゃん、私が行ってもいいの? 人狼さんのお偉いさんがたくさん集まるんでしょ?」
「偉い人達は途中で帰っちゃって、後はみんなで遊ぶだけだから大丈夫ですよ。それにヨシエちゃんもいますよ」
だからぜひ来てください。と言うと、ミズノちゃんはとてもキュートな笑顔になり、
「ありがとう。絶対行く」
とお返事をくれました。
そして今日お仕事が終わった後に、二人で一緒に会場へ行く約束をしました。
という事で、さあお仕事を頑張りましょう!
「では第四精鋭部隊長、ミィさんの報告。お願いするッス」
スー様はそう言って、眼鏡を指で上げました。レンズに室内灯の光が反射します。
今日は午後イチで幹部会議です。
私は最近の活動について、魔王様にご報告します。
「は、ひゃい! でででは、資料のトピック①から説明します!」
報告事項を文字や図表でまとめた資料を作り、魔王様をはじめとした会議参加者の皆さんに配っています。
その資料を元に説明するのです。
ちなみに資料はヴァンデ様と博士さんに事前チェックを頼み、おかしい所を指摘して貰っています。
そして修正、またチェック、修正、チェック、修正。ずっと繰り返して大変です。
しかし、戦い等の実務中よりも報告資料作成中の方が、心の中での『仕事してる感』が強いのは何故でしょうか。
まあそんな事はともかくとして。
今回の報告内容は、鬼人の里で面接官をやった事、博士さんの実験台になった事。
そして戦場に赴き、例の呪いのダンス戦法で人間さん達をかく乱した事です。
以前オーガさん部隊のお手伝いとして呪いのダンスをお披露目しましたが、あの後また何度か出撃し同じ事をやっています。
最近は人間さん達にも顔を覚えられつつあり、呪いのダンスを踊る前に勝手に逃げ出してくれる事もありました。
いやそもそも呪いのダンスじゃなくて、かっこいいダンスのハズなんですけどね……
「……と、いう事で。今回はゴブリンさん部隊、妖精さん部隊、そして人狼部隊のお手伝いを、な、なんとか遂行できましたぁ」
「はい。ご苦労様ですミィさん。着々と成果を上げていますね。この調子で頑張ってください」
モニターの向こう側におられる、白い仮面を被った魔王様から褒められちゃいました。
「ああああありがとうございましゅ!」
そして私は緊張しつつも舞い上がり、噛みました。
その後は広報と福利をヴァンデ様、人事と経理をスー様が順に報告されました。
「以上。今日の幹部定例報告会、予定していた議題が全て終わったッス。他に何か言い忘れた事や、疑問質問、展開事項なんかは有る人は挙手!」
と、スー様が言われます。
いつもは何も無くこのまま終わるのですが、今日は博士さんが、
「はいはい、ありますよお」
と、気怠そうに手を挙げました。
「何スか。何を言い忘れたんスか?」
「いやいや、何で言い忘れたって決めつけるのよ。展開事項だってば」
博士さんは立ち上がり、喋り始めます。
「実は昨日の夜から、ロボが一体行方不明なんですよねえ」
「ロボットが!? 何でッスか!?」
眼鏡がズレる程驚くスー様。
博士さんの兵器は魔王軍内でかなりの戦力となっているので、それが行方不明となると、驚くのも無理は無いでしょう。
ヴァンデ様は事前に知っておられたのか、いつも通りの無表情キープ。
「落ち着いてよスーちゃん。兵器じゃなくて環境整備用のロボだよ。しかも旧型の」
「ああ、ゴミ掃除用ッスか」
掃除や植木の手入れをしているロボットさんですね。私も時々見かけます。
前は妖精さんがリモコンで操作していましたが、最近は自動で働くタイプのロボットさんに変わりました。
以前私の一日部下だったロボット兵士一号から五号さんの尊い犠牲の元、自動掃除ロボットさんが完成したらしいです。
「以前のリモコンタイプは全部廃棄したんですけど、妖精さんの頼みで記念に一台だけ倉庫に残してまして。それが勝手に動き出して脱走しちゃったみたいで」
「勝手にって、それもしかして人間さんの……」
私がつい呟いちゃった言葉に、博士さんが反応します。
「おっ鋭いねミィちゃん、ご名答。どうやらサイサク君が電波遊びしちゃったみたいね。昨晩オジサンが寝てる隙に、レーダーのアンテナに見知らぬ電波の痕跡が」
「またあの緑人間ッスか!」
「サイサク君対策として自立歩行型に替えたのに、オジサンまたもや迂闊でした」
サイサクさんとは、博士さんの元助手。そしてスパイだった人間さんです。
博士さんが発明した『魔力を混ぜた電波』に対し、それを乗っ取る『妨害電波』を発明しちゃった人。
そのせいで、巨大ロボットさんが現在活動休止中に追い込まれています。
今回もその電波を利用して、倉庫に眠っていたお掃除ロボットさんを遠隔操作したとの事。
とても迷惑な人間さんですね。
「あいつ、いつか捕まえて、あの緑の肌を焼き切って赤茶色にしてやるッス……!」
「落ち着きなよスーちゃん。緑の肌はただ絵の具塗ってただけだってば」
モンスターなのにコンプライアンスに厳しいスー様は、スパイだったサイサクさんが大嫌いらしいです。
ボーナス支給後すぐに逃げられたのも悔しかったとか。
「旧型掃除ロボットの機能は? 城内を荒らされるような危険性はありますか?」
モニター越しに魔王様が聞かれます。
「危険性は無いですね。機能はゴミ拾うためのアーム伸ばしたり、動かしたり。花壇や植木整備のために穴掘ったり。モップやハサミは倉庫入れる前に取り外してまして、武器になるような物も無し」
妖精さんが傍で見ながら操縦する用途だったため、カメラ等も付いていなかったそうです。
なのでサイサクさんも大した悪戯は出来ないだろうとの事。
「まあ充電もほぼ無かったし、今頃は城内のどっかで倒れてると思うんですけどね。見つけたら兵器開発局に連絡頂戴ね、皆」
博士さんがそう言って、会議は終わりました。
この後、城内の全モンスターさん達にも、旧型掃除ロボットさんを見つけたら連絡くださいとの旨をアナウンスするそうです。
どこで行き倒れになっているのかは知りませんが、お城にはたくさんのモンスターさんがいます。
多分すぐに見つかるでしょうね。
なんて思ってたら、本当にすぐ見つかりました。
「……あ、掃除ロボットさん……こんな所に……」
しかも発見者は私です。
私の横に、事切れたロボットさんが横たわっています。
その姿は泥だらけです。
「あー……どうしよう……」
発見した事を、博士さんに連絡しないといけないのですが。
ちょっと今は無理ですね。
お伝えしようがありません。
伝言を頼むことも無理です。周りには誰もいません。
「うぅぅぅ……何でこんな事にぃぃぃ……」
私は顔を上に向けました。
遠くに、雲一つない素晴らしい青空が見えます。
しかし横を見ると、土の壁。
左右前後全て、土の壁。
「だ、誰かぁぁぁあああ……! 助けてくださぁぁぁいぃぃぃ……!」
ただいま私は、深い落とし穴の中にいます。




