穴中夢(のんべえのきおく)
「あっしまった。まだお菓子をあげていませんでした」
会議終了後、私はふと思い出しました。
私は毎日、巨大ニワトリのトサカさんにお菓子のおすそ分けをしています。
トサカさんはゲーム中で勇者さんの仲間になるキャラクター。
今のうちに私が餌付けして、勇者さんの戦力アップを阻止しようって算段なのです。
しかし魔王様への報告と、お誕生日パーティーが重なり、色々と考えることが多くて。
今日の分をつい忘れていました。
幹部会議の場にトサカさんがいたので、そこで渡しておけば良かったのですが。時既に遅し。
二度手間になっちゃうけど、また今からトサカさんに会いに行かないと仕方ないですね。
私はトサカさんのお部屋を訪ねました。
「あれ。いない……」
お部屋は留守でした。
どこかへお散歩にでも行っているのでしょうか。それともお仕事?
とりあえず城内にトサカさんが行きそうな場所を探してみます。
だいたいお庭、それも城門横の長々と生い茂った草むらの中で、のんびりされている事が多いです。
「トサカさーん。どこですかー。こけっこっこー」
というわけで城門横に移動。
私はコケコケ言いながら草むらに入り、トサカさんを探しました。
ちなみにこの草むらは、私が魔王軍に入隊してすぐ、透明の箱を拾った場所です。
トサカさんと初めて会った場所でもありますね。
「こけこけこー。トサカさんー」
コケコケ言う意味は無いのかもしれないですけど、周りに誰もいませんでしたし、言っててなんだか楽しくなってきました。
「こけー……うきゃあっ!?」
そして気付いたら、穴底にいました。
草むらに隠れるように、ぽっかりと大穴が開いていたのです。
深さは、建物で言うと三階建てくらいでしょうか?
かなりの深さ。カチカチな私じゃなかったら多分死んでます。
穴の直径は、私が両腕を広げた長さの約二倍くらいでしょうか。
そして私の隣には、旧式のお掃除ロボットさんが転がっています。
しばらく「誰か助けてぇぇ!」と上に向かって叫び続けました。
しかし、ただでさえ普段誰も気に止めない城門横の草むら。
そんな所に開いた穴になど、誰も気付いてくれません。
叫び疲れた私は一旦冷静になろうと、地面に座りました。
「そもそも一体、この穴は何なのでしょうか?」
泥だらけで動かないお掃除ロボットさんを見ます。
博士さんの話によると、このロボットさんはサイサクさんの乗っ取り電波で操られ、倉庫から脱走したのでしたね。
そのロボットさんが、この穴の中にいた。
ロボットさんの機能は、ゴミを拾ったり、モップで汚れを拭いたり、植木や花壇の手入れをしたり穴を掘ったり。
「ああー……穴かぁー……なるほどぉ……」
ピンと来ました。
私の華麗な推理によると、サイサクさんはこのロボットで大きな落とし穴を作り、嫌がらせしたかったのでしょう。
ロボットさんにはカメラが無いので適当に動かしたのだと思いますが、偶然この草むらに辿り付き、大穴を掘った。
そしてロボットさんは故障か燃料切れか分かりませんが、この穴の中で力尽き、サイサクさんの操作からやっと解放された。
って所でしょうかね。
「おいたわしやお掃除ロボットさん。なむー」
私は手を合わせ、ロボットさんのご冥福をお祈りしました。
そして改めて壁を見ます。
まあ改めて見たところで、変わらずただの土なんですけどね。
私はどうにかよじ登ろうと、壁に手を掛けました。
手の指、足の先を土に刺し、ボルダリング……崖登りスポーツですね。あれのイメージで身体を持ち上げ……ようとしたらボロボロと土が崩れ、私は背中から落下し、仰向けに転がりました。
「あうぅぅぅ……どおしよぉぉ……」
落ち着きましょう。
こういう時は冷静に。
冷静になって考えるのですよ、私。
仰向けになったまま目を閉じ、脱出方法について考える事にしました。
―――――
寝転んで目を閉じたせいで、いつの間にか眠っていたようです。
なので、これは夢です。
懐かしい夢。
気付くと私はこたつテーブルに座り、缶ビール片手に一人で窓の外を眺めて呆けていました。
あれ?
ここはどこでしたっけ?
どうして私、こんな所に……
周りを確認します。
こたつの上にはビール、チューハイ、おつまみの柿ピーと魚肉ソーセージ。
近くには麻雀セット。漫画ばかりの棚。
もうちょっと向こうには四脚のデスクが並び、上にはパソコンが数台。
ああ、そうです。思い出しまし……思い出した。
私が通っている大学のサークル棟、二階。
ゲーム研究部の部室だったな、うん。
私の名前は美奈子。
好きなものはゲームとお酒。嗜む程度。
基本的には可憐な乙女で……
「おつかれーっす」
部室に誰か入って来たよ。
この声は和田君だ。
この子アホだけど、部活には毎日律儀に顔を出すんだよねー。
「おっつかれーい」
私は呂律の回らない舌で挨拶をした。
「ああ、おつ……って美奈子? どうしてここにいるんだよ!」
「なんだよ失礼な奴だねー。部員が部室にいて何が悪いのさー?」
「でもお前、入院中だろ」
そうだった。
この前の飲み会中に急に倒れて、病院に担ぎ込まれちゃったんだよね。
んで入院。ほんで手術。
手術前はお酒禁止されて大変だったよ。別にアル中じゃないけどさ。
「まあ和田君も飲めよー。ビールあんぜよー」
「はぁ……じゃあ頂きます」
ってオイ、貰うんかーい。
そこは「病人が酒飲んどる場合かー!」って突っ込む所じゃないんかーい。
と思ったんだけど、実際そう突っ込まれたら私もビール飲むのを止めざる得なくなっちゃうので、黙ってる事にした。
そして私と和田君は笑いながら乾杯をしたのさ。
「いやー、久々に人と飲む酒は旨いなー。一人で飲んでてもつまんなくてさー」
「その言い方。お前もしかして、病院で一人で酒飲んでたな?」
アホの和田君のクセに、時々鋭いんだコイツ。
少し雑談してると、部室のドアが大きな音を立てて開いた。
「ああー! 美奈子あんた、やっぱりこんな所にいた!」
そう叫びながら部室に飛び込んで来たのは、ゲー研部員のちーちゃん。
漫画アニメゲームの趣味が概ね合う……概ねという事は、勿論合わない部分も多々あるのだけど。
まあ多少は趣味趣向の合わない部分で議論の余地がある方が、一緒にいて楽しいと言うか。
つまりは私の親友なのだ。
「暇だろうってお見舞いに行ってあげたら、病室にいないんだもの。早く帰らないと看護師さんに見つかってまた怒られるわよ」
「まあまあちょっとくらいいいじゃーん。少しは気晴らししないとねー」
ちーちゃんはまるでオカンみたい。
ちょいとウルサイけど、まあでもそこが彼女の良いトコだ。
「『また』って事は、何度か脱走したのかよ美奈子」
「和田君のクセに察しがいいじゃないかー」
私は笑ってビールを一口飲んだ。
つられて和田君も笑い、一口。
「ほらほら、ちーちゃんも一杯飲みなよー」
「病人が酒飲んどる場合かー!」
あ、ちゃんと突っ込んでくれた。
さすがちーちゃんだ。感謝だね。




