挑戦者(むきむきまっちょ)
「悲しい事故を繰り返さないために、スイッチはオンのままにしておいてね。そのままでも丸一日は動き続けるから」
博士さんはそう言い残し、一号さんの御遺体を持って自分の部屋に戻りました。
私の部屋には、二号さんから五号さんまでの、四体のロボット兵士が残っています。
四体ともスイッチを入れてしばらくは手足を動かしていましたが、周りに敵がいないと分かると、待機モードになって動かなくなりました。
「ミィちゃんに危害を加えるヤツがいたら、そいつに攻撃するようにプログラムしてあるから」
と、博士さんは言いました。
そういうプログラムを入れている時点で、最初から私でテストする気だったって事ですが……
「五人……じゃなくて四人の部下も出来ましたし、私達はお茶会の続きをしましょうミズノちゃん」
「そうね、お姉ちゃん」
私達はまたお菓子を食べ始めました。
そして他愛もない話をします。
ロボ兵士さん達の見た目が微妙に可愛くない事。
テレビ局で巨大ロボットさんを破壊しちゃった事。
スー様の眼鏡が仕事用とプライベート用で違うとう事も、ミズノちゃんから聞く事が出来ました。
お腹もいっぱいになってきた所で、私はふと思い出しました。
「そう言えばミズノちゃん。会議の時に何か喋りかけて『後で話す』と言っていましたが」
そう聞くと、ミズノちゃんは目を伏せました。
そして言いにくそうに、小声で喋り始めます。
「あのね、お姉ちゃん……あの、また私とお友だ」
その時、部屋の扉がドーンという大きな音を立て、開きました。
ミズノちゃんの台詞は途中でかき消されちゃいました。
「頼もう! 四天王に選ばれた子供よ、出て来おおい!」
そう叫びながら、筋肉ムキムキで肌が真っ青、身長三メートルくらいの大きな悪魔さんが現れました。
手には重そうな鎖付き鉄球を持ち、ジャラジャラ音を鳴らしています。それも多分、わざと大袈裟に鳴らしています。
っていうか『出て来い』も何も、すぐ近くにいますが。
私が座っている場所は、ちょうど扉と正面向かい合っています。
なのでムキムキ悪魔さんと、今もバッチリ目が合っています。
ちなみに私の対面に座っているミズノちゃんは、位置的に扉の方は見えません。
でもミズノちゃんは突然の訪問者に興味が無いのか、振り向きもしません。
「ミィという赤毛の人狼の子供がいるはずだ! 出て来い!」
だから、今目が合ってますけど。
ムキムキ悪魔さんは私の方を見てます。
名前も特徴も知ってるみたいですし、もう完全に私がミィだって気付いているハズです。
これって、私から名乗り出るのを待っているんでしょうか?
名乗り出ないといけないのでしょうか?
いやでも、私がミィだって事に本当に気付いていない可能性もあります。
それに賭けてみましょう
「あ、あのぉ。ミィさんは今留守で」
「嘘をつくな! 貴様がミィだろう!」
あ、やっぱり気付いていました。
「えっとぉ……な、なんでしょうか」
「ミィはどこだ! 出て来い!」
「……は?」
また同じことを言い出しました。
もう私がミィだって事は、絶対分かってるハズ。
もしかして、あくまでも私から名乗り出ないといけないのでしょうか……
「四天王のミィという娘がいるはずだ! 出て来い!」
「……あの、私がミィです」
「ついに現れおったかミィめ!」
めんどくさい……なんですかこのモンスター。
「貴様のような小娘が、四天王に選ばれるのはおかしいだろう! 絶対にワシの方が強い!」
そう言って、鉄球を床にズシンと落としました。
部屋が揺れ、埃が立ちます。
丈夫な素材で出来ているのか、床は傷付いていないようですが。
そして私は大きな音に、ビクっと肩を震わせちゃいました。
私の情けない姿を見て、ムキムキ悪魔さんはふふんと鼻で笑ってます。
「はぁ……そ、それで一体何の用でしょうか……?」
「貴様を殺してワシが四天王になってやる! いざ勝負致せ!」
ムキムキ悪魔さんがそう言った瞬間。
ロボット兵士さんの一体が急に動き出し、ムキムキ悪魔さんに銃を乱射しながら突進して行きました。
急な出来事に、私が気付いたのは、二人が衝突するまさに直前。
あのロボット兵士は……二号さんです。
「なんだこの人形は! うおりゃあッ!」
ムキムキ悪魔さんは銃をものともせず、鉄球を振り回し、野球みたいに二号さんを打ち返しました。
二号さんは壁に衝突。
体中にヒビが入り、額のランプが消え……煙を立てて、動かなくなりました。
「に、二号さぁーん!」
なんという事でしょう。
たった数分で、二人の隊員を失ってしまいました。
申し訳ありません……隊長の私が不甲斐ないばかりに……
「そんな玩具でワシを倒せると思うたか! 自分で掛かって来い、この卑怯者!」
いえ、今のは二号さんが自発的に無謀な行動を……
と思っていると、ミズノちゃんがスッと無言で立ち上がりました。
いつもニコニコ可愛い笑顔なのに、今は無表情……いや、なんか怒ってます?
「おじさん、うるさぁ~い」
と言いながら、ムキムキ悪魔さんの方へ振り返りました。
「なんだ、もう一人子供がいたの……か……き、貴様、いやあなたは、四天王の……!」
ミズノちゃんが歩き出します。
ムキムキ悪魔さんは、微動だにせずそれを見ているだけ……というか動けないのでしょう。
さっき、ミズノちゃんの影が伸びて、ムキムキ悪魔さんにタッチしていました。これはミズノちゃんの得意技、金縛りの魔法です。
「私とミィお姉ちゃんは今、と~っても大事なお話してたの」
ミズノちゃんは鉄球に触れました。
その瞬間、鉄球がガラスのように粉々に砕け、床に飛び散ります。
ムキムキ悪魔さんの手には、鎖だけが残っています。
ただでさえ青いムキムキ悪魔さんの顔が、もっと真っ青に。
青が合わさり黒く、体調悪い人みたいになりました。
「帰ってくれるかしら?」
「は、はいぃぃッ!」
「掃除して帰ってね、おじさん」
「イエス、マぁぁム!」
ムキムキ悪魔さんは鉄球の破片を拾い集め、服のお腹部分をめくり簡易バッグにして破片を入れ、慌てて去っていきました。
さすがミズノちゃん。
あんな筋肉マッチョ大男にも物怖じせず、見事に撃退しちゃいました。
ミズノちゃんは両手で扉を閉め、こちらを振り向きました。
そして、はにかんだような笑顔を見せます。
「えっとね、お姉ちゃん……さっきのお話の続き」
「ちょっとちょっと、ミィちゃん達何があったの。さっそく二号の信号が途絶えたんだけど」
またもやミズノちゃんのお話が途中で遮られます。
今度は、博士さんがノックもせずに扉を開け、入って来ました。
あ、いや、部屋に入った後に扉をノックしてます。
「……お姉ちゃん、やっぱりまた後でお話するね」
ミズノちゃんは、引きつった笑顔でそう言いました。




