我が部隊(こまったやつらだぜ)
「これは高級な林檎ジュースらしいです。あ、炭酸が入ってますけど、ミズノちゃん大丈夫ですか?」
「うん。平気よ」
私とミズノちゃんは今、第四精鋭部隊業務室……つまり私のお部屋にいます。
博士さん以外は特に大きな報告も無く、会議は時間通りに終わりました。
ミズノちゃんは「サンイ様から待機してろって言われてまぁす」と、特に報告なし。
トサカさんについては、魔王様が「トサカ君については把握しています」と言われて、特に報告なし。(そもそも報告出来るのかは分かりません)
そしてヴァンデ様が広報部と福利厚生、スー様が経理部と一般兵の人事について報告されました。
私は今日就任したばかりなので、当然まだ報告事項はありません。
ですが、大人達の難しい会話を聞くだけでクタクタになりました。
会議の最後に、魔王様から四天王就任の辞令書を頂きました。
と言ってもモニター内の魔王様が読みながら、ディーノ様から実物を手渡されたのですが。
会議が終わるとヴァンデ様は、
「今日はもう帰宅して良いぞ。任務が決まり次第、明日にでも連絡する」
と言われました。
実は、私の任務はまだ決まっていないらしいです。
……ディーノ様はまず最初に広報活動をさせるつもりだったようですが、スー様に反対されちゃいましたからね。
「心配しなくても仕事は沢山ある。どれを優先してお前に割り振るか、検討中なだけだ」
とも言われてました。
私は会議参加だけで結構疲れちゃったので、お言葉通り帰宅しようかなとも思ったのですが。
ふと思いついて、ミズノちゃんをお部屋に誘ってみたのでした。
「それにしても、お菓子沢山持ってきたんだね。お姉ちゃん」
ミズノちゃんは、机の上に広げた大量のお菓子を見て驚いたようです。
「元々家にたくさん余ってたんですけど、先日四天王就任のお祝いでまた貰っちゃって」
私は二つのコップに林檎ジュースを注ぎ、ミズノちゃんの前に置きました。
「ありがとお姉ちゃん。うん、美味しいね」
二人で応接用のテーブルとソファに座り、ジュースにチョコ、マシュマロなどを食べます。
「ところでミィお姉ちゃん、これから何の任務につくの?」
優雅な仕草でお菓子を食べながら、ミズノちゃんが聞いてきました。
「それがまだ決まって無くて……あ、でも部下をスカウトしろとは言われてます」
四天王はそれぞれ自分の部隊を持ち、各々隊員をスカウトする権利を与えられます。
既に魔王軍内で働いているモンスターを入隊させても良いし、軍外の人を自由に連れて来ても良いそうです。
「へぇ。私は部隊なんて持ってないけどね」
ミズノちゃんは、というか私以外の三人の四天王は部隊を持っていません。
精鋭部隊と言いながら、一人だけの部隊です。
ただ博士さんはバイトを雇ってたり、昔は助手がいたらしいですが。
「一人で困る事とかはないんですか?」
「そうねぇ……別に無いかな。あっ、部下がいれば、雑用任せられるってのは楽かもね。ふふっ」
雑用ですか。
うーん、でも私みたいな子供が雑用押し付けられたら、部下たちに反乱を起こされそうな。
「お姉ちゃんなら、そんなのすぐに鎮圧できるでしょ?」
ミズノちゃんはそう言って、私の悲観的な想像に笑っています。
まあでもやっぱり、鎮圧できるかどうかはともかくとして、雑用を押し付ける目的で部下を選ぶのはやめておきましょう。
「じゃあ、クッキーお兄ちゃんを誘ってみたら?」
「私も最初はお兄ちゃんを誘おうかなと思ってたんですけど、地方のボスキャラはスカウト禁止らしいんです」
精鋭部隊へ入隊するには、両立が難しいのでボスキャラをやめないといけないらしいです。
でもボスは、その地方の有力者の推薦で選出されています。
それを破棄してまで精鋭部隊に入隊となると、色々なトラブルが発生してしまうと。
「そうなんだ。めんどくさいね。でもそもそもお姉ちゃんは、どういう部隊が欲しいの?」
「そうですね、えっと……」
特に考え付きません。
ヴァンデ様が部隊編成した方が良いって言ったので、何となくそうなのかなって……
っていうかまだどんな任務が私に割り振られるかも決まっていないので、どんな部下達が必要なのかさえ分かりません。
精鋭部隊……映画に良く出てくるマッチョの人達……
「そうだ。例えば隊員の皆さんが凶悪な人間さんに苦戦している……それもお調子者の隊員がヘマをして、無駄にピンチになっちゃった所で、リーダーの私が颯爽とカッコよく登場して助けるみたいな。私はニヒルな笑みを浮かべて言うのです。『まったく困ったヤツらだぜ。やはりお前らには、俺がいないとダメなようだな』」
「それって最初からミィお姉ちゃんが行けばいいんじゃないの?」
「そ、そうですね……そもそも、どんな部隊が欲しいのかって質問に対する答えになっていませんでした」
それにどうせなら、強い部隊の方がいいですね。
私とミズノちゃんは、なんだかおかしくなって笑い合いました。
「でも部下なんてめんどくさいよ。オジサンなんて、バイトくん数人の管理だけで、てんやわんやなのに。一人が気楽でいいって絶対。あ、ミィちゃんオジサンにもジュースちょーだい」
「あ、はぁ……」
私はテーブルの上に余っていたコップを一つ取り、ジュースを注ぎ……
「って博士さん! い、いつの間にぃ」
「やー、これは良い林檎ジュースだね。アルコールを入れたい」
いつの間にか部屋に入っていた博士さんは、ジュースを一口飲んでそう言いました。
「やあゴメンね。一応ノックしたんだけど、ミィちゃんに聞こえなかったみたいで。なんか『やれやれ困った奴らだぜやれやれやれ』とか言ってたけど」
「それは忘れてください……! そんなにやれやれ言ってませんし」
私は博士さんを軽く睨みつけました。
とは言え……
博士さんはただの変なおじさんだと思っていたのですが、実は先程の会議で、ちょっと見なおした所なんです。
会議時間の七割くらいが、博士さんの報告だったのです。
巨大ロボットさんの事や、変な発明品達についてとか……博士さんだけ報告事項が山盛りです。
他の四天王は報告事項ゼロだったのに。
もしかして、魔王軍で一番忙しいおじさんなのかもしれません。
私をからかう時間は、充分にあるみたいですけど。
「おじ様、何の用かしら?」
「ミィちゃんを被験……じゃなかった、ミィちゃんの四天王就任アンドお引越し祝いに、オジサン特製のアイテムをあげようと思ってね」
そう言って博士さんは、持っていたアタッシュケースの留め具を外しました。
私の事を『被験者』と言いかけたような気もしますが……
「しかもナイスタイミング。部下が欲しいって話にピッタリなアイテムなんだよ」
ケースの蓋を開けると、五体のお人形が入っていました。
一つ一つはコーヒー缶くらいの大きさで、形もまさにコーヒー缶のような寸胴体形。
額にそれぞれ一から五までの数字が書かれています。
「なぁに、これ。あんまり可愛くな~い」
「このお人形は一体何です?」
「これはオジサンの新兵器。自分で考えて勝手に動くロボット兵士なんだよ」
博士さんが説明します。
自律型ロボットシステムを開発中で、その実験用の試作品らしいです。
巨大ロボットさんの妨害電波対策の一つとして、そもそも遠隔操作自体を必要としないシステムを研究中との事。
「まだ研究段階だからオモチャみたいなものだけど、丁度良いのでミィちゃんがテスト使用してくれないかな。不満とかあったらオジサンに言ってね」
博士さんは『一』と書かれているロボット兵士を掴み、首の後ろにあるカバーを外しました。
カバーの中には、レバーをオンオフさせるトグル式のスイッチがありました。
博士さんがスイッチをオンにすると、ロボット兵士さんの額のランプが光ります。
空き缶のような体から手足がにょきっと生えてきて、機械音を立てて動き始めました。
「オハヨウゴザイマス、ミィチャン様! ボクハ一号デス!」
「わあっ、喋るんですね。よろしくお願いします一号さん」
「今のはオジサンの腹話術だけど」
「……」
しかしこのロボット兵士は良いかもしれません。
スカウトやコミュニケーション、そして反乱もろもろその他、私が懸念していた問題が一気に解決します。
それにひょこひょこと動く姿を見ると、中々可愛いような気もしてきました。
「えっと、なんか不安もありますが……とりあえずありがとうございます博士さん。この子達で部隊編成してみます。いいように実験に付き合わされている気もしますけど」
「おお、テストやってくれるんだねミィちゃん」
博士さんは一号さんを持ち上げて、再び首のカバーを外しました。
一旦スイッチを切るみたいです。
「これでミィちゃんの精鋭部隊が発足だね。隊長がカチカチ少女で隊員も機械の身体だから、カチカチ軍団と名付けよう」
「そのネーミングは嫌です……」
「でも、そのロボット兵士さん達ずいぶん小さいけれど、戦力になるの?」
ミズノちゃんが怪訝な目をして言いました。
博士さんは、一号さんの首のスイッチを摘みながら答えます。
「そこはまあ、あくまで実験試作品だからあんまり期待はしないでね。防水処理とかもまだしてないし。でも銃とか搭載してるからそこそこの戦力には……あーこのスイッチ硬いな……あっ」
バキッという音がしました。
スイッチが折れてしまったようです。
そしてその反動で一号さんは、博士さんの手から勢いよく滑り落ちます。
落ちた先には、博士さんが飲んでいたジュース入りのコップ。
コップは倒れ、こぼれたジュースが一号さんの全身を濡らし……
破裂音がし、煙が立ち、一号さんは動かなくなりました。
「い、一号さぁーん!」
我が部隊は発足早々、隊員が一名殉職しました。




