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命令(のーかうんと)

「あんた、なんで酒飲んでんのよ」

「あー、ちーちゃん。来てくれたんだありがとー」


 私の前世、美奈子さんが一人お酒を飲んでいると、ちーちゃんさんが訪ねてきました。


「酒はダメだって言われたんでしょ?」

「ふふふ、それは手術前のタイミングだから指示された事。手術が終わった今は、別に指示されて無いしノーカン! ノーカウント! だから飲んでも良いと判断したのだよー!」

「ダメでしょ普通に……」


 ちーちゃんさんは美奈子さんの手からお酒を取り上げちゃいました。


「ノーゥ!」

「代わりにミネラルウォーターあげる。それよりほら、私達のゲームの完成データだよ」


 ちーちゃんさんは、机の上に置いてあるノートパソコンにフラッシュメモリを差し込みました。


「サンキューちーちゃん。ここインターネット環境無いから、わざわざ持ってきてもらっちゃってー……あ、完成って言ったけど、結局未完成のままじゃーん!」

「仕方ないでしょ、締め切り来ちゃったんだから」

「もー、みんな遊んでばっかいるからー!」

「あんたがすぐに部室で飲み会開いてたからでしょ」


 美奈子さんとちーちゃんさんは、顔を合わせて笑い出しました。

 笑い過ぎてむせた美奈子さんは、お水を一口。


「ちゃんと完成させてあげたかったなー。このゲーム」




―――――



「今日の説明は全て終わった。何か聞きたい事はあるか」


 私用のお部屋を案内してもらった所で、ヴァンデ様がそう言われました。


「聞きたい事ですか、えっとぉ……」

「冊子やメモを軽く読み直して確認すると良い。後で聞きに来ても良いぞ」


 ヴァンデ様、まるで学校の先生みたいです。

 私がメモを取ったノートを開くと、同時に部屋の扉もガチャっと開き、再び博士さんが顔を出しました。


「ねえねえミィちゃん。この銃いる? 撃つとビームが出て、それに当たった人は偏頭痛を起こすんだけどさ」


 と要件を言った後に、思い出したように遅れて扉をノックします。


「えぇ……いらないですそんなの」

「えー、これもいらないの? うーん、じゃあヴァンデ様いる?」

「私はその程度、機械などなくとも魔法で出来る」

「えっマジ。怖っ……でも、これ追加でドライヤーの機能もあるのよ」


 博士さんがそう言いながら、機械に付いているボタンを押しました。

 ブオーという音と共に、風が出てます。

 その機能に、意外にもヴァンデ様が食い付きました。


「なるほど、多機能性があるのは野戦の兵士に良いかもしれんな……ドライヤー以外の機能はないのか」

「おっ、珍しく好感触。音楽プレイヤーも付いてるのよ、この頭痛ガン」

「そうか。頭痛機能は必要無いがな」


 お二人が話し合っている間に、私はメモを読み直します。

 給料や福利厚生については、正直私だけでは何が良いのか悪いのかも分からないので、後でママ達と確認するとして。

 今は私の業務内容について確認してみましょう。


 まず魔王軍の目的は、『モンスターの繁栄、人間社会の掌握』です。

 そのために私がやる事……


『やること① 部隊編成する』

『やること② 幹部会議で決まった任務をこなす』


 とりあえず大きく分けるとこの二種類です。

 メイン業務は②。

 それを楽にするために、事前に①をやっておく。



 ①、部隊編成について。

 隊員は、隊長の私自らスカウトしないといけません。

 ただし、必ずしもやる必要は無いとの事。そもそも他の四天王は全員、自分の部隊を持っていないらしいですし。

 自部隊が無くても、必要なら他のモンスター部隊をお借りする事もできるようです。

 さっきも博士さんが、機材搬入のためにオーガさん部隊に応援を頼んでいました。


 でもヴァンデ様は、自分の部隊を持っておいた方が良いと言われました。

 確かに、その方が色々と便利だと思います。

 ……だけど、私なんかにスカウト活動出来るかどうか……知らない人に声を掛けたりって、怖いし……

 そもそも精鋭部隊に入れそうな人を知りません。

 うぅ……一応頑張ります。



 ②、任務について。

 一般兵には困難な特別任務が、私たち四天王に割り振られるらしいです。

 基本的には、私の特性を活かせる任務が来るというお話です。


 私の特性というと、防御と素早さがカンスト。

 それを活かせるというと自爆テロ(自分だけは死なない版)とか……怖い想像はやめておきましょう。

 具体的な任務は分かりません。

 まだ決まっていないのかもしれませんが、ちょっと質問してみましょうか?


 ……いや、よく考えると、既に一つ任務を与えられていました。

 四天王就任が決まる前に言われてた任務ですが……



 扉が閉まり、博士さんが帰っていきました。

 結局ヴァンデ様は、頭痛の銃を受け取らなかったみたいです。


「あの、ヴァンデ様。一つ質問してもいいですか」


 メモ確認中に思い出した事を質問します。


「任務なんですけど……以前言われていた、『勇者さんを倒せ』って命令は今後どうすればいいのでしょうか?」


 勇者さんを倒せ。

 この命令は、私が四天王になるキッカケを作るために、与えられた命令です。

 勇者さんを倒す前に、本来味方であるはずのミズノちゃんを何故か倒しちゃって、そのまま四天王になったんですけど。

 四天王になるため、という動機が無くなったとしても、魔王軍にとって勇者さんは邪魔な存在。

 倒さないといけないはずです。


 それに勇者さんが魔王様のお城まで来ちゃうと、ゲームがフリーズしてしまいます。

 この世界でのフリーズが何を意味するのかは分かりませんが……


「その事か……」


 ヴァンデ様が私の顔を見ました。

 心なしか、表情が硬くなったような。


「あれはもう撤回する。しばらくは勇者に手を出すな」

「えっ?」


 意外な答えに、私はさらに質問しました。


「勇者さんを放っておいても大丈夫なんですか?」

「……以前言っただろう。勇者を使って、人間とエルフの戦争を起こす」

「でも、それはもう……」


 勇者さん達はもう、エルフの里から撤退しました。

 それに戦争の計画も、勇者さんの仲間達にバレちゃってたはずです。


「サンイ様派はまだ諦めていないようだ。それを差し置いて、私がお前に四天王を倒せと命令する事は出来ない」


 元々ゲームでは勇者さんの強盗行為により、エルフさん達が人間さん達を敵視し、攻撃を仕掛けるようになるはずでした。

 『戦争』という仰々しい言葉は使っていませんでしたが。

 細かい流れは変わってしまっていますが、概ねそのストーリー通りに進んじゃうという事なのでしょうか。


 でも、エルフの里が戦争を起こすという事は。


「……ヴァンデ様は……エルフの里って、ヴァンデ様のお婆様の故郷で……その、戦争しちゃっても良いんですか?」


 私の質問に、ヴァンデ様が珍しく驚いたような顔をしました。

 この表情は、初めてお会いした時に見た以来です。


「そうだな。魔王様の意向もあるので仕方ない」

「で、でも」

「俺……私も出来れば止めたかったが、この作戦は既に魔王様が関与している」


 ヴァンデ様は私から目を逸らしました。

 いつもは私の目を見て話されて、その視線に耐えられず私が目を逸らしちゃうのに。

 今は逆です。


 やはりヴァンデ様は、エルフさん達を戦争に巻き込みたくないと思っているようです。


「あの時。勇者がエルフの里へ現れた時に、既に魔王様の命令が下っているのだ」

「あの時……」


 それは私がエルフの里を訪ねた時。

 その時に命令が……


 ん?


「えっとぉ、ヴァンデ様。エルフの里での騒動後にも、改めて魔王様から『戦争を起こせ』って命令があったのですか?」

「いや……? それは無いが、しかし」


 ふと、頭の中に言葉が浮かびます。



「エルフの里に勇者さんが来ていたあのタイミングだから命令された事。勇者さんが去った今は、別に命令されてないしノーカン。ノーカウント」



 私は気付いたら、思いついた事を喋っちゃっていました。

 こんな事言ったら失礼かもしれないのに。

 どうしても今、言わなきゃいけないような気がして。


「だから、勇者さんを倒しちゃっても良いと判断……あ、えっと……すみません……判断しちゃったら、ダメですか?」


 さっきまで目を逸らされていたヴァンデ様が、今度は私の目を見つめてきました。

 あ、やっぱり怒られる……と、私が身をすくめると、ヴァンデ様は再び目を逸らします。

 と言っても、先程のようにそっぽを向くような逸らし方ではなく。

 何かに耐え切れず、俯いてしまったような。


「ふ、ふふふ……くっふふ……」


 ヴァンデ様が肩を震わせています。

 これは怒られ……


「フフフフ……ハハハッ! アーッハッハハハ!」


 怒られ……ません。

 笑ってます。


 えっ!

 あのヴァンデ様が、笑ってます!?


「くふふふ……し、失礼。フフ、さすが俺の見込んだモンスターだな。ミィよ」


 いつも鋭い目付きで無表情を貫いているヴァンデ様が、今は歳相応に、楽しそうに笑っています。

 歳相応。そうです。ヴァンデ様は、私よりたった五、六歳年上の男の子なのでした。


「そうだな、その通りだ。改めて俺がお前に命令する」


 ヴァンデ様は、笑顔で私の肩を掴まれました。

 いつもと全く様子が違うその顔に、私はちょっとドキっとしちゃいました。


「四天王ミィよ。勇者を倒せ」




「ねえねえミィちゃん、この筋肉痛を誘発する薬は……あれ、ヴァンデ様なんか珍しく楽しそうだね」


 博士さんがまたノックもせずに入って来ました。

 ヴァンデ様は、博士さんの持ってきた薬について詳しく聞いています。

 その間に、私はノートを開き、新しくメモを取りました。



『やること③ 勇者さんを倒す!』

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