隣人(とらぶる)
想像以上に良いお部屋です。
一つの部隊の業務室というだけあって、軽いパーティーも開けそうな程の広さ。
板張りの床に、真っ白な壁紙。
まるで映画に出てくる洋館のお部屋です。もし高級カーペットや暖炉があれば完璧映画です。
あと何故か、天井が物凄く高いです。
普通の建物なら三階か四階分くらいありそうな、贅沢な作りです。
巨大なモンスターさんでも入れそうです。
こんな素敵なお部屋をありがとうございます。
と、お礼を言おうとしたのですが。
「あ、あの。お部屋ありがとうございます」
「……すまない、聞こえなかった」
「あのー! お部屋! ありがとうございますぅー!」
大声で話さないといけません。
なぜなら隣の部屋が、滅茶苦茶うるさいからです。
工事でもしているのか、それとも衝突実験でもしてるのか。
金属音や機械音や爆破音が入り交じっています。
それにしても、最近は大声を出す機会が急に増えました。
苦手だったのですが、中々良い声が出せるよう、私も成長したみたいです。
「この部屋、いつもこんなにうるさいんですかー!」
「いや、いつもは別に……一旦部屋を離れるぞ」
私達は部屋を出ました。
騒音を響かせている隣の部屋を見ると、扉の上にあるプレートに研究開発室と書かれています。
この名称、もしかして……
「あれ。ヴァンデ様なんでここに? 今日なんかあったっけ」
研究開発室の扉を開け、白衣を着た髪の毛ボサボサの男性が現れました。
以前、モニター越しに会ったことがあります。
巨大ロボットさんの開発者、実質四天王のお一人、博士さんです。
やっぱり、このおじさんでした。
「聞こえん」
「ああゴメンゴメン」
博士さんはそう言って開発室の中に戻りました。
数秒後、あの酷い音が止み、再び博士さんが顔を見せます。
「うるさくしちゃってゴメンなさいね。今丁度新しい……あれ。その子供、もしかしてミィちゃん?」
やっと私の姿に気付いたようです。
ここは挨拶を……この場合は『始めまして』なのでしょうか、『お久しぶりです、その節はどうも』なのでしょうか。
分からないので無難に『こんにちは』にしておきましょう。
「あ、あの。こんに」
「いやあ、本物のミィちゃんだ。映像で見るより小さいんだね」
「ち、ちいさ……」
そういう博士さんは映像で見るより背が高いです。
……って、それじゃ褒め言葉になってしまうので、黙ってます。
黙っていると博士さんは、まるであやすように私の頭を撫でました。
子供扱いはやめて欲しいのですが。
「それで、なんでミィちゃんがここに?」
という博士さんの質問に、ヴァンデ様が答えます。
「今日からこの部屋の隣は、第四精鋭部隊の業務室となる。その責任者がミィだ」
「えっ嘘。聞いてないよオジサン」
「以前から伝えていたはずだが……そのカレンダーに書かれている文字はなんだ」
ヴァンデ様が部屋の中を指さしました。
壁に掛かっているカレンダーの今日の日付部分に『ミィちゃんお引越し。音の出る作業ここから禁止!』と書かれています。
「あー……オジサンすっかり忘れてた。今日だったのか。まいったなあ、ロボの動作試験とかあるのに」
「実験室や工場が別にあるだろう。この部屋で試験する必要は無いはずだ」
「いやー、ここと実験室を一々往復するの面倒だしさあ。オジサン歩くの嫌いで」
博士さんは面倒くささを強調するかのように、頭を掻きながら喋っています。
「今まではこの部屋でバイト君達が巨大ロボの遠隔操作してたから、大きな音立てないように気を遣ってわざわざ実験室まで行ってたけど。今はロボ修理中でバイト君いないし」
巨大ロボットさんは、先日のテレビ局での一件により大破しました。
私が壊し……いや、人間さんに操られたからです。
今は世間には遠征中という名目で、テレビ出演等はキャンセルしているようです。
「誰に気を遣うわけでもなくなったから、ここで試験とか実験し放題やってたらこれが楽ちんでさあ。オジサンもうあの頃には戻れない」
「戻れ」
「あ、うん。分かりました。怖い顔しないでよ。あーあ、機材とか移動させなきゃいけないか」
博士さんはぶつぶつ言いながら、部屋の中に戻り、扉を閉めました。
「もしもしオーガ部隊の隊長さん? 至急、力仕事のお手伝いしてくれる若いのを二、三人貸して欲しいんだけどさあ」
扉の向こうから博士さんの声がします。
どうやら他の部隊に応援を頼んでいるようです。
「こういう時に自分の部隊を持っていると便利になる」
「なるほどぉ……」
ヴァンデ様の言葉に頷きつつ、騒音問題も解決した所で再び私のお部屋へと入室しました。
そう言えば、昨日博士さんが勝手に私への取材を許可してた件について、抗議するを忘れていました。
まあお隣さんならまたすぐに会う機会はあるでしょうが。
改めて私のお部屋を見渡します。
まだ置かれている物は少ないですが、広いお部屋の一番奥には、豪華な机と椅子が一セット置いてあります。私の席ですね!
その机から少し離れた所に、応接用でしょうか、六人くらい、詰めれば八人くらいは座れそうな、大きなテーブルとソファがあります。
他にはまだ何も無いため、走り回れそうな広々としたスペースが。
「こんな凄いお部屋、私なんかにありがとうございます」
さっきは騒音に邪魔されたお礼を、改めて言いました。
「魔王様から与えられた業務室だ。お礼なら魔王様に言う事だ」
ヴァンデ様はこちらを見ず、部屋の奥を眺めながらそう言われました。
まさか照れて……るワケは無いですよね。
「ねえねえミィちゃん、爆弾いる? 余っちゃったのがあるんだけど。オジサン特製だよ。村一個は吹き飛ぶ」
急に扉を開け、博士さんがそう言ってきました。
そして台詞の後に、開けた扉に向かって今更ノックを二回しています。
「ば、爆弾? いらないです……」
「えー、あると結構便利なのに。じゃあ地雷は?」
「それもいらないです……」
「へえ。じゃあこれどうやって処分しよう」
自分で処分して欲しいです。
さっそく、怪しい隣人から変なものを押し付けられるパターンになりつつあります……
「んじゃまあ、とりあえず妖精さんの部隊にあげてこようかな。彼ら何でも欲しがるんだよねえ」
そう言って博士さんは部屋から出て行きました。
妖精さんが危険じゃないんですか……
と思いましたが、ヴァンデ様が何も言わないって事は平気なのでしょうか。




