ゴリラ(おおかみだもん)
最後、三つ目のテレビ出演は、夜のニュース番組でのご挨拶。生放送。
巨大ロボットさんとの共演です。
巨大ロボットさんが大きすぎて建屋に入れないので、入り口前の広場で公開生放送です。
必然的にギャラリーもたくさん集まっています。ヤダ……帰りたい……
「や~、子供をこんな夜にまで働かせちゃってゴメンね~。ホントはもう晩御飯の時間でしょ~? ネズミ食べる~?」
「い、いえ。それはいいんですけど……」
そんなことより、次の生放送で失敗しないかどうかで頭が一杯です。
生放送はもう二度目。スピーチ内容も『こんにちは』が『こんばんは』に変わったくらいで、ほぼ同じ。広報活動に慣れている巨大ロボットさんも一緒にいてくれる。ギャラリーは気にしちゃダメです。さあ頑張って私。
などと、心の中で自分を励ましていたんですけど……
「夜のニュースは、昼に比べて五倍以上の人が視聴するんだよ~。ここでアピール頑張らないとね~」
と、先程フォローさんから余計な一言を受け、自己暗示も吹き飛ぶ程にますます緊張してしまっているのです。
「じゃあ~、妹ちゃんは巨ロボさんの肩に乗って、上空撮影で二人の顔を同時に映して~」
「えっ……そ、それは無理です! 無理……」
「なんで~?」
「うぅ、それは……その……」
高い所が怖いからです。
「じゃあ巨ロボさんに体育座りしてもらって~、カメラワークでどうにかするか~。よろしくねカメラマンさ~ん」
フォローさんの言葉に対し、カメラを持った牛のモンスターさんが、手でオーケーサインを作りました。
「ヨロシクネ。頑張ロウネ、ミィチャン!」
「はいっ。よろしくお願いしましゅ! ががが頑張ります!」
なんて、巨大ロボットさんの激励に応えている内に、撮影の準備も整ったようです。
「もうすぐスタジオからこちらに映像が切り替わりま~す。まずアナウンサーさん。次に巨ロボさんにカメラ行きますので、妹ちゃん……ミィちゃん様の紹介お願いしますね~」
「任セテ!」
「よろしくお願いします。ミィ様」
「あっ、こ、こちらこそお願いしますっ」
アナウンサーさんがお辞儀をしてきたので、私も慌てて挨拶を返します。
よくテレビで見る、女性の鳥人さんです。
カメラマンさんの横に置かれた小さなテレビに、ニューススタジオの様子が映りました。
ニュースキャスターさんが「魔王軍新四天王に就任したのは、なんと十歳の人狼」と喋っています。
ああっ。私の顔写真がでかでかと映像に……は、恥ずかしすぎるぅ……
「それでは、ご本人に中継が繋がっております。鳥居アナ、お願いします。」
ついに来ました。
ゴールデンタイム生放送。
「はい、鳥居です。今日はもうすぐ四天王に就任されるミィ様より、ご高説を拝聴しようと思います。まずは同じ四天王の巨大ロボット様より、ご紹介して頂きます」
ご高説っていうか、魔王軍の広報の皆さんが考えた台本ですが……
「ヤア、モンスターノ皆サン! 巨大ロボットダヨ! 今日ハ新シイ、僕ノ強イ味方ヲ紹介スルヨ!」
カメラが巨大ロボットさんの顔に向きます。
「マダ小サイケド、勇者ヲ倒シタ程ノ実力者!」
べ、別に勇者さんは倒してませんけど! 話が大きくなってますよ!
「ソノ名モ! ミ……ミミミミミミミミミミミミミミ……ピーーーーー」
「え?」
「……あの、巨大ロボットさん?」
急にピーと言って、そのまま喋らなくなりました。
さっきまで、目とか、腕とか、体の色んな所がピカピカ光っていたのですが、全部消灯してしまっています、
私とアナウンサーさん、それにフォローさん達スタッフも困惑しています。
故障でしょうか?
「皆様、しばらくお待ちください。巨大ロボット様にアクシデントが」
『我々は! 世界平和連盟のものである!』
急に、拡声器による叫びが聞こえました。
五、六人の武装した集団が、ギャラリーを掻き分けながらやってきます。
朝暴れていた、人間さんのデモ部隊です。
生放送中を狙ったのでしょうか。
嫌なタイミングで、嫌な人達が来ちゃいました。
「現場でトラブルがありましたので、一旦スタジオの方へお返しします」
アナウンサーさんが冷静に言い放ち、スタッフさん達が中継を切りました。
慣れてる……さすがプロ。
……あれ。これもしかして生放送をウヤムヤに出来るチャンスなのでは!
「こ、これは大変ですね、あのぉ、今日は一旦解散で」
「ごめんね妹ちゃ~ん。すぐにデモ部隊追い払って放送再開するから~。ん~、でも動かなくなった巨ロボさんどうしようかな~」
ああ、スタッフさん達は再開する気満々みたいです。
まあお仕事だから当然ですが……
生放送中継は終わりましたけど、デモ部隊は元気に演説を続けています。
ギャラリーの皆さんは危険を恐れて、遠巻きに離れて行きました。
『我々の再三の警告を無視し! いつまでも電波を占有し続け!』
そんな叫びを聞いて、
「もう違法視聴してることも隠さなくなったよね~。あの人間達~」
などと、フォローさんとカメラマンさんがのんきに会話しています。
そんな緊張感の足りない空気ですが、デモリーダーさんは叫び続けています。
『あろうことか新しい四天王などと! しかもそれが今朝の怪しい妖術を使う、銃も効かぬ怪物娘ー!』
「か、かいぶつぅ……?」
『その見た目も我々人類を騙すため、妖術により作った擬態であろーう! 真の姿はゴリラに違いなーい!』
「ご、ごりらぁ……」
散々な言われようです。
「わ、私ゴリラじゃなくて狼ですぅぅ」
『え、何ー!? 聞こえないぞゴリラ娘ー!』
抗議が届きませんでした。
「……ゴリラじゃないもん……狼だもん……」
「あははは。気にしちゃダメだよ~」
フォローさんが笑っています。
そんな事言ってる間に、朝のように警備員さん達がやってきて、デモ部隊に帰るよう説得を始めました。
「テレビ局ノ皆サン。アノ、リーダー格ノ人間サンヲ、捕マエテ下サイ!」
「えっ?」
急に巨大ロボットさんの声がしました。
故障が直ったのかと思い、皆でロボットさんの顔を見ましたが、目が消灯したままです。
「コッチデス!」
声のする方に顔を向けると、青い小鳥さんが……いや、これは機械?
「緊急ニヨリ、小型メカカラ話シマス!」
小鳥さんから、巨大ロボットさんの声がしているようです。
「いや~、こんな小さいロボットもいるんだ~。凄いね~」
「人間を捕まえろとはどういう事ですか。巨大ロボット様」
というアナウンサーさんの問いに小鳥さんが答えようとした時、またもやデモリーダーさんが叫びました。
『既に巨大ロボットは我々が掌握しているー!』
「掌握~?」
「アノ人間サンノ言ウ通リデス。妨害電波ニヨリ動ケマセン。ハッキングサレテイマス! コノママデハ……」
『もうすぐ、巨大ロボットを我々が操作出来るようになるのだーぁぁぁ……おいコラ! 何をするー!』
『リーダー!』
警備員さんがリーダーさんを捕まえて、縛り上げ、こちらへ連れてきました。
「私を拘束しても無駄だー! ある同士団体が、遠方よりハッキングしているのだー!」
リーダーさんは拡声器を取り上げられているのに、さっきと変わらない程のでっかい声で話しています。
「ん~。遠方からハッキングって本当ですか~? 巨ロボさ~ん」
「本当デス! 遠隔電波妨害ニヨリ、魔王城カラ操作出来ナイ状況デス。操作権ヲ奪ワレルノモ時間ノ問題デス!」
「はーっはっはっはー! 巨大ロボットが暴れるという醜態を、生放送で晒すがいいー!」
「生放送中継はもう切ってますが」
「何ーーッッッ!?」
……このやり取りの中、私は考えました。
巨大ロボットさんの妨害電波。
この展開、私知っているかも……
そう、これは確か、というか案の定。飲み会で作った設定で……
「新たな四天王という非常事態に、我々はとある団体と手を組み、巨大ロボット乗っ取りを画策した!」
「ソコヲ知リタクテ、アナタヲ捕マエタノデス。一体ドノ団体デスカ」
「それは言えーん!」
「反モンスター同盟……」
私がポツリと呟いた言葉に、リーダーさんが目を見開きました。
「何ぁぁ故、それを知っているのだゴリラ娘ー!」
「ごっ、ゴリラじゃないもん! 狼だもん!」
ゴリラ呼ばわりに対する抗議。
やっと、伝えることができました。




