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公共の電波(きちょうなしげん)

「ててててテレビなんて無理無理無理無理無理ですうううう」


「番組別に台本を用意しておいた。この通りに話せばいいだけだ」


 私の必死の泣きつきも虚しく、というか無視され、ヴァンデ様の段取り説明が続きます。


 ディーノ派の方針として、四天王は積極的にメディアに出て、一般モンスター達に魔王軍をアピールする。

 巨大ロボットさんがヒーローショーをやっているのもその一環との事。


「テレビと言っても魔王軍営の放送だ。多少の不慣れは周りがどうにかする。安心してスピーチする事だ」

「すぴぃち……」


 私は一瞬気絶しました。




―――――



 翌日、ドラゴンさんに乗って、テレビ局へと赴きました。


 高所恐怖症の私は空を飛ぶ途中で気を失って……いやもうそれはいいんですけど、とりあえずドラゴンさんに起こされ、背中から降り、テレビ局の玄関前に辿り着きます。



「……お腹痛いって言えば、帰ってもいいかな」

「あ、妹ちゃん……じゃなかった、四天王のミィちゃん……様ー。待ってたよ~」


 私が仮病を検討していると、玄関前にいた男の人に見つかり、声を掛けられてしまいました。

 男の人は涼しい目元で、ここでは少々場違い気味な和服を着ています。

 長い金髪を後ろで束ね、その頭には黄色く大きい耳。お尻にも黄色い尻尾が。


「まさか妹ちゃんが四天王になるなんて。クッキーのダンナも喜んでたでしょ~」



 この方は、魔王軍の広報で働いている、化け狐のフォ郎さんです。

 私はフォローさんと呼んでいます。


 狼と狐で別種族ではあるのですが、お兄ちゃんの昔からのお友達です。

 お兄ちゃんが人狼のボスになった時から『ダンナ』と呼び、慕っています。

 お友達なのにダンナ呼びってのもなんだかおかしいのですが……


 何故ダンナと呼ぶようになったのかというと、ゲーム中で勇者さんに「クッキーのダンナの仇!」と叫ぶからだと思われます。

 耳とか尻尾とかカラーがモロに狐なんですけど、製作チームの和田さんが狐でなく狼だと思い込んでいて、この台詞をあててしまったのです。



「狐も狼も同じっしょ。犬じゃん」

「確かに。じゃあオッケー」



 という会話が和田さんと、前世の私である美奈子さんとの間で交わされ、そのまま採用されたのです。

 まあ私とお兄ちゃんが生き残った今となっては、この台詞が使われる事はおそらくないのでしょうが。


 フォ郎という名前も狐、フォックスから安易に来ている事は言うまでもありません。



 ともあれ今日はこのフォローさんが、私を補佐してくれる事になっているのです。



「さあさあ局へ入って入って妹ちゃん。いやミィ様? なんて呼べばいいんだろ~今後」

「えっと……今まで通りでいいです」

「じゃあ妹ちゃん。さあ案内するよ、オニーサンについておいで~」


 フォローさんは楽しそうにケラケラ笑いながら、私の頭をポンポンと軽く叩き、局の中へと入りました。

 子供扱いされている気がします。


「さあ、まずは一つ目の番組のスタジオに行こうかね~」


 はっ。いけない。このままではテレビ出演してしまいます。

 私の性格的に百パーセントへまをして、赤っ恥をかくに決まっているのです。


「あ、あのぉ。お腹が」

「お腹空いてるの~? スピーチ前にそりゃ大変だ。あ、あそこにちょうどネズミの穴があるけど~」

「うぅ……いえ、やっぱり大丈夫です」


 お腹痛いから帰ります作戦は、早々に潰されました。


「ネズミは嫌いだったっけ~?」

「そ、そうですね。生はちょっと」

「今の子はゼイタクだな~」


 私と五歳くらいしか変わらないのに、まるで年寄りみたいな事を言っています。


「まさか、お腹痛いから帰る~なんて、四天王なら言わないだろうし~」

「ひぅっ……」


 フォローさんは、再び笑いながら私の頭に手を置きました。

 ……バレてる。



「さあ行こう。最初はお堅いニュース番組だよ~」



 フォローさんがそう言った直後。

 急に、後方からけたたましい爆破音がしました。



「ふぇぇっ!?」


 突然の轟音にビックリした私は、フォローさんの背中にしがみ付くように隠れました。

 顔には生暖かい爆風が当たり続けています。


 音がした方を見ると、ついさっきまで私達がいた玄関の扉付近に、煙がもうもうと上がっています。

 その煙の中に、複数の人影が。

 あれは……


「に、人間さん……ですか?」



『我々は! 世界平和連盟のものである! モンスターは即刻、公共の電波の占有をやめなさーい! 電波は貴重な資源だー! モンスターが使うべきではぬぁーい!』



 武装した人間さん達が、拡声器でデモを始めました。



「いや~。今日も盛大に始まったね~」


 フォローさんがのんきな口調で言います。


「きょ、今日もって……」

「毎日こんなのが来てさ~。平和連合とか、浄化会とか、反モンスター同盟なんて分かりやすい名前のトコもあったな~」

「なるほどぉ……」


 そう言えばゲーム中にも反モンスター同盟が出て来て、勇者さんに裏金で資金援助するという、ちょっとアレなイベントがありました。


「公共の電波を占有って言ってますけど……モンスター用の放送って、人間さんは見る事出来ないんじゃないのですか?」

「いや~、見る手段なんていくらでもあるからね~。もちろん勝手に見るのは非合法だから、連日来るなんとか連とかなんとか会の人達は完全に言いがかりなんだけど~」


 オトナの世界は色々とめんどくさいんですね。


「まっ、いつものように警備のモンスター達が来てすぐに鎮圧するから、放っておこうか~。ボクらはさっさとスタジオに行くとしますかね~」

「えっ。あっ、はぁ……」


 そう言っている間に警備服を来た屈強なゴーレムさんとケルベロスさん達がやってきて、人間さん達を建屋内から出て行くように誘導しています。

 どうでもいいんですが、三つ首犬のケルベロスさんが警備服を着てるのは、なんだかちょっと可愛いですね。


 とりあえずここは警備員さんに任せる事にして、フォローさんと私は、スタジオへ向けて歩き出しました。



 しかし……



『そこの赤い髪の小さな人狼の子供ー!』



 拡声器で叫ばれたその言葉を聞き、私は周囲を見渡しました。

 そして私の他に該当する子はいない事を確認します。


「…………えー。わ、わわ私ですかぁぁ?」

『そう、君だー!』


 まさかのピンポイントで、私がデモ部隊に呼び止められてしまったようです。


『ちょっと君小さいし人質によさそうだから、こっちに来てくれー!』


 人間さんがとんでもないおバカな要求をしてきました。


「えええぇぇ……絶対無理ですけどぉ……」

『頼むよのど飴あげるからー!』

『リーダー! 小さい子はビスケットの方が良いかとー!』

『そうかー! ビスケットあげるからおいでよー! 非常食用の固いヤツだけどー! 小さい子は好きだろビスケットー! 小さい子はたくさん食べなきゃビスケットー!』


 さっきから小さい小さいって失礼ですね。



「あらら。だってさ~妹ちゃん。ビスケットだって。お腹空いてるんでしょ、どうする~?」


 フォローさんは面白そうに笑っています。


「えっと、餓死しても行きたくないんですけど……」

「だよね~。じゃあ無視してスタジオに行こうか~」


 私たちは再び歩き出しました。


『おーいおチビちゃん! 待ちなさい!』


 もー、しつこい人達ですね。と思い、チラッと振り向くと……




 人間さんの一人が、拳銃をこちらに向け、引き金に指をかけようとしていました。




 警備員さん達の隙間から、私を狙っています。



 私が銃撃を避けたとしても、フォローさんや他のテレビ局員さん達に当たってしまう。

 そう思った瞬間、つい身体が勝手に動き……

 数十メートルあった人間さん達との距離を一気に詰め、拳銃を構えている人間さんの横に回り込みました。

 銃を奪おう……としたけど、私の力では無理だったので……


 仕方なく、私は拳銃の先を手の平で包み込み、銃口をピタっと塞ぎました。


 うわー怖い怖い怖い怖いぃぃ。


 イチかバチかの覚悟を決め、目を閉じ、人間さんが引き金を引くのを待ち……



 パァンという破裂音が鳴り響きます。



 私の手により行き場を失った弾丸の圧力で、銃が破裂したのです。

 まあ普通なら手の平なんて貫通するだけなのでしょうが、今の私は防御力カンストなので。

 上手く塞ぐことが出来たようです。


 前世の私、美奈子さんが見ていたアニメの知識が役に立ちました。

 ……あれは手の平で塞いだのではなく、不発弾が銃身に詰まったからでしたが。



『銃がーっ! な、なんだ君はー! 一体いつの間にこんな近くに来たんだー!? 今何をしたんだねー!』


 私が急に現れたように見え、更に銃が急に暴発した事で、人間さん達が驚いたようです。


 ひとまず狙いが成功し、拳銃を無効化出来ましたが、想像以上の暴発音の大きさに私はビックリドキドキして、軽く立ちくらみを起こしました。



「妹ちゃん、後ろ~!」



 フォローさんの叫び声が聞こえましたが、私はくらくらしていて……


 直後に銃声が聞こえ、後頭部に何かが触れました。

 振り向くと、別の人間さん、さっきまで拡声器で叫んでいたリーダー格の人が、銃をこちらに構えています。

 どうやらこの人が私を撃っちゃったみたいです。しかし、


『なっなっなっ、なんで君は撃たれて平気なんだー!?』


 と、わざわざ拡声器を通して驚いています。

 こんな至近距離で急に撃たれた私こそ驚きたいんですけど。


「わ~。妹ちゃんすっごいな~」


 というフォローさんの声が聞こえました。


 よーし、ここはカッコよく「そんなオモチャ効かないぜ?」アピールをしてビビらせて、人間さん達を追い返しちゃいましょう。

 そうすれば、フォローさんも私を見直して、さっきみたいな子供扱いをやめてくれるかもしれません。



「そそそ、そんなオモチャ……えっと、あの、わ、私、硬いんです。銃はぁ……」


『えっ何ー! お餅が硬いー!?』


「うぅぅ……」


 さっきから続く立ちくらみと、銃を前にした興奮と、知らないおじさんと会話する緊張で、私は頭が真っ白になって上手く話せませんでした。



『えーい、モンスターの怪しい幻術だなー! 我々はそんなものには屈しな……うわわわあああッ!?』



 デモ部隊のリーダーさんが、急に宙に浮き上がりました。

 というか持ち上げられました。


 玄関の扉から巨大な手がにゅっと伸び、人間さんを掴み、まるで箱の中の物を取り出すかのような動作で、ゆっくりと外まで連れ去ったのです。



 人間さんを包み込むようにふわっと握る、その巨大な金属の手。



「コラ! コンナ小サナ子供ニ、暴力ヲ振ルッタラ駄目ダヨ! 僕ト、オ約束!」




 そこには、四天王の巨大ロボットさんがいました。

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