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ホライゾンゲート  作者: 大野 タカシ
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第58話 合縁奇縁

 一撃で巨大ワームを(ほふ)ったリニアカノン……その常軌を逸した威力に頭を抱える甲太郎。

 そんな甲太郎の目の前に、白いEOS(エーオース)が『ストン』と降り立ち、彼の肩を叩いた。


 「コータロー! 凄いじゃないか!!」


 リューカは上空から一部始終を見ていた。

 そして、巨大ワームを仕留めた事を素直に称賛したのだが、甲太郎は首を横に振る。


 「いやいやいや、凄いなんてレベルじゃ無いですよ! ナニコレ!? 宇宙人とでも戦う気かよ姉さんはッ!!?」


 一頻(ひとしき)り騒いだ甲太郎は『ぜぇぜぇ』と肩で息をする。

 その様子を見ていたリューカは少しの間キョトンとしていたが、おもむろに両手を腰に当てる。


 「まあ良いまあ良い。それよりも、今はもっと大事なことがある……。コータロー、さっきのように私を呼んでみろ」


 「へ? あの……ひめさま?」


 突然訳の分からない要求をして来たリューカに面食らいつつ、甲太郎は言われた通りに答える。

 しかし、その返答を聞いたリューカは『むう』と不満げな声を上げた。


 「そうではない。さっきのように私の名を呼び捨てにしてみろと言っているんだ!」


 「は? 呼び捨て…………?」


 甲太郎は首を傾げながら必死に記憶を手繰(たぐ)り、砲撃時に確かに名を呼び捨てていたことに思い至る。

 ヘルメットで外からは分らないが、甲太郎の顔が真っ青になる。


 「あ……あの時は必死だったというかッ! その、スミマセン……」


 ある程度気心が知れているとはいえ『親しき仲にも礼儀あり』だ、ましてや相手は王族、呼び捨てなどすれば無礼討ちされてもおかしくない。

 甲太郎は前屈する勢いで腰を曲げ頭を下げたのだが、リューカは『はぁ』とこれ見よがしにため息をついた。


 「謝罪を求めているのではない。これからは私を名前で呼べと言ってるんだ」


 「いやその……。それは流石に…………」


 「なんだ? 『ちゅー』までしたのに呼び名程度で恥ずかしがるのか?」


 ずいっと甲太郎に詰め寄るリューカ。

 甲太郎が『いやそのあの』と挙動不審に陥っていると、アズーが2人の会話に割り込んで来た。


 「いちゃついている所申し訳ないが、ワームの解体を手伝ってもらいたい」


 「解体?」


 首を傾げるリューカだが、その疑問の声に応えたのは甲太郎だった。


 「コイツらの死体を放っておいたらあの『空の目玉』に攻撃されるかもしれませんし、何より、魔族にとってはワームも貴重な食糧ですから。……っていうかいちゃつくとか言わないで」


 「食糧!? 食べるのか? これをッ!?」


 驚くリューカだが、何かに思い当たったのか『む?』と唸る。


 「コータロー……お前、魔族から食べ物を分けてもらっていると言っていたが…………これを食べたのか?」


 そう言いながら、リューカは巨大ワームの死体を指さす。

 甲太郎は『ははは』と乾いた笑い声を上げた。


 「魔族の集落で保護されて、ぐうぐうお腹を鳴らしているのを見かねて……というか聞きかねて、あの紫色の肉を差し出された時には本気でどうしようか迷いましたけど、結局口にする度胸が無くて……」


 「じゃあ、何を食べてたんだ?」


 「あの集落……洞窟の一番奥が地下水脈に繋がってまして、その水辺にキノコと言うか白独活(うど)と言うか、そんな感じの植物が自生してて、それを分けてもらってました」


 「……ちなみに、味は?」


 恐る恐るという感じで問うリューカに、甲太郎は少し考えて答えた。

 肩を落とし両の腕をダラリと垂らし、夜空を見上げながら語るその声はいつもと比べて力が……いや、生気が感じられない。


 「……不味くは無いです、美味しくも無いっていうか味がしないんですけど。グニグニした食感で、強いて言えば焼く前のパン生地みたいな感じですかね……」


 「わかった! ニホンからおまえの分の食糧も持ってきているから! 解体の手伝いが終わったら一緒に食べよう? なッ!?」


 リューカは甲太郎の両肩に手を置き、ガクンガクンと揺さぶりながら必死に語り掛けた。



■■■


 リューカが巨大ワームを解体し、甲太郎とアズー、そして魔族総出で洞窟の貯蔵部屋に運び込む。

 それだけで貯蔵室は一杯になり(そもそも、貯蔵室と言っても少し大きめの地下洞穴でしかない)、中・小型のワームはそのまま砂に埋めたり、日の当たらない岩陰に隠した。


 そうしている内に東の空が白み始め、甲太郎達は魔族の集落で体を休めることにする。

 巨大ワームを仕留め大量の食糧を得た魔族達がちょっとしたお祭り騒ぎになる中、リューカから渡された行軍用保存食(クッキーブロック)を食べた甲太郎が、久しぶりの『味がする食事』に(むせ)び泣いたりした。


 そして現在、甲太郎はリューカと共に集落の出入り口から『天空の眼』を見上げている。


 「成程。ホライゾンゲートがある地下空間といい、あの『眼』といい、その日暮らしがやっとの魔族達じゃあんなモノは作れないだろうとは思っていたけど、『かつて居たヒト』……つまりは先史文明人の遺産だったって訳ですか」


 甲太郎の言葉にリューカが頷く。


 「ああ、アズーはそう言っていた。それに、ヘレネア山で魔王と対峙した時、ヤツも『聖剣』が何であるのか知らないようだった。思うに、それらがどの様なモノであるのか知らず、ただ経験則で使っていただけなのだろうな。まあ、何も知らず『聖剣』を腰に提げていた私も同類だが」


 そう言って、リューカは自嘲気味に笑う。

 しかし、その笑みには思いつめたような雰囲気は無かった。

 かつてリューカは、聖剣……()いては『勇者』という肩書に対して忸怩(じくじ)たる思いを抱えているようだったが(事実、アードラ要塞の地下牢でそのような話をしたが)、何か思う所があったのか、今の彼女はそういったモノを吹っ切っているように見えた。


 甲太郎がそんな事を考えていると、魔族の長に諸々の報告をしていたアズーが姿を現す。

 アズーは3体の魔族を連れている。

 1体は成長しきった『大人』だが、残りの2体は小柄で未成熟な、明らかに『子供』だった。

 甲太郎とリューカが何事かと首を(ひね)っていると、アズーが声を出した。


 「長から聞いた。甲太郎殿、我が子をワームから救ってくれて感謝する」


 「「はあ!? 我が子ぉッ!!?」」


 素っ頓狂な声を上げる2人だが、その驚きをよそに、アズーは話を進める。


 「私も話を聞いた時には驚いた。まさか甲太郎殿が言っていた『魔族の子供』が我が子であったとはな……。妻も礼を言っている」


 その言葉と同時に、アズーの隣に立っていた大人の魔族が頭を下げた。


 「「妻ぁッ!!?」」


 またも2人揃って驚愕する甲太郎とリューカ。


 「ちょ、ちょっと待てアズー! お前、妻帯者だったのかッ!?」


 「しかも子持ちッ!?」


 リューカと甲太郎が叫ぶと、アズーは不思議そうな声色で尋ねる。


 「何だ? 意外だったか?」


 「意外と言うか、私達がお前と初めて会った時には、お前は既に脳だけの姿だったからな……何と言うか、変な先入観があったようだ。確かにお前は魔族……生き物であるのなら、家族が居て当然か」


 そう言いながら、リューカはうんうんと首を縦に振った。


 「日本じゃ合縁奇縁(あいえんきえん)なんて言いますけど……、しかしまあ、お子さんが無事で良かったですよ」


 甲太郎も思いもよらぬ縁に目を丸くしながらもそう答える。


 「(まさ)しく。この子達2人だけでも生き残ってくれたのだからな、感謝に()えない」


 しみじみと語るアズー。

 しかし、甲太郎はその中に不穏な言葉がある事を聞き逃さなかった。


 「待って下さい。『2人だけでも』っていうのは……?」


 「我が子は10人だった。私がリューカ殿の世界に遠征し、甲太郎殿がこの地に流れ着く間に、8人がワームや……それ以外の外敵に襲われ死んだそうだ」


 「なッ!?」


 ショックを受け驚くリューカだが、当事者であるはずのアズーはどこか達観しているように声を出す。


 「珍しい事では無い、この世界は生きるに厳しい。故に我らは多産であり、多くの犠牲を払って世代を繋ぎ、そうして徐々に個体数を増やす。弱肉強食の(ことわり)の中で生きるというのは、こういう事なのだ」


 淡々と語るアズー。

 その穏やかな声音には、『我々はそうして生きてきた。これが当たり前なのだ』という意思が(こも)っていた。


 2人に頭を下げ、『母』に連れられ集落の奥に戻っていく子供達の背中を眺めていると、甲太郎の頭の中にある1つの『仮説』が湧き上がってくる。


 それは、彼ら魔族の窮状(きゅうじょう)と『天空の眼』、そしてリューカの世界を繋ぐ不愉快な推測だった。


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