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ホライゾンゲート  作者: 大野 タカシ
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第54話 積もる話を

■集落内


 「な……ッ? 姫様!? なんで此処にッ!? そっちのロボットは一体……ッ!?」


 負傷した脇腹の手当てが満足に出来ていないのだろう、甲太郎は顔を(しか)めながら起き上がろうとする。


 「無理をするな、そのまま寝ていろ」


 「寝てなんていられませんよッ! 何でよりによって貴女が此処に来たんですか!? 王族なんでしょう!? こんな所に来るべきじゃない!!」


 リューカは、甲太郎が起き上がるのを押しとどめようとするも、彼はそれを聞き入れず、額にびっしりと脂汗を浮かべながら声を荒げた。


 「怪我に(さわ)ると言っているんだ、少しばかり静かにせんかッ!」


 そう言いながら、リューカは両手で甲太郎の頬を挟み込みガッチリとホールドすると、彼のガサガサの唇に自分の唇を押し付けた。


 「ッ!!? ~~~~~~~~ッ!!?」


 甲太郎の目が限界まで見開かれ、見る間に顔が真っ赤に染まってゆく。

 数秒程口づけを交わした後、『ぷはッ』という吐息と共にリューカは甲太郎を解放する。


 「なッ!? なッ!? なぁッ!!?」


 「どうだ? 少しは頭が冷えたか?」


 口角を吊り上げ……まるで悪戯を成功させた子供のような会心の笑みを浮かべ、リューカは尋ねる。

 しかし、甲太郎は頭が冷えるどころか、まるで(ゆだ)ったように顔を真っ赤にしてリューカに抗弁しようとする。


 「い……ッ! いきなり何をッ!!?」


 そんな甲太郎に、銀髪の少女は静かに……しかし、しっかりとした口調で語り掛ける。


 「コータロー。お前の父親だがな……埋葬するように指示を出しておいた」


 「ッ!!」


 その言葉を聞き、甲太郎の動きが止まった。

 リューカは言葉を続ける。


 「お前達の葬儀の作法を知らんのでな、本当に埋葬だけするよう命じただけだが……。だから、少なくとも野晒しにはなっていないはずだ」


 「…………」


 甲太郎は何も答えず……いや、答えることが出来ないのだろう。

 少しの間、一切の感情が抜け落ちたようなポカンとした表情でリューカの顔を見つめた後、上体を深く折り曲げ、地に額がつかんばかりに頭を下げた。


 「ありがとう……ございます…………ッ!」


 「……気にするな」


 リューカはそう言葉をかけ、そのまま甲太郎が落ち着くのを待つ。

 しかし、しばらく待っても甲太郎は頭を上げない。


 「おい、コータロー?」


 流石に心配になり、リューカは彼の肩に手を伸ばそうとし……気付いた。

 甲太郎の肩が僅かに震えている。


 泣いているのだ、声を押し殺して。


 リューカは何も言わず、甲太郎の頭を胸元に抱き寄せた。



■■■


 しばらくの時間が過ぎ、甲太郎はリューカの胸元から離れる。


 「さて……落ち着いたか?」


 「……まあ、なんとか」

 

 顔を赤くしながら答える甲太郎……、リューカは僅かに微笑んだ。


 「そうか……。色々と聞きたい事があるし、話したい事もある。お前もそうだろう? 手当てをしながら積もる話をしようか。アズー、荷物を」


 「了解した」


 リューカの指示に応じ、アズーが背負っていたコンテナを『ズン』と地に下ろした。

 コンテナの蓋を開け、ファーストエイドキットを取り出しながら、リューカは語り始める。


 「まず、そうだな……お前が魔界の門に飛び込んだ後だ、お前を追って私達も門に飛び込んだのさ。だが、私達はどういう訳かニホンに流れ着いた……。そこで、キョーコやチューサ殿に出会ったんだ」


 「姉さんと!? いや……それより、やはり魔界の門は日本にも繋がっていたんですか!?」


 その話の内容は、甲太郎を驚かせた。

 リューカは『動くな』と注意しながら、甲太郎の上着をたくし上げる。

 さらけ出された脇腹は、かなりの範囲が赤黒く変色していた。


 「これは酷いな……、確かこの湿布を貼って……と。そうだ、あの門はニホンにも繋がっていた。キョーコは世界を繋ぐ通路……『わーるど・とらふぃっくす』は近くに在るモノ同士、引き付け合うのではないか、と言っていた」


 「その為、この魔界とリューカ殿の世界、そして日本が繋がった三叉路が形成された……というのが京子殿の推測だ」


 リューカの答えをロボットが補足する。

 そこで、今更ながらにこの場違いな存在(甲太郎自身、そしてリューカも場違いではあるのだが……)に対して疑問が湧く。


 「あの……このロボットは?」


 「ああ、そう言えばまだ話していなかったな。とは言っても、お前も会ったことがあるヤツだぞ。名はアズー、ヘレネア山で見た魔族の脳だ」


 リューカは湿布の上から包帯を巻き始める。


 「どうも」


 紹介されたロボットは、そう言いながら円盤型の頭を『バクリ』と開く。

 そして中から見覚えのある脳髄が入った培養ケースがせり出してくる。


 「………………メロンパンですかね?」


 「何だ? めろんぱん?」


 甲太郎の呟きに首を傾げるリューカ。


 「いえ、何でも……。しかし、何故2人が一緒に?」


 「簡単な話だ。リューカ殿は貴方を助ける為、そして私はこの世界に帰還する為、一時協力関係を結んだのだ。リューカ殿は私を運ぶ、私はこの世界での案内をする……という条件でな」


 「それで、日本に流れ着いた時にその身体を?」


 甲太郎の質問に、アズーは『ギシリ』と頷いた。


 「そういう事だ」


 「私もな、キョーコからこれ(・・)を託された」


 リューカは左腕の起動(イグニッション)ドライバを甲太郎に見せる。


 「……全く、姉さんも無茶するなぁ」


 呆れたようにボヤく甲太郎。

 そんな彼に、リューカは数種類の錠剤が入ったケースを渡す。


 「お前の事が心配なんだよ、良い姉上じゃないか……。さて、この薬を飲め。えーっと、水は……ああ、これだ」


 リューカは、コンテナの中からペットボトル入りの水を取り出し、それも甲太郎に渡す。


 「……そう言えば、お前はここで水や食料はどうしていたんだ?」


 甲太郎の顔を覗き込むようにするリューカ。

 彼は頬を赤くしながら視線を逸らし、彼女の疑問に答えた。


 「水や食料は、ここの魔族に分けてもらってます」


 すると、リューカは驚きながら口を開く。


 「魔族の住処に間借りしているというのも驚きだが、水や食料まで融通してもらっているのか!?」


 アズーの話では、この魔界は食料を始めとした資源全般が恒常的に不足しているはずだ。


 「……そうだな、今度はお前の話を聞かせてくれ。この世界に流れ着いてから何があった?」


 リューカは甲太郎の頬に手を当て、彼の視線を自身に向けながら、そう問いかけた。


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