第47話 鎮圧
「しかし、随分と流暢に喋るようになったな、アズー君は……」
渡良瀬中佐は感心したように言葉を口にする。
芹沢博士の最期など、異界での出来事を聴取した際、渡良瀬中佐もその場に同席していた。
その時の記憶では、アズーは『いかにも機械音声』といった話し方だったはずだ。
その言葉に長道博士が答える。
「ああ、このボディに移す時にな、外部出力周りも再調整したのだよ。芹沢栄治博士は音声にあまり拘っていなかったようでね、少々聞き取りにくい所があったからな」
「そういうことだ」
アズーが長道博士の言葉に追随する。
そのアズーを見て、渡良瀬中佐は再度疑問を口にした。
「長道博士、このボディは……、EOS以前に研究されていた遠隔操作ロボットの物ですか?」
「芹沢君からそう聞いている。ちなみにこのボディだけではなく、試作品・現行量産品、軍用・民間用問わず、かなりの部品を流用しとるそうだ。まあ、そうでもしなければ、この短期間にこれ程の物を組み上げるなど不可能だしな」
そのやり取りにアズーが割って入る。
「京子殿の説明では、固定武装などの『余計な装備』を省き、パワーと頑丈さ、そして耐用年数に特化した設計……だそうだ」
「成程……、さっき12.7ミリ弾を容易く弾いていたし、確かに頑丈さは折り紙付きのようだな。ちなみに物は相談だが、サイクロプスの正面装甲を引っぺがせるか?」
「やってみよう、少し離れてくれ」
簡潔に答えると、アズーは自身が叩き伏せたサイクロプスの正面に立つ。
そして、左手でサイクロプスの右肩を押さえつけ、右手の指を単眼のスリットに捻じ込み、それを起点にして力任せに引き剝がしにかかる。
『ギィッ! ギギッ! バキンッ!!』と、金属が軋み断裂する耳障りな音が響き、金属フレームやケーブル類を引き千切り、サイクロプスの正面装甲が引き剥がされた。
小銃を構えた警備班の隊員が中の様子を窺うと、装着者の男は意識を失っていた。
アズーの攻撃の衝撃と恐怖で気を失ったようだ。
「ハーフか? 東洋人にも西洋人にも見えるな……。ん?」
装着者はいきなりパチリと瞼を開ける。
次に、自身を覗き込んでいる鋼鉄の巨人……アズーを見ると、堪らず叫び声をあげた。
「グ……グァイウーッ!! ッ!?」
叫んだ直後、突然目を見開き口に手を当て押し黙る装着者。
「何だ? 今何と言った!?」
その叫びを聞き逃すはずもなく、渡良瀬中佐は装着者に問う……が、当然のように男は沈黙する。
しかしそのやり取りを見ながら、長道博士は何かを確信したように目を細めた。
■研究棟1階
ランチャー持ちのサイクロプスの後を追い、リューカは貨物用エレベーターの乗り場ドアを無理矢理にこじ開ける。
階下、地下2階にエレベーターかごが停止している事を確認すると、そのまま飛び降り、かごの屋根に取り付く。
『非常用のハッチ……、天窓があるから、それを開けて中を確認して!』
無線から京子の声が聞こえると同時、HMDにそのハッチの位置が表示される。
それを開けて中を確認すると、エレベーターかごの床に大きな穴が開いているのが確認できた。
「さらに下かッ!」
『連中、何処からかは知らないけど、この施設の情報をある程度仕入れてるようね。そうなると、狙いは地下5階のゲートルームである可能性が高いわ。あそこを滅茶苦茶にされたら、それこそS作戦が実施出来なくなるし、貴女も還れなくなる、急いで!』
「はいッ!!」
京子の指示に応え、リューカはエレベーターかごの大穴に身を躍らせる。
BSブースターを軽く噴かし減速、落下の衝撃を殺しながら最下層……地下5階に着地すると、破壊された地下5階乗り場ドアの向こう、50メートルほど先の曲がり角に差し掛かったサイクロプスの背中が見えた。
「チィッ!」
リューカは左手でスローイングダガーを取り出すと、そのままアンダースローで投擲する。
EOSのフルパワーで放たれたスローイングダガーは、リューカの狙い通りにサイクロプスの左足……、膝の裏に深く突き刺さった。
EOSのパワーアシストがあるとはいえ、スローイングダガー自体は特殊な機能を持たない、何の変哲も無い投げナイフだ。
サイクロプスの装甲部分を貫くのは難しいが、関節などの可動部であればその限りではない。
スローイングダガーを食らい、もんどりうって倒れるサイクロプス。
ダガーの刺さり具合からして、装着者の足にまで刃が達しているだろう。
リューカは再度BSブースターを起動、50メートルの距離を一足で詰めると、倒れもがくサイクロプスの頭側に回り込む。
「確か、お前だな? 1階で皆を殺めたのは」
もがいていたサイクロプスは床に伏せたまま、熱圧力弾を撃った多目的ロケットランチャーの砲口を眼前の白いEOSに向ける。
だが、その引き金が引かれるより先にリューカが動いた。
「少々痛い目を見てもらおうかッ!」
リューカはサイクロプスの後頭部ではなく、人間でいえば額にあたる前頭部に右手のヒートソードを深く突き立てる。
サイクロプスの装着者は目の前数センチ……、自身の目とサイクロプス内部のディスプレイの間に突き立てられたヒートソードに鼻の頭数ミリを刻み落とされ、その痛みとあまりの恐怖に白目をむき、泡を吐きながら意識を手放した。
「フンッ、後は彼等に裁いてもらうがいい」
そう言いながらヒートソードを引き抜き、血糊を払うように一振りすると(元々それほど血はついていなかったが、実戦で剣を使う者の癖だ)ウェポンコンテナにそれを収める。
『リューカちゃんお疲れ様! 上階に向かったサイクロプスもアズー君が撃破してくれたわ』
無線から京子の声が聞こえてくる……が、その言葉にリューカは怪訝な表情を浮かべた。
「アズーですか? アイツは戦えるような状態では無いでしょう?」
『ふっふっふ……、ところがぎっちょんってね! それも含めて話したいことがあるから、倉庫に戻って来てくれるかしら。そっちには中佐に頼んで別の人員を向かわせるわ』
「わかりました」
リューカは倒れるサイクロプスを一瞥すると、来た道を戻り始めた。




