第21話 急襲
■アードラ要塞中庭、練兵場
アードラ要塞は、最大で3千名程度の人員を収容可能な巨大施設だ。
構造は単純で、東西南北の棟が『ロ』の字型に連結され、南北に大軍が通過する為の巨大門が存在する。
その中庭、練兵場としても使用される広大なスペースは、無数の松明の明かりで照らされ、奇襲の報を受けた兵士達が集結しつつあった。
地下留置場を出た甲太郎とリューカは、伝令の兵士の指示に従い、この中庭に駆けつけた。
閉ざされている北門の向こう側から、戦闘の音が聞こえてくる。
「音が近い、城門に取り付かれているのか!?」
甲太郎の言葉にリューカが反応する。
「そんな馬鹿な! 見張りも哨戒部隊も増員していたのだぞ、そう簡単に接近を許すものか!」
そんなやり取りをしつつ、周囲の兵士達の流れに従い、練兵場の中心に向かう。
そこでは、ルーカス将軍とダストン守備隊長が、集結している兵士達に次々と指示を飛ばしていた。
彼等は甲太郎とリューカに気付くと、『こちらです!』と声を張り上げた。
二人が駆け寄ると、将軍は単刀直入に状況を説明し始める。
「魔族の襲撃です、総数は不明。報告では、彼奴らは刈り取った草を身体に括り付けており、そのため発見が遅れました。すでに北門直前で混戦となっています」
「草……ですか?」
過去に魔族がその様な戦術を採ったことは無く、リューカは怪訝そうに眉を顰める。
加えて言えば、この異界においても『カモフラージュ効果とその有用性』はまだ一般的ではなく、逆に敵味方をはっきり区別する為、軍装は認識しやすさが重視されている。
「周囲の景色に紛れるためでしょう。それと、正確な数は不明ですが、『クリーチャー』となった魔族が数体確認されています」
そう言うと、将軍は甲太郎を見る。
「一つ確認したい、君が追っているという人物は、どういった容姿だ?」
話の脈絡を無視した急な質問に、甲太郎は戸惑いながら答える。
「えっと……、自分と同じ黒髪黒目、身長も自分と同程度です」
「服装は?」
間髪を容れず更に問う将軍。
「自分が最後に見た時は白衣……、丈の長い白い服を着ていました」
甲太郎の答えを聞き、将軍は一つ頷くと自身の背後を見やる。
「聞いたな? クルス十士長」
将軍の背後に居たのはアーベルとフラン。
二人はそれぞれ自分の胸に手をあて、王国軍式の敬礼で将軍に答える。
……アーベルは若干、不服そうではあったが。
「あの、どういう事ですか?」
状況が飲み込めない甲太郎が将軍に問う。
「今の君の答え……、黒髪に白衣という特徴に合致する人物がヘレネア山で目撃されている」
「!?」
甲太郎は一層表情を引き締める、そして、その場の誰も気付かなかったが、リューカも小さく息を呑んだ。
将軍は甲太郎の正面に立つ。
「身柄を拘束しておいてこのような事を頼むのは気が引けるが、君の協力を仰ぎたい」
「わかりました」
当然とばかりに、甲太郎は迷う事無く即答する。
「感謝する。君の装備を返却する、確認してくれ」
そう言うと、将軍はショートソードと9ミリ拳銃を甲太郎に手渡す。
甲太郎はショートソードを左腰に提げると、9ミリ拳銃をホルスターから抜いて状態を確かめる。
特に弄られた様子もなく、マガジンも弾薬も問題ないと判断した甲太郎は、9ミリ拳銃にマガジンを挿入し、スライドを引き初弾装填、デコッキングレバーを押し下げハンマーダウンする。
即座に発砲できる状態にした9ミリ拳銃をホルスターに収め、右腰のベルトにホルスターを括り付けた。
クリーチャーとの戦闘はEOSの着用が前提だ、9ミリ拳銃は使用しないだろう。
しかし、念を入れて準備をするに越したことはない。
甲太郎の準備が終わったのを見計らい、ルーカス将軍が話しかける。
「君には『クリーチャー化した魔族』を優先して叩いてもらいたい。既に混戦となっているため難しいとは思うが……」
「わかりました。敵味方の識別は問題ありません、あれだけ特徴のある姿形ですから」
甲太郎は続ける。
「自分がクリーチャーを優先して引き受けますが、もし皆さんでクリーチャーと戦わざるを得ない状況になってしまった場合は、炎系統の能力で焼き払ってください。通常の創傷とは違い、火傷は再生できないはずです。もし全身を焼くのが無理なら、足を焼いて動きを封じた上で、首を落としてください。流石に丸ごと失った部位を再生することはできません」
「了解した、全軍に通達しよう」
将軍は近くに控えていた伝令の兵士に、今の話を全軍に通達するよう命じる。
伝令兵たちは敬礼するとそれぞれ走り去っていった。
その様を見届けると将軍は集結している兵士たちに向き直り、大音声で指示を飛ばす。
「これより打って出る! 城門の外で戦っている守備隊と協同し魔族どもを叩くが、筋力が発達し、再生能力を持つ強力な異常個体が紛れている! これを発見した場合は炎系の能力者が上空に火を打ち上げて場所を知らせろ!! 此処にいる黒髪の彼……、コータロー君が向かう!」
そう言うと、将軍は『それで良いか?』と甲太郎に目で問いかける。
甲太郎は無言で頷き、肯定の意を示した。
「よし、では城門前で隊列を整えろ! 開門と同時に出るぞ!! 壁上の弓兵隊! 外の連中に開門すると伝えろ!!」
将軍の号令とともに兵士たちが動き出す。
魔族の奇襲という予期していなかった状況だというのに、その動きは一糸乱れず、士気と練度の高さが伺えた。
「よし。EOS起動、変身ッ!」
甲太郎もEOSを身に纏い、臨戦態勢をとる。
瞬時にその姿を変じた甲太郎に、周囲の兵士たちが『おおッ!』とどよめく。
黒い装甲服姿の甲太郎に、リューカが話しかける。
「コータロー……、お前は本当にそれで良いのか?」
彼女の表情は険しい。
「ええ、これは自分がやらなきゃいけない事だと思いますから……。自分は自分の使命を全うします、姫様もそのように」
マスク越しのくぐもった声だが、リューカの耳にははっきりと聞こえた。
甲太郎の答えには迷いがない、それが一層リューカの表情を険しくさせた。
「よしッ! 開門ッ!!」
将軍の号令が飛ぶ。
巨大な閂が外され、北門が軋む音を響かせながら開かれた。




