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ホライゾンゲート  作者: 大野 タカシ
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第16話 男達の矜持

 アーベル・クルスという人物を一言で評すれば、『実直な人物』となるだろう。

 

 幼い頃からリューカ、フランと共に在り、周囲の大人たちから『姫様をお守りするように』と言いつけられ、事実、そのように行動してきた。

 大人たちは大人たちでそれぞれ思惑があったのだろうし、アーベルの父親などは『リューカ姫と息子(アーベル)を結ばせて、クルス家の子々孫々の繁栄を』という考えが透けて見えていた。


 だが、アーベルにとってそんな周囲の思惑など関係なかった。

 

 もちろん、リューカが嫌いだったわけではない。

 むしろ『好ましい』と思っていたし、フランが治癒(ヒーリング)に目覚め、自身が身体強化を使える様になると、『自分が敵を討ち、フランが治癒を担当し、姫様を守るのだ』と、自身とフラン、そしてリューカを『良いチーム』だと思うようになった。


 周囲の反対を押し切り、リューカが王国軍に入隊すると言い出した時には、王都守備隊……、所謂(いわゆる)『騎士団』というエリートコースからの誘いを蹴って、リューカ、フランと共に王国軍の門を叩いた。


 時が流れ、7度目の魔族の侵攻を翌年に控えた『勇者選定の剣技大会』。

 例年の儀礼的な物とは違い、聖剣を携え魔族と戦う『真の勇者』を選定する剣技大会だ。

 

 その大会の場において、極一部の者たちの間で交わされた『密約』。


 不本意ながら、その密約に加担せざるを得なかったアーベルと、その結果勇者となったリューカ。


 アーベル・クルスは『実直な人物』である。


 だから彼は、その不実を抱きながら、更なる誓いを立てた。

 贖罪の為に。

 万難を排し、彼女を守る為に。


 より苛烈な誓いを立てたのだ。

 


■北部街道上、魔族討伐軍野営地、本陣テント


 「貴様の話は斟酌(しんしゃく)するに(あたい)せんッ。ただの戯言だッ!」


 アーベルが立ち上がり、甲太郎を指弾する。

 甲太郎はその反応は想定の内と、冷静に、説得すべく語りかけた。


 「あの3体の魔族の異常性を貴方も見たはずだ。それに、自分のEOS(エーオース)も……。それとも、魔族の異常個体もEOSも、過去に同じような事例があったのですか?」


 アーベルに向けた言葉であったが、ルーカス将軍がそれに答えた。


 「魔族の件も、君の力も、聞いた事もないな」


 周囲の兵士達は沈黙したままだ。

 しかしその沈黙は、『肯定』の意思表示だ。


 それでも尚、アーベルは糾弾を続ける。


 「確かに、私も寡聞(かぶん)にして知りません。ですが、魔族の異常はこの男の話とは別の要因による物かもしれませんし、能力(ミスティック)は個々人によって千差万別、この男の力も能力(ミスティック)である可能性は否定できません」

 

 「しかし、それは……」


 甲太郎が反論しようとするが、それをアーベルが止めた。


 「貴様は己の言葉を担保出来るのか!? 出来ないからこそ、先刻『信じてもらうしかない』と言っていたのではないのか!? 俺は、貴様のような経歴もはっきりしない怪しい輩の言葉で組織が動くものか、と言っているんだッ!!」


 「……ッ」


 甲太郎は歯噛(はが)みする。

 自身も軍属という立場ではあるものの、国防陸軍という組織に所属する者として、アーベルの言わんとする事を理解できたからだ。


 『協力を得ようなどと、甘い考えだったか』という思いが甲太郎の脳裏を()ぎるが、ここで引き下がるわけにはいかない。


 「あの異常個体の能力を見ただろう? 協力し合わなければ、被害が拡大するだけだ」


 「軍内部に賊子(ぞくし)を迎え入れる方が問題だッ! あの異常な魔族も、俺がお前より強いことを証明すれば問題ないッ!」


 そう言うと、アーベルは剣を抜き放ち、甲太郎に切っ先を突きつける。


 「表に出ろッ! あの黒い鎧を(まと)えッ! 決闘を申し込むッ!!」


 アーベルの宣言に、周囲の兵士達が驚く。

 ざわつく兵士達の中、沈黙を守っていたリューカが堪らず立ち上がる。


 「やめろアーベル! 軍議の場だぞ、剣を収めろッ!!」


 フランも、席に付いたままではあるが、それに続く。


 「姫様の仰るとおりです、剣を納めなさい」


 だが、2人の言葉を聞いてもアーベルは動かない。

 視線だけリューカとフランに向け、答える。

 

 「止めないで下さい。俺には、姫様の護衛として、そして王国軍人として、万難を排する義務があります」

 

 そして、再度甲太郎に視線を戻すと、返答を迫った。


 「さあ、どうした!? 怖気づいたわけでもあるまいッ!」


 甲太郎は、アーベルを睨み返し、はっきりと答えた。


 「断る!」


 「……なんだと?」


 断られるとは思っていなかったのだろう、アーベルが呆気に取られた表情を浮かべる。

 甲太郎は、己に突きつけられた剣の切っ先を見、そしてまたアーベルを睨むと言葉を続けた。


 「君はさっき『王国軍人として』、と言ったな? なら、自分にも国防陸軍に所属する者として、守らなくてはならない規律がある」


 胸を張り、堂々と言葉を紡ぐ甲太郎。

 その様は、剣を突きつけられている人間とは思えない……、怯えや躊躇(ためら)いなど微塵も感じさせないものだった。


 「王国軍の軍規がどうなっているのかは知らないが、自分が所属する組織は、私闘・決闘の類を禁じている。君も軍人なら、この意味が分かるだろう? それに、EOSは組織から貸与されている装備だ、こんな事のために使うわけにはいかない」


 「このッ……、御託(ごたく)ばかり……ッ!?」


 その時、アーベルの腕を掴む者が居た。


 「そこまでだ、クルス十士長(じゅっしちょう)


 ルーカス将軍がアーベルの腕を押さえ、その剣を下げさせる。

 自席から音も無く移動し、気配を(さと)らせる事無く、アーベルの背後を取ったのだ。

 その動きを察知できなかった甲太郎も、これには流石に驚いた。


 アーベルを背後に下がらせた将軍は、甲太郎に向き直る。


 「私の部下が失礼した。だが、クルス十士長の言葉も一理あるのだ。……すまないが、君を一時拘束させてもらう、良いね?」


 「なッ!? 将軍、それはあまりに……」


 異議を唱えようとするリューカに、将軍は答える。


 「リューカ・アルゼー・ウィクトーリア十士長、これは私が将軍の権限の範囲内で決断し、正式に命じるものです」


 「ッ! ……失礼、しました」


 リューカは悔しそうな表情を浮かべるものの、それ以上は言葉を発さずに引き下がる。

 

 「では、君の装備を預かる」


 将軍は甲太郎に武装解除を求める。

 甲太郎は暫し迷ったが、ここで抵抗しても状況が悪化するだけだと、将軍の言葉に従い、ショートソード、コンバットナイフを将軍に手渡す。


 「君の右腰にある、破裂音のする道具も渡してくれ」


 再度迷ったが、甲太郎はホルスターごと9ミリ拳銃をベルトから外し、手渡そうとする……、が。


 「少し、良いですか? 妙な真似はしません」


 甲太郎は誰も異を唱えないのを確認すると、誰も居ない方向を向き、ホルスターから9ミリ拳銃を抜く。

 そしてマガジンを抜き、スライドを後退させて薬室(チャンバー)に装填されていた弾薬も抜き出す。

 それらを将軍に手渡しながら、甲太郎は口を開いた。


 「この武器は、専門の訓練を受けた者が適切に取り扱わないといけません。決して『使おう』とはせず、このまま保管して下さい」


 将軍は頷き、そして最後に甲太郎の右手首の起動(イグニッション)ドライバを指差す。


 「最後に、その『腕輪』が、エーオースとやらに関係しているのではないかね?」


 『あの状況でよく見ているな』と、甲太郎は思う、だが起動ドライバは渡すことが出来ない。


 「仰るとおりです、ですが、これはお渡しできません。ご覧下さい」


 甲太郎は右手を突き出し、手の甲、掌と手首を回転させて見せた。

 その様子を見ていた将軍が疑問を口にする。


 「これは……、外す所が無い?」


 「あれほどの力を持つ装備を、何の安全策も講じずに一兵士に貸与するわけありません。これを外すには専用の器具が必要で、例えこの手を切り落としても、バイオメトリックス……、装着者自身を『鍵』とする技術により、自分にしか扱えないようになっています」


 起動ドライバは外見上は完全なリング状で、腕時計の中留めにあたる部分も無い。

 将軍の言う通り、ぱっと見には外せないように思える。

 だが、接続部がデザインに紛れる様に巧妙に隠されており、専用の端末から解除コードを打ち込めば外れるようになっている。

 もちろん、その『専用の端末』は日本にあり、現状、起動ドライバを外す手段は無い。


 「なるほどな……」


 将軍は一言呟くと、何事か考える素振りを見せる。

 そして周囲の兵士達を見渡すと、甲太郎に告げた。


 「ならば、その腕輪はそのままで良い。アードラに到着するまでは1番隊の竜車にて拘束・監視を行う、以上だ」


 「そんな、それでは意味がありませんッ!」


 アーベルが異を唱える。


 「外せぬ物は致し方ない。予定通りアードラへ向かう、軍議は以上、解散。それから、クルス十士長は少し残れ、軍議の場で剣を抜いたのだ、厳重注意では済まさんぞ」


 ルーカス将軍の言葉で軍議が終わり、甲太郎は両脇を王国軍の兵士に固められ、1番隊の竜車に向かう。


 その背中を、リューカが心配そうに見つめていた。

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