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天より落ちし君へ 第一部 宿屋の四季  作者: puni0023


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第1話 罪と呼ぶなら、呼べばいい

初めまして。

『天より落ちし君へ』を読んでいただきありがとうございます。

少し切なくて、少し温かい物語です。

最後まで見届けていただけたら嬉しいです。

羽琉(はる)は静かに玉座の前へ立った。

大理石の床は冷たく、広い謁見の間には重い沈黙が流れている。

誰も口を開かない。

王である父だけが、まっすぐ娘を見ていた。

「神託が下った。」

その言葉に、羽琉は小さく息をのむ。

分かっていた。

あの日、自分が力を使った瞬間から。



あの日、雲の合間から吹雪の中を走る少女を見た。年齢は自分と同じくらい。

薬を胸に抱え、ただ前へ走っている。

なぜか目が離せなかった。

私の母親は病で亡くなったらしい。

会ったことはない。

顔も知らない。

声も知らない。

それでも。

もし、私とあの子が逆だったなら。

母を助けるために、必死になっていたと思う。

すると、雪崩が上から彼女を襲った。

けれど彼女は気づいていない。

薬を抱えたまま、ただ前だけを見て走っている。

「……あぶない!!」

羽琉は知っている。介入してはいけないと。天使は平等でなければならない。誰か一人だけを特別扱いしてはいけない。


それが天界の掟だった。

けれど…。

助けたい。

その思いだけが、胸いっぱいに広がった。

掟も。

王女としての責任も。

全部分かっていた。

それでも。


聞こえるはずのない声が聞こえた気がした。

遠くから付き人のかけるがこちらへ走ってくるのが見えた。

「……だめです!姫!!」

遠くから焦った架が制止する声が聞こえる。もう止まれない。

そして気づけば、羽琉は奇跡を使っていた。

羽琉が手を伸ばした瞬間。


白銀の光が、吹雪の中へ広がった。


轟音を立てて迫っていた雪崩が、その光に触れた瞬間ゆるやかに勢いを失う。

さらに光は一本の道となり、少女の足元を照らした。

迷わないように。

生きて帰れるように。

ただそれだけを願って。





「王女羽琉。」


王様の声が響く。

「そなたは人間界への過度な干渉を認めますか。」

羽琉は顔を上げた。

認めない理由などなかった。

「認めます。」

ざわり、と空気が揺れる。


傍聴席の天使たちが息を呑んだ。


王女が罪を認めた。


それだけで十分な衝撃だった。

「……王女は禁じられた奇跡を行使し、一個人への加護を行った。」


王は苦しい顔をして告げる。

「反論はあるか。」


羽琉は静かに首を振った。

ない。


すべて事実だ。

「後悔しているか。」

低い声が広間に響く。

羽琉はまっすぐに父を見た。

父ではなく。

王としてそこにいる人を。

「いいえ。」

ざわり、と空気が揺れる。

「……そうか。」

王は目を閉じ、静かに告げた。

「なぜだ。」

羽琉は静かに息を吐く。

「私はあの子を救いたかった。」

「その娘が本当に助かった保証はない。」

「はい。」

「それでもか。」

羽琉はうなずいた。

「それでもです。」

もし、もう一度同じ光景を見たとしても。

雪の中を走るあの子を見つけたとしても。

きっと私は同じことをする。

そう思った。

王の拳がわずかに震えた。

誰にも気づかれないほど小さく。

だが羽琉は知っていた。

父が苦しんでいることを。

―――けれど今この場で、彼は王だった。





王は静かに目を閉じた。

ほんの一度だけ。

父として。

そして再び目を開く。

そこにいるのは王だった。


長い沈黙の後、王は宣告した。


「王女、羽琉。」

その声はどこまでも冷たかった。

「お前を追放する。」

羽琉は目を閉じた。

悲しくないわけではない。

怖くないわけでもない。

けれど…

もしもう一度同じ場面を見たとしても。

きっと自分は同じ選択をするのだろうと思った。

観衆がざわめく。

「翼を剥奪し、天界への帰還権を停止する。」


「以降自分の罪を認めるまで、お前は人として生きよ。」

羽琉は目を閉じた。

一枚、また一枚と、翼が断ち切られていく。骨から引き剥がされるような痛みの中で、羽琉はあの夜の小さな影を思い浮かべていた。

雪の中を、必死に走っていた女の子を。

痛みより、それがずっと、鮮明だった。

裁きの間を出る直前、羽琉は一度だけ振り返った。

玉座の父は、もうこちらを見ていなかった。

ただ静かに正面を見据えている。

その横顔は、王のものだった。

けれど。

羽琉にはほんの少しだけ。

父が泣くのを堪えているように見えた。

気のせいではないのだろう。

けれど羽琉は、何も言わなかった。


前を向いて、人間界へ落ちていった。

毎日20時投稿です。

第1章完結までお楽しみください。

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