第52話:ルーカス覚醒?戦闘形態の片鱗
外交実習の最終日。
帰国の日だ。
参加者たちは、荷物をまとめて、出発の準備をしていた。
しかし、予定通りにはいかなかった。
「緊急事態です!」
引率の教官が、血相を変えて駆け込んできた。
「何があったのですか」
「テロリストの残党が、王都に侵入しました。大規模な攻撃が、行われています」
「テロリストの残党……」
「昨日の襲撃者たちの仲間です。王女殿下の護衛が失敗したことへの報復と思われます」
参加者たちの顔が、青くなった。
* * *
窓の外を見ると、王都の方角から煙が上がっていた。
爆発音が、遠くから聞こえてきた。
「これは……」
「大変なことになっています。騎士団は、王都の防衛に当たっていますが、数が足りません」
「私たちは、どうすれば」
「貴賓館で待機してください。安全が確保されるまで、外に出ないでください」
教官が、指示を出した。
しかし、ルーカスは落ち着かなかった。
感知能力で、周囲の状況が分かる。
テロリストたちは、あちこちで暴れている。
市民たちが、危険にさらされている。
「殿下……」
セラが、声をかけた。
「分かっています。でも、このまま待っているだけでは……」
「殿下の気持ちは分かります。でも、今は……」
「分かっています」
ルーカスは、拳を握りしめた。
* * *
しばらくして、さらに悪い知らせが入った。
「テロリストの一団が、こちらに向かっています!」
「何だと……!」
「貴賓館を狙っているようです。隣国の外交実習生を人質に取るつもりかもしれません」
「くそ……!」
教官が、剣を抜いた。
「全員、戦闘態勢を取れ! 貴賓館を守るぞ!」
参加者たちが、武器を手にした。
ルーカスも、剣を抜いた。
「殿下、気をつけてください」
「セラも」
二人は、頷き合った。
* * *
テロリストたちが、貴賓館に迫ってきた。
その数は、五十人以上。
昨日の襲撃よりも、はるかに多かった。
「こんなに大勢……」
「怯むな! 守り切れ!」
教官が、叫んだ。
参加者たちが、テロリストと交戦を開始した。
しかし、状況は厳しかった。
相手の数が、圧倒的に多い。
参加者たちは、必死に戦っていたが、少しずつ押されていった。
「くそ……!」
「このままでは……!」
参加者たちの顔に、焦りが浮かんだ。
* * *
ルーカスは、戦いながら考えていた。
このままでは、まずい。
全員が、危険だ。
力を解放すれば、この状況を打開できる。
しかし、それは「禁忌」を見せることになる。
教会に知られれば、大変なことになる。
でも、このまま何もしなければ、皆が傷つく。
セラも、他の参加者も、貴賓館にいる人たちも。
「どうする……」
小さく呟いた。
そのとき、悲鳴が聞こえた。
「きゃあ!」
参加者の一人が、倒れた。
テロリストの攻撃を受けたのだ。
「大丈夫か!」
「腕を……斬られました……」
血が、流れていた。
重傷だ。
ルーカスの中で、何かが弾けた。
――もう、迷っている場合ではない。
* * *
ルーカスの体が、変化し始めた。
皮膚に、金属のような光沢が走った。
目が、青白く光った。
「殿下……!」
セラが、驚いた声を上げた。
「セラ、離れていてください」
「でも……!」
「大丈夫です。皆を守ります」
ルーカスの声は、静かだった。
しかし、その声には、強い決意が込められていた。
ルーカスは、テロリストたちの方に向かって歩き出した。
一歩、また一歩。
その姿は、まるで別人のようだった。
「何だ、あれは……」
「化け物か……!?」
テロリストたちが、怯んだ。
ルーカスの姿に、異様なものを感じたのだろう。
「お前たちの相手は、僕だ」
ルーカスが、静かに言った。
そして、動いた。
* * *
ルーカスの動きは、人間離れしていた。
一瞬で、三人のテロリストを倒した。
次の瞬間には、別の場所に移動していた。
「何だこいつ……!」
「速すぎる……!」
テロリストたちが、パニックに陥った。
ルーカスの攻撃を、誰も止められなかった。
五人、十人、十五人。
テロリストたちが、次々と倒れていった。
ルーカスは、殺してはいなかった。
気絶させるか、戦闘不能にするだけだった。
「退け……! 退却だ……!」
テロリストのリーダーが、叫んだ。
生き残ったテロリストたちが、逃げ出した。
しかし、ルーカスは追わなかった。
目的は、皆を守ることだ。
敵を全滅させることではない。
* * *
戦いが終わった。
テロリストたちは、撤退した。
貴賓館は、守られた。
参加者たちは、呆然とルーカスを見ていた。
彼の姿は、まだ変化したままだった。
皮膚に、金属光が残っていた。
「殿下……」
セラが、近づいてきた。
彼女の目には、驚きがあった。
しかし、恐怖はなかった。
「セラ……」
「大丈夫ですか」
「はい……大丈夫です」
ルーカスは、深呼吸をした。
体の変化が、少しずつ収まっていった。
皮膚の金属光が、薄れていった。
「怪我人は……」
「さっき斬られた人が、重傷ですが、命に別状はありません」
「良かった……」
ルーカスは、安堵のため息をついた。
「殿下、今のは……」
教官が、恐る恐る声をかけた。
彼の顔には、戸惑いがあった。
「すみません。説明は……後で」
「……分かりました」
教官は、それ以上聞かなかった。
今は、他にやるべきことがある。
* * *
その後、エルザリア王国の騎士団が到着した。
テロリストたちは、王都全域で鎮圧された。
大きな被害はあったが、最悪の事態は避けられた。
「貴賓館の皆様、ご無事で何よりです」
騎士団長が、安堵した様子で言った。
「殿下たちが守ってくれたおかげです」
教官が、報告した。
「特に、ルーカス殿下の活躍は、目を見張るものがありました」
「ルーカス殿下……」
騎士団長が、ルーカスを見つめた。
その目には、興味と警戒が混じっていた。
「殿下のお力は、噂以上ですね」
「いえ、大したことはしていません」
「ご謙遜を。多くの命が、殿下のおかげで救われました」
「……」
ルーカスは、何も言わなかった。
* * *
夕方、ルーカスは一人で庭園にいた。
今日のことを、考えていた。
力を見せてしまった。
参加者たちは、自分の変化を見た。
これから、何が起きるか分からない。
「殿下」
セラの声がした。
振り返ると、彼女が立っていた。
「セラ……」
「一人で考え込んでいたのですね」
「はい。少し」
「何を考えていたのですか」
「今日のことです」
ルーカスは、セラの隣に座った。
「力を、見せてしまいました」
「はい」
「皆に、見られました」
「はい」
「これから、どうなるか分かりません」
「そうですね」
セラは、静かに頷いた。
そして、ルーカスの手を取った。
「でも、殿下は正しいことをしました」
「正しいこと……」
「はい。皆を守りました。怪我人を、これ以上出さなかった」
「でも、『禁忌』を……」
「殿下、聞いてください」
セラが、ルーカスの目を見つめた。
「あの場で、力を使わなかったら、どうなっていましたか」
「……もっと多くの人が、傷ついていたでしょう」
「そうです。殿下は、皆を守るために力を使いました。それは、正しいことです」
「でも、教会が……」
「教会のことは、後で考えましょう。今は、殿下が皆を守ったという事実が、大切です」
「セラ……」
ルーカスの目に、涙が浮かんだ。
「殿下、泣いていいんですよ」
「泣く……」
「はい。辛いときは、泣いていいんです。私がいますから」
セラが、ルーカスを抱きしめた。
ルーカスは、彼女の肩に顔を埋めた。
涙が、静かに流れた。
* * *
「セラ」
「はい」
「ありがとう」
「何がですか」
「いつも、傍にいてくれて」
「当然のことです」
「でも、ありがとう」
ルーカスが、涙を拭いた。
セラも、微笑んだ。
「殿下、これからどうなるか分かりません。でも、私はずっと殿下の味方です」
「セラ……」
「約束しましたよね。ずっと傍にいると」
「はい」
「その約束は、変わりません」
「ありがとう、セラ」
二人は、手を握り合った。
「帰国は、明日に延期になりました」
「そうですか」
「今日は、ゆっくり休みましょう」
「はい」
二人は、貴賓館に戻った。
* * *
その夜、ルーカスは一人で考えていた。
今日、初めて「戦闘形態」の片鱗を見せた。
前世では当たり前だった姿。
しかし、この世界では「禁忌」とされる姿。
参加者たちは、どう思っただろうか。
恐怖しただろうか。
嫌悪しただろうか。
しかし、セラは違った。
彼女は、自分を怖がらなかった。
むしろ、支えてくれた。
「セラ……」
彼女の名前を、呟いた。
胸が、温かくなった。
セラがいれば、大丈夫だ。
何があっても、乗り越えられる。
その確信が、胸の中にあった。
明日は、帰国だ。
故郷に戻る。
そして、新しい日々が始まる。
教会の監視は、さらに厳しくなるかもしれない。
今日のことが、報告されるかもしれない。
それでも、諦めない。
人間として生きる夢を、叶えるために。
大切な人を守るために。
これからも、歩き続ける。
ルーカスは、そう決意しながら、眠りについた。




