第50話:セラとの距離が縮まる(星空の告白?)
外交実習の十二日目。
実習も、残り三日となった。
今日は、自由行動の日だった。
ルーカスとセラは、クラウスと一緒に、王都を散策していた。
「明後日には、帰国ですね」
クラウスが、少し寂しそうに言った。
「はい。あっという間でした」
「殿下との出会いは、私にとって大きな財産です」
「僕にとっても、クラウス殿との友情は、大切なものです」
二人は、笑顔で握手を交わした。
「殿下、よろしければ、今夜、特別な場所にお連れしたいのですが」
「特別な場所……」
「はい。王都で一番、星が綺麗に見える場所です」
「星空……」
「ぜひ、殿下とヴェルディ殿に見ていただきたいのです」
「素敵ですね。ぜひ、お願いします」
ルーカスが、嬉しそうに頷いた。
セラも、興味深そうな顔をしていた。
* * *
夜になった。
クラウスが、二人を案内してくれた。
王都の外れに、小高い丘があった。
そこからは、街の灯りが見えた。
そして、空には、無数の星が輝いていた。
「すごい……」
ルーカスは、思わず声を上げた。
これほどの星空は、見たことがなかった。
「ここは、私のお気に入りの場所です」
クラウスが、誇らしげに言った。
「子供の頃から、よく来ていました」
「本当に、綺麗ですね」
「ええ。王都の喧騒から離れると、こんなに星が見えるのです」
三人は、丘の上に座った。
夜風が、心地よく吹いていた。
「殿下、ヴェルディ殿、少し席を外しますね」
「え……」
「私は、友人に会ってきます。二人で、ゆっくり星を見ていてください」
「クラウス殿……」
「では、後ほど」
クラウスは、にこりと笑って、去っていった。
ルーカスとセラは、二人きりになった。
「気を遣ってくれたのでしょうか」
「……そうかもしれませんね」
セラが、少し恥ずかしそうに言った。
* * *
二人は、並んで座っていた。
星空を、見上げていた。
「きれいですね」
「はい」
「星が、こんなにたくさん見えるとは……」
「前世では、見えなかったのですか」
「はい。前世の世界は、空が汚れていて、星はほとんど見えませんでした」
「そうですか……」
「だから、この世界に来て、星を見たときは、感動しました」
「殿下……」
セラは、ルーカスの横顔を見つめた。
彼の目には、星の光が映っていた。
「セラ」
「はい」
「今日、ずっと考えていたことがあります」
「何ですか」
「昨日の、茶会でのことです」
「……」
セラの顔が、少し赤くなった。
「セラが、嫉妬していたこと」
「嫉妬なんて……」
「王女殿下が言っていました。セラの顔が赤いと」
「あれは……」
「僕は、セラが嫉妬してくれて、嬉しかったです」
「え……」
セラが、驚いた顔でルーカスを見た。
「嬉しい……ですか」
「はい。セラが、僕のことを大切に思ってくれている証拠だと思いました」
「殿下……」
「間違っていますか」
「いいえ……間違っていません」
セラは、小さな声で答えた。
「私は……殿下のことが、大切です」
「僕も、セラのことが大切です」
「……」
二人は、お互いを見つめた。
星の光が、二人を照らしていた。
* * *
「セラ」
「はい」
「僕は、恋愛がよく分かりません」
「はい……」
「でも、一つだけ、分かることがあります」
「何ですか」
「セラと一緒にいると、胸が温かくなります」
「……」
「セラの笑顔を見ると、嬉しくなります。セラが困っていると、助けたくなります。セラが他の人と楽しそうにしていると、少し寂しくなります」
「殿下……」
「これが恋愛なのかどうか、分かりません。でも、これだけは分かります」
ルーカスは、セラの手を取った。
「僕は、セラのことが好きです」
「……っ」
セラの目が、大きくなった。
心臓が、激しく打っていた。
「好き……」
「はい。好きです」
「それは……恋愛の好きですか」
「分かりません。でも、他の誰よりも、セラのことを大切に思っています」
「……」
セラの目から、涙がこぼれた。
ルーカスは、驚いた。
「セラ、どうしましたか。何か、悪いことを言いましたか」
「いいえ……違います」
「では、なぜ泣いているのですか」
「嬉しいから……です」
「嬉しい……」
「はい。殿下に、そう言ってもらえて、嬉しいのです」
セラは、涙を拭いた。
そして、微笑んだ。
「私も、殿下のことが好きです」
「セラも……」
「はい。殿下に出会ってから、ずっと、殿下のことを考えていました。殿下と一緒にいたいと思っていました。殿下の役に立ちたいと思っていました」
「……」
「これが恋愛かどうか、私にも分かりません。でも、殿下のことが好きだということは、分かります」
セラの言葉に、ルーカスの胸が熱くなった。
* * *
二人は、手を握り合ったまま、星空を見上げていた。
「セラ」
「はい」
「僕たちの関係は、何でしょうか」
「分かりません。でも、大切な関係だということは、分かります」
「大切……」
「はい。殿下は、私にとって、一番大切な人です」
「僕にとっても、セラは一番大切な人です」
二人は、お互いを見つめた。
「名前を、呼んでください」
「え……」
「ルーカス、と」
「……ルーカス」
「はい」
「ルーカス……」
セラが、彼の名前を呼んだ。
その声が、夜風に溶けていった。
「セラ」
「はい」
「これからも、傍にいてください」
「はい。ずっと、傍にいます」
「約束してくれますか」
「約束します」
二人は、小指を絡めた。
指切りの約束だった。
「ルーカス」
「はい」
「私は、殿下を守ります」
「守る……」
「はい。殿下を、傷つける者から守ります。殿下が辛いときは、支えます。殿下が迷ったときは、一緒に考えます」
「セラ……」
「それが、私の役目です。そして、私の願いです」
セラの目には、決意の光があった。
ルーカスは、その目を見つめた。
「僕も、セラを守ります」
「私を……」
「はい。セラを傷つける者から守ります。セラが辛いときは、支えます。セラが迷ったときは、一緒に考えます」
「ルーカス……」
「それが、僕の役目です。そして、僕の願いです」
二人は、お互いの目を見つめ合った。
星の光が、二人を包んでいた。
* * *
「ルーカス」
「はい」
「この星空を、ずっと覚えていたいです」
「僕も、同じです」
「いつか、また一緒に見たいですね」
「はい。約束しましょう」
「約束……」
「いつか、また一緒に、この場所に来ましょう」
「はい」
二人は、微笑み合った。
そのとき、流れ星が、空を横切った。
「流れ星……!」
「綺麗ですね」
「願い事を、しましたか」
「はい。しました」
「何を願ったのですか」
「……内緒です」
セラが、恥ずかしそうに微笑んだ。
ルーカスは、首を傾げた。
「僕も、願い事をしました」
「何を願ったのですか」
「セラと、ずっと一緒にいられますように、と」
「……」
セラの顔が、真っ赤になった。
「ルーカス、それは……言ってしまったら、叶わなくなりますよ」
「そうなのですか」
「はい。願い事は、秘密にしないといけないのです」
「知りませんでした。では、秘密にします」
「もう遅いです……」
セラが、呆れたように笑った。
しかし、その顔は、嬉しそうだった。
* * *
しばらくして、クラウスが戻ってきた。
「お待たせしました。良い時間を過ごせましたか」
「はい。ありがとうございました」
「素晴らしい場所でした」
ルーカスとセラが、お礼を言った。
クラウスは、二人の様子を見て、にやりと笑った。
「何か、良いことがあったようですね」
「え……」
「お二人とも、顔が赤いですよ」
「それは……」
「まあ、聞きませんけどね」
クラウスが、肩をすくめた。
ルーカスとセラは、顔を見合わせた。
「では、帰りましょう。夜も更けてきましたから」
「はい」
三人は、丘を下りて、貴賓館に向かった。
* * *
貴賓館に戻った後、ルーカスとセラは、廊下で別れた。
「今日は、ありがとうございました」
「こちらこそ」
「また、明日」
「はい。明日」
二人は、少しの間、見つめ合っていた。
「おやすみなさい、セラ」
「おやすみなさい、ルーカス」
二人は、それぞれの部屋に入った。
* * *
ルーカスは、ベッドに横になった。
今日のことを、思い返していた。
星空の下で、セラと話したこと。
お互いの気持ちを、伝え合ったこと。
約束を、交わしたこと。
胸が、温かかった。
これが、恋愛なのかもしれない。
「セラのことが、好きだ」
小さく呟いた。
その言葉が、自然に出てきた。
前世には、こんな感情はなかった。
誰かを好きになることも、誰かに好かれることも、なかった。
ただ、戦うだけだった。
しかし、今は違う。
セラがいる。
セラのことが、好きだ。
そして、セラも、自分のことが好きだと言ってくれた。
それが、とても嬉しかった。
「人間として生きる……」
それは、こういうことなのだろう。
誰かを愛し、誰かに愛されること。
それが、人間として生きるということなのだ。
自分は、少しずつ人間になっている。
セラのおかげで。
明日も、セラと一緒に過ごす。
明後日も、その次も。
ずっと、一緒に。
その約束を胸に、ルーカスは眠りについた。
幸せな夢を見ながら。




