第46話:遺跡探索、古代魔法文明の調査隊
外交実習の八日目。
今日は、特別プログラムが予定されていた。
古代遺跡の探索だ。
「エルザリア王国には、古代魔法文明の遺跡があります」
引率の教官が、参加者たちに説明した。
「今日は、その遺跡を見学します。貴重な機会ですので、しっかりと学んでください」
参加者たちは、馬車に乗り込んだ。
目的地は、王都から半日ほど離れた山の中にある遺跡だった。
* * *
馬車は、山道を登っていった。
景色が、少しずつ変わっていく。
平地から、森へ。
森から、岩山へ。
「殿下、あれが遺跡です」
セラが、窓の外を指さした。
遠くに、古い建造物が見えた。
石造りの巨大な構造物だった。
「すごい……」
ルーカスは、目を見開いた。
その遺跡は、圧倒的な存在感を放っていた。
何百年も前に作られたものだとは、思えないほど立派だった。
「あの遺跡は、千年以上前に作られたと言われています」
クラウスが、説明してくれた。
彼も、この探索に同行していた。
「千年……」
「はい。古代魔法文明の時代です。当時は、今よりも魔法技術が進んでいたそうです」
「今よりも……」
「はい。しかし、その文明は、ある日突然滅びました。理由は、分かっていません」
クラウスの言葉に、ルーカスは興味を持った。
古代の文明。
失われた技術。
それは、とても興味深い話だった。
* * *
遺跡に到着した。
近くで見ると、さらに壮大だった。
巨大な石柱が、何本も立っていた。
壁には、不思議な文様が刻まれていた。
「これが、古代魔法文明の遺跡……」
ルーカスは、その遺跡を見上げた。
何か、不思議な感覚があった。
この遺跡から、何かを感じる。
「殿下、どうされましたか」
「いえ……何か、感じるような気がして」
「感じる……?」
「うまく説明できませんが、この遺跡には、何かがあるような……」
「……」
セラは、少し心配そうな顔をした。
ルーカスの「感じる」という言葉が、気になったのだ。
「では、遺跡の内部を見学しましょう」
引率の教官が、全員を案内した。
遺跡の入り口から、中に入っていく。
* * *
遺跡の内部は、薄暗かった。
松明の明かりが、壁を照らしていた。
通路は、奥へ奥へと続いていた。
「この遺跡は、地下に何層もの構造があります」
案内役のエルザリア王国の学者が、説明した。
「現在、発掘されているのは、ほんの一部です。まだまだ、未知の部分が多いのです」
「未知……」
「はい。調査は続いていますが、解明には、あと数百年はかかるでしょう」
学者の言葉に、参加者たちは驚いていた。
数百年。
それほどの規模の遺跡なのだ。
「この壁画を見てください」
学者が、壁の一部を照らした。
そこには、奇妙な絵が描かれていた。
人間らしき姿と、何か別のものが、並んでいた。
「これは、古代の人々が崇めていた存在を描いたものです」
「崇めていた存在……」
「はい。『守護者』と呼ばれていたようです。人々を守る、強大な力を持った存在だと」
「守護者……」
ルーカスは、その壁画をじっと見つめた。
何か、引っかかるものがあった。
その「守護者」の姿が、どこかで見たことがあるような……。
――いや、違う。
ルーカスは、頭を振った。
気のせいだろう。
* * *
遺跡の奥深くに、大きな部屋があった。
そこは、古代の祭壇のようだった。
中央に、大きな石のテーブルがあった。
その周りには、不思議な記号が刻まれた柱が並んでいた。
「ここは、古代の人々が儀式を行っていた場所です」
「儀式……」
「はい。どのような儀式かは、分かっていません。しかし、この場所には、強い魔力の痕跡が残っています」
学者の言葉に、ルーカスは周囲を見回した。
確かに、何かを感じる。
空気が、少し重い。
普通の人間には分からないかもしれないが、自分には分かった。
「殿下……?」
セラが、ルーカスの様子を心配そうに見ていた。
彼の表情が、少し変わっていたからだ。
「大丈夫です。少し、不思議な感じがするだけです」
「不思議な感じ……」
「はい。この場所は、何か特別な場所のような気がします」
「……」
セラは、ルーカスの言葉を聞いて、少し緊張した。
彼の「感じる」能力は、普通の人間とは違う。
前世の影響かもしれない。
* * *
祭壇の近くに、小さな通路があった。
そこは、まだ発掘されていない区域だった。
「この先は、立入禁止です。危険ですので、入らないでください」
学者が、注意した。
しかし、ルーカスは、その通路に引き寄せられるような感覚を覚えた。
何かが、奥にある。
それを、感じていた。
「殿下、どうしましたか」
「セラ、あの通路……」
「はい」
「何かがあるような気がします」
「何か……」
「分かりません。でも、気になります」
ルーカスは、その通路をじっと見つめていた。
そのとき、足元の石が、少し動いた。
古い遺跡だ。
石が脆くなっている場所もあるのだろう。
しかし、その動きが、連鎖反応を起こした。
ゴゴゴゴ……という音が、遺跡全体に響いた。
「何だ……!?」
「地震か!?」
参加者たちが、騒ぎ始めた。
天井から、小さな石がぱらぱらと落ちてきた。
「落ち着いてください! 全員、外に避難します!」
引率の教官が、指示を出した。
参加者たちが、慌てて出口に向かった。
* * *
しかし、問題が起きた。
出口への通路が、崩れた石で塞がれていた。
「これは……」
「別の出口を探しましょう」
学者が、冷静に指示した。
しかし、遺跡の構造は複雑だった。
迷路のような通路が、何本もあった。
「こっちの通路は……行き止まりだ」
「こっちも、崩れている」
参加者たちが、次々と報告した。
状況は、厳しかった。
「殿下……」
セラが、ルーカスに近づいた。
彼女の顔は、緊張していた。
「大丈夫です。出口を見つけましょう」
「はい」
二人は、別の通路を探し始めた。
しかし、どの通路も、塞がれているか、行き止まりだった。
閉じ込められたのだ。
* * *
参加者たちは、祭壇の部屋に集まった。
ここが、一番広くて安全だった。
「どうしますか……」
「外部に救助を求めるしかありません」
「でも、通信手段が……」
参加者たちが、不安そうに話し合っていた。
ルーカスは、黙って考えていた。
さっき、気になった通路。
立入禁止の、あの通路だ。
あそこに、何かがあるような気がしていた。
もしかしたら、あそこに別の出口があるかもしれない。
「セラ、少しいいですか」
「はい」
「あの通路を、調べてみたいのですが」
「あの通路……立入禁止の……」
「はい。何か、感じるのです。あそこに、出口があるかもしれません」
「でも、危険です」
「分かっています。でも、このままでは、全員が閉じ込められたままです」
「……」
セラは、少し考えた。
そして、頷いた。
「分かりました。でも、私も一緒に行きます」
「危険です」
「殿下だけを行かせるわけにはいきません」
「……分かりました」
二人は、学者に声をかけた。
「あの通路を、調べてきます」
「立入禁止ですが……」
「出口があるかもしれません」
「……分かりました。気をつけてください」
学者は、松明を渡してくれた。
二人は、立入禁止の通路に向かった。
* * *
通路は、狭かった。
天井が低く、かがんで進まなければならなかった。
松明の明かりが、壁を照らしていた。
「殿下、大丈夫ですか」
「はい。セラは」
「私も、大丈夫です」
二人は、慎重に進んでいった。
通路は、奥へ奥へと続いていた。
どこまで続いているのか、分からなかった。
しかし、ルーカスは確信していた。
この先に、何かがある。
それを、感じていた。
「殿下、何か見えます」
セラが、前方を指さした。
通路の先に、光が見えた。
外の光ではない。
青白い、不思議な光だった。
「行きましょう」
二人は、光に向かって進んでいった。
* * *
通路の先に、小さな部屋があった。
そこには、不思議なものがあった。
部屋の中央に、台座があった。
その上に、光る石が置かれていた。
青白い光を放っている。
「これは……」
ルーカスは、その石を見つめた。
不思議な感覚があった。
この石から、何かを感じる。
懐かしいような、怖いような……。
「殿下、これは何でしょうか」
「分かりません。でも、古代の遺物のようです」
「触らない方がいいかもしれません」
「そうですね」
ルーカスは、石から目を離した。
周囲を見回す。
部屋の壁には、壁画が描かれていた。
さっきの祭壇の部屋と、同じような絵だった。
「守護者」らしき存在が、描かれていた。
しかし、この壁画には、もう一つの絵があった。
「守護者」の隣に、別の存在が描かれていた。
それは……。
「殿下……?」
ルーカスは、その絵を見つめて、固まっていた。
その絵は、人間のような姿だった。
しかし、体の一部が、金属のように見えた。
「これは……」
心臓が、速く打ち始めた。
この絵は、何を意味しているのか。
古代の人々は、何を見ていたのか。
「殿下、大丈夫ですか」
「はい……大丈夫です」
ルーカスは、深呼吸をした。
今は、考えている場合ではない。
出口を探さなければ。
「セラ、あそこに通路があります」
部屋の反対側に、別の通路があった。
そこから、風が吹いてきていた。
「外に繋がっているかもしれません」
「行きましょう」
二人は、その通路に向かった。
* * *
通路を進んでいくと、だんだん明るくなってきた。
自然の光だ。
外が近い。
「もう少しです」
二人は、足を速めた。
そして、ついに、外に出た。
遺跡の裏側だった。
山の斜面に、出口があった。
「出られました……」
セラが、安堵のため息をついた。
ルーカスも、ほっとした。
「皆に知らせましょう」
「はい」
二人は、急いで遺跡の入り口に向かった。
* * *
救助は、無事に行われた。
ルーカスたちが見つけた通路を使って、全員が脱出できた。
怪我人は、一人もいなかった。
「ルーカス殿下、ありがとうございました」
学者が、深くお辞儀をした。
「殿下が、出口を見つけてくれなければ、大変なことになっていました」
「いいえ。たまたまです」
「いいえ、たまたまではありません。殿下には、何か特別な感覚があるのでしょう」
「……」
ルーカスは、何も答えなかった。
あの光る石。
あの壁画。
あれは、何だったのか。
まだ、分からない。
しかし、何か重要なことを、示唆しているような気がした。
「殿下、大丈夫ですか」
セラが、声をかけた。
ルーカスは、微笑んだ。
「はい。大丈夫です」
「あの部屋で見たもの……気になりますか」
「少しだけ。でも、今は考えないことにします」
「……分かりました」
セラは、それ以上は聞かなかった。
ルーカスの秘密に、関わることかもしれない。
今は、触れない方がいい。
二人は、他の参加者たちと合流した。
今日の探索は、ここで終わりだ。
帰りの馬車に乗り込んだ。
* * *
帰りの馬車の中、ルーカスは窓の外を見つめていた。
あの遺跡で見たもの。
あの光る石。
あの壁画。
それらが、頭から離れなかった。
古代魔法文明。
「守護者」と呼ばれた存在。
そして、金属の体を持つ存在。
もしかしたら、この世界には、自分と同じような存在がいたのかもしれない。
古代に、何かがあったのかもしれない。
「殿下……」
セラが、心配そうに声をかけた。
「大丈夫です。少し、考え事をしていただけです」
「何を考えていたのですか」
「……この世界のことを」
「この世界……」
「はい。まだ、知らないことがたくさんあるな、と思って」
「そうですね。世界は、広いですから」
「はい」
ルーカスが、微笑んだ。
セラも、微笑んだ。
「明日も、頑張りましょう」
「はい」
二人は、手を握り合った。
謎は、まだ解けていない。
しかし、今は、目の前のことに集中しよう。
外交実習は、まだ続いている。
学ぶべきことは、たくさんある。
ルーカスは、そう自分に言い聞かせながら、窓の外を見つめ続けた。




