第100話:最終話「人間として生きる幸せ」
月日は流れ、数年が経った。
フェリクスは五歳になり、王宮の教育を受け始めていた。
ルーカスは、相変わらず特務部門の長として、国を守り続けていた。
セラは、妻として、母として、そして護衛として、ルーカスを支え続けていた。
「殿下、今日の会議、お疲れ様でした」
「ありがとう、セラ」
「国の状況は、良好ですね」
「はい。平和が続いています」
「殿下のおかげです」
「みんなのおかげです」
二人は、微笑み合った。
* * *
ある晴れた日、ルーカスは家族と一緒に、王宮の庭園を歩いていた。
「パパ、みて! ちょうちょ!」
フェリクスが、蝶を追いかけていた。
「気をつけるんだよ」
「わかってるー!」
元気に走り回る息子を、ルーカスとセラは微笑ましく見守っていた。
「殿下、フェリクスは元気ですね」
「はい。毎日が楽しそうです」
「幸せな子ですね」
「僕たちの子ですから」
「……はい」
セラが、嬉しそうに頷いた。
* * *
ふと、ルーカスは空を見上げた。
青い空に、白い雲が浮かんでいる。
鳥が、自由に飛んでいる。
美しい世界だった。
「前世では、こんな景色を見たことがなかった……」
小さく呟いた。
「殿下?」
「いえ、何でもありません」
「……」
セラは、黙ってルーカスの手を握った。
「殿下、幸せですか」
「はい。とても幸せです」
「私も、幸せです」
「良かったです」
二人は、微笑み合った。
* * *
夕方、三人で夕日を見ていた。
「きれい……」
フェリクスが、夕日を見て呟いた。
「綺麗だね」
「パパ、ママ、だいすき」
「パパも、フェリクスが大好きだよ」
「私も、大好きよ」
三人で、手を繋いだ。
夕日が、三人を照らしていた。
オレンジ色の光が、温かかった。
* * *
夜、フェリクスを寝かしつけた後、ルーカスとセラは二人で過ごした。
「殿下、今日は良い一日でしたね」
「はい」
「こんな日が、ずっと続けばいいですね」
「続きますよ。僕たちが、守り続ければ」
「殿下……」
「セラ、僕は幸せです」
「私も、です」
「この幸せを、大切にしたいです」
「はい」
二人は、お互いを見つめた。
* * *
「セラ、僕は……」
「はい」
「前世では、戦闘用ロボットでした」
「……」
「感情もなく、ただ戦うだけの存在でした」
「……」
「でも、この世界に転生して、全てが変わりました」
「殿下……」
「家族ができました。友人ができました。愛する人ができました」
「……」
「僕は、人間になれました」
ルーカスの目に、涙が浮かんだ。
「セラのおかげです。本当に、ありがとう」
「殿下……」
「セラと出会えて、本当に良かったです」
「私こそ、殿下と出会えて、本当に良かったです」
二人は、抱き合った。
* * *
「殿下、これからも、ずっと一緒にいてください」
「もちろんです。死ぬまで、一緒です」
「約束ですよ」
「約束します」
「私も、約束します。殿下の傍に、ずっといます」
「ありがとう、セラ」
「私こそ、ありがとうございます」
二人は、微笑み合った。
そして、そっとキスを交わした。
* * *
窓の外には、満天の星空が広がっていた。
無数の星が、静かに輝いている。
「綺麗ですね」
「はい」
「殿下、あの星、見てください」
「どれ」
「あの、一番明るい星」
「ああ、あれですか」
「あれは、希望の星だそうです」
「希望の星……」
「願いを込めると、叶うと言われています」
「そうなんですか」
「殿下、何か願いますか」
「……」
ルーカスは、少し考えた。
「願いは、もう叶っています」
「え……」
「人間として生きること。それが、僕の願いでした」
「……」
「今、僕は人間として生きています。セラと一緒に。フェリクスと一緒に」
「殿下……」
「これ以上の幸せは、ありません」
ルーカスが、微笑んだ。
「だから、新しい願いを込めます」
「何を……」
「この幸せが、ずっと続きますように」
「……」
「セラとフェリクスと、幸せに暮らせますように」
「殿下……」
セラの目から、涙がこぼれた。
「私も、同じ願いを込めます」
「セラ……」
「殿下とフェリクスと、ずっと幸せに暮らせますように」
二人は、星空を見上げながら、願いを込めた。
* * *
もしとんでもロボが異世界の第三王子に転生したら。
それは、一人の戦闘用ロボットが、人間として生まれ変わる物語だった。
感情を持たなかった機械が、愛を知った。
戦うことしか知らなかった存在が、守ることを学んだ。
一人で戦っていた者が、仲間を得た。
ルーカス・フォン・ヴェルスタイン。
かつては戦闘用ロボット。
今は、愛する妻と子供を持つ、一人の人間。
彼は、人間として生きる幸せを、手に入れた。
* * *
夜が更けていく。
星空は、相変わらず美しく輝いている。
ルーカスとセラは、手を繋ぎながら、星空を見上げていた。
「殿下、愛しています」
「僕も、愛しています」
「これからも、ずっと」
「ずっと」
二人の影が、月明かりに照らされていた。
穏やかな夜。
幸せな時間。
これからも続く、日常。
ルーカスは、心からの幸せを感じながら、微笑んだ。
「人間として生きる幸せ……」
それは、彼がようやく手に入れたもの。
大切に、守っていく。
これからも、ずっと。
* * *
――完――




