-32-
小少将の君の屋敷を後にした鬼道丸の足は、一歩ごとにだんだん重くなってきた。
今まで頭から追い払ってきた現実が、再び甦って鬼道丸の背に圧し掛かる。
とにかく、占いの道具を置きっぱなしにしてきたから、一条戻橋まで行かなければならない。
でも、もう幾日もねぐらへ戻っていないから、きっと親方はかんかんだろう。
もし、怒り狂った親方が一条戻橋で待ち構えていたとしたら。
鬼道丸は震え上がりながら、恐る恐る一条戻橋の下をのぞいてみた。
だが、そこで待っていたのは、鬼道丸を半殺しにきた親方ではなく、一条院で別れた晴明と月季だった。
「ようやく戻ってきたか。もうこれで小少将の君には会えなくなって、残念じゃったの」
「余計なお世話だ」
鬼道丸をからかう晴明のにやにや顔を睨みながら、鬼道丸は晴明に詰め寄った。
「それより爺さん、よくも騙してくれたな」
「騙したわけじゃない」
「でも、自分が誰かも教えてくれず、ろくに助けてもくれなかったじゃないか」
「月季を貸してやっただろう」
「でも、最初から全部相談に乗ってくれていたら、もっと楽に解決できたのに。俺は橘次に殴られ損だった」
「これこれ、いい若いもんが楽をすることばかり考えるな。これも良い経験になったじゃろう」
まだにやにや笑っている晴明に、鬼道丸はなおもぶつぶつ言った。
「ていうか、俺なんかそもそも必要じゃなかったんじゃないか。一条院での除霊の祈祷の時も、俺は側でただ指をくわえて見てただけ。帝の病気を治したのは爺さんだ。その証拠に、後で恩賞を約束されたのは爺さんだけ。俺なんか見向きもされなかった」
「まあ、そう拗ねるな」
「俺なんか全然役立たずだ。もしかしたら、小少将の君の夢の中に出てきた観音様が言ってた陰陽師って、俺じゃなくて爺さんのことだったんじゃないか」
「ほう、そうかな。確かにわしがいたのもこの一条戻橋のたもとじゃった。橋の下ではあったがな」




