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一条院の奥の奥、清涼殿せいりょうでん夜御殿よんのおとどを模した一間に、あの方、は眠っていた。


騎馬の人物の描かれた屏風に取り囲まれ、こちら側には几帳きちょうも置かれているので、その顔は見えない。


寝床の前には二つの人影。


一つは直衣のうし姿の男。


もう一つは豪華な十二単を身にまとった女のようだった。


小少将の君はその二人の側まで進み出ると、何も言わずに優雅に腰を下ろす。


その突然の気配に驚いた男が、急に後ろを振り返った。


年は三十代の半ばを過ぎた辺りだろうか。


年の割には落ち着きがあり、恰幅かっぷくが良くて堂々としている。


しかし、どことなく傲慢ごうまん不遜ふそんな感じがした。


その印象通り、男は小少将の君を見ると、眉を顰め威圧的な口調で言う。


「何だ。小少将の君ではないか。宿下がりしていると聞いていたが、いつ戻った」


小少将の君はそんな男の様子にもまるでひるまず、むしろ挑み返すような口調で答えた。


「先ほど。それより、主上おかみだけに申し上げたいことがございます。どうぞ、しばらくの間、お二人とも席をお外しくださいませ」


主上? 


それは、恐れ多くも、帝を指す言葉だ。


小少将の君の背後に降ろされた御簾の向こうで、老人の袖に隠れるようにして中の様子をうかがっていた鬼道丸は、思わず泡を吹いて倒れそうになった。


そんな鬼道丸を、月季がしっと唇に指を当てて押さえる。


小少将の君は、男を見据えたままがんとして動かない。


男はかっとしたらしく、思わず声を荒げて叫んだ。


「何だと、無礼な。私を誰だと思っている。私は主上の実の叔父でもあり、しゅうとでもあるのだ。主上のことなら何から何まで知っておる。枕上にいて何が悪い。しかも、ひどいご病気なのだぞ。お一人などできぬ」


「いえ、何としても、主上と二人だけにしていただきます」


「何を馬鹿なことを。一介いっかいの女房風情が何を言う」


二人のやり取りを怖々見つめていた鬼道丸は、小声で老人に問うた。


「この人、一体誰なんだよ」


「左大臣、藤原道長殿じゃよ」


老人は鬼道丸に目配せをしながら答える。


そして、やおら立ち上がって下ろされていた御簾を掲げると、にらみ合う二人の間に割って入った。


「このお方は、小少将の君にして、小少将の君にはあらず」


老人は年に似合わない朗々とした大声で言った。


いつもの歯抜け音も、心なしかなりを潜めている気さえする。


老人は道長の方へ顔を向け、なだめるような口調で言った。


「今は、とにかく言う通りになされませ」

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