四話目のような
修学旅行初日、夜。夕食前。
杪の悲鳴を聞き付けてやってきた河内先生や幾人かの生徒は、心達と共に目の前の生徒がやっている事を只じっと見ていた。
その生徒は青梅慰夢、新聞部員である。
懐から取り出した薬品をタンポポの綿毛のような器具に付け、それで静脈認証をするパネルを軽く叩いていた。
次第にパネルに変化が出てきた。
そこから浮き上がってきた模様は、指紋だった。それを確認した慰夢は、今度は懐からカメラを取り出してそれを撮影した。
何枚か撮影した後カメラ等をしまい立ち上がると、心に話しかけた。
「英心さん、私と一緒に部屋に入ってくれますかです」
そう言われた心は頷いて扉を開け、慰夢と一緒に中に入った。
慰夢は畳の上に行くと、テーブルの上に紙と朱肉を置いた。
「心さん、私の隣に来てくださいです」
「はい」
慰夢は隣に座った心の腕を取り、こう言った。
「力を抜いて、リラックスです」
吹奏楽部員である心は、軽く深呼吸して簡単に力を抜いた。
慰夢はそれを確認すると、その手の人差し指に右手を添えて朱肉を付ける。
そして紙に人差し指を当てて指紋を取った。
「はい、終了です。ありがとうございましたです」
慰夢はそう言って首を五度程傾け、にっこりと微笑んだ。
「いえいえ」
心の返事を聞きながら紙と朱肉を懐にしまいこんだ慰夢は、立ち上がりながらこう言った。
「もう六時二十七分だから、早く昼食を食べに行くです」
昼食じゃあなくて夕食だと言う暇も無く、ささっと慰夢は部屋を飛び出していってしまった。
残された心は右手の人差し指を見て、まずは手を洗いに行く事にし、立ち上がる。
「あっ、心さん、昼食は一緒の席に座りましょうねです」
いつの間にか戻ってきていた慰夢はそう言い、心が無意識の内に肯定の頷きをするとすぐにまたいなくなった。
心はしばし扉の向こうにいる河内先生らを見ていたが、おもむろに歩き出すと、その緩慢な動きのまま手を洗いに洗面台に行った。
慰夢が全てをやってしまったかのようで、気勢が削がれたような雰囲気になっていた。




