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大体の事は代替できるのかもしれない。

 ライさんに剣の刀身が折れるだけの一撃を浴びせられた後でもレブは涼し気な顔で意外な事を言った。

 「どういう事?」

 「あの獅子が新たな生き甲斐を見据えれば良い。死ねない理由だ」

 言うのは簡単だけど……。私の表情から読み取ったのかレブはあからさまに咳払いをする。

 「気付いているだろう。今の獅子は一本芯が通っていない。死にたがって生き急いでいる様に見え、その実殺す気の無い私に挑んで無意味に剣を折った」

 「だからって止めて欲しがっていたわけじゃない、よね」

 カルディナさんとトーロは私達のやり取りの意味が分からずに首を傾げていた。レブは構わずに頷いて話を続ける。

 「あの獅子は自分なりに立ち上がろうとしている。欲しかったのは否定でも肯定でも良かったのだ。自力で足掻く限界で疲れていたからな」

 自分の気持ちを貫くにしても、挫けてしまうにしても、ライさん自身では決定できなかったんだ。カスコが壊されてフエンテにも逃げられて、挙句にはレブに気絶させられて。私達に壁を作ってるから発散もできなかった。追い詰めたのは……私も同じなんだ。

 「改めてあの獅子はフエンテを狙うだろう。だが、一人にしなければ自ずと答えを見つけ出す。牛が気にするのならば離れぬ事だ。あとは時間との勝負だろう」

 「時間はないのか……?」

 レブの言い回しでトーロもだけど、私もすぐに思い至るには難しかった。

 だけど、ライさんを一人にしないだけならきっとできる。

 「獅子とは群れる獣だ。孤立した状態でも力を発揮するには背を預けられる存在、或いは眼前の敵を突破させないだけ守りたい存在が要る」

 あとは孤立せずに素直に仲間と一緒に戦うか。この町が襲撃された時、レブは一方をライさんに任せていた。……もしかして、そういう事かな。

 「ライさんが、私達の事をもう少し……もう少しだけ、仲間だと思ってくれたら無茶しないでくれる、って事かな?」

 「それを我々は強要できないがな」

 レブは素直に言わないよね、絶対。でも、カルディナさんもトーロもさっきよりは納得してくれたみたい。

 「……以前の彼なら、そうかもしれないわね」

 カンポで会った頃のライさんも、今のライさんも同じ人物だ。変わってしまったからと、無責任に戻ってくれとは言えない。だからレブは答えを見つける、時間との勝負と言ったんだ。

 「放っておいたら変わらないとは、俺でも想像はつく。だったら、こうしてはいられんな」

 トーロが膝を叩いて立ち上がる。だけどカルディナさんはそんなトーロのズボンの端を掴んだ。

 「……どうした?」

 「いつもごめんなさい、トーロ。貴方は、負わなくて良い負担まで背負ってくれていた。私が召喚してから、そして……召喚する前すら。私はそれに気付けなかった」

 俯いたままカルディナさんが立ち上がり、ゆっくりとだけど深々頭を下げる。

 「おい止せ。こんな人目のあるところで。それこそ迷惑だ」

 心底嫌そうにトーロは口を歪めてカルディナさんの肩に手を乗せ、顔を上げさせた。カルディナさんはそのトーロの手をじっと見て言葉を詰まらせている。

 「だって貴方は……」

 「そういう役回りだったというだけだ。今更謝られたところで、気にしていないとしか言えんぞ」

 レブとは違うけど、どこか納得か達観した様子でトーロは答える。

 「理不尽に慣れてマヒしていない?」

 「慣れたわけじゃない。苦しい事もあったが、それ以上に……」

 言葉を区切ったトーロはちら、と私とレブを見た。二人で顔を見合わせたけど、もしかして聞かれたくないのかな。

 「……俺は今ある暮らしを守りたいんだ。だからこのオリソンティ・エラをより良くしてくれる契約者が大切で、召喚士も大事なんだ。……抜けたところも含めてな」

 ふ、と笑ってからトーロはカルディナさんを見た。カルディナさんもそれを聞いて顔を赤くしている。

 「……ま、お前らにまで聞かす事じゃなかったな」

 カルディナさんにあてられたのかトーロは頬を掻いてやっとこっちを見た。

 「ザナにまで心配させていたのは俺も悪かった。今後はもう少し……」

 「いいんだよ、トーロ。気を遣うんじゃなくて、カルディナさんや私達にはもう少し溜め込まなくても良いんじゃない?」

 配慮が必要なのは何もライさんだけではない。トーロだってそうだし、本当はレブだって。

 「レブだってそうだよ?」

 「ふん」

 ……こういう人もいるけど。ぷいと顔を背けたレブからすれば、一緒にされたくはないのかな。

 「お前も大変だな」

 「どうなのかな……」

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