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守りたいまばゆい誓い。

 「契約者とフジタカを囮に、私達はフエンテを追ってカスコまで来たんです」

 本来であれば海に渡ってシタァやカスコに行く予定なんてなかった。西ボルンタ大陸の町をあちこち巡って契約の儀式を行い、一部で召喚士選定試験を行ってトロノに戻るだけ。それでも長い旅になったのは間違いけど、こんなにも遠くまで来たなんて今も実感はあまりない。

 「囮……?ブラス所長の考えか?」

 ミゲルさんの顔が険しくなるのと対照に、カルディナさんの表情は沈む。

 「いいえ。ニクス様が……私達が、決めた方針です」

 一存ではない、自分も合意したと言わせたのは私達だ。だからカルディナさんを見るミゲルさんの視線を遮る様に私は前に出る。

 「黙っていてすみませんでした。フエンテがこちらを追ってきたのも最初だけで、今では立場が逆転している様な状態ですけど……」

 「君らが来たから、カスコで連中が暴れたのかい?」

 「う……!」

 語気は強くないがミゲルさんの視線が私に向いたまま尋ねる。真っ直ぐな問いに私は声を詰まらせてただ頷いた。

 「……そうか」

 頬杖をついてミゲルさんは目線を外すと、深く息を吐いた。少なくとも、私達がいないカスコでフエンテがこんな風に表立って召喚士達を攻撃するなんて考えられない。だとしたらやっぱりこの被害は……。

 「まぁまぁ!そんなに暗くならないでよ!ザナちんやカルだけじゃなくて、ミゲルも!」

 重くなり始めた空気を払拭する様にリッチさんが声を張る。静かになりつつあった空間に突如生じた良く通る声は耳に痛いくらいだった。

 「……お前なぁ」

 気怠そうに手から顔を離したミゲルさんが睨む。リッチさんは気にせずにミゲルさんの赤い毛をわしわしと掻き回した。

 「ヨソはヨソ、って割り切っていたのはミゲルの方やん!僕がケガしても生きてればいいっしょーに!カルやザナちんに感じ悪くするのはスジ違いちゃう?」

 「それは……」

 リッチさんの言葉に気持ちが軽くなりかける。でも、その一言に甘えてはいけない。

 「はいはい!カルやニクス様が来た“せい”で怪我をした!フエンテが暴れた“せい”で怪我をした!言うのは簡単!でも、だったら僕が怪我をしたのはカスコにいた“せい”っても言えるやん?」

 言い方の問題だけどミゲルさんの表情は少しだけ強張らなくなった。

 「……だな」

 「でっしょー?もー堪忍な、ザナちん?おっさんが怖い顔して。後で僕がよーく叱っとくからな!」

 「い、いえ……」

 リッチさんだけが変わらないで接してくれる。普段の調子に私がおろおろしてしまった。

 「ま、リッチを怪我させた召喚士とインヴィタドはカスコ支所で対処してくれたし。……まして、本人がこう言ってるんじゃな。ごめんな、ザナちん。俺は君達の“せい”にしかけていた」

 「謝るのはこちらの方です。お二人がそう言ってくれるのはありがたいですが……イサク王子含め、私達の失態も多いですし……」

 チコも他責にするのは簡単と言っていた。だけど私達はこの場に立つ責任を果たさなければならない。

 「うにゅ?あの王子、どうかしたの?」

 リッチさんの耳がピンと立った。ミゲルさんも口をぽかんと開けている。

 「フエンテに誘拐された」

 それは、完全に私達の“せい”だ。レブも分かって口に出している。

 「は、はぁぁぁぁ!?あの王子、あんな時にまた城抜け出してたのか!」

 ミゲルさんが言っていた通り、本当に外の状況は知らなかったんだ。だけどその予想は当てっている。

 「かぁ……。あんな王子でも人質くらいにはなるだろうから連れてかれたんだろうな。自業自得って言ったら俺らもだけどよ」

 目的は私達だったのに、王子は居合わせたところをベルナルドに拉致された。向こうからすれば予想外の儲け物だったと思う。

 「ムエルテ峡谷にフエンテの拠点があるらしくて、そこに捕らわれている可能性が一番高いんです。だからそこへカスコ支所の所長達と同行します」

 「あのおっかない所長とか……」

 チータ所長とも会った事があるのかな。だけど、ミゲルさんの顔を見るにあまり話したくはなさそう。

 「かなり頭に来てたんじゃないのか?カスコをよくもー!って」

 「その心配は無い。一晩で頭を冷やした様だからな」

 その頭に冷水をかける様な事を言ったのはしれっと答えたレブだ。

 「はっはっは、だったら安心だな」

 あまり力は無いけどミゲルさんが笑う。そこでやっとカルディナさんの前から退いた。

 「今夜には出発するわ。だから今のうちに顔を見ておきたかったの。だけどこんなになっているなんて……」

 カルディナさんが改めて店内を見回す。だけどミゲルさんとリッチさんは顔を見合わせてから、暗い雰囲気を打ち消す様に固まった表情から笑顔を作って見せた。

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