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言うほどドツボにはまり。

 「所長」

 レブに話を促されてカルディナさんは意を決した様で前へ出る。チータ所長の目線もやっとレブとフジタカから外れた。

 「契約者ニクスとその護衛任務を遂行するトロノ支所の召喚士達ですが、全員でムエルテ峡谷へ向かいます」

 「そうか。ならば都合が良い。我々も召喚士部隊の何割かをフエンテへの追撃、およびイサク王子奪還の任でムエルテへ向かわせる。君達にも同行してもらいたい」

 所長がフジタカをじっと見る。

 「フエンテを裏切ったと言う人狼の言葉……。口惜しいが手掛かりはそれしかないからな。しかし、君の感応力は私が同行した時に見せてもらっている。フジタカ、君が我々の切り札になるかもしれない」

 「俺の力っつーか……」

 ライさんもだけど、一夜明けたらだいぶ落ち着いたみたいだけどフジタカはそんな所長を気味悪そうに見ている。まして、能力を発揮する道具の様にしか見られていないのだから。レブと違ってフジタカはインヴィタドとしての扱われ方に納得できていないと思う。

 「他の誰にも真似はできまい」

 そこへレブが後押しをする。何を言い出すのか、とフジタカは口を開きかけたが肩を竦めるだけに留めた。

 「だな……。俺が親父を探して先行する。その先にフエンテがいるとは思う。だからそっからは……」

 「あぁ。後は我々カスコ支所の召喚士が、このカスコへ汚泥を塗った代償を支払わせる」

 所長からは冷たく、そして奥底が見えない程の圧を言葉と同時に感じた。特段語気を荒げるでも、眉間に皺を寄せるでもなかったのに。ライさんが目を細めたけど、口は開かなかった。

 「時間を取り戻す為に今夜出立する。遠征の準備はこちらで進めているが、君達の備品も申請さえあれば手配しよう」

 「ありがとうございます」

 カルディナさんが深々と頭を下げるのに合わせて、私達召喚士も礼をする。チータ所長は私達には構わず、ニクス様の前へ立った。

 「奇襲とは言えカスコを破壊したのは、ビアへロではなく召喚士とインヴィタドです。ムエルテの厳しい環境と相まっては御身の安全も保障できかねる。……ニクス様、本当によろしいのですね?」

 背丈の関係もあるが、ニクス様を半ば睨む様にチータ所長は見上げている。でもニクス様も動じた様子はない。

 「無論。自分がここまで旅路を共にした信頼に足る彼らと進むのだ、貴殿らの援護を前提にせずとも不安はない」

 ニクス様にそう言ってもらえると、やっぱり私達も誇らしい。考えてみると、カスコ支所の人達がムエルテへ行かないとしたら私達だけで行くつもりだったんだ。

 「ふ……それは結構」

 皮肉を込めたと言うより、さっきの圧が吐息と共に吹き抜けた様な笑みだった。

 「しかし安心して頂きたい。派遣するカスコの召喚士も、この場にいる彼らと同等以上の働きをしてみせましょう」

 「頼もしい事だ」

 ……うん、レブのは皮肉だよね。

 「……。では、私はこれから捕らえたフエンテの召喚士達への尋問があるが、今晩までに出立の準備を進めてほしい。日暮れ前に一度集合をかける」

 最後にレブを一睨みしてからチータ所長は足早に出て行った。レブに失点を見せた自覚があるから言い返さなかったんだと思う。

 「これから一緒なのに仲悪くなりそうな事は言わないでよ」

 「そうよ、肝が冷えたわ……」

 「ダメだぞ、デブ」

 「……ふん」

 私に続いてカルディナさんとフジタカからのダメ出しにレブはそっぽを向いた。どの口が言うんだ、って思ってるんだろうけど見直す機会は必要だよ。

 「元から任せるつもりはないんでしょ?それは私も同じ気持ちだから」

 こちらに向き直ってレブは目を伏せ何度も頷いた。

 「その意気を私は買うが、言わせておけば良いと考えたか」

 「えっ」

 どこか楽しそうにレブの尻尾が床をするすると這った。カルディナさんとチコ、他の皆も苦い表情をしている。

 「口に出さないでいてくれるだけありがたいけど……」

 「だんだんデブに似てきたぞ、ザナ……」

 二人のダメ出しが今度は私に向いた。歯切れの悪い遠回しな指摘に私も発言を顧みて顔を青くする。

 「ち、違うの!カスコの人達が頼りないんじゃなくて、それ以上にレブ達なら安心って言うか……」

 「フォローになってないんだって……。ま、実際そうなんだろーけどさ」

 煙が立ち上るカスコで飛んでいた時にレブと話した事だ。他の人よりもこの場にいる仲間になら任せられるって。でも、それって持ち上げた分だけカスコの人達への評価を落としちゃってたって事なのかな……。

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