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ゆうべはお楽しみでしたか。

                       第四十七章



 翌朝になってカスコ支所の所長室よりもまず先に、私とレブはニクス様の部屋へと向かった。中に入るとニクス様とカルディナさんが同じベッドに腰掛け、トーロは二人から少し距離を置いて椅子に座っている。私達が部屋に入ってもカルディナさんは挨拶を返してくれただけで、なかなかこちらを見てくれない。

 「他の連中なら、先に来て一声かけてから朝食を摂っている。昨日は一番早かったが、今日は少し遅かったな」

 「寝付きが悪くって……」

 レブに休め、と言われて目は瞑っていたけどどうしても頭の中に浮かぶ光景が眠りに落としてくれなかった。カスコや、ニクス様とカルディナさん、そして私達はこれからどうなっていくのか。……どうすべきなのか。カルディナさんに代わって口を開いたトーロに苦しい返事をすると、彼はニクス様を見る。

 「話しておいた方が良いでしょう。我々もザナ達と朝食を摂ったら所長室に向かうのですから」

 「うむ」

 昨日の私達がした返事もチコやウーゴさん達も知っているのかな。昨日も、話す時間はあったけど敢えて会わなかったし。

 「それぞれに話を聞かせてもらい、召喚士育成機関カスコ支所を出発した我々は引き続き旅を続行。ムエルテ峡谷へ向かい、フエンテとの接触を試みる」

 戦闘でも、陽動でもない。ニクス様も、レブも、フジタカも、ライさんも、フエンテの誰を標的としているかは違う。バラバラの目的で共通の組織を目指すのだから、今回は接触。

 「てことは……」

 「あぁ。全員で行く」

 答えてくれたニクス様はもちろん、一拍を置いてトーロとも顔を見合わせる。皆が同じ結論に至るとはなんとなく思っていたけど、やっぱりどこかで本当に良かったのかと考えてしまう部分もあった。特に……。

 「カルディナさん」

 「っ!」

 私が名前を呼ぶとカルディナさんは肩を跳ねさせた。すると、隣に寄り添うように座っていたニクス様がそっと手を握る。自分の手を見下ろしてカルディナさんはやっと落ち着いたみたい。

 「あの」

 「はぁ……」

 私の声を掻き消す様に、カルディナさんの溜め息が部屋に広がる。ニクス様はそんな彼女の手を握ってじっと顔を見詰めていた。

 「私とトーロはカスコまで一緒に来た他の召喚士とインヴィタド達と比べて、誰よりもニクス様の傍にいました。これまでも……これからも」

 ニクス様の手に空いていた自分のもう片方の手をカルディナさんが重ねる。

 「たとえどんな場所でも、私はもう彼から離れたりしない。だから私はもう、大丈夫」

 しっかりと顔を上げてカルディナさんはニクス様の方を見て微笑んだ。昨日までの張り詰めた表情とは違い、とても穏やかで見ているこちらまで気が緩む。……と言うか、二人の世界を見せられて直視していて良いのか迷ってしまうくらいだった。

 「それなら良かった。よろしくお願いします」

 私が確認なんてしなくても、ニクス様が口にしたからには皆も決意は十分な筈だ。むしろ、疑う様な真似をして悪い気がしてくる。

 「任せて。でも、問題はチータ所長と……」

 「あの王子だな」

 ゆっくりとニクス様から手を離したカルディナさんの言葉を先読みしてトーロが拾う。大事なのは私達の熱意や気力だけではない。まだ私達はあって当然の物を再確認しただけだ。

 「縄張り意識を持つな、と副所長に話していた矢先に俺達に出張るなと来たもんだ」

 「境壊の一柱とも言うべきこの地を束ねる身としての矜持、その鼻っ柱をへし折られた。あれが素なのだろう」

 トーロが出会った当初のチータ所長を思い返して苦笑するが、レブはこんなものとでも言いたげに分析していた。

 「我慢してたって事?」

 「立場を弁えた人間と思っていたのだがな」

 カスコ支所の所長として、か。チータ所長はただの召喚士じゃない。皆が知る召喚術が発展する源となったカスコという町の召喚士、というだけでも肩書としては一目置く。加えてその召喚士達を育成する機関の頂点を一人で背負う……。私には想像もできない。だけど、召喚士として平等に接しようとしてくれたあの態度は本心ではなかったのかもしれない。だから、ロボに逃げられた時もフジタカに当たり散らして……。

 「さて、どちらの顔を見せるか……。この期に及んで突っぱねる様であれば厄介だぞ、あの手合いは」

 「今からそんな事言わないでよ、緊張しているんだから……」

 トーロからの忠告は分かっていたようでカルディナさんが肩を落とす。

 「自分が進言すれば無視はしまい」

 「仰る通りではありますが、まずは私から話してみます。頼り切りではいられませんから」

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