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正しくとも。

 私とレブはカスコ支所へ戻ると真っ先にニクス様の待つ部屋へと向かった。扉を叩くとトーロが内側から開けてくれる。

 「お前達がやはり一番か……」

 トーロは私とレブを見て、ボソリと言うと目を伏せて奥へと入ってしまう。やけに気落ちした様だったが私とレブは構わず彼に続いた。

 中に入るとニクス様はベッドに腰掛けており、椅子と机は使われた様子がない。

 「失礼します。……あれ?カルディナさんは?」

 一番の違和感はこの場にカルディナさんがいない事だった。いつもトーロやニクス様の傍にいるのに……。

 「少し一人で考えたい、だそうだ」

 私はトーロに尋ねたつもりだったが、答えてくれたのはニクス様だった。トーロの顔を見ても、肩を竦めて見せるだけで口は開かない。

 「カスコ支所の中に……?」

 「あぁ、借りた個室にいる。俺も追い出されたんだ」

 良かった、今のカスコをインヴィタドのトーロも連れずに出歩いてるなんて聞いたらあまりに無防備だ。だけど……。

 「トーロと話し合ってたわけじゃないんだ」

 「ニクス様は言っただろう。一度各自で考えるように、と。フジタカ達は違うようだが、ライとウーゴもそうしている」

 私とレブ、チコとフジタカは二人で話し合っている。でも、カルディナさんとトーロ、ウーゴさんとライさんは本当に一人でニクス様に言われた事を考えているんだ。ロボを追って、ムエルテ峡谷に本当に向かうべきなのか。

 「……そうは言っても、ザナ達と同じだ。俺の結論は出ている。だから先に面談していた」

 悠長に悩んではいられない状況だった。だけど期限まではニクス様も指定していない。私やレブの方が極端かと思ったけどトーロも同じと言ってくれた。

 「じゃあトーロも?」

 「契約者の意を尊重する。それは契約者の護衛を任された俺の召喚士と、俺自身の変わらない意向でもある」

 トーロのその言葉はいつかニクス様がカスコへ向かうと宣言した時にカルディナさんの発言と同じだった。彼とカルディナさんの違いは、そこに迷いや躊躇いの有無が見えるか。

 「俺の召喚士とは言うが」

 「あぁ、今のカルディナの口からは言えない」

 レブが言いかけた事をトーロは遮る様にして引き取った。まだレブは言いたげだったが、トーロが汲み取っていると判断したのか続けない。

 「結論は出ていても、その選択をする勇気が無いんだ。カルディナにはな」

 「……うん」

 皆の意見を尊重するつもりでニクス様は言ったのだろう。仮に契約者へ反対意見を述べたり、待ち受ける危険への命惜しさでトロノへと戻ったところでニクス様はきっとその相手を無理に同伴はさせない。

だけど、今しがたトーロが言った通りだ。カルディナさんとトーロはニクス様の意志を誰よりも優先する。たとえ私とチコ、ウーゴさんがニクス様の護衛としてこのカスコまで共に来ていたという実績があっても。

 「随分と罪作りな男だ」

 「……その通りだ」

 レブはじっと座ったままのニクス様に言った。頷いて肯定してしまったニクス様にそんな事はない、と声は張れなかった。もちろん、レブにニクス様になんて事を言うんだとも。

 選択する勇気が無いとも違う。そもそも、カルディナさんは選べないんだ。御身の安全を優先する提案はできても、無理にでもトロノへ連れ帰るなんて言えない。契約者……ううん、言っているのがニクス様だから。

 もしもそれができるとしたら、きっとカルディナさん以外の私達召喚士なんだろう。……だけど、私達はそれぞれがフエンテを追いたい気持ちを持ってしまっている。皮肉な事に、ニクス様と同じく。

 「カルディナさんはずっと悩んでいました。ニクス様が危ない方へ、危ない方へと進んでいるのが分かっていたから」

 「確かに、私が知る契約者に比べれば随分と変わり種に映る。だが、未だ頭の固さは抜けていないぞ」

 責めてはいないけど、私に続いてレブもニクス様へ言葉を放る。顔を上げたニクス様の目には困惑の色が濃かった。

 「すべき事を成す。最善を尽くして何が悪い」

 「悪いとは言っていない。思ってもいない」

 「だけど、現にそのニクス様のお言葉を納得できないんですよ?カルディナさんは」

 レブの言葉を半ば自虐的に肯定していたけど、カルディナさんがどうして悩んでいるのかをニクス様は知ってくれているのか。それを見極めたかった。だから私はトーロの方を向く。

 「はぁ……」

 まぁ、私が言っても良いんだけど気まずいかなって。トーロも察した様で上を向きながらしばし言葉を選ぶ。

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