時は戻らない。
第十一章
私達の発見はすぐに派遣された召喚士達に知られる事となったが、ピエドゥラに現れたゴーレムはフジタカが消してしまった。すぐにもう一体だけでも、と調べてみたら案の定。もう一体のゴーレムも同様に召喚陣が刻まれていた。
それは黙っておける事ではないし、エルフでも召喚術を嗜む者はいる。憤るエルフに気付かれて私達は説明を求められた。
「どういう事だ、これは!」
「トロノの召喚士がやった事か!」
「違います!」
前に出て潔白を主張するソニアさんに味方するエルフは、いない。
「だったら、この召喚陣はどう説明する!」
「それは……」
犯人はまだ分かっていない。瓦礫の撤去で話の輪に入り遅れていたエルフや召喚士達も、怒号に反応して徐々に集まってきていた。
「助けてやったのは誰だと思ってる!」
「お前ではない事は確かだな!」
終いには召喚士側も怒鳴り、アルパのエルフ達と罵り合いにまで発展する。
「アンタ達が遅かったから俺の家が吹き飛んだんだ!」
「俺達が来なけりゃプチっと踏み潰されていたやつがよく言うな!」
「や、止めてよ……」
子どもが泣きそうになりながら父親らしきエルフの服を引っ張るが、堰を切った憎悪はまだ留まる気配はない。
「止めんかぁ!」
だから、力を以て制する。この場において正しいかは分からないが選択肢の中では最も確実性が高い。それだけの力を振るえる者、レブの一喝に皆が口をつぐんだ。中にはレブがゴーレムを粉砕した瞬間を見た者もいたそうだ。
「この騒動の首謀者はまだ……」
「もう分かったよ」
レブが改めて説明しようとして話し出したが、それを引き取る様に別人が横を通り抜ける。召喚士育成機関トロノ支所に居るはずのブラス所長が、アルパに立っていた。
「ブラス所長!?どうやって……」
「戻って来た馬車をちょっと捕まえてね」
言ってソニアさんに片目を瞑って見せる。
「分かった?そもそも……」
「まぁまぁまぁ。順を追って説明してくからさ。そう時間は取らせないよ」
詰め寄るレブをなだめる様に大げさに手を挙げてブラス所長は召喚士とエルフ達の丁度中間に立った。
「えー、お集りの皆さん。私はトロノで召喚士育成機関の所長をやらせて頂いております、ブラス・ネバンダと申します」
所長がエルフに一礼。ほとんどの者か睨む様に、だがブラス所長に注目していた。
「この度のアルパ、加えて、ピエドゥラに現れたゴーレム。最初はビアヘロが現れた、偶然が重なった事故と思われた方もいらっしゃる事でしょう」
頷くのは、召喚士達が多かった。
「しかし実際は違った。ご存知の様にゴーレムには召喚陣が刻まれていた。……私がそれを知ったのは今しがたです」
たった今さっき知ったと言うのなら、首謀者を知っているとはどういう事か。
「……時を同じくして、昨日。召喚士二人が行方をくらませました。確たる証拠はありませんが、彼らを犯人と見てほぼ、間違いないと思われます」
昨日から行方不明の召喚士がいる。その話は知らなかった。レブも、カルディナさんも知らなかったのか口を閉ざしてブラス所長を見ている。
「……その召喚士は誰なんですか?」
「君は見ているよ。ほら、トロノ支所の前で……」
「トロノ支所……あっ!」
カルディナさんとトーロが戻って来た日を思い出した。色が黒くて、細身の男性二人が新しくトロノ支所にやって来たんだ。
「アマドル・マデラとレジェス・セレーナ。本名かすら疑わしいが、この二人が共犯で起こした事件と見て間違いないでしょう」
「あの二人が……!」
トーロが斧の柄をギリ、と握り締める。わざわざ護衛していた対象にこんな真似をされれば、誰だって不愉快になるだろう。
「……だ、だからなんだよ。お前らが、悪くないって言うのか!?」
「お前達が連れ込んだんだろ!」
エルフ達の不満が再び大きくなり始める。そう、事実が判明したとして、だからなんだ、なのだ。
「ソイツらはどこにいるんだよ!分かったって!分かったって……家が元通りになるって言うのかよ……!」
怒鳴っていたエルフの男性が崩れ落ちて、泣き出した。痛ましい姿に言葉も無い。何を言っても、軽率に聞こえてしまう。
「私達にできる協力は惜しみません。ですので……」
「お前らに協力なんざ、してほしくない!」
「っ……!」
エルフの一人が言うと、そうだそうだと賛同する声がまばらに少しずつ上がってくる。明確に向けられる敵意と拒否の姿勢に私が身を固くすると、レブが横に立ってくれた。




