だから戦う。
「……今は、止めておこう」
レブは言っても無駄、とは言わなかった。長い時間を生きる竜やエルフと、私達人間の時間間隔の差は分からない。だけど、時間が解決してくれる、のかな。それしかないのかな……。
「待ってくれよ!俺達は別に……!」
食い下がろうとしたフジタカをトーロが無言で宥める。状況は察した様で、牙を見せて俯いた。
「……あの……」
そこに、エルフの少女が一歩前へ出てきた。あの子は覚えている。フジタカが助けた女の子。名前は……。
「イルダ!止めなさいっ!」
そう、イルダちゃんだ。フジタカに近寄ろうとしていたイルダちゃんを怒鳴って止めたのは彼女によく似たエルフの女性。たぶん、あの子の母親なんだ。
「でもあのお兄ちゃん……」
「いいから!言う事を聞きなさい!」
有無を言わさずイルダちゃんの腕が掴まれる。
「い、痛いお母さん……ま」
「待ってくれ!」
フジタカが吠える。イルダちゃんも、その母親も動きを止めた。
「俺の力……足りなかった!間に合わなかった!……ごめんっ!」
顔を上げたフジタカの顔は、見ていられなかった。目は潤み、口はひくひく震え耳は曲がっている。
「ご、ごめんの一言で済むかぁ!」
「そうだぁ!」
「………」
エルフの罵声を浴びながら、フジタカはゆっくりとナイフを取り出した。
「でも!」
フジタカがナイフを展開する。
「でも、ソイツらは俺が必ずとっちめる!こんな事、もう二度と起こさない様に!」
それでも彼らの家が、森の緑がすぐに戻る事は無い。分かっててフジタカは宣言した。もう二度とこんな思いを、他の人にさせない為に。
「……異邦の友よ」
そこに、良く通る低い声が奥から聞こえた。エルフの人垣がさっと二つに割れて一人の男がゆっくりと歩いてやってくる。出で立ちも他のエルフよりも一回り立派だった。
「君の憤る気持ち、我々への同情、痛み入る。だが、オリソンティ・エラの住人全てが善人とは思わない事だ」
「そんなの、分かってる」
フジタカは正面に立ってそのエルフの助言に言い切った。
「でも、俺を信用してくれてる人、俺が信用してほしい人の為に、もう信用している人達とできる事をしたい」
フジタカがエルフ達の横を悠然と通り抜ける。誰もその歩みを止める者はいなかった。
「ふっ!」
そして既に集められていた瓦礫の前に立つと、自分で持っていたナイフを突き立てた。
続け様にフジタカは目に付く瓦礫にナイフを当てて次々瓦礫を消していった。すぐに瓦礫で埋もれた広場に余裕が生まれてくる。
「……俺にできるのは、これだけだから」
エルフ達もそれ以上フジタカや私達に言葉をぶつけてくる事はなかった。
その場を後はブラス所長と先程のエルフの男性が取り仕切って解散になった。当面は互いに近況の報告を行いながらも接触は極力避ける。無用な衝突を避けるための措置としてもう決定されてしまった。トロノに住む召喚士ではない人々だって、ある程度行動に制限を掛けられてしまうかもしれない。
戻ってから私達は報告を纏める為にソニアさんが使っている研究室へ集められた。ソニアさん、カルディナさん、チコと私。あとはレブ達インヴィタドも。
「……それで、君達はあのゴーレムをどう見ていたの?」
加えて、ブラス所長もいる。煙草を吸おうとしたらトーロやティラドルさんも研究室は禁煙と主張した。渋々煙草を胸ポケットにしまうと所長は私達を見回した。
「まず間違いなく、専属契約を行って操られたゴーレムでした」
カルディナさんから口を開く。
「専属契約をゴーレムなんかと結ぶ利点はあるんですか?アイツら一人じゃ何もできないのに」
報告から済ませて、最後に聞こうと思っていた部分をチコが先に言ってくれた。まずは話してから、という事もなくソニアさんが答える。
「意のままに操る。これはスライムでもゴーレムでも同じだけど、同調を強める事でできる作業が増える。土木業の召喚士でやっている人はそれなりに多いわ。召喚は現地でも、一度出してしまえば遠隔で操作もできるし」
「加えて言うなら自身の魔力次第では際限なく巨大に造り上げる事も可能だ」
ティラドルさんの捕捉を聞いて納得する。言われてみれば、ビアヘロにしては大き過ぎる。あの大きさでいたら……。
「……そっか、専属契約しているから魔力切れを待っても無駄だったんだね」
「そうなるな」
レブが頷く。私の予想は外れてたんだな。召喚士が健在でさえあればゴーレムはアルパを壊し尽くしてたんだ……。




