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敷かれた岐路。

 呼吸を乱す所長にレブが背を向けてしまう。一度だけ目を伏せ、そのまま部屋の外へと向かって歩き出す。

 「……まんまと転がされたな」

 ベルナルドからすれば町の破壊だけじゃなく王子の誘拐を許し、ロボには自身のフエンテ脱走の手助けをしてしまった。こちらに都合の良い要素は全くない。強いて言えば、ムエルテ峡谷の話をかろうじて聞けた事くらいか。

 「待て!どこへ行く!」

 「頭を冷やすのだな。話の出来ない相手に付き合うつもりは無い」

 そう言いながらも、レブは扉の前で立ち止まる。

 「だが、猶予もあまりあるまい」

 「待って!レブ!」

 最後に一言だけ告げると一人で出て行ったレブを追って私も部屋から出る。それに続いて他の三人も所長だけを残して来てくれた。

 「あ……」

 廊下に出ると、少し先でレブの前にライさんとウーゴさんが立っていた。ライさんは後から出てきた私達四人の方を見ている。

 「…………」

 ニクス様の使っていた部屋に全員で集まり、カルディナさんの方からロボから聞けた話を説明してもらった。それからしばらくは重い沈黙が圧し掛かる。この場で誰も騒ぎ出したりはしなかった。それは何よりも無意味だと皆が分かっている。ライさんももういきなりレブに突っかかったりはしない。

 「捕まったのは、その気になればいつでも逃げられたからか……」

 寧ろ、ライさんは冷静に分析してくれていた。そう言えばロボは、消える直前までは口をあまり大きく開かなかった。牙の仕込みを隠してわざと捕まったんだ、自分がベルナルドやロルダンから逃げられる様に。

 「フジタカ、ロボはどこに行ったの?」

 「……一回、あっちの方」

 あっち、と言ってフジタカは北を指差した。恐らくだけど、峡谷の方だと思う。

 「つーか、その一回ってなんだよ」

 部屋から各自で持ってきた丸椅子に腰掛けるチコが椅子の脚を片方浮かせながらフジタカを見る。口を曲げて何か考え込んでいる様だったフジタカも分からないらしい。

 「一度に長距離は移動できない、とか。拘束されてたし」

 「有り得るけど……」

 縛られたままの状態で召喚士を助けに転移しても何もできないだろうと思ったけど、フジタカはピンと来ていないみたいた。

 「若しくは」

 そこに、トーロやライさんと並んで立ったまま壁に背を預けていたレブが背を壁から離す。

 「追って来いと告げたのかもしれぬな」

 「あぁ、俺も……何となくそっちの方が近い気がする。一旦あの縄を解いたにしてもさ」

 意見が合ったからかフジタカが顔を上げてレブを見た。

 「追って来いって……」

 「我々を置いて、他に誰もいまい」

 フジタカならロボの居場所を探せると向こうも知っている。だから自分への手掛かりを残して去った。しかもわざわざ直前に話した峡谷の方角へ。これなら北上する理由は二つ用意されていた。

 「それで、どうする?」

 トーロが全員を……ううん、ニクス様の方を見ている。

 「ニクス様……。これより先は危険過ぎます」

 カルディナさんもニクス様を向いて胸を押さえる。……私もそれは分かっていた。ニクス様は自らフエンテを引き付けてくれていたけど、これまでと今回は話が変わってきていた。フエンテが追ってくるのを迎え撃つのではない。まだ決まってはいないが、こちらからフエンテへ首を突っ込むかもしれないんだ。カスコに出てきたロボ一人への奇襲とはわけが違う。

 「全員の意見は一致しているか」

 ニクス様は視線が私達全員へ一度ずつ向けられる。だけど、その問いは恐らく肯定はされない。だって追いたいだろうライさんと、危険だと言ったカルディナさんの時点で既に意見は分かれている。

 それに、私だって……。気持ちだけじゃなく、すべき事を考えたらニクス様の安全を優先するのも分かってしまう。揺れている自分の考えを自覚してしまった以上、首は縦に振れない。

 「……思う所はあるだろう。ならば、あの所長ではないが一度各自で考えてもらいたい。その後、一人一人の話を聞かせてほしい」

 それが解散宣言だった。チータ所長程じゃないけど、私達も目の前で起きた事を噛み砕かないと喉を詰まらせてしまう。カスコ支所内の息苦しさから私とレブは再び外へ出る事にした。

 「………」

 「………」

 レブは私の半歩後ろを黙って歩いている。こういう時のレブを私は知っている。貴様の思い通りにすれば良い。私はそれに従うだけだ、なんて言うんだ。私の立場を尊重してくれるのは分かるけど……。

 「レブは、どうしたい?」

 「返答は知っていよう」

 「それでもレブの話が聞きたいの」

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