前向きに飛んで。
「行ってくる!」
「おい、急に振り向くなバカ!」
フジタカがこっちを見て声を張り、体勢を崩したチコが悲鳴を上げる。所長は無視して前だけ向いていた。そんな三人と一頭の影もどんどん小さくなって消えてしまう。
「行っちゃった……。どうしよう、あれって私達に好き勝手されたくないって事だよね?」
「縄張り意識が強いのだな」
私が皆に向き直るとライさんが舌打ちをした。本人からすればフエンテが来ていた以上、自分で戦いたいのだと思う。
「でもニクス様を危険には晒せません」
カルディナさんの後ろでトーロも手斧を持ってはいるが頷いた。そもそも戦闘力があるわけでもない契約者がわざわざ戦場に出向いても標的にされるだけ。
「うっ……!」
直後、また大きな爆発が新たに起きて鼓膜が震わされる。余りの音に耳を押さえてしまったがもう遅い。キン、と響いて耳が痛む。音の余韻で痛むのか、周りの新しい爆発の音で痛んでいるのかもよく分からなかった。
「よし」
この爆音や悲鳴が混じる雑踏を聞いてもレブは普段通り。それどころか、爆発を見てそんな事を呟くと私の方を向いた。
「行くぞ」
「へ?」
話、聞いてた?と私が彼を見上げると親指で立ち上る煙を指差した。
「言っていただろう。今見えている煙や騒ぎの方へ近付くなと」
レブが腕を組んで鼻を鳴らす。
「そ、そうだよ!だから……!」
「だから」
行きたいのは山々だけど……。
「新しく起きた爆発への干渉に関して、私達は指図されていない」
「え……?あ……!」
今、とチータ所長が言っていた後に発生した爆発なら関係無い、って事?だったら、私達も行ける!それに私が気付いて目を合わせるとレブは再び翼を広げた。
「……屁理屈ね」
「ふん」
呆れたカルディナさんにレブは鼻を鳴らして笑った。
「それに、爆発地点の近くに仕掛けた者がいる可能性は高い」
チータ所長と出くわす可能性も高いけど、今起きた爆発は明らかにフジタカ達が向かった先とは方向が違う。もしかしてフジタカがロボを追っている間に、ロボが一緒に連れてきたフエンテを暴れさせるのが魂胆だったら……。
「そういう事なら……」
ライさんが何かに納得して目線を横にずらすと、その先でまたも小規模だが爆発が起きた。
「俺達は向こうだ。行くぞ、ウーゴ」
「おい、ライ!待て!」
剣を抜き放ってライさんは一目散に駆け出した。ウーゴさんも止めるつもりがあるのかそのまま行かせるのか、ライさんを追って行ってしまう。
「本来は私だけで行くつもりだったが……。しかし、あの獅子ならそれ程心配は要るまい」
レブは最初から止めるつもりも無い様で二人の背中を見送ってしまう。カルディナさんは頭を押さえて首を横に振っていた。
「あのねぇ……」
「喧しいあの腰巾着は女召喚士が私達に話した内容は知らない」
腰巾着って、レアンドロ副所長の事かな。そう言えば、私達に避難を言い渡したのは副所長に指示を出してからだった。
「……口裏を合わせろって事?」
「好きにしろ。私は行く」
全員で行動するだけの集団じゃない。ニクス様をお守りする召喚士は誰かしら残さないといけなかった。
その中でもチコとフジタカ、ウーゴさんとライさんはもう既にそれぞれ行動を開始した。レブももう行く気十分に勇んでいる。だとすれば残るのはやっぱり、カルディナさんしかいない。それに、最も適任だとも思うし。
「……分かりました。こちらからは何とか言っておきます」
「任せよう」
カルディナさんの返事を合図に私がレブの腕に飛び込むとすぐにふわりと浮遊感を覚えた。
「ニクス様は俺とカルディナで必ず守る」
「……力になれなくてすまない」
「いや。留まるからできる事もある」
最後のトーロとニクス様との会話を皮切りにレブは羽ばたきカスコの空を飛んだ。空の臭いで咳き込みそうになりながら私は町並みを見回す。
「……酷い」
視界が煙に包まれて全貌も把握できない。やっぱり一際大きな煙を立ち上らせているのはカスコ城の方だ。だけどこれ以上爆発が増える気配は無い分、カスコ支所の召喚士達に対処してもらった方が良いよね。
「手近なところから行くか」
「うん」
だったら私達はどうするか、と見回して先程レブが指差していた方角へと進路を定める。それでも少し時間が掛かりそうだった。
「……こんな時に話すのも変だけどさ、不思議だよね」
私を抱えるレブの目がこちらを向いた。
「他の人達がニクス様を守るって言ってくれても不安になっちゃうのに、トーロやライさん、カルディナさんやウーゴさんだったら大丈夫かなって思うんだもん」
レブが前を向いて頷いた。




