見上げた人の行いが見えてこず。
私達の調査報告は更に三日待たされた。それはレアンドロ副所長ではなく、チータ所長に直接問い質したかったからだ。副所長だけにすぐ話しても正しく通じない気がするとは全員の意見が一致している。何もしない時間がただ過ぎてしまうのは口惜しかったが、それでも確実な一手をこちらからも投じたい。
「あの所長って普段何をしているから顔を見ないんだ?」
「また城に戻されるって言っていたからお城にいたんだよね」
初めて会った時と同じ応接室に通されてしばらく経ったが、所長含め誰の足音も聞こえてはこない。だから痺れを切らしたフジタカが服の袖を引っ張って話し掛けてきた。
「そのお城ってあのでっかいのだろ?そこで何をしているかって事なんだけど……」
時間はあったのだから見に行っても良かったのかも。でも近付けば城壁しか見えなくなる。レブに頼んで空から見下ろしたりなんてしたらまた変な探りを入れたと怒られたりして。
「育成機関の更に上……そうね、召喚試験士が集まって大規模な異世界の門の形成やインヴィタドへの交渉を複数で行う儀式の場があるの。そこの監督が主……かな」
答えてくれたのは、謹慎処分中のカルディナさんだった。今日の為にトーロと一緒に部屋から出してもらえた分、少し声の調子が低い。さっき会ったばかりで部屋で何をしていたかは聞いていない。ただ、部屋から出された時はニクス様を前にして深々と頭を下げていた。
「専門はどちらかと言うとソニアさんの方なんですね」
「あの胸の大きな女性か……。またお会いしたいが」
カルディナさんが頷く奥でライさんもソニアさんの事を思い出していた。ちょっと口元が緩んでいたからトーロが横目で見ながら苦笑している。当の本人はティラドルさんに夢中だしね。
「そんなのをお城でやってて良いのかよ?変なモン召喚しちまったら大惨事だろ」
「危険も伴うが、このカスコ支所以上に最先端の召喚術が集まるのもまた事実なんだ」
半端な悪魔が邪な考えから召喚に応じてから寝返っても、そこには力を持った試験士達が大勢集まっている。簡単に陥落する事は無いんだろうけど……なんだか妙な胸騒ぎがした。ウーゴさんに言われて納得したのかフジタカは鼻を鳴らした。
「ふーん……。お城って言うよりはでっかい研究所なんだ」
「あ、それは結構合ってるかもね」
そう思えばあの頑丈な城壁も、お城ではなくカスコに暮らす人を守る為に用意された……なんて。
「中で何をしているか知れたものではないな」
「もう、レブ……」
王家の城に対して怪しいなんて下手に言ったら……。でも、私達はそのキナ臭い部分を問い質そうとしているんだからそういう視点も必要なのかな。
「今回は静かにしてるよね……?」
「私達は堂々としていれば良い」
腕を組んだレブの目付きはいつもよりも鋭い。
「数日前、この場で宣言した筈だ。降り掛かる火の粉は払うと」
まさかそれがレブじゃない部分に向いたと言うのが、ね。そこに苦笑していると足音が二つ、部屋の向こうからカツカツと聞こえてきた。
「……分かっている。私が出張るつもりはない」
「……ごめん、ありがとっ」
扉が開く直前、私はレブに小声で謝った。
「待たせたな」
扉を開けて現れたのは私達の待ち人、チータ所長だった。先日会った時と同じ鎧姿の上に今日は毛皮のマントを身に付けている。耳が赤いところを見るに、どうやら外出後に直接この場に来たらしい。
「少しは頭が冷えたましたか?」
続いて入って来たレアンドロ所長も鼻の頭と耳が赤い。もしかすると二人で城から真っ直ぐこちらに来たのかな。……私達と話す為に。
「この度は……大変申し訳ございませんでした」
二人の入室と同時にカルディナさんは立ち上がり、着席と同時に頭を下げた。トーロも彼女のインヴィタドだからか頭を下げている。その様子を見てレアンドロ副所長は満足そうに笑みを浮かべた。
「猛省した様ですね、それは結構」
「席に着いてくれ」
副所長の横で淡々とチータ所長はカルディナさんに席を勧めてくれた。断るわけにもいかずにカルディナさんは音も立てずに腰掛けると、俯いて所長の手元一点に視線を集中していた。
「顔を上げてほしい」
「はい」
しかし所長も俯いているだけでは許してくれない。先程までフジタカ達と話していた場の空気は一気に冷やされていくのを肌で感じる。まるで冬の寒空に野ざらしに晒されている様な、気を抜くと震えそうなくらいに張り詰めた緊迫感がカルディナさんとチータ所長を中心に広がっていく。




