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曖昧な基準。

 「カスコ側が召喚士を減らす理由には足り得るのだろうか。そこに疑問が残る」

 「ふむ」

 この世界において契約者は召喚術を与えてくれる大変貴重な存在。カスコの様に召喚士が集まる町では余計に神格化されていると思っていた。でもレブの考え通りとしたらどこか違う。

 「契約者の仕事を奪ったというか……契約者の負担を減らしたかったっては考えられないかな?先に選定していたとか」

 レブの話を聞いていてなんとなく思った事を口に出してみる。でも、自分で言っておきながら突拍子が無いかも。

 「契約者の代行?それってどうやってやるんだろうな」

 ミゲルさんが天井を見上げる。そう、そこが分からない。

 「契約者の代わりに自分達が見込み有りだと判断した子どもだけを契約者の儀式に参列させる。しかし成功率はせいぜい半分を超える程度だ」

 「……あまりに乱暴だな」

 ニクス様はゆるゆると首を振った。

 「だとしたらだよ?選ばれなかった子ども達の中にも召喚士として有望な人材がいたかもしれない。だけどそれを……」

 あぁ、とレブはブドウを口に放ってから答えた。

 「みすみす見逃した事になるな」

 「そんな……」

 実際は次回に持ち越したのかもしれない。……そう考えたかったけど、参列した人数を考えればその気配は無かった。ニクス様も嘴を閉ざしてしまう。

 「……それが、ザナちん達の意見か」

 ミゲルさんはがっくりと肩を落とした。それとほとんど同時に、店の扉が開く。

 「はいらっしゃぁい!」

 すぐに切り替えてリッチさんは満面の笑みでお客さんの男性二人を迎え入れる。工具が置いてある棚の方へ向かって行くのを見送っているとミゲルさんが耳打ちした。

 「ごめんな、あんまり人に聞かす話じゃない」

 あの人達は育成機関内で見た事はないけど腕輪を巻いていたからカスコの召喚士だ。一目で見抜いたからミゲルさんは気遣ってくれたんだ。

 「いえ。じゃあ今日はこれで」

 だったら次は私達の番。せっかくの商売を私達が邪魔しては悪い。レブもニクス様もそそくさと店の出入り口へと向かう。

 「毎度!まった来ってねっ!」

 扉を開ける音を聞き付けすぐにリッチさんは壁の脇からこちらに顔を出して手を振ってくれた。私も手を振り返し、レブとニクス様は静かに頷く。この店、ミゲルさん達の店じゃないらしいが本当の持ち主ってどこに行ったのかな。

 外に出ると一気に外気の冷たさに身を震わせる。二人の店で気にならなかったのは、リッチさんの魔法で暖められていたのかな。見た事はないけど火は出せると聞いたし。

 「たまには果実も悪くないな」

 「頻度は多い方が良い。実りの果て、限られた隆盛の内に食されるから価値があるのだからな」

 歩きながら話すのはさっき食べていたブドウ。しかしこの二人が話題にすると妙に物々しい。

 「普通に美味しかった、また食べたいで良いんじゃないの?」

 先に歩いていた私が二人に振り返ると、顔を見合わせてから先にニクス様が口を開く。

 「そうだな……。また食べよう、今度は皆で」

 「……はいっ!」

 普通に敬語を使わないで、どっちかと言えばレブに話す様な口調だったのにニクス様の方が返事をしてくれる。しかも今度は皆でだって。私は笑顔で頷いた。チコとフジタカ、それにウーゴさんとライさんも。それにニクス様でさえ今は会えないカルディナさんやトーロも……。

 「どうかしたか?」

 「あ、いえ……」

 せっかく笑ったのに、急に表情を沈めて黙っていたらニクス様に心配されてしまう。でも、本当はカルディナさんと二人で食べたいんじゃないかな。ブドウに限らず、同じ物を一緒に。私だってレブと……。なんて考えていたら目が合ったから私は慌てて前を向いた。

 「カルディナさん、早く謹慎が解かれると良いですね。私の時よりも厳しいですし」

 「……あぁ」

 ちらり、とニクス様の表情を盗み見る。やっぱり明確な表情は無いが、いつもより視線が下を向いている様な気がする。

 「だが、あの施設に留まっていた方が安全かもしれないな」

 ニクス様からの意外な発言に私は目を丸くし、レブは片目を細めた。

 「身を警護される側の者が、それを生業にする者を心配してどうなる」

 カルディナさんの実力をニクス様が軽く見て言っているのではない。だけどニクス様をお守りするのがカルディナさんの仕事だ。それをしない方が安全と言うのは彼女の仕事を取り上げる事になってしまう。

 「分かっている」

 だけど、それでも戦い続けているから心配なんだろうな。ふとニクス様がカルディナさんの事をどの様に想っているのか垣間見えた気がした。

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