相似と相違。
「あのさ……」
フジタカがちょんちょん、と私の肩を指先で叩いて耳打ちしてくる。
「どうかした?」
「怒ってない?大丈夫?」
人の顔色を恐る恐る窺うものだから張っていた気も少し緩められた。一呼吸置いて私は頷く。
「うん。……私は、ね」
カルディナさんはまだニクス様の前で俯いている。トーロも声を掛けにくそうに見ていた。
「空気読まない様で悪いんだけどさ……。さっき王子が言ってた事ってできんの?契約者がその……無理矢理ってやつ」
「あぁ……」
そこまで話してなかったもんね。私はフジタカの質問に静かに首を横に振った。
「魔力線を広げるって、やつでしょ?契約者は元あるものを大きくしてあげるだけ」
……そう言うと、ベルナルドがピエドゥラで私に対して行った事も契約の儀式に少し似ていたのかもしれない。……得体が知れないけど。
「……だから、元から魔力線を持っていないなら広げる事はできない。一応言うと、魔力線を人に提供もできないよ。イサク王子が言っていたのは完全にただの無茶振りだから」
思い返すと、カルディナさんの反応は変じゃない。こんなできもしない事を言う前にはやる事をやっていない、手を抜いているなんて言われたんだから。……でもあそこまで激しく自分を押さえられなかったのは言った対象が契約者じゃなくて、ニクス様だったからなのかな。私だってレブがあんな風に言われたら……。
「民を知る王子が聞いて呆れるな」
……いや、レブなら自分で完膚無きまでに言い返してくれるかな。
「あの……もう一個いい?」
「どうぞ」
聞かれなきゃ教えないってのも相手に悪いよな、と思いつつフジタカの質問を促す。
「元から魔力線を持っているとかどうとかってのもだけどさ。召喚術って言うか……魔力線は子孫には受け継がれない、って事でいいのか?」
「それはどちらかと言うと俺達の方だ」
カルディナさんはニクス様の前で口を閉ざしている。少なくとも今は、と置いたのかトーロが私達に向き直った。
「俺達の世界では魔力とは脈々と受け継がれ、代を重ねる度に少しずつ魔力が加算されていく。その結果、使える魔法も強力になるんだ」
「だが、この世界の召喚士と呼ばれる魔法使い達はどうやら違うらしい。それは俺もこの世界に来てしばらく分からなかった」
トーロに続いてライさんも話に加わった。……ライさんはイサク王子とは初対面だろうけど、どういう印象を持ったのかな。
「……違う?」
「俺達の場合でも、突然変異で魔力が極端に高い者も生まれる。だが、基本的に誰もが魔法を使えたんだ」
私達からすると魔法や召喚術を後世に伝えるって考え方はあまりない。勿論、召喚陣の使い方や技術的な側面でなら分かる。でもトーロ達が言っているのは、私達からすればインヴィタドを家系で受け継ぐ様なものだ。
「反面、このオリソンティ・エラの人間は魔力を持たない者も多い。そして逆に魔力を豊富に持っている者は、俺達の世界でも魔法使いとして大成できるだけ貯蔵していたりもする」
ロルダンとかが良い例なんだろうな。……口には出したくなかったから声は発さない。
「……どっちの言い分も俺にはイマイチ分からないんだけどさ、少なくともこの世界でイサク王子の立場ってどうなんだ?」
この場面でフジタカがあの王子を話題に出したのはどうしてかな、と首を傾げる。
「だからさ、この世界じゃ家系ってのは召喚術を使うのに有利じゃないんだろ?」
その通りで私とトーロ、ライさんは頷いた。レブとチコはこっちを見ているだけ。
「イサク王子の先祖は大層な召喚士だったのはいいさ。でも、子孫が召喚術を使えるのとは話が違うんだよな。だったら、召喚術の使えない王様とかもいたのかなって」
「それはいないよ」
私が答えるとフジタカは目を丸くした。
「え?じゃあオリソン王家?ってのは……ずっと当たり?召喚士しか生まれない家系なのか」
「そうではない」
レブが目を伏せ、腕を組む。遅れてウーゴさんも頷いた。
「……認められないんだ、召喚士として生まれなかった子どもはオリソン王家の者とは」
「えぇ……?」
フジタカが丸めた目を今度は露骨に怪訝そうに細める。
「じゃあ何か……生まれた子どもを契約者に見せて召喚術の見込みが無いと分かれば……」
「王家に認められた別の子どもの専属執事として教育されるらしいよ。最初は遊び相手とかから」
本とか聞いた話だけでしか知らないけど。昔は三人続けて子どもに召喚術の才能が無くて、四人目で契約に成功して認められたその王子には三人の同年代執事がいたとか。




