隠れ蓑を捲り上げ。
「召喚士どころか子どもが減っている、か。いつだか不作の年があったよな?そういうのにも地味に左右されるんだよな」
チコも数字は覚えていないみたいだったがカンポで採れていた作物が不足していた時期は確かにあった。町一つの召喚士が減っている話から大陸を跨いで随分と規模が大きくなっていく。
「よく気付いたね、フジタカ」
内容が内容だっただけにフジタカは小さい声で話したが、着眼点はあながち的外れではないのかもしれない。さっき安直って言ってしまったからかフジタカは顔をぷいと背けてしまう。
「少子高齢化が進んでた国から来たからな」
……うん?将士降霊化?何か分からない言葉が聞こえて私とチコが目を丸くする。
「だー!子どもが減って、じーさんばーさん達老人が増えてたって言ってるんだよ!」
フジタカの解説でやっと意味が分かった。大人ばかりが増えてる国だったんだ。言われてみれば今の状況と重ねて考えるには丁度良い。
「……ともかくだ。見方次第では、召喚士は意外と減っていないのかもしれない」
「今分かっているのは強大なビアヘロが増加しつつあるという事か」
フジタカの締めにレブも続く。インヴィタド二人でこの地方を分析されてしまい、まるで私達には出番がなかった。だけど、異世界から来た人達だからこそこういう見解を示してくれるのかも。自力では単に増減の部分しか見て判断していないと思う。
「じゃあ、ビアヘロが増える理由って……」
「異界の門が意図的に開かれている。という考えは私達だから至る結論だ」
次の議題に移るとすかさずにレブが述べる。そして聞いた内容と私達に結び付けるのはあまりにも簡単だった。
「フエンテがわざとやってる?フジタカみたいにか」
「知らん。可能性の一つを提示しただけだ」
一番手っ取り早いのはフエンテがフジタカをビアヘロとして召喚した様に、彼らが大型のビアヘロを呼び出すという構図。全部あの連中のせいというのはあまりにも暴論だからかレブも強くは言わなかった。
「でもそれじゃおかしいんじゃないのか」
やっぱりフジタカもフエンテの仕業にするには決め手に欠けると思ったのか首を傾げる。
「俺、まだこの世界に来て一年経ってないよな?だったら時期が合わないし」
「お前を呼び出す為に色々試験してたんじゃねぇの。そんで、アイツらが狩って金儲け」
チコの考えにフジタカは即座に首を横に振った。
「それも駄目だろ。フエンテって記録に残る様な目立つ真似は基本的にしないよな?こうも大型が出たって書かれてたんじゃ儲けられるもんも無理だろ」
ビアヘロが記録されているという事はある程度カスコ支所の召喚士達が処分したのは間違いない。仮にフエンテが異界の門からビアヘロを呼んでいる前提で考えた場合、彼らが自分の取り分以外を討ち果たせなかった分がカスコ支所に回る。……彼らのせいにするにも、数が多過ぎるかな。
「そうだよな……」
「でも少なからず試していそうだよね」
フジタカに対して一回しか召喚陣を通さない召喚をしているとは思えない。でも、カスコ周りのビアヘロとどう関連しているのかまでは憶測の域を出なかった。
「また、アイツに聞かなきゃならない事が増えちまった……」
フジタカがまだ完全には読めていない資料を見て目を細める。見ているのは資料ではなくその向こうの影に潜む誰か。
「カルディナさんに話しておこう。あの所長だって聞いて味方になってくれたら心強そうだしさ」
「止めておけ」
簡単に私達で纏められる範囲の話も終わりに近付いてきた。チコも次に移す行動内容を確認するがレブは腕を組んで首を横に振る。
「なんでだよ……」
「我々の目的はフエンテの情報の拡散だ。だが、不確定の情報で悪戯にこの町に住む召喚士の不安を煽るのは得策ではない」
ぴしゃりと言われてチコは口を曲げた。
「要はあの所長すら信用してないって事だろ」
「当たり前だ。そう易々と心を開かないのが竜人らしいからな」
チコの皮肉に倍返しする様にレブは断言した。本来なら一番頼りにされないといけない人なんだけど、レブにかかればそうでもないらしい。
「じゃあ明日起きてからカルディナさん達に話をしようよ。カスコの人達にはまだしばらくは黙っていよう?」
でも、私も同じだな。昨日今日会った人よりも断然カルディナさん達の方が任せられる。そのカルディナさんやニクス様が一刻も早くカスコの人々に伝えるべきだと判断されるのなら、私はそれも一つの手だとは思うし。




