数が表す意味を理解し。
第四十三章
ミゲルさんの言った通り、カスコで行われた契約者の儀式で見付かった召喚士候補生は前回と前々回と数を減らしていた。カスコ内だけ見ると二年前が百八十六人、更に前回の今から数えて五年前は二百三十八人。……それより前は二百五十人前後が平均、かな。
儀式に成功したその先、召喚士選定試験はそもそも腕に覚えがある人が受けるものだから、受験者は大半が合格している。だから恐らくこっちの数字はそこまで参考にならない。
選定試験の仕組みも見直した方が良いのかもしれない。合格条件は基本的に一つだけ、他人の召喚陣を用いて異世界から何でも良いから召喚して見せる。それだけなら今の私だって別の場所でしらばっくれて受験すれば二重で合格してしまう事になる。この見極め方のせいでアマドルとレジェスはトロノ支所に入り込んだんだ。
試験よりも問題は、十年後に数字がどうなっているか分からない事だ。今年や来年と続く召喚士選定試験には恐らくすぐに影響は出ない。今年の幼い成功者がすぐに挑む事は絶対に無いもの。
「契約者との接触……効果を発揮するのはじわじわ数年経ってから、か」
私とレブがミゲルさん達の所から戻り、一緒にカスコ支所の図書室に来てくれていたフジタカが記録を眺めて目を細めた。実際に数字を並べてみないと気付けないが、きっと他の召喚士達もこの事態は看過しない。
「どう思う?どうしたらいいかな?」
フジタカに尋ねると彼は資料から目線を外してこっちを見た。
「新参者の俺に言うなってーの……。ビアヘロに対抗する力を呼べる人が減っていくってのは分かるんだけどさ」
それもそうか……。意見を聞きたかったからこれも一つとしてあるかな。
「うーん……」
フジタカの隣でチコも唸って広げた資料を見ていた。
「これってカスコだけか?」
分析するにもまず集めたのはカスコという町だけ。あっちもこっちもと、オリソンティ・エラ中の資料はとても把握できないから一つに絞った。しかしチコの疑問も当然だと思う。
「思えば……セルヴァでも受験者が減ってたんだよね」
ニクス様が訪れ、レブやフジタカがやって来たあの日の試験……。その前に私達は契約者の儀式を受けている。その時も今年は合格者が減ったねと村の大人達が言っていた気がする。そこでまずは召喚士を目指すかどうかでふるいをかけられた。その後、選定試験で五人残ったうちの二人が私とチコ。選定試験の内容を見ていた大人達は喜んでくれていたけど、内心少ないとは思っていたのかもしれない。
「世界規模で召喚士が減ってる……。あ、じゃあさ!」
フジタカが別の資料を取り出して私に押し付ける。まだ文字を読むのがあまり早くないからだ。
「ビアヘロはどうなんだ?召喚士が減っても、ビアヘロさえいなければこの世界の人だって困らないだろ?」
「あぁ、うん……。ちょっと待ってね……」
ぱらぱらと紙を捲って数字だけを拾い出していく。列挙してみるとビアヘロとの遭遇、退治の数に関してはそこまで数字に変化は見られなかった。ほとんど横ばい。
「ビアヘロは減らないのに将来の召喚士は減ってくのか……」
インヴィタドは一人一体しか召喚できないわけじゃない。だから召喚士一人で複数のビアヘロを同時に相手にする事もできる。勿論、どの召喚士もできるとまでは言わないし負担は大いに増えてしまう。フジタカはそれも気にしているみたい。
「待て」
一旦話を整理しようと、記帳だけ開いて資料を閉じようとした。しかしそこにレブの手が私の手と重なる。
「な、なに……?」
「いや、減っていると言うには早いかもしれん」
言われて目を資料の方へ再び戻す。レブの手が退いて開かれた資料を今度は数字以外の部分も読んでみる。
一つ、特記事項で気になる部分が私にもあった。しかも、それは毎年個別に分けて整理して記録されていた。
「現出するビアヘロの数は変わらない。それは分かった。分かったけど……じゃあ、質の方はどうか、って事……?」
私の疑問交じりの回答にレブは満足げに頷いた。それを見てフジタカもこっちを見る。
「え?何?」
「ええとね……」
どう説明しようかと思いながら私は紙の端にペンを走らせる。その間に話の内容も少しずつまとまってきた。
「数は変わらなくても、強さや規模はどうかなって話」
ビアヘロとは召喚陣を介さずにこの世界へ現れた異形の全般を呼ぶ。しかし、だからと言って小悪魔のインペットやフジタカ、果ては巨人のアルゴスを同じ言葉で一括りにしてしまって良いものか。




