見たくもない数字。
「でもリッチ、この七十七人って数字をどう見る?」
情報までは売ってないと言いつつ分析はしっかりとしている。リッチさんも頭を掻きながら一言。
「少ないな!」
率直な見解に興味を持ったのかレブもリッチさんの後頭部を黙って見ている。
「前に儀式したのっていつだっけ?」
「一昨年じゃなかったか。百八十人くらいだったろ」
前回の儀式を思い出しながらミゲルさんが言った。百八十という数字は確かに今回よりは多い。
「そうそう!成功したのがそんくらいだったな!」
「え?儀式を受けた子どもじゃなくて……?」
聞き間違いかと思ったけど、ミゲルさんとリッチさんは二人で顔を見合わせてから首を振る。
「違う違う。受けたのはもっともっと大勢の子どもだったよ」
「何日も儀式してたよな!ガロテの召喚士も見学に来てたし!」
当時の事を知っている二人が揃って言うのなら間違いないのだろう。その時はガロテでは儀式をしなかったのかな?
「……召喚士が減ってる?」
カンポや別の町を巡っていても感じる事はあったけど、まさかカスコでも同じ様な感想を持つとは思ってもいなかった。レブの方を見れば、彼も同じ事を考えていたのか静かに頷く。
「今回は召喚士を目指す目指さないの話ではない。そもそも素養を持たずに生まれた者が多いという話だな」
「そうらしいな……」
ミゲルさんもレブの考えにそのまま同意した。カンポ地方に行った時に聞いた、才能は契約者に開花されても召喚士になろうと志さない人達ではない。なりたくてもなれない人が今回の儀式では多かったって事だ。
「なぁ、この世界の人間って契約者に頼らないと本当に召喚士になれないのか?」
深刻そうなミゲルさんの顔を覗き込んでリッチさんが尋ねる。その質問に答えたのはレブだった。
「稀にいるらしいが、この世界は契約者に頼り切っている。契約者無しで力を覚醒させようとすら思うまい」
その通りだ。召喚術を授けてくれるのは契約者だと私達は疑ってもいなかった。……フエンテに会うまでは。
「やっぱりできるんじゃん!だったらそれも知っておくべきなんじゃないのかなぁ?」
「うーん……そうだなぁ……」
リッチさんのもっともな意見にミゲルさんは苦笑する。今まで契約者に頼り切りで生きてきた私達に今更言われてもすぐには変えられない。
「契約者は儀式で才を見付ければ確実に火種はもたらしてきた。召喚術を学ぶ上で、その有無は確実な差を生む」
フエンテ達は全員が契約者に頼らずに力を得たのかな。だとしたら、どうやって目覚めて集団化したの?どちらかと言うと、フエンテ側にも契約者がいると考えた方が辻褄は合いそう。
「あ、でもそんなに簡単に召喚術できたら契約者は商売上がったりか!アッハッハァ!」
自分で納得してしまったのかリッチさんは笑い出す。高額ではないが契約者も無償で奉仕活動しているわけじゃない。単純な話だけど、それも大事だよね。
「……ま、俺達だってそうやって生きてるしな」
契約者は金儲けの為に儀式を行っているわけじゃない。……って話を聞かせたらひっくり返るんじゃないかな。でもミゲルさん達の中では商売だから、というの理由で決着したみたい。召喚士育成機関の微々たる補助を受けながらではあるが、商売として成立しているのだから普通はそう思われるかな。
「子どもの数はそんなに減ってない。だが、成功者の数は気になるな」
「私、ちょっと調べてみます。何か分かったらまた来ますね」
カスコ支所ならミゲルさんの言っていた前回の儀式で何人が成功したかもすぐに分かる。それに最近の選定試験の様子は私も気になっていたからどうせ調べるつもりだった。
「頼むよ。こっちのツテにも聞いとくし」
「何か無くてもまた来てよ!アラさんにはブドウ用意しとくからさ!」
既にレブは話していた間に今日の分を食べ終えていた。
「その言葉に報いよう」
……ブドウを与えてくれる人、ってレブからしたらどんな存在なんだろう。私にとってのニクス様くらいなんかこう、美化というか神格化してないかな?ルナおばさんの事も何だかんだ気にしているみたいだし。
外の雪はまだ溶け切っていない。半端に残る黒ずんだ雪を踏むと足がべちゃりと沈み込む。
「召喚士になれない子達、か……」
契約者は人間の中に眠る力を見抜く。その契約者に見込みがないと言われたら諦めるしかないのが実情。告げられた者は早々に折り合いをつけて自分の違う生き方を見付けなければならなくなってしまう。




