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喉元過ぎたら広まって。

 この例えで身近な人と言えば、ウーゴさんとライさんだ。何も召喚士に従わないのは竜人だけに限った話ではない。理知的で感情も併せ持っている分だけその制御も難しくなってくる。単純に落とし込めば、好き嫌いで戦力が上下してしまう事も考えられた。

 それに対して、私はレブを押さえ込もうと思っていない部分がある。言い換えてしまえば、レブに頼り切りと同じ事。

 「やっぱり私、ちょっとは間違ってるんだろうな」

 「………」

 レブはいざとなれば私を助けてくれる。それだけの力を持ったインヴィタドだ。だけど、彼を扱う私が未熟では救える者も救えない。あの時、ベルトランとの戦いで知った筈だったのに。

 「私はどちらの貴様も受け入れるぞ」

 後悔しても時は戻らない。まだ明日も前を見て進むには……。暗い部屋に灯りが一つ浮かんだ様に温かいレブの声が届いて私は顔を上げる。

 「レブ……?」

 「貴様の思うままに振る舞え。私は心の底から貴様を信じているのだからな」

 ひたすらに真っ直ぐ、飾らずにレブは言った。あぁ、私はなんて恵まれた召喚士なのだろう。彼の言葉で胸がじんわりと脈打ち冷えた体を奥から熱してくれる。

 「……うん。万が一、レブに何かあったら私が貴方を止めてみせるよ」

 もしも、レブが何らかの理由で憎しみや怒りに囚われてしまったら。その時はカドモスの腕力でも、ティラドルさんや皆の魔法でもない。私が……彼を止める。それが、私を信じると宣言してくれたインヴィタドに対してできる召喚士として最大の責務だ。

 私の決意を余所にレブはふ、と短く息を洩らして笑う。

 「頼もしいな。だが、私がそう容易く感情に流されるものか」

 「どうだか」

 その笑い方や自信は体が小さかった時と何も変わっていない。だから私は安心し、同時に少し不安も覚えた。


 翌日は外に出ると足首まで雪が降り積もっていた。雪は夜の内に振り止んでくれたらしい。夕方までの日照でどの程度溶けてくれるか。残念ながらチコは鼻の頭を真っ赤にして冷たい息を吐いては震えていた。

 しかし、これと言って滞る事もなく儀式は進む。雪の有無は関係無く、昨日の内に予約していた親子連れは集まり早々に儀式を執り行った。午前中の内に済ませた子ども達の中にも成功した者と失敗した者はだいたい半々。

 午前中の内に契約の儀式は全て終わり、私達はその場で解散となった。あとは招集されるまではカスコで自由行動を許される。私とレブは真っ先にミゲルさんとリッチさんが間借りしている店を目指した。とりあえず儀式の終了を祝してのブドウを買いに。

 「なぁアラさん、ルナさんとこで仕入れてるブドウとどっちが美味しい?」

 「ブドウはそれぞれに違った魅力を持っている。一概に比較するのはブドウに失礼と言うものだ」

 レブがブドウに敬意を表している。でもその発言でブドウを女の子に置き換えたら八方美人というか優柔不断に思われるよ。……ブドウって白黒ハッキリしているレブを優柔不断にしちゃうんだ。

 「ハッハァ!面白いな!でも、それって味の違いを分かってないんじゃないのか?」

 リッチさんはレブなりに持っているブドウへの接し作法に対して物申す。

 「む……」

 レブの味覚なら教えればブドウの食べ比べなんて簡単にできてしまうと思う。だけど自分の世界に無かった果実の違いを問われてもレブだって答えようが無い。ルナおばさんだって特に品種の解説をしてくれたわけじゃないし。強いて言うなら、白ブドウとブドウなら目隠ししても分かるんじゃないかな。

 「それで、今回の儀式はどうだったんだ?ザナちん」

 レブがリッチさんとブドウ談議に花を咲かせる傍ら、ミゲルさんが私に耳打ちしてきた。

 「この三日で儀式を行った子ども達は百十六人。その内、儀式を成功したのが七十七人でした」

 「ふーん……」

 あ、聞かれたから咄嗟に答えちゃった……。

 「あの、これって私……勝手に話したら……」

 「あぁ、その辺は大丈夫」

 「どうせ明日には新聞で数がしっかり記載されてるんだからさ!知るのが早いか遅いかってだけだよ!」

 そうか……。って、リッチさんもしっかり聞いてたんだ。レブも何も言わずに横目でこちらを見ている。

 「選定試験の方は私達では今回触っていないので分からないです。すみません」

 「いいんだよ、そんな情報屋でもやってるわけじゃないんだし。畏まらないで」

 商人ってこういう世間話から情報を拾ってるんだなぁ。得た情報は他の客との話題で足掛かりにして広げて更に別の話を得る。

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